50.魔物の価値

「疲れた…。」


 敵を倒した俺は、その場に座り込んだ。


「大丈夫か!?」


 そこに父様達がようやく戻ってきた。


「カルム!?傷だらけじゃないか!!」


 父様達が俺に駆け寄る。


「俺は大丈夫です…。それよりあそこの三人を見てあげて下さい…。」


 俺はまだ倒れている兵士たちを指差しながら言う。


「…分かった。ここでじっとしてろよ。」


 父様はそう言って彼らを見に行った。


 兵士たちは幸い死んでおらず、父様が持っていた回復薬で一命を取り留めた。


 その後も子爵や他の兵たち、使用人たちも協力し魔物たちを全て回収し、野宿をできる状況にした。俺も父様から回復薬を貰い、怪我を治した。



「本当にごめん。」


 夕食を取っていると、子爵がなにやら真剣な様子で謝ってきた。


「どうなさったのですか?」


「どうせ必要無いだろうと思って、僕の兵士を屋敷に置いて来てしまった。連れてきていれば、カルム君は怪我をしなかったかもしれない。」


「だから兵士が十人しかいなかったのですね。」


「本当にごめん。」


 子爵は九十度に頭を下げている。父様も、こればかりは子爵が悪いと言わんばかりに知らんぷりをしている。


「顔を上げて下さい。」


 取り敢えず顔を上げてもらう。


「結局死人がいなかったので問題ない、、、なんて言うつもりはありません。本当に危険な状況でした。」


「…」


「ですが、そうなったのはヨハン様だけのせいではありません。我々にも至らぬところはあったわけですし。」


「…。」


「なので貸し1っていうことでどうですか?」


「…それでいいのかい?」


「はい。」


「分かった。ありがとう。」


「いえいえ。」


 そして子爵は、父様にも謝る。


「カルム君を危険な目に合わせてしまった。本当に悪いと思ってる。ごめん。」


 しかし父様は頭を下げさせず、自分の隣に強引に座らせた。


「カルムがもう許してるんだ。俺が怒る道理はない。ほれ、これでも食え。」


 そう言って無理やり口に干し肉をねじ込む。急に口に物を入れられた子爵は、盛大にむせた。


 子爵が息を整えた後、父様と子爵の顔にはいつも通りの表情が浮かんでいた。


「それより、いくつか知りたいことがあるのですが。」


 俺は気になっていたことを皆に尋ねた。


「お父様、うちの兵士たちですが、戦闘訓練は出来ているようですがそれ以外は出来ておらず、指揮系統も作っていないようでした。どういうことでしょうか。」


「ああ、奴らは将来の幹部候補でな。まだ若いから、今回の旅に同行させて経験を積ませる予定だったんだ。俺も今回の旅は安全だと思っていたからな。そのせいで危ない目に合わせたな。悪かった。」


「いえ、大丈夫です。彼らもいい経験になったようでしょう。」


「そうか。」


「次に、アンドレイ、ちょっといいか?」


 アンドレイは戦闘が終わると、我に返ったのか周りの血を見て気分が悪くなってしまい、焚火の前で休んでいた。


「うん…。あの…僕もごめん。ちゃんと周りの状況を把握できていればカルム君も怪我しなかったかもしれないのに…。」


「何言ってるんだ。君の援護のお陰で今皆が生きてるんだろう。下手すればお父様たちが全員を庇いながら大群と戦わなければいけなくなっていたのだから。」


「うん…。」


「自信を持て。君は皆の命の恩人だ。」


「えへへ、ありがとう。」


 アンドレイは顔を赤らめて照れている。


「それで聞きたいんだが、あの鳥を動かしていた技、あれはどうやってやったんだ?」


「ああ、それはね、僕もユニークスキルを持っているんだ。」


「なに!?どんなスキルだ?」


「父上がむやみに人に言っちゃダメって言ってたけど、カルム君なら大丈夫だね。」


 そういってアンドレイは教えてくれた。


「僕は『テイミング』っていうスキルを持っていてね。動物たちとか、レベルを上げれば魔物も仲間にすることが出来るんだ。」


「そうなのか。」


 アンドレイは小さな青い鳥を指に乗せ、指で撫でて可愛がっている。


「その能力で、いろんな情報を集めているんだな。」


「そういうこと!」


 アンドレイは自慢げにしている。確かに、この能力は戦闘や情報伝達にも活かせる素晴らしい能力だ。


「最後にお父様。」


「なんだ?」


「魔物たちの死体を全て集めておられましたが、何故でしょうか。」


「ああ、それはな。魔物の死体は高く売れるんだ。奴らは普通の動物よりも丈夫でな。色々な物の素材になるんだよ。」


 その時、俺の頭に稲妻が走った。


「きょ、今日倒した魔物ならどれくらいになりますか?」


「フォレストウルフとブラックウルフは一体大銀貨5枚、ブラッドウルフは…本来は金貨3枚はするんだがあの状態だと金貨1枚ってところだな。」


「そ、そうですか。」


 この世界では芸術をするには金がかかる。父様に負担をかけるのは極力避けたいが、絵も描きたいし美術館にも行きたい。


「ヨハン様、早速貸しを使ってもよろしいでしょうか。」


「いいよ?大体わかるけど。」


「魔物の死体を全部とは言いません。僕が倒した魔物、フォレストウルフ2体とブラッドウルフ1体だけ、僕に下さい。」


「はは、全部って言っても許すんだけどね。」


「いえ、それは欲深いと思います。」


「うーん、もともと、倒した魔物は倒した人に権利があるんだ。だからカルム君が言ってる3体はカルム君のものだよ。」


「ありがとうございます。」


「でもそれだけでは借りを返すことが出来ないから、僕が狩った分のフォレストウルフもあげるよ。大体30体くらいかな?」


「いいのですか?」


「これで貸し借りなしね。」


「ありがとうございます!」


 今日だけで、大銀貨155枚と金貨1枚、日本円にして165万円も稼いでしまった。やはり危険だが、手っ取り早く金を稼ぐには魔物を狩るのが良いのだろう。


 俺は決心した。


 芸術家になるために、俺は、冒険者になる。


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2章終了です。次の章からは冒険者活動が始まります。

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命の大樹~神を嫌う男、絵画魔法で神に逆らう~ @mtfc

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