第2話

私は、首から下げている、紅い宝玉を

握りしめた。

紅い小さな玉。生まれた時から身に付けて

いる物である。

「何かの時には、身を護ってくれる

はずです」

お師匠様が教えて下さった。

不安な時など、宝玉を見る。

これも、狐の里の物であろうか。


そして、私の左手首には、星型をした

あざがある。四神の主あるじ と言う

証である。

普段は気にならないが、四神の力を発揮

する時に、あざが光ると教わった。

しかし、まだ見た事はない。


私は、色々な物に護られている。

尚更、四神を使役する者として、心構えを

しなければならない。



あれこれともの思いにふけていた私に、

「星よみでもしたらどうですか?」

お師匠様が声をかけた。

「あ、はい……」 私は立ち上がり、唐衣を

まとい、庭に出た。

お師匠様の邸は、貴族の邸とは違うが、

立派な邸で、様々な草花が生えており、

池には鯉が泳いでいる。

庭の中央には、小ぶりながらも、桜の木が

植えてあり、蕾をつけていた。

もう少しすれば、桜の花が満開になる。

毎年、楽しみにしている。

庭の隅には、楠の木も植えてある。

お師匠様の邸の庭は、自然豊かな庭なの

だ。


庭には高い蔵がある。星よみの為に造られた

蔵である。

上は吹き抜けになっていて、外にでられる。

梯子を登り、上へあがる。


私は毎晩の様に蔵に上がり、星を見る。

一見わからないが、良く見ると星の動き

が毎回違う。

この星よみも、修行である。


私は夜空を見上げ、星を見ていた。

そこへ、お師匠様がやって来た。

「寒くはないですか?」 そう私を気遣い

星を見上げた。

しばらくして「ん……?」 お師匠様が

眉をひそめた。

「……。 大きな事が起きねばよいが」

小さく呟いた。


私には、何か異変があったのか、分からなかった。

ひんやりとした空気が、くっきりと月や

星を輝かせていた。


「そろそろ戻りましょうか」 お師匠様に

促され、邸へと戻る。


「楠葉……。 先ほど星を見て、何か感じ

ませんでしたか?」

少し真面目に尋ねてきた。

「え?ええと……」 私は言葉につまった。

いきなり言われても、今日の星に何か

異変があったのか。

しどろもどろとしていると 「少し……、

星に変化がありました。 恐らくですが、

何かよからぬ物が、動きだしたのかも

知れません……」 お師匠様はそう言って、

神妙な顔になった。


そうだとしたら、だいぶ困る……。

「これは、楠葉に存分に手を貸すしか

ないようですねぇ」 そう言うと、奥の部屋

へ行き 「ええと、占星術、十二支五行に

六壬式占ろくじんしきせん ……」

お師匠様は、ブツブツと何かを言い、

式盤を取り出し、何かを占い始めた。

そして 「楠葉、四神に頼み、左大臣殿を

探って下さい。 姫君に関しては、身を

お護りするようにと……。 貴方には、

これより、身を護る為の秘術を教えます」

いつもと違う言い方をした。


私は、お師匠様の言われた通り、四神を

放ち探らせた。姫君の父上にあたっては、

悟られぬ様に、細心の注意をはらう。


「身の危険を感じる事が、起こるかも

知れません。 その時は、四神を五芒星に

配置するのです」 お師匠様がそう言った。

一体、何が起こると言うのか。


翌朝ーー。

四神を放ち、神経を集中させたので、

頭がぼんやりしていた。


外の井戸から水を汲み、冷たい水で

顔を洗う。

見上げれば空は青く、太陽が眩しい。


お師匠様は、占いをずっとしていたのに、

疲れを見せず、にこやかな表情をしていた。

「今日は、内裏へ参内します。 楠葉は

四神から報告を受けて下さい。 私は

帰り次第、話を聞きます」 そう言うと、

朝げを済ませ、支度を整えお師匠様は内裏

へと向かった。


私は、落ち着かなかったが、部屋を片付け

たりと、家の事をこなし、ひと段落した

ところで、報告を受ける為、四神に問いかけた。

私の問いかけに四神が答える。

(言われた通り、色々探ったわよ) 朱雀の

声がした。

(少し疲れたがな) 白虎が言った。

(姫君の父上のそばの者が何者か、大体

分かったが……) 青龍が言う。

玄武は、姫君の周囲の警戒にあたった

と言う。

「姫君の父上のそばにいる者とは、

どの様な者なのですか?」 私は、青龍に

尋ねた。

(左大臣のそばにいる奴は、僧侶陰陽師で

あろう。呪じゅつ が使えるが、それ程の

力はないと見る。 恐らく、他に黒幕が

いると。

左大臣は、帝との外戚関係を望む、欲深い

男だ。

やはり同一族を憎んでいる。

その隙を、奴らは利用したのだらろう。

都を手中に納めんとしている。

左大臣も、段々奴らに操やれて、己を見失っている。

黒幕は、大きな力を持つ者であろう。

しかし、黙って見ている訳にもいかぬ。

どうするか、考えねば……)

青龍の言葉に耳を傾けていると、お師匠様

が戻って来られた。


「さすがは四神ですねぇ。もう大体の

事を掴んでいるとは」 呑気であった。

(して……、その黒幕とは、相当な力を

持っていると……?) 青龍に尋ねた。


お師匠様も、四神と交流できる力を持って

いる。



(四神の力では叶わぬかと……。 しかし、

このまま見過ごす訳には) 青龍の言葉に、

お師匠のは私の顔を見ながら (しかし、

まだ無理でしょう……) と言った。

(無理と言っても……。 では、いかが

致す? 奴らは、東国、西国の逆賊共とも

手を結ばんとしておる。 都に攻めて来る

のも、時間の問題……) 今度は玄武が

口を開いた。

(思いの外、厄介ですねぇ。 小者であれば、

相手ではありませんが、問題は、僧侶陰陽師

と黒幕) お師匠様と、四神のやり取りを

黙って聴いていた私に (楠葉の持ち込んだ

問題だろう? 少しは考えろ) 気を悪くしたのか、青龍の言葉がきつくなる。

私はうつむいてしまった。


四神を使役に下す者であるのに、

何も言わないのはさすがにまずい……。

しかし、良い案が出てこない。


朱雀がふいに (他の神将を使役に下せ

ば?) そう言い出した。


四神は十二神将の中の霊獣である。

他にも神将がおられ、十二神将全てを

使役にくだせれば、話は違くなる。


しかし、そんな事など簡単にはできない。


(無理です!) そう言った。


驚いて、私をお師匠様が見た。

そして「全て使役するのは、確かに無理

かと。 しかし、半分なら……」

とんでもない事を言い出した。

半分て……。

私は呆気に取られた。



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