世の中にはカオスが満ちている

@giuniu

俺は超能力があるけど


 自分が特別な存在ではない、と気づくのはいつ頃であろうか?


 時期については諸説あるだろうが、中学生の終わりが一番多いのではないかと思っている。

 中二病なんて言葉があるくらいであるから、その病が完治するであろう中学生の終わりが一番現実を見直す切っ掛けになるのではないかと俺、鈴木一郎は考えている。


 高校生にもなって、こんなとりとめもない事を考えているのにはもちろん理由がある。というのも俺には超能力があるのだ。 


 こんなことを言い始めると、高校生にもなってまだ中二病が抜けきらないのか、そういうのが許されるのは修学旅行の泊まりの間だけだ。等々色んなことを言われそうだが、事実なのだ。


 まあ、超能力といっても火を出したり水を出したりというわけではなく、触れずに物を動かすことが出来る、いわゆる念動力という地味能力なのだが。


 そして、物心ついた時には超能力者の自覚があった俺は幼いころ、テレビで浮いたり飛んだりしてチヤホヤされるマジシャンを羨み、親の前で超能力を披露した事があった。


 和やかな食卓でおもむろに浮かび上がる俺、呆然とそれを見つめる両親、何が起こったのかわからず吠える飼い犬。


 突然発生したそのカオスに、両親は病院で検査からの寺社でのお祓いコンボという至極真っ当な反応を返した。


 普段の穏やかな両親からは考えられないその様子に幼い頃の俺はギャン泣きし、それ以降に実は超能力でしたとカミングアウトすることは出来なかった。


 そして突発俺浮遊事件で反省した俺は成長し、外面は普通の中学生。しかしその実態は超能力者! みたいなノリで中学生活を過ごしていた。


 そんなある日、契機となる出来事が起こる。


 その日、俺はいつもと同じように陰から念動力を使ってボタン式信号機のボタンを人が来たら押すという善行を積んでいた。


 それがひと段落着いたので、ニヤつきながら帰宅していると、いつの間にか周りに人が居なくなっていたのだ。俺は今こそ超能力の出番だと意気込む……なんてことにはならず、突然登下校の時刻に人が居なくなる不可思議な現象にビビりまくり、半ばパニック状態になっていた。


 そんな時に颯爽と現れたのが同じクラスで冴えない奴だと思っていた斎藤君だった。

 斎藤君はパニックになって両親を呼び続ける俺を宥めながら、どこからともなく現れた黒い化物を手元から現れる炎を操って、ばったばったとなぎ倒しながら家まで送ってくれた。最後に今回の事は内緒にしてほしいとテンプレ台詞を付けながら。


 そして家の布団に丸まりながら、俺は懲りずにこう思ったのだ。似たようなことがあれば、自分の超能力があれば何かしら活躍できて、チヤホヤされるんじゃないかと。


 そうして次の日から俺の不思議現象探しは始まった。――始まったのだが、いざ探すと次々と衝撃の事実が明らかになっていった。


 隣の家の小学生の村田ちゃんは魔法少女だし、お祓いに行った神社の佐藤さんは陰陽師で妖怪退治を生業にしていたし、クラスメイトでイケメンの長田は変身ヒーローで悪の組織と戦っていた。


 出るわ出るわの非日常の数々に、俺の自分が特別だという自負心は粉々に破壊され、まあ超能力くらいはそこまで特別でもないのかな。と思うに至ったのだった。


 超能力、しかも触らずにモノを動かせる念動力くらいじゃ……と卑屈になっていたが、高校入学を入学するにあたり何か特別な事をしたいという欲求が復活した。


 そこで突発俺浮遊事件以降、家や学校でいい子ちゃんを貫いていた俺は両親に一人暮らしをしたいと要求し、珍しく欲しいものを言うなら……と渋々ながらも一人暮らしを勝ち取る事が出来たのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る