第387話「完全無欠」





「では私の報告といこうか!」


「まだわたしの話は全部終わってないんだけど……。まあいいや。好きにして」


「ほらー! だからそういうとこですよライラさん」


 ついでに天魔についても話しておこうと思っていたが、ライラがすでにやる気なので放っておいた。


「なんかちょっとドキドキしてきたっつうか、だんだん早く話して楽になりたい気分が増してきたから、アンタの番だって言うならもうとっとと話してくれ」


「そうだね。レア嬢の残りの報告については私も知っているが、まあライラ嬢が聞かないと言うなら言わなくてもいいのではないかな」


 確かにヴィネア関連の話題だとまたうるさくなるかもしれないし、これはこれでよかったのかもしれない。

 後で何か言われたとしても、話を聞かないライラが悪い。


 火山に居た謎のアナゴについて報告するのも、あれが正規のモンスターなのかどうかを運営に確認してからでもいいだろう。


「では報告しよう! 私がとある地下遺跡から発掘したアーティファクトについて! まあ発掘したと言っても置いとく場所ないから遺跡に置いたままだけど」


 そのセリフで思い出したが、アビゴルはいつまでトレの森に置いておくつもりなのか。

 もう本人も世界樹もユーベルも、あの広場がアビゴルの自宅だと認識している節がある。


 しかしレアのそんな内心に気付く事もなく、興が乗ったライラは気持ちよさげに発表した。


「私が発掘した古代兵器、その名も! 超弩級完全無欠移動要塞ベヒモス!」


 今度は聞いていた皆の雰囲気がざわついた。

 やはり言い方なのだろうか。


「ベヒモス! 完璧な獣かね!」


「頭にごちゃごちゃついてるのは何なんだ。つか、ライラもそれ系のクラスの話なのかよ……」


「移動要塞だって!」


「……ふうん」


 先ほどはそっけない言い方をしてはいたが、レアにしてもリヴァイアサンのエンヴィは虎の子の情報だった。

 リヴァイアサンは世界樹級の必要経験値に、それに見合った初期能力値を持ち、二つ名に最強などと付いている、他とは一線を画する種族だ。

 正直バンブには悪いが、話題性は根こそぎいただいたと思っていた。


 それがどうだろう。

 まさかリヴァイアサンに匹敵する物を持ち出してくるとは。

 先ほどレアの報告の最中に『海内無双』の説明にかぶせてきたのは、そのベヒモス何某にも同様の機能が付いているからか。


「ベヒモスはなんて言うのかな、見た目は超巨大なトリケラトプスかな。私やレアちゃんが巨大化した状態でも上で寝転がれるくらい。

 それそのものはただの超硬いアーティファクトに過ぎないんだけど、頭部の操縦席みたいなところに乗りこむとなんと、操縦できるんだよね。操縦って言うか、自分の身体がベヒモスそのものになったかのような感覚になるんだけど」


 鎧坂さんの中に入った時のような感じだろうか。

 あれを製作物で再現したとなれば、それは確かにアーティファクト級だ。


「で、さっきレアちゃんが言ってた『海内無双』、それに対応するかのようなスキルもあるよ! 正確には、乗り込んで操作する時に自分のステータスがベヒモスのものに一時的に上書きされる感じだから、その時に出てくるんだけどね。

 名前にもある通り、そのスキルは『完全無欠』! 効果は陸上においてあらゆる行動判定と効果にボーナスと、LP、MPの自然回復量アップ!」


 完全無欠の割には陸上にしか効果がないのは少し気になるというか、無欠じゃないじゃないかと突っ込みたくなるが、『海内無双』の陸上版と考えればわかりやすい効果だ。


「リヴァイアサンとベヒモスか。ベヒモスが人工物だったってことはもしかすると、大昔にリヴァイアサンに対抗するために人類が生み出した超兵器とかなのかもな」


「ありうるね。そしてレア嬢がリヴァイアサンという種を生み出すことが出来たという事は、以前の戦いではそのベヒモスが勝利したのかもしれない。リヴァイアサンと言えば、この世に2体と存在できないというのがセオリーだしね」


「ああ、そういや繁殖させないためにメスしかいないんだったか。伝説では」


「うむ。実際のところは試してみなければわからないが、個体数がシステムによって制限されている可能性はあるだろう」


 確かに教授の言うように、そうした可能性は十分ある。

 先ほど『海内無双』について話したのは、そういう驚異的なスキルを持っている者がいるから気をつけようという注意喚起の意味もあったのだが、リヴァイアサンが1体しか存在出来ないのであればその心配は杞憂に終わる。

 これは折りを見てもう1体エーギルシュガードラゴンを探し、同じ作業をもう1回やって検証しておく必要があるかもしれない。


「──つまり、トリケラトプス型のメカ生体ってことですな!」


「その通り! しかしブランちゃん守備範囲広いね」


「見に行きましょう! どこですか!?」


 バンブと教授、ライラとブランで盛り上がっている。

 どっちの会話にも混ざれそうではあるが、タイミングを逸した感もある。

 奇数の団体は時にこういう問題が起こる。

 そういえば旧世代の戦隊ヒーロー物で、ブラックとイエロー、ブルーとピンクが良い仲である作品があった。あの時リーダーであるレッドはどういう気持ちだったのだろうか。


「ていうか、行くのはいいけど、その前にバンブの報告も聞いてからにしようよ。当然、リヴァイアサンやベヒモスよりもビッグな情報なんだろうし」


「──おっと、そうだった。私のベヒモスを見に行くのはバンブの自慢の報告とやらを聞いてからでも遅くはないな。もしつまらない内容だったら、わかってるね」


「わかんねーよ、なんだよ」


「もちろん、君にこう言ってやるのさ。悪いなバンブ、このベヒモスは4人乗りなんだってね!」


 そう言ってライラは高笑いをした。

 大人げないにもほどがある。まるで親に買ってもらったおもちゃを見せびらかす小学生だ。

 巨大化したレアやライラが寝転べるほど大きいなら、実際は100人乗っても大丈夫なはずだろうに。


「……まあ、いいぜ。正直最強だの完全無欠だのに勝てるかどうかはわからんが、俺の報告もちょっとしたもんだって自信はある。少なくとも、ゲームの新機能実装と同じくらいにはセンセーショナルな内容だ」


 新機能というと、真新しいところでは建国システムやイベント申請制度などが挙げられる。それと同程度の話題性を持つとなると、ただ事ではない。


「……大きく出たじゃないか。いいだろう。言ってみなよ」


「よし。行くぞ。

 まずおさらいだが、俺たちプレイヤーや、あとNPCもだが、ゲームキャラクターがシステムにサポートされている部分ってのは、基本的にスキル、特性、能力値だけだ。とりあえず総合してステータスとでも言っておくか。ここまではいいな?」


「アイテムもじゃないかね。アイテムによって及ぼされる影響というのも無視できない。装備品もそうだし、ドーピングアイテムなどもそうだな」


「あーまあ、そういうのもあるにはあるが、それはとりあえず置いておけ。裸一貫での話だ」


「いきなりつまづいてるけど大丈夫? ただし空気抵抗はゼロとする、なんて現場じゃ何の役にも立たない計算式の代名詞だよ」


「うるせーな、とりあえず聞けって。

 で、だ。そういうサポートを受けた状態のアバターを使って、そいつにいわゆるプレイヤースキルが乗っかって、そこで初めてそのキャラクターの総合的な能力ってやつが決まるわけだ」


 数値で表わされないキャラクターの能力、その重要さはよくわかっている。

 元々僅かな経験値を惜しんで初期状態でゲームを始めたのも自分の技術に自信があったからだし、ディアスやジークが身につけている戦い方や用兵などに関しても数値化される事はない。

 そういうNPCもいるためプレイヤースキルでひとくくりにするのも少し乱暴だが、言いたい事はわかる。


「だがそこに、ステータスでもプレイヤースキルでもない、第3の要素があったとしたらどうだ。

 つまり、キャラクターデータに数値として記録されているわけじゃないが、ユーザーやAIの能力に依存してるわけでもない、それでいて確かな結果を残す。まったく新しいファクターだ」


「……つまり、仕様ということ? 落下ダメージみたいな」


 落下ダメージに限らずゲーム内での物理法則全般に言えることだが、あれらもキャラクターのスキルや能力に書かれているわけではない。しかしながら確かに結果に影響し、また同じ条件なら誰がやっても同じ結果になる。つまり仕様だ。


「──ぷっ! はは! ”まったく新しいファクターだキリッ” ”仕様です” って、何それギャグなの?」


「うるせーな! じゃあもう仕様でいいよ! 新しい仕様を発見したんだよ!」


「もー。ライラはちょっと黙ってなよ。

 バンブ、本当に新しい仕様を見つけたの? これでもし既出の情報だったりしたら、多分きみ立ち直れないくらいのダメージを負うことになるけど」


「……たまーにレアちゃん優しいよね」


「……いや、これ優しさかな? 本当にバンブ氏が既出情報を勘違いしているだけだったとしたら、この気遣いこそが氏にトドメを刺す事になりかねないが」


 何であれ、まずは聞いてみなければ始まらない。


「新しい仕様っつーか、テクニックなのは間違いない。同じ事を研究しているプレイヤーはいるみたいだが、未だに成功してないみたいだしな。

 ただひとつ断っておくと、こいつは別に俺だけの力で見つけたわけじゃない。きっかけは訳あって言えねえが、検証にはレアの配下のガスラークに全面的に協力してもらった」


「うん? ガスラークに?」


 妙な話だ。

 ガスラークが全面的に協力したということは、内容についてもある程度知っているということだ。

 そうであるならレアに報告があって然るべきである。

 しかしレアの元にそういう報告は来ていない。


 本人に聞いてみようかとも思ったが、少し待てばバンブが説明してくれるだろう。

 なぜ報告が無かったのかについては気にならないわけではないが、もしサリーと教授のように独自の友情を育んだ結果だとするなら、聞くのは野暮になる気もする。

 見た目的にもバンブとガスラークは気が合う部分も多そうだし、きっとそんなところだろう。


「──複合魔法、って言葉を聞いたことがあるやつはいるか?」





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