49.魔物との遭遇Ⅳ
「!?…ブラッドウルフか…!」
ブラッドウルフとはフォレストウルフの上位種で、より獰猛で強力な魔物だ。群れを作らず単独で行動し、血の臭いに敏感なことが分かっている。
群れを作らない代わりに個人戦闘に長けており、体の大きさがフォレストウルフの倍近くまで発達している。俺一人だと空いては難しいかもしれない。
そう考えていると、作戦を立てる間もなく敵は唸り声を上げながら襲い掛かってきた。
相手は大の大人に匹敵するほどの巨躯であり、俺は五歳児である。
何とか剣の腹で突進を防ぐも、遠く、松明を持って並ぶアンドレイのところまで吹っ飛ばされてしまった。
「ゲホゲホッ、痛いな…。」
敵は火を恐れているのか、すぐには追撃に来ない。
「だ、大丈夫?」
正気に戻ったのか、アンドレイが俺を心配する。
「ああ、まだ大丈夫だ。」
「あの、さっきはごめん…。」
「いや、いい。それよりあいつは俺一人では敵わない。手を貸してくれないか?」
「え!?でも…」
「後ろから物を投げてくれるだけで助かる。できないならいいが。」
「…分かった。僕も敵と戦う。」
「そうか。じゃあどうにかしてあいつの気を引いておいてくれ。」
「分かった。」
俺はアンドレイに頼み込み、もう一度ブラッドウルフに対峙する。俺と敵とでは身体能力が大きく違う。しかし、俺は体が小さい分的が小さく、オーウェン兄様から教わった歩法を使えばクリーンヒットは避けられるかもしれない。
それで敵の攻撃を何とかいなし、アンドレイが気を引いてくれたところでこちらから攻撃を入れる。そういった作戦でいいだろう。
気を引き締め、敵の攻撃に備える。
敵は俺に向かって真っすぐ走って来たかと思うと、大きく跳んで上から攻撃をしてきた。
俺は素早い前転でそれを躱し、後ろを向いて再び向き直る。
敵はその身体能力を活かして、獣らしい縦横無尽でまっすぐな攻撃を仕掛けてくる。俺は兄様から教わった格闘術を活かし、駆け引きによってのらりくらりと攻撃をかわす。たまに攻撃が当たることもあるが、なんとか防御して戦いを続ける。
そのような攻防を繰り返していると、後ろからアンドレイが大きな声を上げた。
「カルム君、いくよ!!」
すると、数羽の鳥が上空からブラッドウルフめがけて急降下し、攻撃を始めた。
敵はそれに混乱し、俺への注意が外れた。
「カルム君、今がチャンスだよ!!」
アンドレイが応援してくれる。
「ああ。」
俺は急いで近くに置いていたカバンから絵を取り出した。
俺の『絵画魔法』にはいくつかメリットがある。一つ目は、事前に準備をしておくものなので戦闘中に魔力を使う必要が無いこと。
そして二つ目は、難しい魔力操作などが必要ないことだ。普通の人が実戦で使うのは難しいような大技も、俺は絵を具現化するだけでいい。
俺が今持っている絵は、俺が半分遊びで作った、護身用ではない、相手を殲滅するための絵だ。一週間この絵を魔力を使い描き続け、一週間分の魔力が込められた、今の俺の切り札だ。
それを持って、敵の元へ走りこむ。
「アンドレイ!鳥たちを避難させろ!!」
俺はそう指示を出し、その絵を地面に広げた。
邪魔な鳥たちがいなくなった敵は、激高しながら俺に向かって向かってくる。
ある程度引き付けたところで、俺は切り札を使った。
「『具現化』
すると、俺の前に突如、石を大量に巻き上げた竜巻が現れ、敵を飲み込んだ。俺は巻き込まれないようにその場に伏せながら、半目で状況を確認する。
この魔法は、本来風属性と土属性の複合魔法で、繊細な魔力操作を必要とする難易度の高い魔法だ。しかしその分威力も高く、敵を殲滅するのに適している。
周囲の森を飲み込んだ嵐は木々を押し倒しながら暴れ続け、石の雨を降らせて収まった。
体に付いた土を手で払いながら立ち上がり、敵の状況を確認する。
砂埃が風で晴れると、そこには血まみれで満身創痍になりながらも立っている敵がいた。
どれだけ丈夫なんだと思いながら、剣を構える。
ブラッドウルフは重傷でスピードが著しく低下しており、俺一人で十分対処することが出来た。
「これで終わりだ。」
攻撃をかわし背後に回り、俺は敵の首を切り落とした。
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