第280話「詐欺師」
一方のライリエネは俯いたまま動かない。
これはゲーム内でのことだ。森エッティ教授に、仮説について補強するエビデンスを出さなければならないという義務はない。
同時に、こちらが彼の仮説を認めてやる義理もない。
しかしこの件について、彼がその気になればSNSで拡散することなど容易だろう。
彼のネームバリューがあれば、それなりに筋が通っているというだけでもプレイヤーたちの心を動かすには十分だ。
教授は優雅にケーキを食べ、冷めた紅茶を飲んでいるし、とりあえずそれ以上話そうという素振りはない。
自分のターンは終わったという事なのだろう。
強引に先攻を宣言してずっと自分のターンで好き勝手にソリティアをしておいて、実にいい気なものである。これがカードゲームなら「壁とやってろ」とか言われて嫌われるタイプだ。
とはいえ半ば観客に過ぎなかったレアにとってはそこそこ楽しめた。
自分がやられるわけではないなら、見世物としては面白い。
「……”考えられる可能性はいくつかある”、”問題は次のふたつだ”、”このどちらかしかあり得ない”、”間違いないだろう”。
これらは今の貴方の長い長い話の中で、頻繁に登場していたワードだ」
俯いたライリエネが話し始めた。
やはりライラはこれで済ませるつもりはないらしい。
「自分自身を教授などと呼ばせるくらいだし、そういう話し方が癖なのかとも思っていたが、そうではないな。
他にいくつもの可能性が考えられるにも関わらず、貴方は常にあえて2つか3つに選択肢を絞って話していた。
これはよくある詐欺師の手口だ。
と言っても詐欺の場でばかり使われるというわけでもない。友人同士の話の中でも無意識に使われることもある。「私とあの子、どっちが大事なの」とかそういうやつだな。または自分自身を追い込む時にもよく使われる。意識的かそうでないかは別として。「この夢が叶わないのなら死んだ方がましだ」とかね。それがどんな夢かは知らないが、大抵の場合はそんな訳はない」
昔、ライラだったか誰かに聞いたことがある。
確か、誤ったジレンマとか、誤った二分法とか呼ばれているやつだ。
いや、今回は二択には限っていなかったから、誤った選択の誤謬というやつだろうか。
「貴方は自説を信じるあまり、そしてそれをこちらに認めさせたいあまりに、こうした狡猾な手段を頻繁に使っていたな。
説明の中で自然に選択肢を絞り、他の可能性などさもあり得ないかのように話す。
貴方の仮説通りならこちらには当然やましい事があるわけだから、選択肢がいくつであろうともその中に正解が混じっていれば、それ以外にはさほど意識が向くことはない。切り捨てられた可能性に対してはなおさらだ」
レアはまさしくやましい事しかなかったのであまり気にしていなかったが、言われてみればその通りだ。
何より教授はほとんどのケースで偶然の介在する可能性を排除しているし、登場人物がみな合理的な思考をする前提で話していた。
当然ながら、現実ではそんなことはありえない。
合理的でない言動ばかりするトッププレイヤーズクランのマスターはレアもよく知る人物だ。
「そういうこちらの意識の隙を突き、こちらが認めざるを得ない空気を作りだした。過度に論理的に見える話し方も、無駄に冗長な説明もそれに拍車をかけていた。
貴方は自説の裏を取りたい、要は関係者から話を聞きたいだけなのだから、証拠は何も用意していない。
推測と蓋然性のみでこちらを追い詰めようと考えるのなら、確かにそうした手法を使うしかないだろう」
教授は咥えたフォークをゆっくりと引き抜き、ケーキの脇に置いた。
髭にクリームが付いているが、もしかしたら普段はそうしたことを気にしない、つまり現実では髭など生えていない人物なのかも知れない。
「貴方は自分で言った通り、その災厄という存在がぷれいやーである可能性を思いついた。
そこから今話していたような推測に至り、仮説を立てた。しかしぷれいやー個人では調査できる内容にも限界がある。
行き詰まった貴方は直接関係者に声をかける事にした。ぷれいやーなら仮に領主の不興を買って殺されたり、投獄されたとしても大した痛手にはならないしね。
普通に考えれば逮捕されたり、命を狙われるといった可能性はリスクでしかないが、ぷれいやーにとっては別だ。仮にこちらが貴方の仮説通りの存在だったとしても、今から貴方のリスポーン地点を見つけ出すというのは容易ではない。貴方の身はひとまずは安全だ。
しかし逆にそれさえ見つけ出してしまえば、貴方の物理的な行動を完全に縛ることも可能だとも言える」
確かに教授のリスポーン地点を今の段階で特定するのは容易ではないが、少し時間をかけてもいいのなら不可能なことでもない。
そしてリスポーン地点さえ割れてしまえば、その周辺を取り囲むように戦闘力を持った配下を数体常駐させておくだけで、リスキル装置の完成である。
ライラ──ライリエネが言っている「物理的に行動を縛る」とはそういう意味だ。
「その上で、いやもう面倒くさ──え、これは言わなくてもいいやつ? あ、はい」
ライリエネが急に妙なことを言いだした、と思ったら、レアの隣のライラが『迷彩』を解除し、羽織っていたローブのフードを上げて、素顔を晒しながら教授の前に姿を現した。
いちいちライリエネに話させるのが面倒になったのだろう。
教授にはこちらの存在は見抜かれているし、ライラも彼の話しぶりからそれはわかっていたはずだ。
お互い分かって話しているなら、間にライリエネを挟んでいるのは確かに
ライリエネが一礼して立ち上がり、ソファの後ろに立つ。
そしてライラは先程までライリエネが座っていた場所に腰掛けた。
「……それが本物の領主の姿か。なるほど人前に出られないわけだ。そこらのヒューマンが真似出来る容貌ではないな」
ライラの肌や眼の色の事を言っているのだろう。ジャネットだか誰かがこれらの色はキャラクタークリエイト時には選択できないというような事を言っていた。
しかし教授はライラの姿に驚きつつも、まだこちらの方も気にしているように見える。
教授がこちらに気付いていたのはライラのせいだとばかり思っていたのだが、もしかしたら他にも何か持っているのか。
「そこの代行の彼女にどうやって話す内容を伝えていたのかは……そういうスキルでもあるのかな」
「その通り。そして初めまして。私が貴方の言うところの本来の領主だよ。この姿を見たからには、もう後戻りはできないと思ってもらおう」
しれっと息をするように嘘を吐くライラである。
ライリエネと打ち合わせをしていたのはフレンドチャットを用いてのことなので、スキルは全く関係ない。
しかし、あるスキルが存在する事を証明するのは簡単だが、存在しないことを証明するのは容易ではない。この嘘を看破するためにはいわゆる悪魔の証明が必要になる。
「それはお互い様じゃないのかな。これまでは単に私の妄想の域を出ない仮説に過ぎなかったが、貴女が出てきてしまえばそうはいかない。
ヒューゲルカップの領主だと思われている人物はただの身代りであり、本人はプレイヤーであり、しかもどうやらヒューマンではない。そうしたことが知れ渡ってしまうかもしれないよ」
「構わないとも。甘んじて受け入れよう。どのみち私の姿を貴方が見たかどうかについては貴方にしかわからないことだ。これまで貴方が話した内容にその一文が加わったところで大差ない。
確かにこちらのダメージは大きい。例え妄想であろうと、貴方の名前でSNSに書き込まれでもしたら、プレイヤーの多くの人間はそれを信じてしまうかもしれない。
今考えている計画もいくつかは修正しなければならないし、今後のプレイヤーたちの動きもかなり変わってくるだろう。
しかし、それだけだ。貴方の受けるダメージに比べれば大した問題ではない。
その上で聞くが、貴方は一体ここに何をしに来たんだ。私がこうして開き直って仕方なく仮説を認めてあげるところまでは想定済みだったのだろうが、その先に貴方を待っているのは決して楽しい未来ではない」
実際にそんな陰険な事をするかどうかは別として、教授のリスポーン地点を割り出して行動を封じ続けるのは簡単な事だ。
プレイヤーである以上、必ず定期的に生理的な用事を済ませなければならない。つまり、食事や排泄の事だ。一部の医療用のモジュールのようにそのあたりの機能までカバーしてあり、さらに連続使用時間の制限がオミットしてあるというなら話は別だが。
であればいつかのヒルス宰相の騎士のように、何日も
その気になれば付近の転移装置をすべて制圧し、転移による逃亡を封じてからリスポーンした教授を
こちらがそこまで性格が悪いかどうかがわからない以上、彼にとってはリスクしかなかったはずだ。
なにしろ彼にしてみれば、ここには来ないでSNSに今の事を書き連ねるだけで、こちらにとって十分なダメージを与える事が出来たのだ。
裏取りをしたいと言っても、それはリスクに見合ったものなのか。
「まさに貴女の言う通りだ。私の仮説が正しいにしろそうでないにしろ、直に会いに来てしまった時点で私の未来は明るくはないだろう。
ここまでの事をした私がこの後も楽しいゲームライフを送るためには、完全に貴方たちの軍門に下り、妙な言い方ではあるが、忠誠を誓うしかない。余計な事は漏らしません、逆らいません、とね」
教授はようやく、止まっていた手を動かし始めた。
ケーキを再び口に運び始めたのだ。この緊迫した空気の中でもケーキを優先するとは大した肝の太さと言える。
「つまりはここに、私は売り込みに来たのだ。私という人材を雇う気はないかと」
社会経験の乏しいレアから見ても、とても売り込みをしに来た人間の態度とは思えない。
先攻ソリティアでこちらの機嫌をいきなりぶち壊しに来た点もそうだが、自分を雇えと言いながら遠慮なくケーキを頬張る様もそうである。
「確か最初に、自分は大した人間ではないみたいな事を言っていたと思うんだけど、あれはなんだったんだ。
それに、そうだとしてもどう考えてもやりすぎだ。売り込みというのは、単にその能力をアピールすればいいというものでもない。むしろ売り込みたい相手に対する心証の方が重要だろう。特にそれが製品ではなく人材であるというなら尚更だ。
誰が貴方みたいな、初対面で理論武装して一方的に殴りつけてくるような人間と一緒に働きたいと思うのか」
単なる部下としてだったら別に1人くらいはいてもいいかな、と思わないでもなかったが、それはレアが絶対的に優位な立場であるという前提に立った考え方だ。
ライラの言い分も実に納得がいくものでもあるし、仮に働くとしたらレアよりライラのような人間の下の方が環境としてはいいのかもしれない。
と思ったが先ほどまでのライリエネを思い出して考えを改めた。ライラの背後に静かに立つ、あのホッとしたような表情といったら。
「……それは、確かにそうなのだが、何というか、話しているうちに気持ち良くなってきてしまったというか。最初のあれも、ケンソンとかケンキョとかそういう奴で……。
いや、それは別にしても、経営者としては個人的な感情に左右されて選択を誤るような事は決して褒められたものではないな。貴女が優秀で合理的な人間であるのなら、感情よりも優先すべき重要なファクターがあることも分かっているだろう。領主ともあろうお方なら──」
「そこまでだ。性懲りもなく、また選択肢を絞ってきたな。
個人的な感情によって判断を下すというのが必ずしも悪い結果をもたらすとは限らないし、そもそも今の私の判断が個人的な感情に根差しているものだとどうして言いきれるのか。
私が一緒に働きたくないと感じるということは、私の部下もまた同様に感じる可能性があるということだ。部下のことまで考えるのなら、うかつに妙な人材を雇うわけにはいかない」
どうしたことだ。ライラが少しかっこいい。
「妙な、と言うが、私の素性についてはこれ以上ないほどご存知のはずだ。
確かに私はSNSなどにおいて一定の影響力を持っているが、それは裏を返せばそれだけ行動を縛られているという事でもある。
不審な行動を不特定多数に知られてしまえば大変な事になってしまうのは貴女以上に問題だし、何より私は貴女と違ってそれを物理で解決するだけの能力がない」
「これも分かっていて言っているな?
論点をずらすのはやめろ。私が妙だと言っているのは貴方の素性ではなく人間性の事だ。
まあいい。それは一旦置いておいて、実利的な話もしておこう。
仮に貴方を雇用するとして、こちらにどんなメリットがあるというのかな。
こちらが天秤にかけるとすれば、今貴方が話した内容がSNSで拡散されてしまう事を防げるというくらいだが、それと引き換えに貴方を抱き込み、さらなる情報を与えてしまうというのはリスクの方が大きいように思える。これはいきなりこちらに攻撃的な交渉を仕掛けてきた貴方に対する信頼性の問題でもある。
それとも貴方には、それを踏まえてもなお味方につけるだけの価値があるとでも?」
これはおそらくレアにしかわからないだろうが、ライラはすでに採用の方向で考えているような気がする。
話す雰囲気が何となく、ジャネットたちの時と似てきている。
とはいえ試験であるのは確かだろうし、合否については教授が話術でどれだけ食い下がれるかといったところだろうか。
「私のような、ほんの少し調べ物が得意なだけの凡人が思いついたくらいだ。
たとえ私を封じたとしても、この後も第2第3の私が現れても不思議はない。そうした時のために、私がいかにしてここにたどり着いたのかは知っておいても損はないのではないかな」
先ほどは謙遜とか謙虚とか言っていたが、最初のあれはこの言葉の為の布石でもあったのかもしれない。この言葉通り、教授が大したことがない人物なら、今後も確かに何人も現れる可能性がある。
今の一連のやり取りを思い出す。
これがまた繰り返されると思うとさすがに憂鬱になる。
次回があるなら、今度は適当な宿などを借りてそこで会う事にし、話を聞く前に建物ごと吹き飛ばすのがいいだろう。話の内容は聞かなくても分かっている。
そうして客に出す分のケーキもレアが全部食べてしまった方が合理的だ。
「今度は意図的に前提を曲げてきたな。引き出しの多い事だ。
貴方を封じる場合、貴方は当然持っている仮説と情報をすべて拡散するだろう。なら、第2第3の貴方が現れる頃にはその仮説の構築過程など何の意味もなくなっている。
貴方が言っているのは貴方を雇い入れる前提での話だ。私はそんな話はしていない」
「……いや、さすがだな。確かにその通り。
しかし、気になってしまっているのも確かなのではないかな。
例えば私が最初に言った、領主が本人ではないという可能性について、なぜこれに気付いたのかとか、異邦人という言い回しについて私がわざわざ尋ねた理由とか。
もっとも信頼を得るために先に白状してしまうと、これらは実は幽かな違和感に過ぎなかった。ここにきて確信し、実際当たっていてホッとしているくらいだ」
「今さら貴方の口から信頼などと言う言葉が出てもまったく心に響かないな。それが譲歩のつもりなら──」
話が終わる気配がない。平行線というやつだ。
しかしこれまでの記憶の中で、
ひねくれたライラの事だし、採用において重視しているとしたら教授のこうした話術や詐術だろう。
レアも立ちっぱなしで精神的に疲れてきたし、目の前でただケーキが無くなっていくのを見ているだけというのもよくない。
教授は相変わらずこちらを気にしているし、埒が明かない。
「──もういいんじゃない。ライラはどうだか知らないけれど、少なくともわたしは楽しめたよ。いろいろとね。
特にライラをイラッ……イラさせてくれた、ことについては、拍手を送りたいくらいだ。
わたしの方からも聞きたいことがあるし、ここは彼を雇い入れて、そして二度と普通のプレイヤー側には戻れないように色々してしまった方がいい」
レアもライラと同様に素顔をさらし、『迷彩』と『隠伏』を解除した。
そしてソファに座るライラを尻で押しのけ、スペースを無理やり作ってそこに座った。
ついでにメイドに目配せをして自分の分のケーキも用意させる。
「……色々?」
レアの登場にも教授はそれほど驚いた様子はない。
それより色々してしまうという点がひっかかっているようだ。別に痛い事などしないから安心してほしい。
「彼のプレイヤーネームから言っても、たぶん元々
そういう可能性が期せずして目の前に開けてしまったから、興奮して居ても立ってもいられずに突撃してきちゃったとかなんじゃない?」
「……おっしゃる通りだよ、第七災厄の君。で、いいんだよね? 角とか羽根とか無いようだけど……」
「そうだよ。初めまして。能ある鷹は爪を隠すっていうコトワザがあるでしょう? それと同じだよ」
そしてレアが簡単に自己紹介をすると、教授は納得がいったように頷いた。
名前を聞いてピンときたのだろう。何しろこれでも第一回イベントの優勝者だ。
古参のプレイヤーなら知らない者はいないはずだ。忘れている者は多いだろうが。
「しかし、領主と同じ顔とは……。
確かに強引な語り口で仮説を披露したのは認めるが、それでもそれなりに自信のある内容だったんだがね。フルスクラッチでデザインするとしても、赤の他人が偶然ここまで似せてキャラメイクをするというのは不可能に近い。
となるともともとお互いにNPCだと思っていたという私の仮説は……」
「いろいろあるんだよ」
こちらの様子を見て、ライラはため息をつき、言った。
「……はあ。まあ、仕方ないな。
私としても彼を評価していないわけではない。
もっとも私がしている評価というのは、その調査能力や妄想力ではなく、詐欺師の才能の方だけれど」
その評価には負け惜しみによるバイアスがかかっているような気がしないでもないが、とりあえず黙っておく。
詐欺師の才能が欲しいというのもライラらしいといえばらしい。類友というやつだ。
「……何であれ才能が認められるというのはうれしいものだ。ではとりあえず、私は採用という事でいいのだろうか。実に疲れる面接だった」
「勘違いして欲しくはないのだけど、レアちゃんの温情のおかげだという事は忘れないように。社長のレアちゃんがそういうのなら、相談役の私としては異を唱えるわけにもいかないし。それと言っておくと、疲れさせられたのはこちらのほうだよ」
「まだ相談役の事根に持ってるの?」
「なんだね相談役というのは。実にそそられる役職じゃないか」
「新入社員の貴方は雑用からだよ。ね? レアちゃん」
「何言ってるの。研修からでしょ。まずはセミナーで心身ともに強靭になってもらわないと」
二度と普通の
せっかくの実験体であるし、色々と試してみたい事もある。例えば男性アバターでも『産み分け』は取得できるのかどうかだとか、人型の状態でそれを使うとなるとビジュアル的にどうなるのかとか。自分でするのはごめんだが、他人事ならば楽しいイベントだ。
「そういえば、さっきレアちゃん何か聞きたいことがあるとか言ってなかった?」
「ああそうだった」
『迷彩』で姿を消していたレアになぜ気がついたのかを尋ねておかなければ。
同時に『隠伏』も発動していたため、この状態のレアに気付くためには『魔眼』などの別のスキルが必要なはずだ。
しかし今、改めて教授を『鑑定』してみても、そうした特殊な感覚系のスキルは持っていない。
というか『真眼』の為に取ったのであろう『弓術』や感覚系スキルと、一部の魔法スキル以外にはほとんどまともなスキルがない。
かと言って弓の扱いに必要なDEXを伸ばしているというわけでもないし、どうやら『弓術』は本当に『真眼』の為だけに取得したらしい。そもそも能力値はどれもスキル習得に必要な最低値しか振られていない。
一体普段どうやって戦っているのか。
「経験値稼ぎの事なら、街なかで迷い猫探しとか、落し物を届けたりなどだね。あれもクエストとして発注されているものであれば、その難易度によっていくばくかの経験値や金貨は稼ぐことができる。これらはどこの街においても人気がないようで、大抵いつ行っても残っているからやりやすかった」
つい口をついて出てしまった言葉を拾われてしまったが、そちらは別にそれほど興味のある内容でもない。
「そんなことより隠れていたわたしに気付いた理由だよ。一応わたしは『真眼』の対策も打っていた、つもりだったんだけどね。どうしてわかったんだろう」
すると教授は不思議そうに首をかしげた。
「……よくはわからないのだが、その対策というのはもしかして、LPが4つに分裂して周辺に浮いて見える現象の事かな? 代わりに本体のLPはさっきまで見えなかったのだが。
逆に聞きたいのだが、何故それが対策になると思ったのかね」
「……ああ、なるほど。
ライラの来客が『真眼』を持っている可能性も考慮し、『隠伏』を発動させてこの会談に臨んでいたのだが、どうやらこれは『魔の盾』のLPは隠してくれないようだ。
レア本体のLPは見えず、しかし周囲に浮いている『魔の盾』のLPだけが燦然と輝いて見えていたのなら、かえって目立つと言ってもいい。
こんな物が部屋の隅に浮いていればそれは不審で仕方なかっただろう。よく気づかない振りが出来たものだ。ポーカーフェイスも詐欺師の才能なのか。
「レアちゃん……」
ライラが非難がましい視線を向けてくる。
「いや、これ自分で使うの初めてだったから仕方ない。他に『盾』持ってる子もいないし」
しかし『真眼』を持つ配下ならいる。
『真眼』対策で用意したスキルなら、あらかじめそうした配下の前で使い、細かい仕様なども確認しておくべきだった。
いや、急にライラが呼ぶのが悪いのだ。
それにライラも『真眼』を持っているにもかかわらず指摘してこなかったし、どうせ通常の視界があるから『魔眼』で十分と考えて普段は発動していないのだろう。
何の対策もしていなかった者に文句を言われる筋合いはない。
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