第348話「バッドエンドルート」





 誰が、というわけでもない。

 自然と、地上で行われていた戦闘の手が止まっていった。


 降臨するレアたちに、真っ先に気がついたのはやはりペアレ王だった。


「──オオ、女神ヨ……。ワシヲ祝福ニ来テ下サッタノカ。今度ハ3柱モ……」


 総主教やプレイヤーたちへの攻撃を止め、呆けたように上空を見上げる幻獣王に、すぐに他の者たちも異変に気づき、次々とレアたちを見上げてくる。

 女神というのが何のことなのかわからないが、どうせ他の王たちと同じように錯乱しているのだろう。


「──セプテム! 生きておったのか! ということは貴様、南部に向かった我が弟子を見捨て、1人で逃げたのか! 今頃になって何をしに来たのだ!」


 総主教が憤慨している。

 そういえばオコジョはプレイヤーたちの前に置き去りにしたのだった。

 しかし何度もポーションなどで回復をしてやったし、最後は蘇生までしてやった。あれで勝てないというのであれば、それはもう運命だろう。レアのせいにされても困る。


「……あれはセプテム? しかも、他に2人もいるぞ!」


「……赤いのは何度か報告があったが、黒いのは初登場か?」


「……いや、最初の報告は白と黒だった。その報告者はそれっきり消えちまったが、ガセじゃなかったってことか」


「……今回の黒幕か。全員揃い踏みとみていいのか?」


「……つまり、ここが正念場、イベントもクライマックスということですね」


 距離のせいか、プレイヤーたちの声は少し聞こえづらい。

 仕方なく、もう少し高度を下げた。

 幻獣王の頭部の先端と同じくらいだ。





「残念な事だけど──」





 レアが口を開くと、ざわついていた場が一度に静まった。


「──この様子じゃ、ペアレ王国を滅ぼしたい、というきみたちの悲願は達成できそうにないね」


 ちらり、と幻獣王を見る。

 大してダメージを受けているようには思えない。多少は受けてはいるのだろうが、自然回復量を上回るほどではない。

 やはり放っておけば勝っていたのはペアレ王だろう。

 ならば、遅かれ早かれこうやってレアたちが地上へ降り、後始末をすることになっていたに違いない。

 幻獣王の勝利の暁にはプレイヤー不在で後始末をしていただろう事を考えれば、何者かが矢など射かけてこなければプレイヤーたちの前に姿を現す事は無かったかもしれない。


「なぜ、俺たちがペアレ王国打倒を狙っている事を知っている!」


 地上で豆粒が騒いでいる。

 サイズ感が狂いそうになる大型ユニットばかりでよく分からなくなるが、プレイヤーだろう。


 よく見ればあれはウェインだ。彼の愉快な仲間たちも、そしてマーレのファンクラブの者たちもいる。ウェルスからここまでわざわざ来たらしい。ご苦労な事だ。

 彼の腕は斬り落としたような気がしていたが、ちゃんと生えている。再生ポーションでも使ったのか、それとも一度死亡してリスポーンしたのか。


「──そりゃ徒党を組んで王都に攻め込んで、そこの王さまと殺し合いしてるところなんて見れば、誰が考えてもペアレ王国滅亡が狙いだってわかるでしょ。バカなの?」


 呆れたようにライラが言った。

 そっぽを向き、単に機嫌が悪いようにも見えるが、その視線は先ほど見つけたプレイヤーがいるらしいどこかの建物に固定されている。


「え、今話したの、黒い奴か?」


「セプテムと、同じ声……」


 同じではない。よく聞けばわかるはずだ。失礼な話である。


「──嬉しいことを言ってくれるじゃないかきみたち。でも残念ながら少し違うな」


 ライラがフードを上げ、その顔を晒した。

 レアの顔を見たことがない者もいるだろうし、これだけではその者たちには意味が分かるまい。

 仕方なく、レアもフードを上げた。

 流れでブランもそうしている。


「私の名はオクトー。君たちには妹がずいぶん世話になったようだね。いずれその礼はさせてもらうけど、まずは挨拶だ」


「はいはーい! わたしはノウェムです! 美人三姉妹って呼んでくれてもいいよ! まあわたしはひとりっこだけどね!」


 プレイヤーたちはライラの姿と名乗りで息をのみ、ブランのドヤ顔に困惑している。

 もっとも、困惑したのはレアたちも同じだ。三姉妹なのに一人っ子とはどういう意味なのか。


「……黒い、セプテム……。それに妹? 双子……か?」


 だから、よく見て欲しい。同じ顔ではないし、双子でもない。レアの方が若い。

 しかし大半のプレイヤーの視線がレアとライラの顔を往復している中、ブランの方が気になっているプレイヤーもいる。


「──あなたは、あの時の男性ではないのですか!?」


 その手が暖かが問いかけた。

 よくは知らないが、ブランはヴァイスに化けて悪事を働くとか言っていた気がする。その時に会ったのだろう。

 目立つローブは同じものであるため、フードの下から表れた顔が知らないものだった事に驚いているようだ。


「あの時の? ……ああ、貴女どこかで会ったことある気がすると思ったら、ゾルレンか! あの時のあれは変装でーす! こんな感じ! 『変身』!」


 発動ワードの宣言とともにブランの身長が伸び、顔がヴァイスのものに変化していく。

 こちらのワードを変えていないという事は、『変態』の方を変更したらしい。


「……そんな……。ではやはり、今回の事はすべてあなたたちが……」


 ブランの姿の変化を目の当たりにしたプレイヤーたちがざわついた。

 その手が暖かもぼそりと呟き、レアたちを睨みつけてくるが、これは聞き捨てならない。


「ちょっと待ちたまえよ。

 今回の事というのが何のことを指しているのか知らないが、少なくともこの混沌とした状況を招いたのはわたしたちではなく、君たちのほうだろう。

 わたしたちもかなり最初の方から観察させてもらっていたんだけれど、そもそもこのペアレの国王陛下がお怒りになったのも、きみたちが罪もない王子さまを殺害したからじゃないか。

 それからシェイプ王国と手を組んで、何とかいう南の方の街を強襲したり、北の方の街を強襲したり、わたしが言うのも何だがやりたい放題だ。

 ここの東にある国も滅ぼしてしまったようだし、そうそう、南の方の国の王さまも暗殺しようとしていたみたいだね。

 それだけ無法の限りを尽くしておいて、全てわたしたちのせいというのは、さすがに筋が通るまいよ」


「そーだそーだー! 風評被害だよこれは!」


 ブランがヴァイスの顔で叫ぶ。

 違和感が凄い。これは本人に許可を取っているのだろうか。皮肉なことにブランのセリフ通り、この場で最も風評被害を受けているのは間違いなくヴァイスであろう。

 ライラも同じ事を思ったようで、身振りでたしなめて元の姿に戻させていた。


「──いや待て! 東にある国──ウェルス王国の国王にトドメを刺したのはお前だろう!」


 ウェインが左腕を押さえながら口を挟んできた。

 それはそうだが、レアがそうする前にウェルス王国はすでに滅亡判定を受けていた。あそこでレアがウェルス国王を始末しようがしまいが何も変わらない。


「そんな事を言われても、あの時すでにあの国は──」


〈レアちゃん、めっ!〉


「──あの国はきみたちに攻め込まれていたじゃないか。

 言っただろ。あれはきみたちの手伝いをしただけだよ。遅かれ早かれ、あの国はきみたちが滅ぼしていたはずだ。違うかな」


 危ないところだった。

 国王の死亡よりも前に国が滅亡していた事実は、おそらく国王本人とプレイヤーしか知ることがない。


「──し、しかし、あなた方が各地で一部の魔物を強化して回っていたらしいことは調べがついています! ペアレの第1王子の件にしても、あなたが彼をあのような姿にしたのではないのですか!」


 この言葉には黙って聞いていたペアレ王も気になったようで、レアに視線を向けてきた。

 こうして行儀よくしている姿は、まるでしつけの行き届いた猫である。


「勘違いしているようだが、あれはあの遺跡の力を使って第1王子殿下がご自分でなさったことだよ。わたしはただ、その手助けをしたに過ぎない。具体的に言うと扉を開けたくらいだな。

 ついでにいえば、殿下には別に街を襲うようなつもりは無かったと思うよ。自分の国の街だしね。襲う理由がない。あるとしたら、あの街に何故か居た他国の軍隊を追い出すためとかじゃないかな」


 状況的に、あの場で最も責任があったのがポートリー騎士団であったことはプレイヤーたちもわかっているはずだ。

 その手が暖かは悔しげに唇を噛んだ。


「──先日、そちらのお友達には言ったけど、わたしにはわたしの目的があり、そのために行動していただけだ。このような大規模な戦闘に発展してしまったのは結果論だし、だいたいはきみたちが余計なことをしてくれたせいだと思うよ」


「ですが! そちらの赤い──ノウェムと名乗った者は、戦争は仕組まれたものだと言っていました! それに、戦争がエキサイティングなものになった事に礼を言う、とも!」


「あっ」


 ブランが両手で自分の口を押さえた。

 どうやらどこかで会ったときに何か言っていたようだ。

 まあそれ自体は事実だし、どう好意的に解釈しても善良な市民には見えないブランが人類の不和を望むのも別におかしくはない。


「──仕組まれた、というのなら、それを仕組んだのはポートリーとかいうエルフの国の王さまなんじゃないかな。あの国がペアレの遺跡にちょっかいをかけてきたのが発端だろう? さすがにわたしも彼の行動を自由に操るような手段は持っていないよ。

 それに、それこそノウェムの言う通り、戦争をこんなにエキサイティングなものにしたのはきみたちじゃないか。なんで今わたしたちが責められないといけないんだ。

 少なくともわたしたちは、さっききみが言ったように、全てを仕組んだわけではない。ところどころ手を貸すことはあったが、それにしたってきみたちほどではない」


「で、でも、戦火が拡大したのを喜ぶなんて……」


「やれやれ、どうしてもわたしたちを悪者にしたいみたいだな。

 その程度の発言でいちいち揚げ足をとられたのではたまらないな。どう思おうがそんなのノウェムの勝手じゃないか。

 それに、きみたちの仲間にもいたんじゃないのか? 戦争の勃発と継続を願う者たちが。これはわたしの勘だが、あれほどまでに戦うのが大好きなきみたちだ。絶対に戦争を喜んでいる人物は居たはずだ。

 案外、戦争を仕組んだ者というのも、異邦人の誰かなんじゃないのかな」


 イベント中はSNSへの書き込みは少なかったが、特に戦略的価値のない情報、要は愚痴としてはいくらかの書き込みがされていた。

 その中には戦争を早期に終わらせようとするシュピールゲフェルテへの批判の言葉も多くあった。

 そうした感情や書き込みに心当たりがあるのだろう。

 プレイヤーの何割かは目をそらしたりしている。


「──さて。理解してもらえたようだね。

 そうだ、申し遅れたけど、わたしたちはマグナメルムという集団を組織して活動している。だからこれからはわたしの事はマグナメルム・セプテムと呼んでくれればいい」


 プレイヤーたちがざわめいた。ネーミングセンスについての話題のようだ。

 おおむね好感触である。

 レアは小鼻が膨らみそうになるのを必死でこらえた。


「……大いなる、災い? 7番目の……、第七災厄か! じゃあ、オクトーに、ノウェムってまさか──」


 明太リストはすぐに思い至ったらしい。

 ジャネットたちもそうだったが、ラテン語はプレイヤーには必修科目か何かなのだろうか。


「そして今はその目的の最後の締めの為にここに来ている。さっきも言ったけど、この戦争とやらも大詰めのようだったからね。

 本当はもう少し、後になってから姿を見せるつもりだったんだけど──」


 レアの意を汲み、ライラが自分のローブの裾を撥ね上げた。

 そこから闇色の何かが伸びていき、先ほど睨みつけていた建物の方へと向かう。おそらくこれは『邪なる手』だろう。ずいぶんと射程を伸ばしたらしい。


 そしてその手はほどなく引き戻され、プレイヤーたちの前に何かを転がした。


 白衣の変態と黒タイツの変態だ。


「ヨーイチ! サスケ!」


 レアを矢で狙ったのはこの2人だ。

 この王都に侵入し、ジャネットたちに倒されてからどこに行ったのかと思えば、ずっと王都に潜伏していたようだ。

 そういえば、いつかの遺跡でも謎の隠密技術でレアに近づいてきていた。あれなら確かに『魔眼』でもなければ発見は無理だ。


 転がされた2人はすぐさま立ち上がり、レアたちを睨みつけてきた。


「──上空で観戦していたところを、この2人に見つかってしまったみたいでね。ちょっかいをかけられたから、仕方なく降りてきたんだ」


「ナント……。デハ高ミヨリワシノ戦イヲズット見守ッテイテ下サッタノデスネ、神ヨ」


 ペアレ王がつぶらな瞳で見つめてくる。


「神? まあ何でもいいけど」


 総主教あたりは濁った眼で睨んでいるが、こちらは人間の顔なので表情がよくわかり、余計にそう感じられる。

 しかしペアレ王は現在、顔だけ見ればライオンだ。言うなれば、少し毛が多いだけの猫である。

 このままヒト型に戻らないのであれば、ペットにしてやってもいいと思える程度には可愛げがある。


 神呼ばわりには困惑するが、どうせ短い命だし、好きに呼べばいい。


「ペアレ国王陛下におかれましては、素晴らしい戦いぶりでした。このセプテム、感服いたしました。

 ──だけど、もう十分だ。いいデータも得られたし、きみの仕事は終わりだ。お疲れ様」


 本当ならペアレ王が他の全てを片付けてから登場するつもりだった。


 しかしこうなってしまっては仕方がない。レアたちが姿を現してしまった以上、こちらを放って戦闘の続きというわけにもいかないだろうし、おそらくレアたちが動かない限りは状況は動かないだろう。


 ローブの前を開き、両手を突きだした。

 そしてその手に『魔の剣』を発動する。注ぎ込むMPはLPに抵触しない範囲内で、使用できる限界の量だ。

 攻撃した後に面倒な問答などしたくはないし、殺すつもりで放った一撃に耐えられてしまっては格好がつかない。

 レアはスキル『技術は長く、人生は短いArs longa, vita brevis.』の効果によって、MPが足りない場合は自動的にLPからコンバートされるようになっている。それはこの『魔の剣』のような消費MPを任意で設定する場合でも同様であるため、気をつけなければLPにまで食い込んでしまう。LPに抵触しない範囲、とはそういう意味だ。

 しかも『魔の剣』の場合、消費したコストは武具を実体化させている間は回復しない。


 魔法のほうが慣れているため、自信があるのはそちらだが、このサイズの敵では『ダークインプロージョン』は使えない。数回に分けて威力高めの範囲魔法を叩き込むのも何であるし、出来れば一撃で始末したい。


 なのでここは魔王らしく『魔の剣』による理論値最大火力で挑ませてもらう。


「カ、神ヨ、ソレハ一体……」


 レアの両手に集束している膨大なマナ、それが内包する殺意に薄々気がついているのだろう。

 幻獣王が全身を硬直させたまま、声を絞り出した。


「餞別だよ。陛下は気にしなくてもいい。

 ──さあ、受け取って。『シュヴェルト・メテオール』」


 いつか他のプレイヤーがやっていたように効果の高いセルフバフを重ねてもよかったが、デメリットのあるものを使ってしまうと、下手をすれば反動でこちらが死亡してしまう。

 そんな間抜けな結末は御免だし、攻撃の前にせっせと自分を強化するボスというのも格好がつかない。


 そして発動した次の瞬間、あたりの景色が白く染まった。


 本来このスキルはこれほど効果範囲は広くないはずだが、爆心地で起こった衝撃が大きすぎて余波が広がってしまっているのだろう。

 衝撃が光と音となってレアたちの全身を叩く。

 ローブやその下のドレスが激しくはためき、身体の芯まで届くような重い振動を感じる。


「ふわあー! キレイだねえ! こんな隠し玉も持ってたんだ! さっきはなんで使わなかったの?」


 シェイプ王城での事だろう。


「なんでって、こんなの使ったら城ごと吹き飛ばしてしまうでしょう? ほら──」


 光は幻獣王の胸から上を消し飛ばし、その後ろに居た総主教の身体のほとんどを破壊し、そして荘厳な岩城の三分の一程を削って消えていった。

 凄まじい音も響いていたが、この程度の音量ではレアたちの鼓膜にダメージを与える事は出来ない。大きな音だというのは感覚的にわかったが、どこかフィルターがかかったような、遠い音だけが耳に残った。


「──ね? さっき使わなくてよかったでしょ?」


「……そうだね」


「そんなことよりさ。見てよほら、ペアレの王さまの残骸。大きいまんまなんだけど」


 ライラの言葉に改めて爆心地を見てみた。


 ペアレ王を狙って剣を振ったつもりだったのだが、実際にはペアレ王を貫通し、爆発したのはその後ろの総主教周辺だったようだ。

 お陰でペアレ王の遺体は大部分が無事なまま残っているが、その身体は巨大キマイラのままであり、人型に戻ろうとしない。


「……まいったな。こんな大きい物、さすがに持って帰れないよ」


「細切れにするわけには行かないんだよね? どうしよう」


「今すぐ蘇生させて、なんとかして躾けて自力で戻らせる?」


 出来ない事もないが、抵抗させないようにするには『賢者は心を支配し、愚者は隷属するAnimo imperabit sapiens,stultus serviet.』を使う必要がある。『暗示』も含めてだが、あれはあまり多数のプレイヤーの前で披露したい手札ではない。何しろライラにさえ言っていない。


 それにかっこよく倒しておいて蘇生させ、人間サイズにしてからまた殺すというのも何というか、いかにも作業といった感じで、黒幕が自ら人前でするようなことではない。


「いや、面倒だし、後で考えよう。この場は一旦──『召喚:ユーベル』」


 発動キーと共に、空間の歪みが上空に現れる。

 プレイヤーたちのざわめきがひときわ大きくなった。何をするつもりなのか、といった感じだ。

 心配しなくても痛い事はしない。今はまだ。


 そしてレアの声に従い、闇夜に浮かび上がるように、鈍色の巨体が姿を現した。


 ウロボロス、ユーベルである。


 こうしてみてみると、ユーベルも随分と大きくなったものだ。世界樹のそばで見ている限りではよくわからないが、崩れかけた岩城と比べるとその異常さがよくわかる。


「ユーベル。そこの遺体を──いや、そっちじゃない。翼のある方だ。小さいやつは要らないよ。それを森まで持っていってくれないか」


 ──キュルルルオオオオオオオォォォォ……


 するとユーベルはその長い2つの首を天に向け、鳥のような獣のような、低いような高いような、よく通る澄んだ声の雄叫びを上げた。わかりました、まかせて、というような意思が伝わってきたので、おそらく返事だろう。

 観客が大勢いるので格好をつけたものだと思われる。

 どうもレアの配下はこのように、格好つけたがる傾向にあるというか、調子に乗りがちなところがある。誰に似たのか。

 だいたいの場合は素直に格好いいので問題ないが。


 ユーベルはその長い身体を器用に幻獣王に巻きつけると、そのままゆっくりと浮かび上がった。

 宙に浮くのは『飛翔』の効果であるため、その何枚もの翼をせわしなく動かす必要はない。


 そして呆けたまま見守るプレイヤーたちをよそに、北の空へと優雅に飛び去っていった。





「──さて。お待たせしたね。これで、この場にいるのはもうきみたちだけだな」


 厳密に言えば街の北側にはまだ数名の主教たちがいるが、些細なことだ。もう用はない。

 『魔の剣』を解除したことで徐々に回復していく自分のMPを確認しながら、プレイヤーたちに語りかける。


 彼らはイベントプランナーであるマグナメルムが用意したイベントボスを討伐することが出来なかった。

 つまり、このイベントはバッドエンドだ。


 従ってこれから始まるのはバッドエンドルートのエンディング、悪い意味でのエキシビションマッチである。


 レアは先ほどシェイプの空でやったように、ローブを脱ぎ捨てた。

 ただプレイヤーたちの目もあるため、インベントリにしまったりはしない。投げ捨てられたローブはライラが『邪なる手』を伸ばして回収してくれた。


「わたしも目的を果たす事ができたし、このお祭りはもう終わりだ。しかし、最後にひとつ、きみたちにチャンスをあげよう。

 ──もし、わたしを満足させる事が出来たなら、何かご褒美をあげてもいい。

 『解放:翼』、『解放:角』、『解放:鎧』、『解放:剣』、『解放:金剛鋼』、『解放:多脚』、『解放:糸』、そして『解放:巨体』」







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