第457話「義を見てせざるは」(エルネスト視点)





 正統なる断罪者は、ウェルス王国の王都の跡地で異邦人たち4人を打ち破り、そのままの勢いで王都に巣食う魔物をすべて駆逐した。

 その後一泊して英気を養い、王都を発って僭都グロースムントに向けて進軍を開始した。


 僭都という蔑称はペアレ王国の貴族であるエリザベス・ツヴァイクレという獣人の娘が提案した呼び方だ。

 異邦人たちの間ではあの街は聖都と呼ばれているらしいが、その呼び方は断固としてガスパールが認めなかった。

 エルネストは単にグロースムントだけでいいのではと思ったものだが、何としても蔑称をつけたいらしいガスパールが悩んでいたところ、協力者であるツヴァイクレ卿がそう提案してきたのである。

 要は「不遜にも聖都などと僭称している都」と言いたいらしい。


 このツヴァイクレ卿もであるが、エルネストはイェシュケ卿ら4人の獣人貴族たちにどことなく浮世離れしたものを感じていた。


 貴族というのは普通、上下関係に厳しいものである。

 国家を運営していかなければならない立場であるため、そこを曖昧にしてしまっては下の者に示しが付かないし、平民も敬わないからだ。

 ポートリーで言えば、国王たるエルネストを頂点とし、その下に侯爵、伯爵、子爵、男爵と順番に続いている。

 よほどの理由がない限り、下の爵位の者が上の爵位の者に物を申すことなどありえないし、そのよほどの理由というものも国王の裁可がなければ許されない。


 ところがイェシュケ卿らにはそういう厳格な上下関係のようなものは見られなかった。

 エルネストたちとの普段の会話からするに、どうもイェシュケ卿がリーダー格のようであるが、かといって他の3人に彼女を敬うような素振りは見られない。

 全員が同じ爵位なのだろうか。

 それとも何か特別な立場の貴族なのだろうか。

 そう、例えば王族と近しい血を持つ一族であるとか。


 先ほどのポートリーの例では出さなかったが、国によっては王家にゆかりのある血筋を持つ貴族には公爵という爵位を与え、直接国政には参加させないものの、便宜上はあらゆる爵位の上位にあるとしている場合もある。

 ポートリーがこれをしていなかったのは単純にそういう家がなかったからだが、ペアレもそうだとは限らない。


 エルフは出生率が低く、それだけに血というものを非常に大切にする傾向があった。

 仮にエルネストの弟が健在で、弟が王位についていたとした場合、エルネストも血を残すためだけに王族の一員として死ぬまで王宮で過ごしていただろう。


 それに対して獣人と言えばなんとなく多産の犬猫に近い種族というイメージがあった。これはエルネストの偏見かもしれないが、もしそうだったとしたら公爵のような王族関係者が複数存在していても不思議はない。


 ただの貴族にしてはイェシュケ卿らは美しすぎるし、王族の血を引いているからだとするなら有り得ない話ではない。

 以前に会った、オーギュストやシルヴェストルは獣人とは思えないほど整った容姿をしていた。

 あれと似た雰囲気をイェシュケ卿らからは感じる。


 そうだとしたら、このウェルス王国の解放が成った暁には彼女たちはどうするだろうか。

 まず間違いなくペアレ王国の復興を訴えるだろう。

 しかし、ガスパールがそれを許すとは思えない。

 ペアレ王国の復興に力を貸す事は、その分新生ウェルス王国の戦力が低下する事を意味するからだ。


 数だけで言えば、正統なる断罪者は十分に神聖帝国に勝てる戦力を有している。

 確かに異邦人たちが建てた神聖アマーリエ帝国は広く、国民も多いようではある。

 しかしその支配地域は拡散しており、それぞれの街に領主と騎士、そして民がいるため、僭都グロースムントの防衛に充てられる兵の数はそう大したものでもないはずだからだ。

 であれば勝機は十分にある。


 とはいえ、事はそう簡単にはいかない。神聖帝国を相手に戦うにあたっては非常に大きな問題がある。

 その問題はつい先日、ウェルス王都で異邦人4人と戦った時に浮き彫りになった。


 異邦人は強すぎるのである。

 一騎当千とまでは言わずとも、それに近い戦闘力は十分に備えている。少なくとも正統なる断罪者の、いや一般的な国家の兵士では全く歯が立たない。

 正確に言えば強すぎるというよりも強くなるのが早すぎると言った方がいいかもしれない。

 異邦人が現れ始めたばかりの頃は奴らは確かに弱かった。

 エルネストの父、ウスターシェが耳長蛮族と呼び習わして馬鹿にしていたのも記憶に新しい。

 となると、異邦人が多く存在しているという僭都グロースムントを落とすには現状の戦力だけで可能なのかどうかわからなくなってくる。


 よしんば落とす事が出来たとしても、その後の統治の問題もある。

 異邦人は死ぬことがない。

 であれば、いっとき都を落としたとしても、いずれすぐに報復にやってくるだろう。

 そんな不安定な情勢の中、ガスパールが獣人たちのためにペアレに戦力を割くとは思えないし、彼らの離脱を許すとも思えない。


 本来であれば手を貸してくれた獣人たちの義に報いるために、むしろガスパールの方からペアレ王国の再興を持ちかけてやるべきだ。

 焚き付けてはみたものの全体からすれば大した戦力を用意出来なかったエルネストでは、ここからポートリーまで来てくれなどとはとても言えないが、獣人たちは別である。

 ペアレは隣国だし、全戦力の半数を占めるほど集まってくれた彼らの義には応えてやるべきだろう。


 もちろん、この感情にエルネストの個人的な事情が絡んでいないとは言えない。

 あの大陸全土を巻き込む大戦、その切っ掛けともなった騎士団の派遣。

 イライザから提案された事だとは言え、ペアレの遺跡を調べるように決断したのはエルネスト自身であり、その結果ペアレとポートリーの関係が悪化したのは事実だからだ。


 あの件をイライザのせいにするつもりはない。

 今ならば分かる。イライザはオーラル王国に騙されていたのだと。

 イライザには周辺諸国の調査と、それらとのパイプ役を任せていた。

 オーラル王国はウスターシェ王崩御の際も援助してくれたという経緯もあり、当初から比較的友好的な国家だった。そのためスパイなどを送り込んだりはせず、友好関係にある国家同士として交流を深め、情報のやり取りをしていた。イライザはオーラル王国に友人がいるとのことだったので、それについても任せきりにしてしまっていた。

 それがいけなかった。

 おそらく、その友人がイライザを騙していたのだ。

 うまくペアレ王国の遺跡を調査するようイライザに吹き込み、その企みにかかってしまったイライザがエルネストに進言し、あの悲劇が起きた。

 あの国の企みはどこから始まっていたのか。

 自国の貴族をイライザの友人にするところからか。あるいは父王の死の、いやその前の盗賊騒ぎのときからすでに考えていたのかもしれない。

 疑い出すとキリがないし詮無いことではあるが、いずれにしてもオーラル王国が間接的にイライザを謀殺し、ポートリー王国をも滅亡に導いたのは確かである。


 エルネストには、王でありながら他国の陰謀を見抜くことが出来なかった責任がある。

 その不手際のせいで大戦が起き、ペアレの獣人たちには多大な迷惑をかけた。申し訳なく思う気持ちもある。その贖罪としてペアレの解放には出来る限りの力を貸してやるつもりでいた。

 たとえガスパールがそれを許さないのだとしても。

 その時はガスパールと袂を分かつことになるかもしれない。


 異邦人を倒し、ペアレを解放したら、次はオーラル王国だ。

 あの国さえ滅んでしまえば、いくら異邦人たちと言えどもこの大陸では生きづらくなるだろう。

 オーラルは巨大な敵だが、絶対に勝てないとは思えない。

 なぜならどれだけ国が強大だとしても、それを治める王族は所詮ひとりの人間に過ぎないからだ。もちろん王族なのだしただの人間と言ってもノーブル・ヒューマンなのだろうが、ハイ・エルフであるエルネストとそう変わるものでもない。ガスパールを見れば明らかだが、むしろノーブル・ヒューマンはハイ・エルフよりも種族的には多少劣っている。

 しかもあの国は以前のクーデターのせいで、まともに動ける王族は女王であるツェツィーリア1人だけだ。

 女王さえ何とかしてしまえば、あとは幽閉されているという前王夫妻を始末するだけである。


 いや、あるいはその前王夫妻に何とか接触し、再度クーデターを起こして国を取り戻させるというのもいいかもしれない。

 長年隣人としてそつなく付き合ってきたオーラルがここに来て突然周囲の国々を罠にかけはじめたとなれば、その原因は前回のクーデターにあると考えるのが自然だ。

 元の政権に戻りさえすれば、あの国も正気を取り戻すかもしれない。





「──エルネスト陛下。そろそろ、僭都グロースムントが見えてくる頃です。準備を……」


 近衛騎士が声をかけてきた。

 考え事はここまでのようだ。


「そうか。わかった。

 ──皆の者! 覚悟はいいか! 今日この日、この時より始まるのだ! この大陸から異邦人を追放する戦いが! そしてその戦いに勝利してこそ、我ら大陸の民の平穏は取り戻せるのである!」


 今いくら考えたところで意味はない。

 まずは目の前のこの戦いを制することからだ。

 油断していい戦いではない。









 正統なる断罪者と神聖アマーリエ帝国との間で、本格的に戦端が開かれてしばらく。

 後方のエルネストから見ている限りでは、戦況は芳しくないように思えた。


 神聖帝国側は籠城戦の構えを見せている。

 どうも敵には積極的にこちらを攻撃しようという意思が見られず、城壁の外にはあまり兵を出していない。

 そのおかげで自軍の兵の損耗が抑えられているのはいいのだが、敵に与える損害も微々たるものになっている。


 これは良くない流れだ。

 何しろ敵は異邦人である。籠城戦は分が悪い。

 壁の中に閉じ込めて物資の枯渇を狙うとしても、異邦人には壁を無視して遠くへ移動する不思議な技もある。

 エルネストが知っている限りではその移動は傭兵組合を介して行われているようだが、今から大陸中の傭兵組合を制圧する事など不可能だし、エルネストたちにそれが出来るなら最初から大陸全土を制圧している。


 こちらの物資も無限ではないし、正統なる断罪者が勝利するためには何としてもあの壁を突破し、街を制圧する必要がある。城門も壁に負けず劣らずの強固な作りをしているように見えるし、この街は一部の城のように濠に囲まれているわけでもない。平地に作られたこの街は全周囲に平坦な陸地がある。進入路が城門しかないわけではないのなら、それ以外の壁を破壊した方が相手にとっても守りづらいはずだ。


 城壁にダメージを与え、一度退いて補給や休息を取り、またダメージを与えて破壊を狙うという手もあるが、正統なる断罪者はそれほど物資に余裕があるわけではない。消耗戦では勝てないだろう。

 それに城壁に与えたダメージも休息している間に修復されてしまう可能性もある。

 一度は魔物に破壊されたという都市にあれだけの街や城壁を再建してみせたような者たちだ。街にも建築系のスキルを持った専門職もいるはずだ。


 これが魔物相手の征伐戦であれば敵が城壁を盾に籠城するようなことなどなかった。ガスパールが魔物相手に軍を率いた事があったとしても、人間が建てた城塞都市を攻めた経験などないだろう。もちろんエルネストにもないし、助言はできそうにない。





「──城壁の破壊を優先せよ!」


 そこへガスパールの号令が飛んだ。

 焦れたためか、城壁の破壊を優先する事にしたようだ。

 壁を破壊出来るほどの戦闘力を持った騎士ならば、出来れば突破後の直接戦闘で活躍してもらいたかったところである。

 しかしまずはあの壁を突破しなければまともに戦闘も出来ない。これは仕方がない指示だ。


 号令に従い、ガスパール配下の優秀な騎士たちが強力なスキルを放って城壁を破壊し始めた。

 イェシュケ卿たちの率いる獣人の傭兵たちも惜しみなくスキルや魔法を撃っている。

 エルネスト率いるエルフ騎士団からも人を出そうとしたが、これは近衛騎士団長に止められた。数が少ないエルフたちである。強力な騎士の消耗はエルネスト自身の安全に影響するからだ。

 この局面で手助けできないのは心苦しいが、確かにエルネストが倒れてしまえばポートリー王国は完全に終わる。もどかしい想いではあるがここは見守るしかない。


 エルネストが見たところでは、城壁を破壊する割合ではガスパールの指揮するヒューマンよりも獣人たちの方が効率がよさそうである。

 放たれるスキルや魔法の威力にそれほど差はないようだから、これはイェシュケ卿らの指揮が良いのだろう。

 構造的に弱い場所を的確に攻撃しているという感じだ。まるで最初からこの城壁の弱点を知っていたかのような指示である。イェシュケ卿には建築技術の知識もあるようだ。


 こちらが本格的に城壁を破壊し始めたのを見て焦ったのか、城壁の上から魔法や矢が飛んで来始めた。

 もはや手加減はしないという事だろう。

 こちらに対して「生かしてやろう」と考えていたかのようなその傲慢な態度は気に入らないが、そのツケは城壁へ与えられたダメージとして支払う事になったわけである。


 とは言えこちらの受けるダメージも大きい。

 後方にいるエルフ騎士団には被害がないが、ヒューマンや獣人の中には死亡した者や戦闘不能になった者も出ている。

 やはり攻城戦は不利だ、ここは一旦退くべきだとガスパールに進言した方がいいだろうかと考えていたところで、正統なる断罪者側からも反撃があった。

 城壁の上の敵兵を次々に射抜く矢が放たれたのだ。

 敵から投げかけられる矢や魔法の威力から推察するに、城壁の上の敵も相当な実力者、おそらく異邦人たちだ。

 それを容易く射殺すほどの威力の矢など、一体誰がと思いきや、獣人貴族のキール卿だった。

 貴族は成長しやすいと言われてはいるが、だとしても本来であれば戦う必要もないであろうにあれほど戦闘力を伸ばしているとは、キール卿は一体どれほど苦労を重ねてきたのだろうか。

 それだけではない。

 矢の他にも敵兵を射抜く光があった。

 魔法だ。ツヴァイクレ卿の魔法である。こちらも素晴らしい威力だ。


 貴族、いやともすれば王族にゆかりのある身でありながら、こうまで力を高めなければならなかったとはペアレ王国とは一体どういう国だったのか。

 思えば大戦の引き金となった第一王子オーギュストの悲劇、あれもの王子が力を求めた事が原因のひとつでもあった。

 貴き身分であろうとも慢心せずに力を求める。

 それほど強い心を持った国がなぜ、あのような事になってしまったのか。

 エルネストがもっとイライザをよく見てやっていれば、彼女がオーラルの友人とやらにいいように騙されてしまうのも防げていたかもしれない。

 今更ながらに己の不明を悔やむエルネストだが、過ぎた事は今さら言っても仕方がない。


 キール卿らのサポートのおかげで正統なる断罪者の被害は減り、城壁の破壊もペースを取り戻していった。

 神聖帝国側の異邦人も腰が引けたようで、城壁の上に登って攻撃してくる者も減った。

 異邦人は死んでもすぐに復活するとのことだが、それでもやはり死ぬのは嫌なものなのか。同じ立場の騎士たちなら必要であれば命を投げ出す事も厭わないというのに、実に軟弱な事だ。

 こんな者たちにイライザが殺されたのかと思うと腸が煮えくりかえる思いだが、もう少しだ。

 もうあと少しで敵を守る壁は破壊される。

 そうしたら思い知らせてやるのだ。この地に生きる者たちの怒りと悲しみを。









 その後も散発的な攻撃は飛んできたが、その都度キール卿らが迎撃してくれた事もあり、以降は大した被害を受ける事もなくついに城壁の一部を破壊する事が出来た。

 さらに攻撃は続けられ、崩された壁がどんどん広げられていく。

 また別の場所でも城壁の崩壊があり、複数の進入路が形成されつつあった。


「──突撃だ! ヒューマンたちは向かって右の、獣人たちは左の穴から突入せよ!」


 そして頃合いを見たガスパールの号令一下、それぞれの部隊がそれぞれの進入路から街へと突入した。


 エルネストは突入はせず、部隊を少し前進させてガスパールの隊に近付けた。

 イェシュケ卿らは獣人たちと共に街なかに突入していったが、さすがにガスパール本人とその近衛騎士団は突入はしていない。

 カウンターで頭を狙ってこちらに来る敵が居ないとも限らないし、本陣があまり手薄になるのもまずいだろう。別にガスパールの号令にエルフが呼ばれていなかった事を拗ねているわけではない。


「む、エルネストか。なんとか、城壁は破壊出来たな」


「ああ。キール卿らのサポートのおかげだな。獣人たちの協力にはいくら感謝してもし足りない」


「……ああ、そうだな」


 歯切れが悪い。

 やはりガスパールはイェシュケ卿らをあまり快く思ってはいないようだ。


「ガスパール。ここを落とせたらどうする?」


「勝つ前からそのような事を言ってもな……。その時の状況次第だとしか言いようがない」


「ウェルス王国を再興したら、次はペアレ復興に取りかからねばならんだろう。そちらも大がかりな事業になる。上に立つ者としては、勝つ前提で今後の絵図も描いておかなければ……」


「……ペアレか」


 ガスパールは渋い顔をした。


「……エルネストよ。シルヴェストル殿下だが、まだご存命だと思っているのか?」


「それは……」


 即答できなかった。

 正直に言えば、ペアレ第二王子であるシルヴェストルの生存は絶望的だ。

 エルネストが集めた情報では、あの時シルヴェストルはペアレ王都にいたということだった。王都の惨状についても情報は入ってきているし、市井の噂にもなっている。

 大陸有数の建造物として有名だったペアレの岩城も、それを中心にして広がる街並みも、そこにいただろう人々も何もかも、全てがたいらにならされてしまい、ただの更地になっていたらしい。

 まさに神の怒りにでも触れたのではと思えるような光景だったとのことだが、もし情報通りにそこにシルヴェストルがいたのだとしたら、当然もはや生きてはいまい。


 しかしそれは獣人たちの協力に報いない理由にはならない。

 むしろ、より悲惨な状況である事が推測できるからこそ手助けしてやるべきだろう。

 それにシルヴェストルがもう居ないのだとしても、あの国の王族がすべて居なくなってしまっているとは限らない。


「……だが、まだイェシュケ卿らがいるだろう。

 彼女らのあの容姿、それに最低限の貴族としての礼節は持っていながら、膝を折る事に慣れていないような振る舞い。イェシュケ卿らが王族ゆかりの血を引いている可能性は十分にある」


「そうだな。そうかもしれない。だが、そうでないかもしれない。

 彼女たちは一度でも、自分たちと王族との関係について話したか? 話していないだろう。言えない理由があるのだろうな。

 であれば仮にそれが真実だったとしても、そんな真実は無いのと同じだ。

 ペアレ王国はもう終わっている。国もなければ王族もいない。

 復興する? それは結構。だが、そうしたところで我らに何の益がある? 復興したところで、まともに国交を紡げる国がないのであれば無駄な事だ。小さな都市をいくつか救ってやったところで意味はない」


 ガスパールはやはり、利用するだけ利用して、その義に報いるつもりはないらしい。

 この様子ではポートリー王国の奪還にも手を貸すつもりはないかもしれない。

 すでに彼の中でエルフ騎士団は戦力として数えられていない様子だ。それを理由に支援を断ってくる可能性は十分ある。

 ガスパールのこの考えを何とか改めさせる事は出来ないだろうか。


「──ん? おい、エルネスト。何やらひとりで街から出てくる者がいるぞ。

 防衛よりもこちらの頭を叩く事を優先しようと考えたのか? 悪くないが、たったひとりというのは愚かだな。

 全く異邦人というのは死生観のバランスが狂っている者しかいないのか──」


 出てきたのはエルフのように見えた。

 だからこそガスパールも異邦人だろうと断じたのだろうが、エルネストは途中からガスパールの話は聞いていなかった。


 あれはエルフではない。ハイ・エルフだ。

 そして、エルネストがあの顔を忘れるわけがない。


 あれは──


「イ、イライザ……? ばかな……、イライザがなぜここに……。いや、その前に生きて──」






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