第440話「落とし所」(クロード視点/バンブ視点)





「おいクロード! 今度は麺ティアたちだ!」


「またか! なんだってこうも立て続けに……!」


 バーグラー共和国の首都議事堂、レス・プブリカ・パレス。

 かつてはシェイプ王国王城と呼ばれていた建物である。


 その中央会議室でクロードはジェームズから仲間の訃報を聞いていた。

 訃報と言っても麺ティアはプレイヤーだ。失われたのは経験値くらいで、本当に死んだわけではない。

 問題は麺ティアたちが死亡したことではなく、死亡しているのが麺ティアたちだけではない事だ。


 ここ数日、バーグラー共和国が擁する特殊工作員たちが立て続けに死亡するという事件が起きていた。

 工作員というだけあって、彼らは比較的戦闘力が高いプレイヤーである。特に対人戦には自信があり、不意打ちをすることはあってもされることはまずないと豪語する猛者たちばかりであった。

 そんな一流のPKたちが立て続けにキルされている。

 これはただ事ではない。


「それで、相手の顔は見たのか?」


「ああ、これまでと同じだ。やたら強えホブゴブリンのミイラみたいな連中に襲われて……」


「そうか……」


 ホブゴブリンと言えば、有名なのは旧シェイプと旧ペアレの国境付近にあったノイシュロスの森である。あの森にはゴブリンゾンビのような魔物も出ると聞いたことがあるが、ミイラというのは覚えがない。

 アンデッド系で言えば有名なのは前回イベントの前に滅ぼされたカニエーツやザスターヴァだ。こちらも巨人が倒した住民がアンデッドに変えられているという噂を耳にしているが、その中にミイラがいたかどうかは定かではない。

 殺られたメンバーが活動していた、共和国の周辺の街道からの距離で言えばザスターヴァが一番近いが、それにしても近いと言えるほど近くもない。普通に遠い。関連性を疑うのはナンセンスな距離だ。


 どのメンバーもこれまでの悪行が祟ってかなりの恨みを買っている。

 何者かがゴブリンめいたミイラに変装して復讐を企てている、というのもないでもないかもしれないが、理由がまったくわからない。なぜミイラなのか。しかもゴブリンの。


「最近の俺たちの活動で言やあ、ライスバッハでの渡航詐欺が目立ってたが……。あれだって俺たちとの関連が疑われないよう細心の注意を払ってたはずだ。公式SNSにダミーで立ててある共和国の専用スレッドにも、あの件について言ってくる奴はいない。非公式の方は暗号を使ってる。何でこのタイミングで俺らが襲われるってんだ……!」


「……もし、非公式の方から俺らに辿り着いた奴がいたとして、だ。俺たちにダメージを与えたいんなら、共和国が渡航詐欺の黒幕だって事を公式SNSの方にぶちまければいいだけだ。そうしないってことは、たぶん、俺たちへの復讐が狙いってわけじゃない」


 あるいはそう出来ない理由があるか、である。

 例えば、敵はNPCである、とか。

 その場合は詐欺被害者でもないはずだから、いずれにしても今回の攻撃が渡航詐欺を発端にしている可能性は低い。


「じゃあ何か、俺たちはたまたま襲われてるってことかよ! 主だったダンジョンやらも遠いってのに!」


「落ち着けジェームズ。俺たちへの復讐が狙いじゃないとは言ったが、たまたまってわけでもない。少なくとも敵が共和国、いやこの城に思うところがあるのは確かだ。

 今、襲われたのは麺ティアたちだって言ったな? あいつらの狩り場は……このあたりだ」


 クロードは元シェイプ国内の地図を広げた。

 このレス・プブリカ・パレスは元は王城だった場所である。

 元シェイプ国内に限定されてしまうが、すべての街や街道、魔物の領域などを詳細に記した地図があったのだ。

 クロードたちバーグラー共和国の工作員が効率的に詐欺やを行なえ、またその尻尾を掴まれることがなかったのもこの地図の存在によるところが大きい。

 元シェイプ国内に限って言えば、クロードたち以上に地の利に長けた存在はいないと断言できる。


「待てよおい。前回のペイコウケンたちが襲われた場所からすると……。近づいてきてるってことじゃねーか!」


「ああ。共和国に用があるのか、城が目立つからか、あるいは前の王国の関係者かはわかんねえけどな」


 いずれにしても、今はこの街はシェイプ王国王都ではなく、バーグラー共和国になっている。

 国土や国民を守るのは為政者の仕事だ。

 こればかりは、いかにアウトローなプレイヤーと言えども曲げる事は出来ない。

 いや、アウトローなプレイをしているからこそ、仲間だけは裏切るわけにはいかない。

 そうでなければ、いつ後ろから刺される事になるかわかったものではないからだ。


「ジェームズ、兵隊を集めるぞ。ヒデオたちにも声をかけろ。

 ライスバッハで詐欺やってる連中にもだ。もうそれどころじゃない状況になった。もうかなり稼げただろうし、潮時だ」


「おう! お前も準備しとけよ菜富作!」


「……いるのわかってたんだったら最初から声かけてよ。まあ、国の防衛とか軍事とかを全面的に君らに任せたのは僕だけどさ。

 詐欺についてはバレないんだったらってことで目つぶってきたけど、これを機会にまっとうに……ってもういない!?」









 クロードたちが敵の目的地に気付いて程なく、ホブゴブリンミイラの軍隊はこれまでのような各個撃破をやめ、その姿を晒して行軍を始めたようだった。偵察に出したプレイヤーからそう報告が入っている。

 おそらく街道から盗賊役を引き上げさせたため、獲物がいなくなっている事に気付いたのだろう。これまではそういった盗賊役に奇襲めいた攻撃をするために姿を隠していたものと思われる。

 その事実が、こちらが相手の狙いに気付いているという事を相手に気付かせる事になり、相手も隠すのをやめたというわけだ。

 もっとも狙いに気付いていると言っても、たぶん元王都が目的地なんだろうなという程度で、なぜそこを狙ってくるのかなどは全く不明なままなのだが。






「くっそ、ようやく大戦争が終わって建国出来て一息ついたってのに、また戦争かよ」


 共和国首都バーグラード、その城門前に立ち、街に迫るホブゴブリンミイラの集団を眺めながらジェームズがぼやいた。

 共和国首都と言ってもバーグラー共和国の領土は首都とその周辺地域しかない。街もひとつしかないため、単に格好つけて呼んでいるだけである。


 自分たちの国を守るため、ここにはバーグラー共和国に参加しているほとんど全てのプレイヤーが集結していた。

 詐欺や盗賊行為をしている者も全員この首都防衛戦のために戻ってきている。


 この事態は共和国民以外にも知れ渡ってしまうだろうし、共和国が危機に陥った事で周辺の盗賊被害や詐欺被害が激減したとなれば、これらを結びつけて考える者も出てくるだろう。

 今後は副業がやりにくくなる。あるいは本業の加工食品輸出にも影響してくるかもしれない。菜富作と協議して内需の拡大に舵を切っていく必要がある。

 このホブゴブリンミイラの襲撃は、共和国へのダメージという意味で言えば結果的に大きな成果を上げたと言えるだろう。モンスターであるホブゴブリンミイラたちがそんな事を気にかけているはずはないだろうが。


「……なるほど、確かにあれはホブゴブリンミイラとしか言いようのない姿だな。ちゃんとした名前を知っときたいところだが……。モノクルでも見えやしない。やばいなこれ。逃げるか」


 敵集団の数は思ったほど多くなく、軍勢とも呼べない程度のものでしかないが、数が少ない事は何の慰めにもならない。

 看破のモノクルでも見えず、仲間のプレイヤーたちもなす術もなくやられてしまったほどの実力だ。

 あれが街まで来てしまえば国家滅亡の恐れさえある。


「どこにだよ。俺たちの家はここだぜ。逃げ場なんてねえ。

 にしても、ホブゴブリンミイラってどっかで聞いたことあるような気がするんだが……。どこだったかな」


「どこでもいいが……来るぞジェームズ! 足速いなクソ!」


 遠目に眺めていた、というつもりだったのだが、話しているうちにすぐそこまで迫ってきていた。

 何の種族かは不明なものの、敵集団はすべて単一の種族で構成されている。かなり高いレベルで統制も取れているようだし、それが行軍速度に影響しているようだ。


「ど、どうする!? まずは警告か!? それ以上近づいたら我が国への攻撃と見做しますよっていう──」


「そんな場合か! 相手はモンスターだぞ!」


 そうクロードが叫んだ通り、敵は問答無用で攻撃を仕掛けてきた。


 まず飛んできたのは魔法だ。

 『闇魔法』と思われる射出系の魔法を全員が放ってくる。

 これまでに倒されたプレイヤーたちの話からは近接系の種族であるようなイメージを受けていたのだが、違う魔物なのだろうか。それとも魔法と物理の両方で戦えるタイプなのだろうか。

 だとしたら看破のモノクルで見破れないというのも頷ける。プレイヤーがそういうビルドをしても大抵はどっちつかずになるだけだが、魔物であれば攻略法が一定していないというのはそれだけで強みとも言える。魔法に強かろうが物理に強かろうが、総合力で上回っていなければ勝てないというのはどちらでも同じなのだが。


 ただ、魔法の威力自体は大したものでもなかった。牽制のつもりらしい。

 しかしその効果は大きく、魔物の集団から先制攻撃を受けてしまったという事実は共和国軍に大きな動揺を与えてしまった。

 最大戦力であるプレイヤーたちはそのプレイスタイル上、集団戦に慣れていないし、大戦争時もこちらから攻め込むだけで守る戦いはしたことがない。

 その弱点を突かれてしまった形だ。


 敵魔物集団は牽制の魔法で出来た隊列の隙に次々に鋭く切り込んできた。

 総崩れというほどでもないが、出鼻をくじかれリズムを乱された共和国軍は浮足立ったままそれを受け入れることになった。

 数では共和国軍が圧倒的に勝っている。

 クロードが戦ってみた感じ、1対1では勝てないかもしれないが、4人、5人で囲めば十分に撃破できるだろうモンスターだ。

 しかし動揺が実力の発揮を妨げてか、なかなか撃破までには至らない。

 プレイヤー側も死者の数はそう出ていないようだが、被ダメージは高いように見える。

 相手が魔法攻撃か物理攻撃か、どちらを繰り出してくるか読み切れないからというのもあるだろう。


「──こいつら、見た目はキモ怖いアンデッドだが、要はそこらのプレイヤーと同じだ! 魔法か物理か、何をしてくるのかわからねえってところとかな! 野戦だなんだと難しく考えんのはやめて、大規模PKだと思えばいい! 1人を囲んでボコボコにするのはお前らの十八番だろ!」


 クロードはそう声を張り上げた。

 事実、クロードとジェームズのコンビは2人だけで敵モンスターをすでに数体、倒している。

 確かに強いが、プレイヤーだと思えばそう怖くはない。むしろ、対人経験が薄そうなあたりは同スペックのプレイヤーより対処しやすいくらいだ。

 そう、あの変態プレイヤーと比べればいかほどのものでもない。


 もちろん、バーグラー共和国が誇る白黒の変態も負けてはいない。

 ヒデオとトオルの事だ。

 どういうスキルなのか未だに不明ながら、全身を黒くツヤのある装甲で覆ったヒデオは飛んでくる魔法も物ともせずに敵陣に切り込んでいく。

 ただ直接攻撃に対してはそうもいかないようで、1体を抑えるのが精いっぱいのようだ。

 とはいえ、1対1でちゃんと相手が出来ているあたり大したものだ。

 これはトオルも同様で、無限に現れる包丁やフライパンを巧みに操り、敵の攻撃に対応している。

 真面目に戦うのが馬鹿らしくなってしまうような光景だが、彼らもあの強さに至るまでに相当な努力をしてきたのだろう。どれほどふざけた連中に見えても、それだけは間違いない事実だ。


「おら、ヒデオを見やがれ! あいつは裸一貫で戦場に立ってんだぞ! そんな奴のケツを眺めて恥ずかしくねえのか! 気合い入れろ!」


 ジェームズも仲間に発破をかけた。

 この言葉は相当に響いたようで、アウトローたちはヒデオより前に出んと我先に積極的に攻撃をし始めた。





 しかし戦況の流れが変わったと見てか、敵の大将らしき緑のローブの魔物が戦闘に参加してきた。

 狙いは司令塔であるクロードたちだ。

 敵の姿はローブで隠されており、他のゴブリンミイラたちと同じ種族なのかどうかはわからない。

 ただ身体はひと回り大きく、発する威圧感も他の魔物の比ではない。


 その圧倒的な迫力は、いつかどこかの街道で遭遇したローブの化け物たち、そう、マグナメルムと名乗るレイドボス集団に近いものすら感じる。


 緑ローブが高く跳び上がった。そして上空から打ち下ろした拳の一撃がクロードたちを襲う。


「──っぶね!」


 間一髪それを回避し、慌てて飛び退くクロードとジェームズ。

 飛んだ2人を緑ローブの拳による衝撃波が襲う。

 ダメージはそれほど受けなかったが、踏ん張る大地が無かった事もあり、自分で飛んだ以上に飛距離が伸びた。

 お陰で脚力以上の距離を空ける事が出来たのはよかったが、緑ローブの拳が突き刺さった大地は小さめのクレーターが出来ていた。直撃していれば死んでいただろう。


「やべー奴が混じってんじゃねーかよ……」


「ローブ着てるのがやべーってんなら、もう1匹いるぜ。ほら、あっちで見てる白ローブだ」


「白ローブって──、あの時のあいつじゃねーだろうな。だとしたら勝ち目ねーぜ」


 あの時、街道で実際にクロードたちをキルしたのはおそらく赤ローブの魔法だったのだろうが、その赤ローブに戦闘を任せて高みの見物をしていた白ローブや黒ローブが、赤ローブより弱いはずがない。

 また、SNSなどで語られている予想からすると、白ローブはヒルス王国やペアレ王国を1日で滅ぼした災厄級のモンスターだ。それらの国家よりも圧倒的に規模が小さいバーグラー共和国が戦える相手ではない。


「いや、体格が違う。あの時会った3人組が噂のマグナメルムだったってんなら、全員女のはずだ。だがこの緑ローブも白ローブも女には見えない大柄な体格してやがる」


「……じゃあ白いのはマグナメルムのファン、ってことか?」


「魔物が出店でファンアイテムなんて買うわけないだろ。むしろマグナメルムの関係者って見るのが妥当だろうな……。イベントTシャツ着てる奴ってのは、ファンじゃないなら大抵スタッフだ」


「マジかよ……。なんで急にウチなんか襲いに来るんだ……」


 さらに距離を取って様子を見る。

 これだけ離れていればそれも可能だろうと考えておしゃべりをしていたのだが、そんな事は全く無かった。

 緑ローブは腰だめに構えると、その距離を一瞬で詰めてきたのである。


「うわわっ何だこいつ!」


「ジェームズ!」


 緑ローブの神速の拳があわやジェームズの胸に突き刺さるか、というその瞬間。

 なぜかその拳が停止した。





「──じえいむず?」





「しゃしゃしゃしゃべったあ!」


 緑ローブは拳を下ろし、ジェームズの顔を覗き込んだ。

 クロードの位置からではフードの中までは見えないが、ジェームズからは見えているだろう。顔が青ざめている。


「は、話せるのか……!」


「──話せちゃ、悪いか?」


 緑ローブはジェームズから視線を外し、クロードの方を向いた。

 フードの中は影になっていて見えないが、赤いふたつの光がクロードを射抜いたような気がした。


「知り合いの名前に似てたからつい止めちまったが……。全然違う顔だな。まあ、当たり前だが」


 緑ローブは攻撃態勢に戻ろうとはしない。興が冷めた、とでも言わんばかりだ。

 相手の心情は知らないが、これはチャンスである。


「は、話せるんなら、交渉も出来る、よな? お前ら──じゃない、アンタたちはいったい何をしに俺たちの国に攻めてきたんだ! 要求は何なんだ!」


 クロードは叫んだ。

 もし何か明確な目的があり、それがバーグラー共和国として許容可能な内容であるなら、講和の道も開けるはずだ。

 他のホブゴブリンミイラたちならともかく、この緑ローブが参戦してくるとなるととても抵抗しきれない。しかも、まだ実力が全く見えていない白ローブもいる。


「要求か。そうだな……。

 ──お前たちの仲間に、エルダー・ドワーフがいるはずだな」


 ボグダンの事だろうか。

 プレイヤーでエルダー・ドワーフに達した者がいるという話は聞いていない。居るとしたらNPCしかいないし、この街にはボグダン以外にも元々シェイプ貴族だったエルダー・ドワーフが数名おり、おそらく一応国民ということにはなっているが、別に仲間ではない。


 しかしこの魔物はなぜそれを知っているのか。


「そのエルダー・ドワーフは、俺の仲間が以前取り逃がした奴だ。俺たちはそいつに用がある。

 引き渡してもらおうか」


「仲間だと……?」


 ボグダンは以前は山あいに作られた隠れ里のようなところに住んでいたと言っていた。

 そしてその里が吸血鬼率いる巨人の大群に襲われ、当時協力していた菜富作によってボグダンだけが辛くも逃げ出し、そこをクロードたちに襲われ──助けられたのだと。

 大方の意見によれば、その時の吸血鬼や巨人たちはマグナメルムの手のものだったという説が濃厚である。

 その仲間だというのなら、このアンデッドの集団というのは。


「お前ら、やっぱりマグナメルムの手下だったのか……!」


「──手下、というのは少々気になる言い方ですな」


 黙って見ていた白ローブが割り込んできた。


「こちらの緑のローブをお召しのお方こそ、我らがマグナメルムの誇る5名の最高幹部のおひとり。

 その名もマグナメルム・ラルヴァ様にございます」


 最高幹部。

 ということは、この緑ローブはあの赤白黒の3人と同格の存在だという事になる。

 この言い方からするともう1人、いやもう1色幹部がいるようだが、それはまだ表舞台に出てきてはいないということなのか。

 そういえば、オーラルとポートリーの国境辺りでダンジョンが消し飛ばされたとかいう噂が出ていたころ、ドラゴンの背中に緑だか茶色だかのローブを見たという証言がいくつか出ていたような気がする。

 となるとあれは目撃者の見間違いなどではなく、この魔物こそがその時の緑ローブだったのか。


「そして私めはマグナメルム筆頭、セプテム様の配下にして、今はこちらのラルヴァ様のお世話を仰せつかっております、そうですな、ジーとでもお呼びいただければ」


じいだと……? 執事か何かのつもりかよ」


「セプテムの配下……。それで白ローブだってわけか」


 顔は見えないまでも、爺というには少し若い感じの声に聞こえるが、あれでもゴブリン業界では年嵩なのかもしれない。

 いやゴブリンなのかどうかはわからないが。


「G。おしゃべりはその辺にしとけ。

 で、人間の皆さんよ。エルダー・ドワーフに心当たりがあんのかねえのか、どっちなんだ。心当たりがねえって言うなら、城ごと破壊して瓦礫の中から探すだけだがな」





***





「──バンブ様。連中が差し出してきたその者は、ブラン様がお逃がしになった個体ではないようですが」


「ああ。知ってる。大方、王都に残ってた旧シェイプの貴族か何かだろうよ。別に本当にエルダー・ドワーフに用があったってわけじゃねえからな。そこはどうでもいい。

 今回の目的は、ライスバッハでの渡航詐欺の問題を処理する事だ。

 俺たちがあの共和国とやらに向けて進軍を開始した時点で、詐欺被害はぱったりと止んでる。

 その時点で目的は達成出来てたわけだから、その後の事は惰性だな。あのまま国ごと滅ぼしちまってもよかったが、下手に大陸のパワーバランスを弄ると何が起きるかわかんねえからな。あの国はライラのオーラルから加工食品の原材料なんかを仕入れてたりもするし、潰しちまって文句言われても面倒だ。

 引き渡し要求はこっちがちょうどいいところで引き上げるための口実に過ぎねえ。落とし所ってやつだ」


「なるほど。しかし、元を断たねば再び詐欺が横行してくるやもしれませんぞ」


「連中はプレイヤーだ。どのみち真の意味で元は断てねえからな。いっとき止めばそれでいい。

 その間に渡航出来る奴らもいるだろうし、ある程度の数が西に渡れりゃ、渡った奴らが後続のフォローをしていくだろ。西に渡ったプレイヤーにしても、あっちで仲間の数が増えていかなきゃやりづらい事もあるだろうしな」


 それにこの共和国が魔物に襲撃を受けているという事実はSNSでも話題にのぼるはずだ。

 その間、野盗や詐欺などの被害が減ったとデータが出れば、共和国のダーティな部分に目を向けるプレイヤーも出てくる。

 大半のプレイヤーは証拠がない限り見て見ぬ振りをするだろうが、実際に被害にあった者たちはそれでは済ますまい。

 とてもこの後、同じ手口で詐欺を行なうのは無理だろう。


「そこまでお考えでしたか。して、生贄に差し出されたこのドワーフはどういたしますか?」


「別に要らんからな。殺しとけ……。いや、何かに使えるかもしれんし、一応配下にしておくか」


「モッタイナイ精神、というやつですな」





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