第359話「ミニマム癒し系」





「すごーいここ! 眺めもいいし、超カッケー! なんか色々、木とか草とか所々ハゲてるのが気になるけど、まさに空中庭園て感じ!」


「ああ、まあ。ハゲてるのは仕様かな。わたしも気にはしているから、そのうち何か植えておくつもり」


 完全破壊した城は工兵アリなどを呼んで要塞として再建したが、吹き飛ばされた木々や自然についてはノータッチだった。

 ブランに言われて初めて気がついた。気にしていたというのは嘘だ。

 しかし木々、つまり植物ということならレアの陣営にとっては得意分野である。

 エルダートレントを何体か『召喚』し、『種子散布』でもさせておけばそのうち緑豊かな地が復活するだろう。


「これで水でも流れてたりするとすんごい幻想的っていうか、まさにファンタジーって感じなんだけどな。そういうのはないの?」


 ライラの言葉に、なるほどと思った。

 確かにそれは一理ある。


 空に浮かぶ岩。

 そこに生い茂る緑。

 そして流れる水は遥か下の大地まで届き、そこで純白の飛沫をけぶらせている──


 具体的にどこで見たとは思い出せないが、確かにそういうシーンはファンタジーものでよく目にする気がする。


 この空中庭園は今となっては空中に存在しているわけではないが、皿のような形状をしているため、上面の大地から水が流れていればさぞかし美しく映えるだろう。

 そもそも、空中庭園と聞いて真っ先に思い浮かべるだろうバビロンの空中庭園だって別に本当に空中にあるわけではない。


「──いいね。悪くない。でも、この庭園って大きすぎるからサイズ感狂って見えるけど、これでもここ地面から相当高い位置にあるんだよね。運良く真下に地下水脈なんかがあったとしても、汲み上げるのはまず無理かな……」


「真空ポンプでも作る気? 汲み上げるのが無理なら押し上げればいいじゃない。地下水脈の方に排水ポンプを作って、そこから押し出す方式にすれば、理論上は限界値はないよ」


「理論上可能であるというだけでいいのなら、人類はブラックホールからだって無限のエネルギーを取り出せる事になるがね。確か、光波を音波に代替した実験では検証の目処は立っていたはずだ。

 それはともかく、ゲーム内でそんな装置を考えるくらいなら、ゲームであることを活かしてもっとファンタジックな方法を使う方が生産的だと思うよ」


 教授が割り込んできた。

 教授は頭の回転は悪くないし、知識も豊富だ。何かレアたちでは思いつかないアイデアをもたらしてくれるかもしれない。


「そう、例えば、この庭園の中心に山でも盛り立ててだね。その頂上付近で大がかりな『氷魔法』を発動するんだ。氷系の魔法で生みだした氷は効果時間が過ぎれば次第に溶け始める。これを交代で行ない、常に山頂に氷を用意しておけば、そこから流れ出した水がやがて川となり」


「聞いて損した。時間返して?」


「まったくだ。謝った方がいいよ」


「タヌキは剥製よりも氷像の方が好みらしいって伝えておくぜ」


「伝えるって誰にだね!? ていうかバンブ氏は関係ないだろ! こんなにも脳筋でレア嬢にピッタリな素晴らしい案だというの──痛い!」


「そんなことより早く装置? のとこに行こうよー」





 雑談もそこそこに、全員を要塞の地下に案内していく。

 なおブランのお供のアザレアたちはあの顔で外を出歩きたくないのか、すでにエルンタールに帰っている。


 普通にここに入るためには、一旦要塞を最上階まで昇り、そこから長い階段を降りて地下まで行かなければならない。

 アクセシビリティは最悪だが、これもセキュリティの一環だ。

 ここまでプレイヤーが侵攻してきた場合、少しでも長く足止めさせるための工夫である。

 天使の生産作業さえ一息つけば、要塞の最上階にはボスである大天使サリーが侵入者を待ち受ける予定になっている。

 最上階までの間にも何体かのボスクラスの魔物を用意しておくつもりだし、マトリクス・ファルサの防御力は相当なものだと言っていいだろう。


 レアやレミーは普段、『召喚』を使って直接移動するため気にする必要はないが、マグナメルムのメンバーたちはそうはいかない。

 立ちはだかるボスこそいないものの、歩いて要塞を昇り降りしなければならない。


「ていうか、別に私やブランちゃんは飛べばいいよね。そしたら階段降りるだけだ。なんでミイラやタヌキに付き合わないといけないんだよ」


「ライラさん、団体行動苦手な子って言われませんでした? こういうときは黙って歩いといたほうが多分結果的に早く行事終わりますよ」


「……正論なのはわかるんだけど、それブランちゃんに言われるとなんかもにょもにょするな……」


「おい早く昇ってくれよ。後ろつかえてるんだが」


「──きみたち静かについて来られないの?」


 途中通過した部屋にいた天使たちは騒ぐマグナメルムに怯えて物陰に隠れている。

 レミーの性格が孫の代まで遺伝しているのか、生み出された天使たちは総じて臆病な傾向にあるようだ。サリーほどの実力を身につければそうでもないのかもしれないが、やはり生まれたての弱い状態では戦力として扱うのは難しい。

 そう考えると、元祖大天使が大天使を量産していた戦略もあながち悪いものではなかったのではと思える。

 同時に、ただの天使でさえ歪んだ表情で地上の生物を殺して回っていたあたり、元の大天使は一体どれだけ歪んだ感情を持っていたのかと思わされる。





 しばらくの間、階段を昇ったり降りたりし、一行はようやく要塞最深部に到着した。


「──おお! なるほどこれが!」


 着くなり教授がマトリクス・ファルサに走っていく。


「おおー! すご──いのかどうなのかわたしは見ただけじゃわかんないけど」


 釣られて走りだそうとしたブランだったが、冷静に考えれば装置を見てもすぐに何かできるわけではない。それに気付いたのか立ち止まった。


「へえ。ずいぶんと雰囲気出てんな。まさに古代遺跡でマッドな実験を繰り返す裏ボスって感じだぜ」


 バンブの視線の先には白衣を着たサリーがいる。

 厳密には白衣ではなく、レアの物に似たローブだ。意匠が簡略化されているため、フードの付いた白衣のように見えなくもない。

 レミーがレアの着ているローブを羨ましがり、それを見たサリーも欲しがったため2人に与えた物だ。

 ちなみに好みの問題なのか、ヴィネアはドレスの方を欲しがったのでレアのドレスと似たものを与えている。

 そちらはデザイナーでもある生産者、クィーンアラクネアの趣味で若干スカートの丈が短めだ。


「お話は伺っております。ようこそおいで下さいました。私はこちらの空中庭園アウラケルサスの管理人の任を仰せつかっております、大天使のサリーと申します」


 サリーが折り目正しくお辞儀をした。

 よく躾の行き届いた、見ていて満足を覚える姿だ。

 なぜヴィネアはこうできないのか。


「あっと。へへへ、これはご丁寧にどうも」


 ブランが自分の頭を掻きながら礼を返した。

 こちらは黙って立っているだけなら格好いいのだが、このような仕草をしているところを見るとどうしても三下臭が漂うというか、逆に見ていて安心してしまう。


 ライラやバンブは軽く手を挙げて応えた。教授は見てもいない。


「ご苦労さまサリー。悪いけど、少しこれを使わせてもらうよ。

 ──さて、誰からやる?」


「私は最後で構わないよ。試してみたい事も色々あるし、時間もかかるだろうからね。先に他の人たちで順番を決めて進めておいてくれたまえ」


 教授に向けて言った言葉ではないのだが、最後でいいと言うなら放っておくことにする。

 試してみたい事や時間がかかるという言葉は気になるが、サリーの邪魔にならないようなら、内容によっては許可してもいい。


 しかしてっきり真っ先に手を上げると思っていたライラは何も言わない。


「ライラ、やらないの?」


「そうですよ。いいんですか?」


「いや、うん。ちょっと考えたんだけどさ」


 ライラの視線の先にはサリーがいる。そしてその周りにはサリーが助手として成長させたらしい、少し大きめの天使、いわゆる中天使がいた。


「聞いた限りだと、まず間違いなく私が発動させれば悪魔が誕生するよね。でもそれって、あくまで私に似た悪魔であって、ヴィネアちゃんみたいな可愛い子になるとは限らないじゃない? あくまで、悪魔だけに!」


「──んっふ!」


「どうしたのレアちゃん」


「いや、別に?」


 その通りだ。

 事実、サリーを始め今この庭園にいる天使たちは全員レミーにそっくりである。

 サリーについては標準年齢ということでレミーよりも大きくなってしまっているが、レミーもいずれ成長すればそうなるだろうという程度には似ている。


 ライラが仮に悪魔を生み出した場合、忌々しいが外見的にはヴィネアとそっくりな者が生まれてもおかしくない。何が問題なのか。

 確かに「ライラに似た悪魔」というフレーズにはもうそれだけで本能的な危機感を覚えないでもないが。


「外見もまあ、重要なファクターなんだけどさ。自分の子だったとしたら、あんなに可愛く思えるものかなって考えちゃって。言っちゃあ何だけど私、自分よりレアちゃんの方が好きだしね。

 それで気付いたんだよね。私が欲しいのは顔だけが似た子供じゃなくて、レアちゃんの子供なんだっ──んぐふっ」


 つい手が出てしまった。

 咄嗟の事で手加減も出来ず、見れば壁まで吹き飛んだライラのLPは少し減っている。


「うわヤクザキックだ」


 どうやら出ていたのは手ではなく足だったらしい。完全に無意識だった。


「いや今のはしょうがねえだろ。他人事ながら聞いてて気持ち悪かったぜ。もし自分に兄貴がいたとして、同じ事言われたとしたらたぶん殺してるわ」


 それはちょっと見てみたい。

 バンブとその兄のビジュアルによってはお金になる気がする。

 他人事だったらこのように気楽に思えるのだが、それでも共感してくれるあたりバンブはやはり人間ができている。


「わたしひとりっ子だからなー……」


「──で、結局誰からやるのかね。早く起動しているところを見たいのだが」


 教授がそわそわしている。

 エサを前に警戒しているタヌキのようだ。のようだ、というか、概ねそのものであるが。


「俺は別に。興味はあるが、自分でやりたいってわけでもなかったからな。ちっとリスクが高すぎるし」


 バンブも辞退した。

 何のリスクがあるのか不明だが、慎重なバンブの事だ。どうせ余計な心配をしているのだろう。

 とはいえ本人がやらないというなら無理してやらせることもない。


「あ、じゃあわたしいいっすかね……?」


 ブランが自信なさげに手を上げた。


「そんなにびくびくしなくても。この2人がやらないのはそれぞれの理由なんだから、ブランがやりたければ遠慮なくやればいいんだよ」


「そうなんだけどさ。この庭園にいる子たちを見る限りだと、かなりちっちゃい状態で生まれてくるんだよね? 子育てなんてわたしに出来るのかなって思って。餌とか何あげればいいのかわかんないし」


「ちょっと待て、子育ての話題で有り得ない単語が出てきた気がすんぞ。餌ってなんだよ」


「──いや、さすがの私もそれはちょっと。子育てしようって人間が言っていいセリフじゃなくない?」


 ライラが復活してきた。へこんでしまった壁は直しておいて欲しい。


「小さくても歯はあるから、別に普通の食べ物でいいと思うけど」


 空中庭園ではそうしている。

 INTが低いうちは放っておくとそこらの虫なども口に入れようとするため、早めにそこだけは教育し、グスタフに用意させた食糧から麦粥などを作って食べさせている。らしい。

 やはり可愛く見えても、人類というより魔物枠ということなのだろう。


「じゃ、じゃあ、やってみようかな……。えと、どうすればいいのこれ」


「ああ、まずは『錬金』の『哲学者の卵』を──」


「……なにそれ」


 そこからだった。









「──おお、これがわたしの──」


「ていうか羽根白いんだけど。天使じゃんこれ」


「そういえばブランって正道か。なるほど吸血鬼からは天使が生まれるのか。なんだそれ」


「似てるっちゃ似てるが、思ったほどは可愛くねえな」


「失礼な! この子はわたしが育てます!」


「いや最初からそういう話だろ」


 こうなると、バンブや教授が起動させた場合に何が生まれてくるのかは興味が出てくる。

 しかしバンブはやる気がなさそうだし、教授のケースで確認してみるしかない。


「まずは『使役』しておかないとね」


「そうだね! よし『使役』! あっ──」


 ご機嫌な様子で『使役』を発動したブランだったが、すぐにその顔が蒼白になった。

 元々吸血鬼で色白なため分かりづらいが、何かをやらかしてしまったのは間違いない。


「……なんかやったの?」


「ちょ、ちょっと待って──あ、待ってくれるんだよかった。いやよくない」


 覚えのあるようなやりとりである。

 なんらかのシステムメッセージが届き、それに対して遅延を要求したのだろうか。


「えっと、わたしのっていうか、吸血鬼の『使役』ってアンデッド化するじゃん?」


「そうだね。それがわずらわしい時もあるから、わたしの『使役』を教えたんだったね」


「うん、その節はどうも……。んで、それって使い分けは出来ないんだけど、発動した時に従者にしますかってメッセージが入るの。これにノーって答えるとスクワイア・ゾンビにはならなくて、さらにその後のアンデッド化しますかもノーにするとアンデッド化もしないんだけど──」


「なるほどわかった」


 要領を得ない説明だったが、言いたい事は伝わった。


「それでどのタイミングでイエスにしたの?」


「従者はノーで、アンデッドはイエスかな……。いやだって、まだちょっと慣れてなくて!」


「わかったから落ち着いて。ところで、今何かシステムを待たせているんでしょう? 何を待たせてるの?」


「えと、うんと、そしたら特殊がどうとかで経験値2000を要求されて」


 2000と言えば、大天使や大悪魔と同じコストだ。あれらは天使や悪魔にそれぞれ『神聖魔法』や『暗黒魔法』を取得させて初めてアンロックされる仕様だった。転生の際には賢者の石グレートを使用したが、あれが本当に必要だったのかどうかは不明だ。もしかしたら条件を満たし、経験値さえ消費すれば大悪魔になれるのかもしれない。


 その可能性は今、ブランの手によって一端が解明されつつある。

 キーとなっているのは間違いなくアンデッド化だ。

 吸血鬼による『使役』以外に天使をアンデッド化させる方法があるのかどうかは不明ながら、そうした条件を満たした結果、この小さな天使は新たな災厄になろうとしている。

 天使というルートに乗ってしまってからの新たな分岐だ。実に興味深い。


「大丈夫だよ。別に死ぬわけじゃない。そのまま経験値を支払って、成長させるんだ。うちのヴィネアも、『暗黒魔法』を取得させた後、経験値2000で大悪魔に転生した。それと同じだ」


「そ、そうかな。なんか特殊とか言われてるんだけど大丈夫かな……」


「特殊条件を満たした、ってやつなら、邪道ルートに入る時に言われるやつだよ。私やレアちゃんもそれだったから大丈夫大丈夫」


 ライラやレアと同じ、と言われたのが効いたのか、ブランは少し落ち着いてきた。


「よし、じゃあ、支払って転生を許可します!」


 ブランの天使が光に包まれる。


 わりといつもの光景だが、皆食い入るように見つめている。


「……お、おい。なんか光が強くねえか? 大丈夫かこれ」


「そう? 災厄級なんてこんなもんだけど」


「そうなのか……。てか生みだしてんのか災厄を……」





 やがて光が収まった後、現れたのはくすんだような灰色の翼を持つ、吸血鬼並に肌が白い天使だった。

 身長はサリーの助手と同じくらいだ。つまり中天使サイズである。

 初期段階の天使からいきなり転生させてしまったために成長具合が足りなかったのだろう。能力値もその分低めだ。これは経験値を後追いすれば結果的に変わらなくなるのだろうが、外見はどうだろうか。ヴィネアもサリーも、転生してから経験値を与えても外見は変化しなかった。それから考えると、この子はもうこのままで固定されてしまっている可能性が高い。


 そこまでを一瞬で考え、直後にとある重要な事実に気付いて、『魔眼』で周囲を確認して狙いを定め、2本の指でバンブの目を突いた。


「ぐわあ! 目が、目があ! な、なにしやがる!」


「いや、黙って見ていていいものじゃないでしょ。わきまえなよ」


「だからっていきなり物理的手段に訴えるなよ! 部位破壊されてんじゃねえかこれ!」


「あごめん、緊急事態だったからつい。後で治療はするから、少しだけ我慢して」


 サリーが助手の予備の服を着せているのを確認しながら教授を探すがどこにもいない。

 『魔眼』によれば部屋の外にいるらしい。


 それからすぐに、子供が服を着たのを確認してか、戻ってきて言った。


「──こんな事になるんじゃないかと思ってね。避難させてもらった。まあ別に私は目を突かれる筋合いはないのだけど」


「おい、タヌキもいるのか? じゃあもういいんじゃねえのか? 治してくれよこれ」


 インベントリから高位の再生ポーションを取り出してバンブの目にかけながら子供を『鑑定』してみる。


「死天使、か。死天使って普通死んでる天使じゃなくて死を告げる天使の事だと思うんだけど、運営の妙なセンスは今さらか」


 レアと目があった死天使はててて、と早足で歩き、ブランの腰にしがみついた。


「──っべー! 何これ超エモい! スーパー可愛くない!? 反則でしょこれ! 見て見て超美人!」


 普通の天使だった頃と違い、特性として超美形を得ている。まさに小型化したブランといった容貌だ。中性的な魅力も相まって、幼いながらもなんとも言えない妙な色気を放っている。


「……まあ確かに可愛いけど。ブランと同じ顔じゃん。自画自賛?」


「……ううううううん、こういうの見ると、やっぱちょっと欲しくなるな……」


「すげえなこれ。一瞬で目が治ったぞ。高いやつか?」


「ふむ。アンデッドとしての特性を持った天使、といった感じだね。光輪はないようだからその分はデメリットだが、最初から『致死』とかいう不穏な『暗黒魔法』や『復活』の『神聖魔法』を持っているな。死と蘇生を司るとでも言うのか? つまり、特性による強固な耐性がない代わりに、『暗黒魔法』と『神聖魔法』の両方を所持している稀なケースというわけだ」


 教授が代わりに続きを調べてくれたようだ。楽ができていい。

 『神聖魔法』と『暗黒魔法』ならレアもライラも持っているため、それほど稀なケースというイメージはないが、それは今言う必要はない。

 しかし、イレギュラーな生まれたてのためかなり弱めだとは言っても、仮にも災厄級である死天使のステータスを覗き見るとは、教授もこれでかなり自身を強化しているらしい。思っていたより向上心があるようでなによりである。


「……うー。あうー?」


「おっと、きみ言葉わかんないのかな? よーしよしよし、おねえちゃ、違うな、お姉さまが教えてあげますからねー」


「あ、そうだった。天使たちは言葉わからないから、教えてあげる必要があるよ。フレンドチャットならダイレクトに意志が伝わるから、もしかしたら教える必要ないかもだけど」


「大丈夫! 慣れてるから!」


 そう言うとブランは死天使を抱き締め、要塞の窓から飛びだした。


「──今日はありがとね! ちょっと用事出来たから先帰るね! またねー!」


 レアたちが窓から顔を出した頃にはすでにブランは北の空で小さくなっていた。

 エルンタールに帰ったのだろう。彼女が顔の墨を落とし忘れることがないよう祈るばかりだ。





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