第3話
成海警部補は、半年前に発生した猟奇殺人事件の捜査資料を見つめていた。刑事になって15年、直接捜査したものとしては、最も凄惨なものだった。だが、事件としては綺麗に解決をみている。
終わった事件をほじくっていると、上司に「後がつかえているんだぞ」と苦い顔をされるが、やるべき仕事はこなしていたため、大目に見てもらっていた。
第一報は―――、ブランドショップに勤める独身29歳の女性――真堂留美の無断欠席が続いているという職場からの連絡だった。
一人暮らしの自宅は留守、スマホの電源は切れたまま。すぐさま捜査を開始。携帯会社に協力を要請、スマホの位置情報から週末にある男と会っている事が割れた。
男の名は――矢並恭司.34歳、都内の建設会社につとめる一級建築士だった。男の住居であるタワマンの管理会社に連絡をとり踏み込んだところ、広いリビングで男が首を吊り、事切れていた。女性の所持品が隠すでもなく、ソファーに無造作に置かれていた。
床には大量の血痕と何かを引き摺った跡があり、それが途切れた風呂場に、真堂留美のバラバラ死体があった。
男の犯行であることは間違いなかった。
なぜなら――そのすべてを、矢並恭司は動画に収めていた。
今しがた鈍器で殴り殺し、床に転がっている女を風呂場にひきずっていき、解体する様子までをも克明に。
その後、自らが首を吊る最期の姿すら、テーブルの上にセットされたデジカメに収めていた。
まるで捜査の手間を一切合財省いてやる――、と言わんばかりの犯行だった。
家宅捜索で押収した矢並のPCからは、猟奇殺人に対する異常なまでの執心が窺えた。
執心だけではなかった。隠しファイルには、ある古い動画が収められていた。
夜中の山中で、女性の死体を解体している動画だ。映像から、矢並がまだ若い頃であることが窺えた。
現在も継続して、詳細な映像解析とともに犯行時期や現場の特定、行方不明者との照合などが行われているが、それは別件となる。
所轄としての捜査は、早々に終えた。
被疑者死亡のまま書類送検で、事件は幕を閉じた――。
だが――、成海の心に引っ掛かったまま、どうにも拭い去らないものがある。
それは矢並が首を吊る最期、まるで誰かに何かを伝えるようにカメラに向かって吐いた言葉だ。
成海警部補は書類を見つめながら眉間にしわを寄せ、つぶやいた。
『神の配剤』―――とは、どういう意味だ。
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