第295話「ペアレ千年の守護者」





「殿下、お待ちください。何があるか分かりません。ここはまず、わたしが触れて調べてまいりましょう」


「そうか、そうだな。すまんが頼む」


 部屋の前に王子を待たせ、レアは1人で部屋に入った。


 近づいてみれば、祭壇は全体のデザインとしては北の遺跡のものと似ているが、細部はかなり異なっている。

 アイテムを置くための台のようなものは無く、代わりに大きな踏み台にも見えるものがついていた。対象となるキャラクターが立つべき場所も一段高くなっており、近いイメージで言えば、ごちゃごちゃした表彰台といった感じだろうか。


 そのアーティファクトに触れる。

 するとアーティファクトの仕様が脳裏に浮かび上がった。


「──なるほど、これは」


 あちらが転生の祭壇だったのに対し、こちらは融合の祭壇であるようだ。


 わかりやすく言えば、『錬金』スキルの秘奥とも言える『大いなる業』と、アルケム・エクストラクタの2つの効果を内包したようなアーティファクトである。

 ただし転生させる効果は搭載されていないため、それをさせたければ素材に賢者の石などの単体で転生可能なアイテムを追加してやる必要がありそうだ。レアが普通にやっていたのと同じである。

 『大いなる業』というハイエンドなスキルに『抽出』などの効果をプラスし、それをアーティファクトで完全再現したものだと考えるとかなり凄まじいアイテムだ。


 ペアレ北部の祭壇と南部の祭壇、この2つを利用すれば、かなりの自由度で種族や特性をビルドしてやることができる事になる。

 ゲーム中盤あたりに設定されているような、クラスチェンジとか上級種族への進化とかそういうものにあたるコンテンツだと言えよう。


 しかしこちらの遺跡のアーティファクトがこういう内容であるなら、念のためインベントリに入れて持ってきていたアルケム・エクストラクタの出番はなさそうである。


「おい、もういいのか? なるほどとはなんだ」


 小声でつぶやいた程度のつもりだったが王子には聞こえていたらしい。幻獣人の聴力は伊達ではないようだ。


「申し訳ありません殿下。あまりにすばらしいアーティファクトでしたので」


 振り返り、王子を部屋の中へと招き入れる。

 レアが安全を確認したのを見ていた王子は、そのまま祭壇へと歩き、手を触れて唸った。


「──これは……」


 祭壇に触れた王子は目を見開いた。

 『大いなる業』など、王子にとっては謎だと思われるワードも登場しているだろうが、全体を通してみれば出来る事は何となくわかるようにはなっている。この王子のINTなら十分理解できるだろう。


「……このような物が存在していたのか。かつて栄えていた古代の統一国家というのは、一体どれほどの技術を持っていたのか……」


 それが失われたのは王子をはじめとする各国王族の始祖のせいだが、この王子はそれらの事は聞いていないらしい。各国の王家くらいには口伝で残っているかと考えていたが、そうではないのか、それとも王位を継承する際に初めて聞かされる事なのか。

 いずれにしても例の古文書をすべて読み終えていれば自ずと分かる事実ではある。

 もっともそれも、当時の技術が今も残っていたとしたならゲームを始めたばかりのプレイヤーにはほぼ何の仕事もなかったであろうし、仕方ないと言えば仕方ない。


「まさにおっしゃる通りかと。これさえあれば、国王陛下の悲願も叶えることができましょう」


「うむ……。うむ……」


 ペアレ王の悲願など知らないが適当に言っておく。国家の政策で王族自らを遺跡に派遣してアーティファクトを探させているくらいだし、それなりに重要なプロジェクトであるはずだ。ならば悲願と言っても問題あるまい。まあどうせ強大な力とか大陸統一とかそんなところなのだろうが。


 王子は祭壇に触れたまま、レアの言葉を右から左に聞き流している。

 まさか王子ともあろう者がアーティファクトに触れた事がないとも思えないし、よほどこの祭壇の効果に魅了されているらしい。


 しばらく待っても動きもしないので、レアの方から状況を動かすことにした。


「……しかし殿下。この祭壇はどうやら、ここから移動させることはできないようです。王都におわす陛下にここまでご足労いただくとしてもすぐというわけにもまいりませんし、今この遺跡の外には不埒な者どももおります。

 アーティファクトの力を知るためにも、この状況を打開するためにも、ここはひとつ、実際に発動させてみるのがよろしいかと」


 これはさすがに聞き流せなかったのか、王子が祭壇から手を離し、レアに向き直る。


「……発動すると言っても、どうする。

 確かに外の曲者やエルフの騎士団への対処は必要だ。我が配下の炎獅子もお前の部下もいつまで持ちこたえられるかわからん。

 父よりこの遺跡を任されたからには、私には何としてもこの遺跡を守る責任がある。あれらの侵入者にこの秘遺物を渡すわけにはいかん。

 しかしだ。この説明を見た限りでは、強大な力を得ることは出来るのだろうが、その素材として力を得る本人とは別の者の存在そのものが代償になるとある。それに力を得たとしても人としての形を失うような事にでもなれば……」


 アーティファクトの説明にはあくまで使い方が謳われているだけであり、その結果どうなるかは記されていない。複数の素材を混ぜ合わせ、その特徴をひとつにするというような説明からそれだけの事を読み取るとは、さすがの洞察力である。幻獣人という上位種だけあって、王子の基本スペックは高い。


 彼はその責任感だか使命感だかから、ここを守ることを何より重要な事だと認識しているらしいが、さすがにいきなりアーティファクトで解決しようとまでは考えられないようだ。

 しかしこの様子ならば、何かひと押しがあれば乗せてやることもできるかも知れない。


「はい。ですからここは、まずはこのわたしめが実験台となりましょう」


「なに!? お前がか!」


「わたしがこのアーティファクト発動の先駆者となり、強大な力を得てみせましょう。そしてその暁にはこの王国の守護獣となり、ペアレに千年の繁栄をお約束いたしましょう」


「それは……、いや、しかし……」


 王子はちらちらとレアとアーティファクトに目をやっている。

 このアーティファクトを守ることの重要性と、今日会ったばかりの怪しいローブを信用していいのかどうかで揺れているのだろう。


「ご安心ください殿下。わたしは王国に忠誠を誓っております。裏切ることなど決してありません。

 例えアーティファクトの発動によって、大陸さえも砕くほどの力を得られたとしても、それはペアレの為だけに使うと──」


「──やはり、だめだ。お前に発動するわけにはいかん」


 それはそうだろう。

 いかに部下だと自称していたとしても、これほどまでに怪しい人物にそんな強大な力を与えるわけがない。


「しかし殿下。では外の状況はどういたします」


「──私だ。私が発動する」


「よろしいのですか? 最悪の場合、人としての形を失う事になるやも」


「かまわん。たとえ私が人でなくなり、次代に子を残せぬようになったとしても、私には頼りになる弟がいる。そうなった場合は王位を弟に任せ、お前の言い様ではないが、私自身がペアレの守護獣となろうではないか」


 レアの言葉を意識しているのなら、千年は守護するつもりもあるということだろう。

 それだけ長生きできるなら、別に子孫など作れなくても1人で君臨し続ければいいだけである。次代の事など考える必要はない。

 そしてそれも、長命な種族や、寿命のない種族を片っ端から融合していけばおそらく不可能ではない。

 とはいえ本人が弟に王位を譲り、自分は名誉会長職として勇退するというなら別にそれでもいい。というかどうでもいい。


 元々この地に王子が1人でいるというのがまず誤算だった。北の弟のようにもっと部下とか何かがいるものだと思っていた。

 本来その部下を使ってアーティファクトの実験をするつもりだったのだが、居ないのであれば仕方がない。王子本人で実験するしかない。ここで第1王子を使い潰してしまっても、北でゴーレムと遊んでいる予備がいる。

 こちらのアーティファクトがこれほどの物だったのは想定外だったが、どのみちアルケム・エクストラクタか『大いなる業』で王子の部下を魔物に変えてしまうつもりではあった。

 王子がこう言わないようであれば、力技で『魅了』か『支配』でも使うかと考えていたが、進んで改造されてくれるというなら是非もない。


 もちろん、そう誘導しようとしたのは確かだが、うまく行くかは五分五分だった。

 元々今回の言い回しは、たまたま耳にした教授とライラの雑談からヒントを得たもので、日本のエンターテインメント史に残る伝統芸、「ドーゾドーゾ」というものなのだそうだ。学術的に言えば周囲の状況に影響された同調心理によって起こる心の動きを利用しているとかで、何でもエミューだかダチョウだかが関係しているらしいのだが、詳しくは聞いていない。レポート案件である。


「なんと気高い御覚悟。このセプテム、感服いたしました」


「しかし、格好つけて啖呵を切ったはいいが、発動すると言ってもな。この場には私とお前しか──」


「ご安心ください殿下」


 食い気味に被せた。

 冗談ではない。素材になってやるつもりはない。


「こんな事もあろうかと、というわけではございませんが、こうした時に使えそうな強力なアイテムも多数ご用意しております。

 ささ、時間がありません。殿下はアーティファクトにお掛け下さい。

 気を楽にして、天井を見てください。見えますか? そうあの辺りです。──少し『眩しい』ですよ。大丈夫、落ち着いてください。これは対象に雑念を抱かせないようにする機能のようです。古文書にありました。

 さあ目を閉じて。後は万事、このわたしにお任せを──」









「クソが、これならどうだ! 『スティング──』」


「──おっと。そこまでだ」


 地下でひと通り作業を済ませた後、『召喚』でモニカの元に戻ってきたレアは、ちょうどそのモニカに向けて突き出された短剣の刃を指でつまんで止めた。

 そんな事をせずともモニカは自力で防いでいただろうが、止められるのに敢えて止めない理由もない。


「──何!? てめ、いつの間に! てかどうやって現れやがった!」


「内緒だよ。しかし女性に対してそんな汚い言葉を吐くのはいただけないな」


 モニカに短剣を向けていたのは黒タイツの方の変態だった。

 彼とはあまりまともに会話した事はないが、言葉遣いはナース服の変態の方がまだマシなようだ。

 服装に関してはどっこいどっこいである。


「──キャー! セプテム様かっこいい!」


「──あ、こら! よそ見すんな! ちゃんと護りなさいよ!」


 遠く、騒ぐマーガレットを叱るアリソンの姿が見える。

 幸いレアの出現に驚いたのは黒タイツだけではないようで、ナースのヨーイチも手を止めてこちらを警戒している。

 ヨーイチは確か『真眼』を持っているはずだ。

 突然レアや『魔の盾』のLPが視界内に現れればそれは警戒するだろう。


「──セプテム、それが第七災厄の名か」


 ヨーイチがつぶやいたのを強化された聴覚が拾った。

 そういえば他のプレイヤーたちに名乗ったことはなかったかもしれない。

 これを機会に彼らが広めてくれるというならそれもいい。


「名前なんてどうでもいい! ここで会ったがって言うほど恨みがあるわけでもねえが、見かけたからにゃタダでは帰さんぜ!」


 短剣を摘んでいたレアの手を振り払い、黒タイツ、モンキー何とかスケが構えを取った。

 刃物で振り払われたレアの指には何のダメージも入っていない。

 彼らほどのプレイヤーであればこの時点でわかるはずだが、それはつまり通常攻撃ではレアの防御を突破できないということでもある。


「まあ、落ち着きたまえよ。残念ながら本日のメインイベントはわたしと戦うことではないんだ。もうそろそろだと思うんだが……。ああ、来た来た」


 地響きが鳴る。

 足元も揺れている。


「……な、なんだおい、てめ、何しやがった!」


「……そういえば、一緒に遺跡に入っていったあの男はどうした。というかあれは誰だったんだ」


 猿スケとヨーイチが矢継ぎ早に問うてくるが、答える義理はない。

 というか、あれが誰だったのか知らないのか。王子が目当てでないのなら、本当に彼らは何をしにここに来たのだろう。


「黙って見ているといい。すぐにわかる」


 そして廃墟の朽ちかけた石畳を割り、土を盛り上げながら、地面の下から巨大な何かが現れた。


「──虎……か?」


 それは体高で5メートルほどの虎だ。


 ちゃんとした虎ならば全長はもっと長かったろうが、この虎はもっと丸いというか、ずんぐりしており、尾も短いためそれほど長くない。

 虎は虎だが、シルエットとしては虎ではなく、さながら熊のようにも見える。


 そう、これはあの王子に、アブハング湿原のボスだったギガントパンターベアを融合させた姿だった。





 ここに来る前、レアはアブハング湿原に寄っていた。

 そこで寝そべるパンターベアを『使役』しておいたのである。

 そのため湿原はレアの支配地となってしまったが、この湿原はどのみちダンジョンボスがコントロールしていたわけではないので、極論を言えばボスなど誰でも良かった。

 適当にロックゴーレムを1体『召喚』し、経験値を与えて熊と同じサイズにして置いておいた。

 このダンジョンに来るようなプレイヤーではギガントパンターベアには勝てないし、おそらくジャネットたちくらいしかボスエリアには来ていまい。それっぽいサイズのものを置いておけば遠目ではわからないはずだ。

 仮に何かの拍子に見られてしまったとしても、いつからすり替わっていたのか証明できる者はいない。


 それをそのまま素材にしてもよかったのだが、『錬金』で融合するにしてもアルケム・エクストラクタのような集団で追加素材にするにしても、スキルや能力値の全てを継承できるわけではない。必ずロスが生まれてしまう。

 それではエルフの騎士団を蹴散らし、近くの街を滅ぼすほどのモンスターというには少し弱いかもしれない。

 そのため熊の彼には再び賢者の石を与え、ギガントティーガーベアにしておいた。


 その大虎熊を地下の祭壇前に『召喚』し、王子に融合させたのだ。

 王子の視界を奪ったのはそれらを見られないようにするためだった。

 部屋に入りきるかどうか微妙なところだったが、そうした事態も想定してか、幸い天井は高かったので何とかなった。下り階段が無駄に長いだけのことはある。

 問題は重量だったが、あの祭壇は非常に頑丈でちょっとやそっとの荷重や衝撃では破壊されそうもなかった。ウルル・インパクトを受けただけで一部が砕け散ってしまったマトリクス・ファルサにも見習ってほしいものである。

 精霊王の血管のように破壊が前提でデザインされているような物もあるし、ここの扉のようにただ壊れないだけという能力のものもあるし、アーティファクトと言っても全てが同じ規格というわけでもないのだろう。


 そしてさらに、継承の際の能力値のロスについては杞憂きゆうだった。

 それこそがアーティファクトたる所以ゆえんでもあるのだろう。

 アルケム・エクストラクタはもしかしたら、この祭壇のプロトタイプとして試作されたアーティファクトなのかもしれない。


 ギガントティーガーベアの能力やスキル、そしてついでとばかりに放り込んでおいたアダマス鋼やクモ糸などの力もほとんどロスなく全てを取り込み、ここに自称「ペアレ千年王国の守護者」は完成した。

 変態などの特性もないため、人の姿に戻る事も出来ない。王子は一生この姿で生きていくしかない。


 レアとしては変わり果てた姿になってしまった悲劇の王子様というのを期待していたのだが、残念ながらそうはならなかった。

 いや確かに変わり果て、熊のような体型の巨大な虎になっているというのは間違っていないのだが、その虎の頭部から元の王子の上半身が生えているのだ。

 非常に既視感のある姿だと言える。レアやライラと同じタイプだ。

 人型に魔物型を混ぜ込むとこのような姿になるのだろうかとも思ったが、ジャネットや教授たちは全力で変身すると結構エグいビジュアルになるため、そういうわけでもないはずだ。

 この差は何だろう。





「──なんだ、こりゃ……」


「──まさか、地下にあるアーティファクトというのは、こんなモンスターを生み出すためのものだったというのか」


 ヨーイチが愕然とつぶやいた。

 なぜ、地下にアーティファクトがあることを知っているのか。そんな話をしただろうか。

 もしかしたらジャネットたちが漏らしたのかも知れない。

 この場の戦闘でどういう会話が交わされていたのかは後で確認しておく必要がある。


 そのジャネットたちも、呆けたように王子を見つめている。

 驚いてもらえたようでなによりだ。

 いろいろ頑張った甲斐もあるというものである。


「──ふふふ。ふはは。はーっはっはっはぁ!

 素晴らしい! 素晴らしい力だ! これならば千年、いや万年だろうとペアレを護り抜くことができる! よし、愚かな耳長どもめ! まずは手始めに貴様たちからだ!」


 そして天に向かって王子の下半身にある虎頭が咆哮を上げた。そのせいで王子の上半身はかなりの角度でのけぞってしまっているが、うまく腹筋で支えて耐えている。

 ずんぐりした虎熊部分のシルエットを差し引いても、これは素直にかっこいい。


《抵抗に成功しました》


 そしてどうやら、咆哮は何らかの不可視の攻撃だったようだ。

 これはいつか湿原で豹熊が放っていたスキルだろう。

 ヨーイチや猿スケは青ざめた顔で硬直している。抵抗に失敗したらしい。

 よく見ればジャネットたちも同様だ。またか性懲りもない、と思ったが、あの頃と比べるとジャネットたちは相当強くなっている。現在のジャネットたちの抵抗を突破するとなると、王子の咆哮に耐えるには相当な能力値が必要になるという事である。


「……強化しすぎたか」


 エルフの騎士団や近くの街を破壊するには都合がいいが、やりすぎてしまうのも問題だ。果たして例の彼女はこの怪物王子を止められるのだろうか。無理なような気がする。

 しかし、ユーベルのライバルだというのなら、このくらいの敵には勝ってもらわなければ困るというものだ。

 幸い手配しておいたサポートNPCも近くまでは来ているし、フォローは十分出来るだろう。


「はっははははぁ! 待っておれよ耳長め! 炎獅子たちよ! 私に続け!」


「あ、待って殿下その前にここにいる変態を──」


 しかし聞こえなかったのか無視されているのか、廃墟や木々をなぎ倒しながら王子は1人で行ってしまった。

 続けと言われても、彼の炎獅子たちはほとんどがすでにそのエルフの騎士団と戦闘中のはずである。記憶が少し混濁しているのだろうか。

 思えば、プレイヤーでも誰の眷属でもないキャラクターを一気にこれほど強化した事はなかった。

 もしかしたら何の紐付けもされていないNPCが突然強化されると、AIの挙動に一部異常をきたすのかも知れない。


「……この件については確認が必要かな」


「──何を確認するのか知らないが」


「てめえ、今度は何しやがった。話してもらうぞ、色々となぁ!」


 変態2人が寄ってくる。

 硬直から復帰したようだ。

 ジャネットたちは状況について来られていないし、モニカはレアに任せるつもりのようで静かに一歩下がっていた。

 フリーになったためにレアに絡んできたのだろう。


「おしゃべりするのは構わないけど、そんなに悠長にしている余裕はあるの?

 わたしはまあ、別にどうでもいいけれど、今の彼、エルフの騎士団とやらを蹴散らした後は、近くの街にでも行くんじゃないかな。

 止めなくていいのかな?」


 エルフの騎士団には何とか街まで逃げてもらい、王子にそれを追って行ってもらわなければならない。

 そこまで行けば、向こうにいるライラの手の者が街に迫りくる魔物を敵認定して攻撃を始めてくれるはずだ。

 エルフの騎士団が逃げることさえ出来ずにここで全滅してしまうようなら少しサポートが必要だが、それを考えるとここで変態と遊んでいる暇はない。


 レアの言葉を聞くと変態2人は素早く目配せをしあい、武器をどこかに消して走り去った。インベントリに仕舞ったようだ。


「テメー覚えとけよ!」


「その命、次に会うときまで預けておく!」


 服装はともかく、捨て台詞だけは格好いい。レアもぜひ見習いたいところだが、命を奪う予定の相手を生かしておく状況が特に思いつかないので、見習ったところで使う機会はなさそうだ。

 顔の造形も悪いわけではないし、普通の格好をしていれば理想的な傭兵になると思うのだが、彼らはなぜそう出来ないのだろうか。






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