第244話「ダンジョンとそれ以外」





「中は外側以上に普通というか、あまり古いという感じはしないな」


「そうだね。これは本当にお宝とかあるかも!」


「もし何もなかったら流石に外の王子様かわいそうだけどね。何年もここ調べてたんでしょ」


「いや、何らかの宝物があっても同じじゃないかな。どうせ無くなることになるし」


 談笑しながら古い階段を降りていく。

 明かりは無いが、レアたち3人にとって照明などあってもなくても変わらない。

 全くマナの存在しないような場所であればそうもいかないのだろうが、幸い遺跡の中にもマナは存在しているらしい。ならば『魔眼』により周りを視る事も可能だ。









 レアたちは森の中を歩き、風虎をキルしながら徐々に遺跡の中心部へと近づいていた。するとやがて風虎だけでなく、武装した獣人も現れるようになった。

 この獣人たちはそれまでの風虎以上に、必死にレアたちを止めるべく攻撃を仕掛けてきた。まるで何としても遺跡の中心へは行かせたくないかのようだった。

 しかし風虎や獣人たちがいかに命を捨てて向かってくるとしても、それで埋まるような実力差ではない。

 速やかに障害を始末し、遺跡の中心へと辿り着いた。


 そこには何かの祠のような遺跡があり、これが中心部だろうということはすぐに分かった。

 森の他の場所には瓦礫しかなかったが、この祠はまるで最近建てられたばかりであるかのようにしっかりと形を保っていたからだ。これにはあの岩山城やヒューゲルカップ城にも通じる何かを感じた。

 そしてその祠の周囲にはいくつもの天幕が設営されていた。

 天幕にはひとつだけ、ひときわ大きく豪奢な装いの物があった。

 レアたちは姿を消し密かに天幕に忍び込んだ。

 ブランだけは『迷彩』が使えないため天幕の外で留守番だったが、部下に指示を出す天幕の主──第2王子の首を撥ねてからレアが呼び、天幕に入った。

 王子の元には入れ替わりに報告に来る部下がいたためかなり待たせてしまったが、騒ぎが起きていなかったところを見るに見つかったりはしなかったようだ。


 その第2王子はシルヴェストルという名前らしい。

 報告をする部下がそう言っていた。

 このクラスのNPCならば多くの経験値を得ていてもおかしくない。『真眼』に類するスキルでも所持していれば面倒だったが、『鑑定』したところでは持っていないようだった。なので遠慮なく王子の背後で一緒に報告を聞かせてもらった。


 話からすると、どうやらこの森というのがモン吉たちの故郷だったようだ。

 この遺跡の存在を書庫の文献からペアレ王国が知ったため、モン吉たちを追い出してシルヴェストルが制圧した。そういうことらしい。

 であればぜひ、モン吉たちの手で始末をつけさせてやりたい。

 しかしこの遺跡にも興味がある。この者たちが生きているままでは遺跡の調査もままならない。

 そこで取り敢えずキルすることにした。

 せっかくなので蘇生関連で色々と試してみたい事もあったが、シルヴェストルの王族としての矜持に敬意を払ってやめてやることにした。

 どうせこの領域の支配者はこの王子である。

 放っておけば3時間後にはリスポーンするはずだ。


 しかしライラは、彼はおそらくリスポーンしないだろうと言った。


 シルヴェストルが周辺の風虎や獣人たちの主であることは間違いがない。彼をキルした瞬間森が静かになった事から明らかだ。であれば普通に考えてこの森の領域の支配者は彼であるはずだ。

 支配者であるとしたら、3時間待てば自動的にリスポーンする。

 リスポーンしないということは、彼はこの森の支配者ではないということになる。


 ライラが言うには、こうだ。

 シルヴェストル王子がリスポーンしないと考えたのは、彼が領域の支配者でないからではなく、領域の支配者ではあるが、ダンジョンの支配者ではないからだと。


 プレイヤーがダンジョンと呼ぶ領域とは、運営によってあるサポートをされている領域の事を指す。これは以前に送られたシステムメッセージにも明記してある。

 このサポートとはつまり、限定転移サービスのことであり、厳密に言えばダンジョンとは「転移サービスのリストに載っている場所」だけを言う。

 であればリストに載っていないこの遺跡はダンジョンではなく、そうなると王子はダンジョンの支配権を持つキャラクターに適用される、自動リスポーンの対象にはならない。


 言われてレアはなるほど、と思った。

 レアの支配下にある領域は全て転移先リストに載っている。

 これはモン吉たちのいる森でさえそうだ。どの街からも遠く、特に目立った旨味がないのに強めのサルに連携して襲われるため、プレイヤーからは人気が無いようだが。

 白魔たちがゲリラ攻撃を仕掛けている領域については、ボスだけは倒さないよう命じてあるので支配権が移るような事はない。


 こうした事実から、レアがダンジョンとそれ以外の領域の違いを知るのは難しい。何せレアはダンジョンしか知らない。


 一方、ライラの支配下にはダンジョンがない。ダンジョン以外の、つまり転移先リストに載っていない領域しか支配下に置いていない。

 ライラがかつてそこまで見越してやったのかどうかはわからないが、現在に至ってもライラのデスペナルティに変更が無いことからも、ライラがダンジョンを支配していない事は間違いがない。

 あのフェリチタというオーラルにおけるポータルについても、街こそ支配しているが、隣接する領域のボスは手付かずのままらしい。配下を放って牧場化はしているようだが。


 ライラの言う事を信じないわけではないが、一応検証はしてみたい。

 とりあえず3時間待ち、王子がリスポーンするのかどうかを確認する事にした。


 リスポーンしない場合、王子の死体は死んだままだ。

 別に王子に用などないため、どうでも良いと言えば良いのだが、モン吉たちの仇であるのは確かである。出来れば彼らに恨みを晴らさせてやりたい。

 しかし後で蘇生したくとも、3時間待ってリスポーンしなかった場合、時間切れで蘇生は出来ない。


 そこで以前手に入れた清らかな心臓を使うことにした。

 このアイテムについては実験するためには新鮮な死体が必要であり、かつその死体は誰かの眷属であってはならない。しかも実証には『復活』かザグレウスの心臓が必要だ。

 検証が非常に面倒なことと、清らかな心臓自体があまり有用な効果でないことからこれまで行えていなかった。

 ブランが伯爵から、というかヴァイスという彼の配下から聞いた話によれば、引き伸ばすことの出来る蘇生受付時間は1時間らしい。これは死亡後のどのタイミングで使用したとしてもきっかり1時間伸ばす事ができるようだ。


 清らかな心臓を念の為3個使用し、王子の蘇生受付時間を3時間伸ばしたところで、死亡から3時間後を待つ。

 王族としての矜持に敬意を払って実験はやめてやると言ったが、あれは嘘だった。


 しかしこの地でただ待っているというのも時間の無駄である。

 別にレアたちは効率厨というわけではないが、無駄が好きというわけでもない。


 そこで待つ間にこの祠の中、古代の遺跡を探検することにしたのである。

 3時間もあれば、どういう遺跡なのか、本当にアーティファクトがあるのかどうかくらいは調べることができるだろう。


 しかし祠の扉はどうやっても開くことが出来なかった。

 しかも『鑑定』では何も見ることができない。

 どうやら扉はアーティファクトらしい。

 触れてみて調べたところでは、特定の条件を満たした場合にしか開けることができないとある。さすがにその条件まではわからなかった。それがわかるようならアーティファクトの鍵はただのお洒落アイテムになってしまうため、これは当然の仕様だと言える。

 また破壊も難しいらしく、単なる扉であるにも関わらず物理耐性や魔法耐性に加え、破壊耐性という聞いたことのない効果も所持しているようだった。

 これは耐久値に対する一定以下のダメージを無効にし、かつ与えられたダメージの蓄積もさせないという効果らしい。つまり扉を破壊するためには、各耐性を貫通し、その上で一撃で耐久値をゼロにしてやる必要がある。

 耐性を抜いて扉を破壊する事は不可能ではないだろうが、おそらくそれをやると遺跡ごと消え去ることになる。


 仕方がないのでクイーンベスパイドを1体喚び、工兵アリに周りの壁に穴を空けさせ、強引にエントリーする事にした。

 『鑑定』によれば破壊耐性がついているのは扉だけであり、周囲の壁はただ頑丈なだけの石壁だ。

 この時扉を持ち去れないかも考えたが、これも無理だった。

 扉の周りを破壊して扉だけ移動させられるのならこれも扉が開いてしまうのと同義であり、意味を成さないからだろう。









「外の王子様がリスポーンするかもしれない3時間後までには一度戻らないとね」


「帰りは一瞬だからそう急がなくてもいいんじゃない? 片道3時間って結構色々出来るよ」


 遺跡の外にはレアの喚んだアリたちや、ライラの喚んだオーラルスキンク、ブランの喚んだスクワイア・ゾンビがいる。戻る際には彼らをターゲットに『召喚』で移動するだけだ。

 ブランのゾンビは喚ばれて現れた瞬間、ホッとした顔をしていたようなので、あれはおそらくヴェルデスッドにいた個体だろう。天使やプレイヤーに延々とキルされ続けるデスマーチから脱せたためにホッとしたに違いない。







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