第245話「動きがつくとかっこよく見える」
遺跡の中は埃っぽくはあるが、劣化しているという感じはあまりなかった。
ライラのヒューゲルカップ城もそうだったし、モニカによればペアレの岩山城内部にも劣化は認められなかったらしい。遺跡の共通項というよりも、同じ技術──建築技術というよりもスキルという意味──で普請された建造物なのだろう。
つまり同じキャラクターが生産したものである可能性が高い。
おそらく精霊王だろう。
「魔物みたいなものはいないね」
「この遺跡の中には入ることが出来ないし、当然出ることも出来ないだろうから、居たとしても死んでるんじゃないかな」
「どうだろう。ゴーレムとか何らかの魔法生物なら居てもおかしくないけど……」
「もし何か居たらさ、そいつがこの領域のボスになるのかな?」
ブランの言葉に、レアは足を止めた。
「──そうだね。もしそうだったとしたら、外の王子様は領域支配者ではないということになる。実験は無意味になるな」
「隣接していても別々の領域としてカウントされているような場所もあるみたいだし、森と遺跡内部が1つの領域とは限らないと思うけど」
確かにライラの言うような領域は存在する。バンブから報告を受けている、ゴルフクラブ坑道の外の森などがそうだ。
あの地はトンネルを開通させることで完全に繋がった、隣接する領域となったが、森の方には坑道内部のゴブリンとは別のボスがおり、別の領域として認識されているらしい。
「領域の中に領域があるってこと? そんな事あるの? 微妙に隣接っていうのとは違う気がするけど」
「仮に同じ領域だったとすると、この遺跡の内部にボスが居た場合、そもそも遺跡に入れないから、普通にやっては攻略不可能というか、ボスを倒すことが出来ない領域ということになるよ。こういう言い方はしたくないけれど、それはさすがにゲームとして無いんじゃない? だったら最初から、遺跡から先はアンロック前の別エリアだっていう方がしっくりくる」
「そう、かもしれない。とりあえず、先に進もう」
しばらくすると階段は終わり、やや広めの通路に降りる事になった。
降りた瞬間、通路の天井の魔法照明が点灯し、あたりは明るく照らされた。
「すげー! 自動ライトだ!」
「す……ごいかな? 一瞬凄いような気もしたけれど、わりとありふれた設備だよね」
「どっちに突っ込んだら良いのかわからないけど、この世界の技術水準で言えば異常だと思うよ。うちの城にも魔法照明あるけど、人感センサーなんてついてないし」
「……そうか、これ1つ作るのにもなんらかの生産スキルが必要になるんだよね。人を感知して自動的に起動する魔法アイテムってことか。今発動したのは『照明』みたいだけど、これが例えば『ホーリー・エクスプロージョン』とかだったら今頃全員ダメージを受けていたな」
その場合でも、発動の瞬間のマナの大きさで身構える事くらいはできるだろうが、用心に越したことはない。
「そういうこと。ちょっと油断しすぎてたね。もう少し警戒していこう」
通路を慎重に進んでいく。
魔法照明以外には特におかしな点はないようだ。
通路は一本道で、別れ道などはない。
『魔眼』による視界で見える範囲でもずっと一本道が続いているようだ。
しかし、数分も歩いた頃だろうか。
その通路の壁が一斉にピンクや緑に光り始めた。
周囲の異常に反応しているのはレアとライラだけだ。ということはこれは『魔眼』でのみ見える光であり、ならばこれは実際に光っているのではなく、壁が突然マナや生命力、つまりMPやLPを持つ何者かに変化したと考えるほうが妥当である。
「ゴーレムか!」
「あ、これゴーレムなんだ。ゴーレムって待機状態だとMP反応もLP反応もないのか。凄い防犯システムだね」
ライラの配下にはゴーレム系はいないらしく、この様子では初めて見るようだ。
「ごーれむ? ……うわ壁が動き出した! 狭くなって来てるよ! これ知ってる! どっかの遺跡の中みたいに潰されるやつだ!」
「どっかの遺跡の中っていうか、今まさにここのことだけどね」
ブランが何を連想して興奮しているのかはわからないが、放っておけば潰されるのは自分たちである。
ただの壁の続く通路に見えていたここは、どうやら通路ではないらしい。
壁の代わりに隙間なくゴーレムを詰めた、恐るべきトラップだ。
しかし運用方法についてはいささか疑問がある。もっと効率的な運用が出来るはずだ。
レアであればこの通路は始めから迷路状にしておき、通り過ぎたあとでゴーレムを動かして形状を変更させるだろう。ラコリーヌの森でトレントたちにさせているのがまさにそれだ。
「この遺跡にはもう管理者が居ないのかな。もしいたらこんな杜撰な運用はしないと思うんだけど」
「どうかな。管理者にしてみたら、このゴーレムたちの戦闘力には自信があったんじゃないかな? だからある程度内部に引き込むためにわかりやすい一本道にしておいて、逃げ切れないくらいの深部に立ち入ったところでゴーレムたちに一斉に叩かせる。そういう作戦なんじゃないかな」
「それにしてはゴーレムが弱すぎるよ。強いゴーレムっていうのは──『召喚:ミスリルゴーレム』」
レアの眼前に漆黒の鎧をまとった白金に輝く石像が現れる。
「こういうモノの事を言うんだよ。ミスリルゴーレム・アダマスシュラウド、周囲のゴーレムを破壊しろ」
ゴウン!
どこからともなく大きな音を鳴らし、ミスリルゴーレム・アダマスシュラウドはその腹部からいくつもの光線をほとばしらせた。
もしかして今の音が返事だったのだろうか。
光線が腹部から出ているということはおそらく魔法なのだろうが、通常、光線系の魔法では発射音はしない。
光の帯は周囲のゴーレムたちを貫き、切り裂き、次々と破壊していく。
破壊されたゴーレムはその場で光になり、岩の塊に変わる。ドロップアイテムだ。『鑑定』によれば魔鉄鉱石らしい。悪くはないが、別にそれほど良くもない微妙なアイテムだ。
破壊されたままこの場に残っていられると歩きづらくなってしまうため困る事になるが、形状はともかく生態としては通常のゴーレムと同様なようで安心した。
「ロボだー! お腹からビームってこれゲッ」
「ブランちゃん前に出すぎるとあぶないよ」
「あっすみません」
「ビームっていうか、魔法だよ。たぶん『ジャッジメントレイ』かな。種族的なもの、っていうか、体質的な問題で魔法はお腹から出るみたいなこと言ってたから」
「ふーん。ちょっとずん胴っぽい見た目してるけど、こうして動いているところを見るとかっこいいね」
「わたしも最初はちょっとどうかと思ったけど、これはこれでアリだね。よし追加で──」
いくらか壁ゴーレムが破壊されスペースが空いたため、レアは追加で8体のミスリルゴーレム・アダマスシュラウドを『召喚』した。
これだけ揃ってしまえばさすがに殲滅速度も圧倒的で、壁ゴーレムは程なく全てドロップアイテムに変わる事になった。
壁ゴーレムを『鑑定』して見えた能力からすると、ライラの言葉ではないが表の獣人たち程度なら軽く圧殺することの出来るくらいの能力値はあった。あの幻獣人の王子様相手では厳しいかも知れないが、1人しかいないのなら数で押し潰せるだろう。
そんな戦力をこの短時間で殲滅できたとなれば、ミスリルゴーレム・アダマスシュラウドの有用性は十分確かめられたと言える。
なんだかんだと実戦テストは出来ないでいたが、これならば量産する価値は十分にある。
「ライラ、あのさ──」
「ミスリルだったらあげないよ。ていうか、こんな手札に化けるんだったら自分で使うよ。私にも作ってよこれ」
「えー……」
「わたしも欲しい!」
そう言われても先立つものがない。
2人には素材持ち込みであれば作業工賃はサービスするということで約束をしておいた。ミスリルは別途どこかで調達する必要があるようだ。
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