第3話
お師匠様や、四神をもってしても、悪しき
ものを倒すのは難しい。
しかし、神将半分を使役に下せれば……。
(ちょっと!どうなってるんだ⁉︎) しびれを
切らした白虎が、話に入ってきた。
(楠葉が神将半分を、 使役に下す話) 朱雀
は白虎に手短に説明する。
(我ら四神を除いて、後二人をか?) 少し
驚いた様に、白虎が言った。
私も驚いています。
しかも、どうやって神将を使役に下せと?
「まあ、落ち付きなさい」 いつの間にか
お師匠様が、白湯を運んで来た。
私に手渡し 「急に使役など、無理でしょう。
しかし……。 事を急がねばなりません。
それは、理解できますね?」 優しい眼差し
が痛い……。
白湯を一口飲み、私はため息をついた。
「申し訳ありません……。 取り乱してしまいました。 神将が必要なのは、理解して
おります。 けれど、 私には四神を使役した
記憶がありません。 それ故に、どうして
良いか分からないのです。」
涙をこらえる。
(取り敢えず、 話がまとまったら、 知らせて
ちょうだい)
四神の気配が消えた。
沈黙の後ーー。
「確かに、今の楠葉には荷が重すぎます。
ですが、 四神に頼み、 他の神にも手を貸して頂く様、申さねばなりません。
やるかやらないか。 なのです……。 人間
の愚かな欲望とは、 情けない物です。
その愚かさに、何もできぬ人間も、 情けない物です……」 お師匠様は、小さなため息
をもらした。
心に浮かぶのは、愚かさに巻き込まれる
罪なき人。
ある日私は、左大臣の姫君の元を訪ねた。
父上を救って差し上げたいと、伝える為に。
「感謝、致します……」 か細い声でそう
言った。 姫君は、私に託すしかないのだ。
私の中で、決意が生まれた。
しかし、神将を使役に下す方法など、分からない。
率直に四神に頼んだ。
「あの、他の神将を呼んで頂けますか?」
(簡単に言うな……) 青龍が呆れながら
答えた。
知らないので聴いたまで。
教えて下さい。 それしかない。
(とにかく、主神である天一にお聴きする
わ) 朱雀が引き受けてくれた。
夜ーー。
私はお師匠様に呼ばれた。
閉め切った部屋。燭台に灯りが灯される。
「楠葉の出生について、お話をしておこう
と……」
突然の言葉に驚いた。
「色々と、考えたのですが、 楠葉が何故、
四神を使役してるか。 訳を知る時が来た
と思いましてね……」
そう言うと、話始めた。
「今から十七年前でしょうか。 私は狐の
里の長狐おさぎつね と関わりがある故、
親交を深めて来ました。
霊力ある狐です。 ある日、 その狐が私を
里に呼び 『頼みたき儀がある』 そう
申されました。
私は理由を尋ねました。
『森に異変が起きた故、 森を護るべく、
"運命" (さだめ) に従い、それを受け入れま
す。
なれど、神より授かり娘のことを思えば、
胸が痛みます。
里には神より授かりし、力を持つ娘が
います……。
その娘を、巻き込みたくはないのです。
陰陽師殿、どうか娘を頼みます。
何者かが、娘を放ってはおきませね。
頼るべきは、そなたのみ……』 そう言い、
涙を流しました。
……そして、私はその娘を、生まれて間もない娘を託されたのです。
それが楠葉、あなたなのです」
お師匠様の話を呑み込めず、言葉を失った。
「突然に、この様な話を聞いても、 混乱
するだけ……。 私も少しずつお話をした
かったのですが、 事が起こり始めてしまい、
致し方ありませんでした。 楠葉が何故、
四神を使役にできるか、知って欲しかった
のです」
燭台に灯された火が、閉め切った部屋
から流れる風で揺れる。
私は、納得したいと思いながらも、やはり
頭の中が混乱する。
「楠葉の父上と母上は、特に強い力を持つ
狐でした。 狐の神と言うべきでしょうか。
それ故、やはり運命に従い、森を護り、
里を護り、共に散った……。
しかし、楠葉は神より授かり娘。天帝の妃である天后が、楠葉に四神を仕えさせました」
「天后が……? 何故?」
「力持つ者、いずれ都を救う。 天帝の
お言葉です。 神でさえ防げね都の危機が
おとずれた時、都を救う力を持った者を
護るべくです。 宝玉を持ち、都を救う。
森の運命も、楠葉の運命も、定められた
物。 従うしかないのです。
今の異変も、森と関わりがあるやも知れ
ません」
「全ては、定められた運命……。 私が
都を救う? 分かりません。 お師匠様の
お言葉が、分かりません……」
「私も、分からねのです。 しかし、この
危機を救う者は、楠葉なのです。
楠葉の力が必要なのです。 陰陽師として、
この都を救って下さい……」
悲痛とも言える言葉に、何も言えない。
私がなんであれ、都を護るべき者ならば、
運命に従うしかない。
「……。 陰陽師として、都を護りたい。
偽りない想いです」
私の大きな決断……。
(十二神将、天后、主神天一がお呼びよ)
何の前触れもなく、朱雀の声がした。
「話をお聴きになられたのでしょう」
お師匠様が優しく微笑んだ。
(分かりました。 参ります……。 で、どちらへ行けば……」
(狐の森へ)
「狐の森……」
胸の詰まる思いがした。
「場所は、分かりますか?」 お師匠様が
そう言ったので、私はハッとした。
(……。 肝心な事、何で言ってないの?)
冷めた声……。
「今から話すつもりでした」
お師匠様が、苦笑いになる。
(取り敢えず、早くしてね)
私は急いで支度をし、狐の森へと向かった。
朱雀が念の為にと案内してくれた。
貴族の暮らす、高級住宅街とは真逆の
寂しい場所に、狐の森があった。
私は、一歩。ゆっくりと森へ入った。
薄暗い、静かな森。
しかし、何処か懐かしい気もする。
木々の葉が、風で擦れ合う音しかしない
そんな森。
奥へと 歩いていると と(ちょっと待ってて)
朱雀がふいに気配を消した。
しばらくして (お待たせ) 朱雀の声が
聴こえ、辺りが光に包まれた。
眩しさで目を閉じかけた時、光の中に
影が現れた。
「楠葉ですね?」 目を凝らすと、私の
前に女の人が二人立っていた。
平安時代に桜舞う 栗田モナカ @Seriemi0113
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