002-1 案件「閉じない冷蔵庫」

鈴木 颯太(37)は電化製品販売店に勤務している。ついに家庭を手に入れる所までに大手がかかっている。という事で今日も結婚の予算を貯めるため、コツコツ働いていた。

そして夏も半ば、閉店準備中。掃除をしていたら、遠目に異常を発見した。


「あれ、この冷蔵庫、起動してる?」


展示中の冷蔵庫が唸っている。冷蔵庫の稼働音は普段かき消されているが、実際単体で聞くと結構耳に来る。


「おかしいな?コンセントなんて繋いでないぞ?」


そもそも展示中の冷蔵庫なんて稼働させないし動力源も近くに配置しない。

おかしい。確かめる為に近づいてみる。近づいて行くと嫌な感じがする...妙な寒気が。いや、実際に冷気が冷蔵庫から漏れ出ている。少し開いている様だ。光が見える。余計おかしい。


「どうやって稼働しているんだ?」


怪しい冷蔵庫の中身を少し距離を開けて見てみる。嫌な予感がしたからだ。そこには固まった、いや凍った成人男性3人が収納されていた。成人男性にしてはあまりにコンパクトになっている。3人とも悲惨な表情をしていた。こんな冷蔵庫の中に3人も入れるわけが無い。


「うわぁぁぁあ」


逃げ出したのが遅かった。鈴木 颯太は冷蔵庫に吸い込まれる。


「し、閉まれぇ!!」


何とか気を振り絞って足で扉を閉めようとしたが、弾き返された。そしてその勢いで足が砕けた。


「!!??」


痛くない。砕かれた足が痛くない...凍っている!蹴る直前まで血が通っていたはずの足が、凍っている!!


「な、なんで!!や、やめろ!くるなぁ!!」


どんどん冷蔵庫が迫ってくる、動かないはずの冷蔵庫が!


「あぁ、あぁあああ!!」


吸い込まれたその瞬間、3人の顔が見えた。見覚え、ではない。ついさっき見た男たちだ。あまりに顔が悲惨過ぎて分からなかったのだ。使えない後輩、対応が微妙な同僚、金欠で態度の悪いバイト。そして鈴木 颯太も成人男性3人の仲間入り。そう、前の3人も点検で近づいて同じ目に合っていたのだ。

1人目の後輩は中を覗き込み、

2人目の同僚は扉を大きく開いてかがみ、

3人目のバイトは足で扉を開いた際に、

そして鈴木は触れてもいない。


翌日、開店時間の9時を迎えた頃には2階家電コーナーは崩壊していた。1階の食品売り場も実質使用不可、職員達は早々に出勤した者以外は先に避難した。早々に出勤した職員4名は、勿論、コンパクトにされた。ここまでで計8名。責任者の通報により諸々が到着した頃には店舗は完全崩壊。店舗付近の温度は極端に低く、夏の服装ではとても耐えられないレベルに到達し、ついには電子機器に異常を示す領域に到達していた。


ごご、ごごごごぉぉごご


鈍い音を響かせながら沈んでいく瓦礫を見守っていた内の一人がその中に走り出した。


「3ヶ月後なのよ!どうするの!?私はなんて周りに言えばいいのよ!?」


鈴木 颯太の妻である。今まで「まさかこのコンクリートの山に彼がいる訳が無い」と思ってきたが電話のコールを鳴らし続けるのももう限界だった。


「お前、咲ちゃん待ってんだぞ!?」

「ちゃんと払ってくれよ!払ってくれなきゃ俺まで...」

「母さんまだ孫の顔、見てないよ!!」

「俺の、俺の店がぁああ!!」


鈴木 颯太の妻を皮切りに次から次へと人々が瓦礫に駆け込む。瓦礫に触れた手がどんどん凍っていくにもかかわらずに。


「あぁ!あぁあああ!!あああああ」


勿論、凍るならば砕けもする。いくら砕けようが構わず瓦礫を退ける気だが、砕ける。腕がなくなろうが関係ない。終いには瓦礫に倒れて砕けて粉になってしまった。

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泥と慈愛。splatter game!! @Mayutsuba

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