第236話「MPC」(バンブ視点)
「クラマス、だいぶ人も増えてきましたね」
「そうだな。こいつは壮観だ」
スケルトンジェネラルだというプレイヤーの言葉にバンブは頷いた。
バンブの目前には、洞窟内に所狭しと並んでいる数多くの魔物系プレイヤーの姿がある。
その数は50は超えているだろうか。
普通の洞窟に入り切る人数ではないし、当然この洞窟でも本来それは同じである。
この場所を用意したのはガスラークだ。
どうやったのか、洞窟内にこの大ホールとも呼べる広大な地下空間を用意してみせたのだ。
──どうやったのか、っていうか、レアの仕業だろうけどな。
ガスラークはレアの眷属だという事だった。現状、レアがバンブにこの件で嘘を吐くメリットはない。
であればこの空間を用意したのはガスラークというよりもレアだと見るべきだ。
バンブもその気になればちょっとした街を瓦礫に変えるといったような、いわゆる地形の変更を行なう事はできるだろうが、これほどの規模の、しかも他人のダンジョンの地形を変えてしまう事など常識の埒外だった。
そう、このダンジョンの支配者はレアでも、ガスラークでも、そして当然バンブでもない。
名も知らぬNPCのゴブリン系モンスターだ。
バンブたちはあくまで、そのゴブリン系モンスターの支配する洞窟に場所を間借りしているにすぎない。
そしてそのゴブリン系モンスターはおそらく、ここにこうしてプレイヤーたちが潜んでいることなど知る由もないだろう。
このダンジョン、ゴルフクラブ坑道は、その名の通り鉱山に掘られた坑道である。
ガスラークが──レアが用意したこの魔物プレイヤーたちの本拠地は、その鉱山の下層、そこからさらに下に伸びる形で広げられている。
しかもこの拠点は、元々の鉱山の入口、つまり一般のプレイヤーたちが通常利用するダンジョンの入り口とは山を挟んで反対側に、目立たないよう出入り口が設けられていた。
他人のダンジョンの中に勝手に作られた拠点でありながら、もはやそのダンジョンを介さずして出入りが可能になっているのである。
そちらの出入り口周辺は欝蒼とした森になっており、こちらのほうには一般のプレイヤーやNPCたちは近寄ることはまずない。
外に広がる森はどうやらゴルフクラブ坑道とは別の領域になっているようで、坑道のゴブリンとは違う魔物が多数現れる。よってここでも経験値稼ぎは可能だ。
また食料や水の調達もこの森から行われている。坑道内部に存在しているリソースだけではプレイヤーたち全員の餓えを満たすことはできないし、地中の虫やネズミなどを食事とするのは普通のプレイヤーにとってはハードルが高い。
ただここにいる大部分の魔物プレイヤーがそれを気にするそぶりすらないのには驚いたが。
現在は手の空いたプレイヤーたちで出入り口周辺を開発し、柵や塀を建て魔物の侵入を防げるようにしてあった。ちょっとした村である。
「クラマス、拠点も充実してきたし、メンバーも増えてきました! そろそろ何か、デカイ事を計画しませんか?」
「……それもいいが、まだ前のイベントが終わってそれほど経ってねえ。今すぐ事を起こせば他のプレイヤーに不審に思われる可能性がある。もう少し時期を見るべきだな」
「なるほど! それもそうっすね!」
クラマス、というのは、クランマスターの事だ。
もちろん非公式ではあるが、この魔物プレイヤーたちの集団はプレイヤーズクランを結成している。そしてそのトップの座についているのが、他ならぬバンブなのだ。
*
あの大天使討伐のイベント。
最初の1回こそバンブとその配下、そしてレアの配下のみで何とか討伐をしたが、その後何度かは他の魔物系プレイヤーもパーティに入れて攻略をする事になった。
どうやって来たのか、大陸のいたるところからあの地に魔物プレイヤーが集まってきたのだ。
レアに頼まれた通り、バンブはそれらのプレイヤーをまとめ上げ、魔物のみによるレイドパーティを結成して、大天使討伐に
魔物プレイヤーたちはあまりパーティで戦闘をするというノウハウや経験がなく、いわゆるロールというものは誰も意識していなかった。強いて言うなら全員がアタッカーだ。回復役もいなかった。
バンブやガスラークがいれば大天使はその2人を優先的に狙ってきたため、タンクがいないことについては何とかなった。バンブも予めレアからジェノサイドアローとかいうスキルの予備動作については聞いていたし、最初の一撃こそ避けそこなってしまったが、それ以降は何とか致命傷は避けることができた。
これはガスラークも同様だ。ただ能力値的にはバンブよりも高いようだが、経験の差といおうか、撃たれる前に回避行動を始めたり、必要最小限の動作で回避したりという点はバンブの方が優れていた。
問題なのはヒーラーだったが、これはレアの用意したホブゴブリンプリーストが請け負ってくれた。バンブの配下にはいない種族だ。
タンク役も何とか2名で回すことが出来、回復も十分に受けられるとなれば、あとはDPSさえしっかり出せれば勝つことはできる。
魔物プレイヤーは装備こそロクな物がないが、基礎能力値のほとんどは同程度の経験値を得たヒューマンを上回っている。転生を何度も繰り返した結果だ。
大天使の自然回復や『回復魔法』の回復量を上回る与ダメージを出すこと自体は問題なかった。
回避タンクであるバンブにとっては神経を擦り減らす戦闘ではあったが、繰り返すうちに慣れてきたことや、得られた経験値で能力的にも大天使との差が縮まったこともあり、最終的にはかなりの数を回すことができた。
レアに「最低でも60体以上」という数字を言われた時は鬼か悪魔かと思ったものだが、終了時間ぎりぎりまで戦闘を行う事で滑りこみで達成できたはずだ。
最初のうちこそ討伐に1時間以上かかってしまっており、これは無理だなと考えていたが、プレイヤーたちが経験値を得て加速度的に効率が上がっていったことが大きかった。その分得られる経験値も少しずつ減っていったが、元々大天使との間には大きな実力差がある。減った分の経験値など誤差である。
*
当初、バンブはプレイヤーたちに身元を明かすつもりはなかった。
ヒューゲルカップ郊外の草原に最初に訪れた魔物プレイヤーに、開口一番、プレイヤーズクランを結成し、そのマスターになってくれと言われた時も、断るつもりでいた。
バンブにとってプレイヤーとは基本的に信用のおける相手ではない。
ゲーム開始当初、あの森でホブゴブリンたちと人類プレイヤーに挟まれ、半ばリス狩りのような効率で何度もキルされた事はまだ忘れていない。
しかしその件については、以前にレアに語ったようにお互い様である。
成長したバンブはノイシュロスの街を襲い、そこに居た多くのプレイヤーを拠点ごと押し潰した。
何度もキルされた事に対して一度のみの報復では軽いようにも思えるが、プレイヤー1人1人で考えれば、実際には1人で何度もバンブをキルした者は居ないだろう。
バンブの初期スポーン位置にいたゴブリンの集落が全滅した事を考えても、こちらも人類の街ごと滅ぼしている。それで手打ちとする事にした。
それにレアとの関係もある。
現状レアとは協力関係を築いているが、今の理屈で言えば、レアには一度キルされただけの関係であり、仕返しはまだしていない。
にもかかわらず協力しているのは、レアもまた、魔物系のプレイヤーとしてプレイをしているからだ。であればバンブと同様とまでは言わないにしても、それなりに苦労しているはずであり、人類社会とも対立しているはずだ。
そこにシンパシーのようなものを感じたためである。
そうであるなら、同様に魔物系のプレイヤーである彼らと協調しない理由はない。
彼らと何度も大天使討伐を繰り返すうち、次第に連帯感や仲間意識のようなものが芽生え、このイベントだけで終わらせてしまうには少々惜しい関係であるように思えてきた事もある。
そして最終的にはバンブは自分の名を名乗り、クラン結成を約束し、イベント終了のその瞬間まで彼らと戦いぬいたのだった。
ただし、バンブはレアと情報を共有する仲である。
もちろんバンブも子供ではないので、レアが全ての情報を開示しているとは思っていない。
とはいえ交換条件という点については、情報をあまり提供できないバンブに対し、レアがあれ以上の情報を出す義理はない。フェアでない関係については納得している。
大天使に関する情報提供の事もある。討伐戦自体はレアからの頼まれ事だったとしても、その情報によってバンブや魔物プレイヤーたちが大きな利益を得られたのは確かだ。
お互いに利益を得ることが出来ている、良い関係である以上は、お互いに不利益を与えるような行動は慎むべきだ。
おそらく、たとえ魔物プレイヤーといえども、不特定多数のプレイヤーにその存在を明かすようなことはレアは望まないだろう。
そのためバンブは魔物プレイヤーたちの嘆願に応え、プレイヤーズクランの結成を約束はしつつも、同時にレアにも連絡を入れていた。
レアからの返信は、こうだ。
「それは面白いな!
そういうことなら拠点を用意するから、そこでモンスタープレイヤーズクラン、通称MPCとでも名乗って活動するといい。
バンブについては自分自身の領域の管理との二足の草鞋になるけれど、『召喚』もあるし問題ないでしょう。
ガスラークを補佐として付けるから、詳細は彼から聞くといい。拠点の準備も彼にさせよう。
サポートも最大限にするつもりだから、何かあったら遠慮なく言ってくれ。
それと言うまでもない事だが、バンブの支配する領域については決して口外しないように。プレイヤーがダンジョンを支配できるという事は出来るだけ伏せておきたい。
わたしの事は話してもいいが、名前や容姿は言ってはならない。協力者がいる、という程度にしておいてくれ」
こうした事情があったため、バンブの支配地域であるノイシュロス周辺をプレイヤーズクランの拠点にすることは出来なかった。
もっともバンブにしても、いくら他の魔物プレイヤーに共感したからといっても、あのダンジョンまで見せてしまうつもりはなかった。
バンブにとって最も避けたかったのは、あのダンジョンにプレイヤーたちが大挙して攻めてくる事である。
それもいつものような複数のバラバラのパーティではなく、ひとつのレイドとして協力して本気で攻略されることだ。
例の大天使戦の難易度を考えれば、現行トップ層のレイドパーティであってもそう簡単に攻略されてしまうとは思わないが、いつまでもそうあれるとも限らない。
またレアからのアドバイスもあり、ガスラークはバンブの配下ということにした。
他のプレイヤーたちにはバンブは魔法使い系のホブゴブリンだと言ってある。大天使の攻撃を至近距離で躱していたため説得力は微妙だが、他のゲームで培った瞬発力だと言い張って強引に誤魔化した。
魔法使い系というのもだいたい間違ってはいない。元はグレートシャーマンであったし、ゴブリンだったのも本当だ。今は違うというだけである。
そのため例の深緑のローブは着たままだ。
『鑑定』でもされてしまえばバレてしまうかとも考えていたが、レアが言うには、課金アイテムが例えどんな仕様だったとしても、そこらのプレイヤーがバンブの抵抗を突破するのはおそらく無理だろうということだった。
ロケーションも装備品も、そして有能な部下もレアに用意してもらった形だが、現状ではバンブにその借りを返す当てはなかった。
故に借りっぱなしは性に合わないバンブとしては、このクランの運営についてレアの意向を最大限反映させるしか無いのだった。
その気になれば、バンブではなくレアがこのクランを直接運営することも可能だろう。
というか、ビジュアル的な物も考えれば、その方が遥かにスムーズに運営できると思われる。
レアは当然、ガスラークをターゲットにしてこの場所にはいつでも来ることが可能だ。
しかし魔物プレイヤーとは言え、すべてが人類側プレイヤーに敵対しているとは限らない。個人的な知り合いがいるものもいるかもしれないし、そうであればソーシャルな通信手段ではなく、プライベートで連絡をとりあい、こちらの情報を人類側のプレイヤーに流すような真似をしている者もいるかもしれない。
レアがそんなセキュリティの甘い場所にノコノコ出向いてくるのはあり得ない。
彼女の言い方からは、逆に人類側プレイヤーであったとしても人類の味方とは限らないというようなニュアンスも感じられたが、それ以上は語らなかったため、実際のところは不明だ。
「クラマス。やっぱり装備品ていうか、武器や防具が心もとないっすね。ウチはゴブリン系とスケルトン系、それとコボルト系が多いから、人類の装備も大抵は普通に使えるんですが、店で買えねえってのは……」
これも、このクランを作った大きなメリットのひとつだ。
そう、ゴブリン系のキャラクターからコボルト系のキャラクターへ転生する条件が判明したのである。
この報告を聞いたレアはたいそう喜んだ。
もっと言えば、その情報の出どころ、このクランを作るきっかけともなった、とある非公式SNSの存在も知ることが出来た。
ただし、そこはもともと魔物系のプレイヤーのみがアクセスしているコミュニティであったが、今もそうとは限らない。
というのも、かつては魔物系のプレイヤーとしてプレイしていたが、現在は違う可能性がある者がいるからだ。
課金転生アイテムで、人類系の種族に転生した者たちである。
そういった者を警戒し、現在は新たにクラン専用コミュニティを作成し、実際にゲーム内でバンブと接触した者たちにだけログインパスワードを教えていた。
バンブはそのコミュニティの運営もしており、またかつての非公式魔物系SNSも覗き、時に書き込みをし、少しずつクランメンバーを増やしていた。
それはともかく、装備の問題は重要だ。
これは魔物系プレイヤー共通の悩みであると言える。
バンブにしても、見よう見まねでログハウスを建ててはみたが、かつての自分自身の格好はといえば、ノイシュロスの街を襲撃して奪った服だけだった。
武器もそうだ。
身体が大きかった頃はそこらの木を引っこ抜いて棍棒として利用していたが、今ではそれはできない。もっとも『素手』にもそれなりに振っているため、武器がなかろうと近接戦闘で困る事はないのだが。
とはいえバンブも本来一応は魔法使いだ。
格好付けのためくらいの意味しかないが、出来れば杖のひとつも欲しい。
「なるほど、当たり前っちゃ当たり前だな……。もし、素材を調達することができたとしたら、このクラン内で生産活動は可能だと思うか?」
何もかも頼り切りで情けない話だが、生産設備についてもレアに相談すれば何とかなるだろう。
「ええ!? いやあ、どうすかねえ。どいつも戦闘狂みたいなやつらばっかりですからねえ。生産がやりたいなら、ハナッからヒューマンかドワーフを選んでるでしょうし」
「それもそうだな……。
わかった。なら、装備の生産は俺がやろう」
「え?」
いいんですか、とスケルトンジェネラルのプレイヤーが目で尋ねてくる。
バンブはこう見えて、DEXにも高めに経験値を振ってある。生産系のスキルを取得していけば、他の者が今から始めるよりは早く結果が出せるだろう。DEXを上げたのは主にログハウスの再建のためだったのだが、何がどこで役に立つかわからないものだ。
もっともログハウスの再建が必要になったのはレアに焼き払われたからであり、現在はそのレアの指示でMPCを切り盛りしているという事を考えれば、すべてがあの女の手のひらの上だと言えなくもないが。
〈つーわけで、俺が装備品を作るって話になった。ガスラークのやつが、だったらあんたに頼んでみればいいって言ってたんだが、そんな余裕あんのか? ちなみに設備もねえんだが〉
〈ヒト型の魔物が50名前後と言っていたかな。その倍でも余裕だが。しかし……〉
〈しかし、なんだよ〉
〈キャラクターメイドのアイテムは、それを作成したのがプレイヤーであれNPCであれ、『鑑定』をかけると情報を見ることができる。『鑑定』を可能にするアイテムは、今はどのプレイヤーでも公式サイトで購入が可能だ。アイテム鑑定を行う課金アイテムは、たしか「目利きのルーペ」とか言ったかな〉
〈ああ、そういやそうだったな〉
〈あの鑑定アイテムの仕様については詳しくはわからないが、わたしの想定と同じものだとしたら、きみが製作した装備品はいくらプレイヤーが『鑑定』しても詳細を知ることはできない〉
〈そりゃ、ちいっと面倒だな〉
バンブが作成したアイテムが「鑑定不可能」となれば、どうやって性能を証明すればいいのか。
もっとも現状が木の棍棒や石斧のようなものしか無いことを考えれば、ちゃんとした形をしているだけマシなのかもしれないが。
〈まあ、さしあたって魔物にしか配らないというのなら問題ないか。とりあえず生産系のスキルに振って、高位の素材も扱えるようにしておくといい。プレイヤーたちでは『鑑定』する事ができないのを逆手に取って、高位の素材を横流ししてあげよう〉
〈マジかよ。悪いな〉
普通とは逆手に取る場合の対応が逆だが、これはこれでレアらしい気もする。
〈もともと、大天使討伐についてはわたしが頼んだことでもあったし、そのクランの設立を後押ししたのもわたしだ。そちらから情報提供を受けた、非公式のSNSの礼もあるしね。それに人類側のプレイヤーよりも魔物側のプレイヤーの方がいい装備をしているというのも、考えてみれば面白いかと思って〉
複数の転生を経験した魔物系の種族は、地力がすでにヒューマンなどより高い場合が多い。
しかし組織的な力、勢力としての強さという意味で言えば全く無いに等しい。大陸で最も繁栄している人類国家には平和的に接触することさえ出来ないし、当然アイテムなどを購入することも出来ない。プレイヤーによっては、最初にインベントリに入っていたLP回復ポーションを未だに大事に持っている者もいるくらいだ。
そうしたデメリットにより、魔物系のプレイヤーの人口は少ない。さらに装備品などもまともに入手できないせいで戦闘力も上げづらい。そうした部分で人類側とのバランスをとっているのではと考えられるが、そのバランスが崩れてしまったとしたらどうなるだろうか。
もし今後、MPCのメンバーたちに人類を襲わせるのなら、その正体についてはなるべく口外しないよう注意喚起をしておいた方がいいかもしれない。
万が一、PKの大軍に狙われて、装備品を奪われるような事にでもなれば目も当てられない。
仮にMPCの存在を公にするとしても、人類側のプレイヤーたちと対等に渡り合えるだけの力を手に入れてからだ。
〈んで、素材はどうやって受け取ったらいい?〉
〈ううん、そうだな。50人分くらいならたぶん、リーベかリフレにあると思うけど。どっちに来られる?〉
〈リーベ、ってのは災厄が生まれたっていう大森林か? リフレってなんだ。どこのダンジョンだ?〉
〈ああ、失礼。リフレは街の名前だよ。ダンジョンとしてはテューア草原という名前でリストに載っている。その草原の隣の街だから、アクセスはしやすいはずだ〉
〈……もしかして、隣の街ごとダンジョンを支配してんのか〉
〈正確には別々に支配しているんだけど、まあ結果的にはそうだね。
街には転移装置があるから、別の場所からテューア草原の入口まで転移してきて、そこから歩いて街に入れば、すぐに別のどこかへ転移することもできるという、間接的に街同士の移動が可能な優れた立地条件だよ。駅から徒歩五分とかそういう感じだ。
きみのところも、ノイシュロスを生きた街のまま支配していれば、もしかしたらそうなっていたかもね〉
簡単に言ってくれるが、人類の街を、ゴブリンが生きたまま支配できるわけがない。
〈……まあどうやったのかは聞かねえけどよ。普通の転移装置で移動すんなら、どっちにしたって出口にゃプレイヤーがいるだろ。俺のローブ姿を知ってる奴がいないとも限らねえし、詮索されたら面倒だぜ〉
転移装置ならこのゴルフクラブ坑道にも、バンブの支配する森にも出現している。
クランメンバーや眷属をけしかけて周辺のプレイヤーを掃除してやれば、誰にも見られずに転移することは可能だが、転移先のダンジョンにはプレイヤーが大勢いる可能性がある。
〈ああ、そうだね。じゃあリーベ大森林の素材を渡すことにしよう。あそこにはプレイヤーはほとんど来ないから、誰かに見られる心配は無いはずだ。
わたしはこれからお茶、打ち合わせがあるから、その前に少し寄っていく事にしよう。では、そうだね、30分後に現地で〉
指定された場所へ移動する前に、一度自分の領域に寄ることにした。
今はこちらのほうにはバンブと同じ種族、デオヴォルドラウグルを代理で置いて管理を任せている。
『ネクロリバイバル』の取得条件はレアの推測通りだった。
若干良心がとがめたが、心を鬼にして配下のゴブリンシャーマンを死亡させ続けたところ、『死霊』のツリーに『ネクロリバイバル』が現れたのだ。
魂を集める工程が大変ではあったが、これもレアから『魂縛』というスキルについて教わることにより、簡単に発動条件を満たすことができた。
現在、デオヴォルドラウグルは数体用意し、交代でダンジョンボスの代理をやらせている。仮に1体が倒されてしまったとしても、アンデッド系のスキルで死んだふりをしていた、などと小芝居をすることで、領域内の他のホブゴブリンなどが連鎖的に死亡しない事へのごまかしを行なうつもりだった。
もっとも今のところプレイヤーに倒されたことはないし、天使を討伐し続けた事で得られた経験値により強化されたホブゴブリンたちを突破してボスエリアまで到達するプレイヤーもまだ居ないが。
「問題ねえようだな」
「はい、問題ありません」
「じゃあ引き続き任せる」
「いってらっしゃいませ」
配下のデオヴォルドラウグルに見送られ、自分のダンジョンに新たに出現した転移装置からリーベ大森林を目指す。
大した移動でもないにもかかわらず、レアが30分後と言った理由はすぐに分かった。
ダンジョン内の転移装置、その周辺にすでにプレイヤーが何人もいたからだ。
バンブはこれらに配下をけしかけ、全てキルしてから転移装置を使った。
リーベ大森林では、転移先のセーフティエリアですでにレアが待っていた。
そこでレアからよくわからない素材を大量に受け取ったのだが、この時、レアと同じ顔をした、色違いの女も彼女に同行していた。
この女がまた面倒くさくバンブに絡んで来たのだが、本当に面倒くさかったので、バンブとしてはあまり思い出したくない記憶になった。
ただ一応、フレンド登録だけはしておいた。
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