「センパイ、今度は…」


「え…っ、あの…っ」


慌てる私。それはそうだろう。好きな人から使いかけのお箸を差し出されてしまっては正常でいる事の方が無理である。


ドッドッ、と心臓が鼓動する中、私は震える手でそのお箸を──。


「いやっ! それは…っ!」


──受け取らなかった


「おや。結城さんなら真っ先に飛びつくと思いましたが」


「私も葛藤しましたよ…。でもッ! センパイと間接キスするなら! 恋人になってからがいい! そう思いましてね!」


なんて。本当は恥ずかしかっただけだが。


私がそう言うとセンパイは納得したようにお箸を提げた。…あ。やっぱり勿体なかったかも。


「そうでしたか。一生ないと思いますが」


「人生どうなるか分からないですからね、センパイ」


そう。私が赤いきつね派から緑のたぬき派にチェンジしたように。センパイも私の事を好きになる可能性がある。


もぐもぐとおにぎりを食べる私の目の前でセンパイはお蕎麦を綺麗に啜る。


「私の手作りしたお昼、美味しいですか?」


「緑のたぬきがとても美味しいです」


「私の手作りなんで! 美味しいんですよね?」


「緑のたぬきがとても美味しいです」


「あれっ!? ロボットですかね??」


しくしく、と悲しんでいるとセンパイは「ふふっ」と笑ってくれた。その笑顔が普段のクールなセンパイとは裏腹に年相応の笑顔で、それはとても素敵で。


私は思わず魅入ってしまった。


「…センパイ」


「なんでしょう」


「今度は恋人として一緒に緑のたぬき、食べましょうね」


「持ち帰って検討してみますね」


「センパイ…、そういうところですよ…」


しかし。

その数ヶ月後。本当に付き合う事になるなんて。


──今の私は知る由もなかった



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「センパイ、赤いきつねと緑のたぬき!どっち派ですか!?」 ひよこ🐣 @hiyokokoko

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