第2話
「きゃっ、みてみてバルコニーよ、バルコニー!」
「雰囲気的に超リッチぃなお宅だわね!」
バルコニーに羽音がブンブン鳴り響く。
「えっ、みてみて、バルコニーにイケジョ、庭にイケメン……。」
「えっえっ、この状況ってえっ……。」
ごくり、と小さな喉が2つ鳴らされる。
「「まるでロミジュリだわ……!!」」
そう叫ぶと、その羽の生えた何かが2つ、こちらへ向かって飛んできた。
「なるほど。」
「なるほどね。」
うんうん、と頷きながらそれらは僕の指先に止まった。
「……あの、君たちは……?」
ちらりとジュリエットを見上げると、今まで見た事のない生き物たちに戸惑っている様子だった。
よかった、見えているのは僕だけではない。
指先に視線を戻し、もう一度尋ねてみる。
「君たちは何者なんだい?」
その羽の生えた何かはお互い顔を見合わせ、ニヤニヤする。
「なにってぇ。」
「んねぇ。」
僕が指先を動かそうとすると同時にそれらはふわっと宙に浮いた。
「いい?」
「よーく聞くのよ?」
僕やジュリエットから丁度月に重なって見えるようなポジションまで移動し、ちょっとコソコソ話し合ってから、ビシッと何やらポーズをキメた。
「私たちは!」
「かの有名な!」
そして次のポーズを取り直す。
「「ソイラテの妖精さんよ!!」」
17秒ほど沈黙が続いた。
その間、僕とジュリエットは自分の視覚と聴覚に異常がないかセルフチェックをし、妖精と名乗るそれらは様々なポージングを展開した。
「……え?」
セルフチェックを終えたジュリエットが、ようやく声を発する。
「ソイラテの妖精……?」
大きくて可愛らしい目を更に大きく見開いて、妖精たちを見る。
「……そう。」
そう言いながら1つ頷き、コップに目を移す。
「空になっているわ。」
笑いながら今度は僕の方を見た。
「本当にソイラテの妖精さんたちなんだわ。」
キラキラと目を輝かせる。
ああ、君の目は夜に浮かぶ星や月や妖精よりも美しい。
「……そうか、妖精さんたちなのか。」
なんとなく納得し、今もポージングを展開している2人に問いかける。
「ソイラテの妖精さんたちがどうしてこんなところにいるんだい?」
その言葉を聞き、妖精たちはようやくポーズをとるのをやめた。
「なにってぇ。」
「んねぇ。」
先程聞いたようなセリフを言いながら、ジュリエットの持つコップの方へ移動する。
「呼ばれたんだもんね。」
「そうよね。」
ジュリエットの可愛らしい顔を食い入るように見ながら、2人は頷く。
「「ソイラテになりたいって。」」
ジュリエットの息を飲む音が聞こえたような気がした。
恐らくそれは自分が息を飲んだ音だろう。
「……もしかして……。」
ジュリエットが恐る恐る2人に尋ねる。
「もしかして、2人は私たちをソイラテにしてくれるためにここに来たの……?」
また数秒ほどの沈黙が続いた。
その間、僕は前髪をかきあげ、ジュリエットはバルコニーに落ちていた木の葉を1枚拾って外へ捨てた。
「……え。」
「……うん?」
妖精が首を傾けながら、ようやく言葉を発した。
「……ん?」
「……え?」
ジュリエットと僕は妖精の方へ意識を戻す。
妖精たちは顔を見合わせた後、僕たちを交互に見てからこう言った。
「私たちはあなたたちを……。」
「ソイラテに変えてあげることはできないわ。」
がくっと力が抜けた。
そりゃそうか。
そんな上手い話がこの世にあるわけがないのだ。
妖精を見ることができただけでも奇跡的な事だったということか。
(……いや、待てよ……。)
ふと、さっきの妖精たちの言葉を思い出す。
(呼ばれたって言ってなかったっけ……?)
ジュリエットも同じことを考えたのだろう。
麗しい声で妖精に尋ねる。
「でも、私たちがソイラテになりたいからここへ来てくれたのよね?」
すると妖精たちはちょっと誇らしげな態度でこう言った。
「魔人様と魔女様ならソイラテに変えられるのよ。」
「そうよ。私たちの妖精のオーラを少しだけ使って魔法をかけるの。」
ふふん、と言いながらまた宙に浮く。
「魔人様と魔女様はさいつよだもんねぇ。」
「そうよねぇ。」
それを聞いたジュリエットは宙に浮く妖精を見上げ、光り輝くような笑顔をみせた。
「あなたたちが来てくれたってことは魔人様と魔女様もいらっしゃるのかしら。」
僕もニヤニヤが隠せず、口角を上げる。
「うーん。それなのよねぇ。」
「そうなのよねぇ。」
僕らの気持ちとは裏腹に、妖精たちは考え込む。
「今、おデート中なのよね。」
「置き手紙はしてきたけど。」
どうやら、すぐには来れないようだ。
なんということだろう。
自分勝手なわがままな願いだということはわかっている。
けれど。
今ソイラテにしてもらえなければ、僕はもう二度とジュリエットに会えなくなってしまうかもしれない。
ここまでチャンスは来ているのに……。
ジュリエットはコップをぎゅっと握り、僕を見つめた。
「私……。」
「……うん。」
「私……もう一杯ソイラテを入れてもらってくるわ。」
そう。
ジュリエットは美しく、賢明な女性なのだ。
ソイラテになりたい ta-rŭ-da @tarudadaruta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ソイラテになりたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます