第307話「真祖・ノウェム」
マグナメルム・セプテム。
マグナメルム・オクトー。
マグナメルム・ノウェム。
これらの名前はもう、レアたち以外が使う事は出来なくなった。
今後同様の申し出があった場合にどうするかのガイドラインを作成するなど、対処しなければならない案件も増えてしまったためか少し時間がかかったが、運営にはこれらの名前の利用権を認めさせる事に成功した。
そして同時に、「マグナメルム」という単語を含む名称を利用可能なプレイヤーを個別設定する意味も含め、これも試験的にだがゲーム内において複数のキャラクターを識別してグループ化する措置が取られることになった。真の意味でゲーム内にクランのようなシステムが導入された瞬間である。現状、グループ化以外の意味は無いが。
報酬の先払いを受けたレアは、イベント告知用システムメッセージの内容についても打ち合わせ、それに則ったメッセージが発信されることになった。
少し格好つけたかったこともあっていつもと違った雰囲気のメッセージになってしまったが、今のところ不審に思われている節はない。
他のメンバーが受け取る報酬はイベント後までに決めておくことになった。
何でもいいとはいえ限度はあるので、期待しておいてもし駄目だった場合は落胆する事になる。
とっとと決めてしまった方がいいと思うのだが、それは人それぞれだ。
使用権について確定している中で、セプテムとオクトーについては問題ない。
すでに名実ともに災厄の7番目と8番目だからだ。
問題はノウェムである。
せっかく取得した名前であるし、この世界に9番目のアナウンスが響き渡る前にブランを人類の敵に仕立てなければならない。
「魂は?」
「もちおっけー! シェイプでたくさん収穫してきたよ! 必要だよーって言われてた具体的な数は覚えてないけど、一応桁いっこ多めに集めてきたから大丈夫なはず!」
レアの記憶が確かなら、最低必要数は100だった。
一桁違うということは1000以上の魂を集めてきたということであり、これは冷静に考えてちょっとした数だ。
基本的には飢饉を狙って農場をメインに破壊していたはずだが、いくつかは人の多い都市部も地均ししたのかもしれない。
集めれば集めるだけ要求される経験値を減衰させられるという事だったので、これなら今すぐにでも転生は可能だろう。
システムメッセージ発信後、まだお茶会の途中ではあったが、レアはブランを伴って早々に行動に移ることにした。
北部遺跡の周辺に掘られた地下道、そこに駐屯しているアリたちをターゲットに移動する。ブランはスクワイア・ゾンビだ。
彼らは前回訪れた時に何かのために待機させておいた者たちだ。
壁ゴーレムたちでもいいのだが、気をつけないと他のゴーレムたちに攻撃されてしまう事になる。今は目的達成を優先するため、無用な騒動は避けたかった。
しかし遺跡に移動してみれば、そこは思いの外静かだった。
普段であれば外にいるだろう元気な方の王子の配下がゴーレムと遊んでいるはずだが、この日はレアたちの他には誰も居なかった。
「飽きちゃったのかな。シルバニアの王子様」
「シルベスタじゃなかったっけ。飽きたってことは流石にないだろうけど、でも周辺には居ないみたいだね」
ゴーレムからの報告では、ここ数日は獣人たちは姿を見せていないとのことだ。
まさか本当に飽きたということもないだろうし、もしかしたら南で兄王子が
ペアレの王位継承順については詳しくないが、普通に考えれば第1王子が亡くなったのなら次の王として最も有力なのは第2王子であるはずだ。
第1王子も遺跡絡みで死亡したのだから、第2王子の身を案じて王都に戻したとしても不思議はない。
「まあ、用が済んだら一応外も覗いてみようか」
祭壇を起動し、ブランを座らせる。
南で第1王子にやった事と大きくは変わらない。ただこちらはブランが能動的に進行してくれるというだけだ。レアが手を貸す必要はない。
そうして誕生することになる。
大陸全土を戦火が見舞おうというこのタイミングで、新たな人類の敵、第九災厄が。
《正道ルートのレイドボス「
「おおおー……っていうほどでもないな。まあ確かにいろいろ上がってはいるけど、前回の方が感覚としてはヤバかったような」
「耐性とかできたのかな。見た目的には結構変わってるけどね。造形が具体的に大きく変わったわけじゃないんだけど、なんか全体的にシュッとしたっていうか、美人になったよ。プチ整形?」
「これかな? 超美形とかいうのが増えてる。よーしこれでもう「美人姉妹とそのおまけ」とか言われなくて済むぞ!」
「……誰が言ってんのそれ」
「タヌキのおじさん」
すぐそばで見ていたレアくらいにしかわからないだろうが、ブランはほんの少し身長が高くなっていた。
全体的な顔立ちもさらに整っており、まるでモデルか何かのようだ。
男装であることも踏まえると、高名な歌劇団のトップスターと言われても不思議はない。これならさぞかし多くのファンも付くだろう。
「おっと『変身』が増えてるぞ! これアザレアたちのと一緒かな? 変身って叫んだらどっちが適用されるんだろ。変態のほうかな」
ただし口を閉じていればだが。
「ある程度は脳波もチェックしてるはずだから、考えてる方とかになるんじゃないかな。ワード変更の方は発音だけで発動する場合もあるから、脳波優先ならワード変更している方が失敗するのかも。
とにかくやってみないとわからないけど、それぞれ別のワードにしておいた方が無難だと思うよ」
ブランは細かい設定やスキルのチェックなどをやり始めた。
周辺からペアレの関係者が居なくなっているというならしばらくここで遊んでいても構わないだろう。
巨大化されると面倒な事になるが、さすがにそんな事はすまい。
その間レアは遺跡の外に出て、周辺の森を探ってみた。
森の街道側の入り口の方には数名の騎士らしき者がいたが、他にこの周辺にはレアたち以外の勢力はいない。
「結局地下部分が地上の森と別扱いなのかはわかってないけど、これ下手な事したらわたしの領域になっちゃうかも」
それならそれでもいいかもしれない。
第2王子のペットの風虎たちも見当たらない事であるし、この森はもとの住民たちに返してやるのがいいだろう。
力でもって奪ったというのなら、その力を緩めてしまえば奪い返されるのは当然だ。
これから兄の代わりに国を引っ張っていかなければならない立場になるなら、これも教訓としてぜひ胸に刻んで頑張っていってもらいたい。
その国というのもいつまであるのかわからないが。
「『召喚:モン吉』。
よし、どうやらこの森は君たちに返してくれたみたいだよ。良かったね。今度会ったら、お礼にその爪をプレゼントしてやるといい」
第2王子は使い道が決まっているので死なせてしまうわけにはいかないが、生きてさえいればどう扱ってもらっても構わない。
最悪死んでしまったとしても、蘇生実験はすでに済んでいる。
モン吉が配下たちをひと通り『召喚』し、森を制圧したのを見届けるとレアは地下に戻った。
地下ではブランが待っていた。満足したらしい。
「もういいの?」
「うん。お待たせしました!」
今やブランはレアから見てもなかなかの威圧感がある。
立派な黒幕、立派な災厄と言っていいだろう。
シェイプではブランはよくやっていた。
あのままであれば、遠からず目的は果たせていたはずだ。
しかしさすがにこれから戦争をしようという国が、食糧欲しさにアーティファクトを差し出すことなど考えられない。その意味で言えば残念ながら計画、プラン・ブランは失敗だろう。
ともあれ予定とは違ってしまっているが、ひとつの区切りとしてはちょうどよい。
「さてブラン。頑張って災厄級にまで到達したブランにご褒美だ。
ブランはこのゲームを始めた時、チュートリアルAIが話していた内容を覚えているかな。
──うん知ってた。大丈夫。わたしが説明してあげるから。
この世界にいるキャラクターというのは──」
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