第235話「6人の王」
イベント終了から、メンテナンス明けまでの数日間についてのすり合わせはだいたい終わった。
次は今後の動きについてだ。
レアが現在、大目標として掲げているのは極点に封じられているという黄金龍の復活である。さらにいえばその打倒になるのだが、どのみち復活させてやらなければそれも叶わない。
この目標は1人で完遂するのは難しい。
ライラについてはすでに協力させているが、ブランの力も必要だ。
「そういえば、わたしたちの事だけど。
非公式ではあるけど、ここらで正式にプレイヤーズクランを結成しておこうかと思うんだ」
「非公式なのに正式なのか。いやいや言いたいことはわかるよ、ぶたないで」
「ぶってないでしょ人聞きの悪い。ライラは黙って聞いててよ」
「ぷれいやーずくらん?」
「プレイヤーズクランっていうのは、複数のプレイヤーによるクラン、要はチームみたいなものかな。パーティと言ったらたいていはそのクエストの間の集まりの事を指すけど、クランていうと所属組織みたいなニュアンスになる。
もともとは氏族って言う意味の言葉なんだけど、他のゲームとかだとギルドだったりチームだったりカンパニーだったり、システムによってちゃんとサポートされてる場合が多い。そういうゲームだとキャラクターの情報画面にその事が記載されていたり、頭上にネームが表示されるタイプならそこにクランも表示されたりとかもする。
だけどこのゲームみたいにそういうサポートがないものもある。そういう場合はプレイヤーネームの頭にクラン名を入れたりしてアピールしてたりすることも多いかな。まあキャラクター名を簡単に変更できるタイプのゲームであればだけど」
「あー。つまり、ギャングがお揃いのタトゥーを入れるみたいな?」
「……うんまあ、そうなんだけど」
「……どうしよう、ブランちゃんがだんだんダークサイドに」
ブランが一般常識としてそういう情報を持っていたとは考えづらい。
となるとシェイプのマフィアを支配した影響だろう。どうやらこのゲーム世界にもタトゥーの文化があるようだ。
衣服などの装備品や、ちゃんとしたスキルで作成された一部の食品などに特別な効果があるように、タトゥーにも専用スキルや何らかの効果があることも十分あり得る。
自分のアバターに施すつもりは全くないが、情報として一度調べておいた方がいいかもしれない。
「とにかく、そういう仲良しグループを結成して、より団結してやっていこうというわけだ」
「いいねそれ! すごくそれっぽい!」
「じゃあ、まずはこの3人でクラン結成ということで。他にもメンバー候補はいるんだけど、まぁ彼らはおいおいかな。
それで次にプレイ目標というか、クランとしての目的なんだけど。
やりたいことがあればどんどん提案してもらって構わないけれど、とりあえずひとつ、今考えていることがあるんだ。
まずはわたしの提案する目的を聞いてほしい」
レアは伯爵に聞いた、黄金龍と6人の王についてと、その黄金龍を打倒してみたいという事を話した。伯爵の話はあの時ブランも隣で聞いていたので知っているはずだ。その時レアが何を考えていたのかはさすがに知る由もないだろうが、それを今、語って聞かせた。
「……そんなこと考えてたんだ! 思ってたより壮大だった!」
「どうかな。面白いと思うんだけど」
「面白い! 賛成! あ、真祖?が必要って事は、わたしは少なくとも真祖にならなきゃいけないってことかな?」
「現状、隣の大陸とやらに真祖が1人いるらしいから、そちらから協力が得られるのならそれでもいいんだけどね。ほら、伯爵の」
「ああ! 女上司ですな」
「女、って言ってたかな……?」
「カンだよ。あれは女だね!」
とりあえず話半分に聞いておく。
「その6人のキーキャラクターの中にはわたしもライラも含まれていない。真祖になるにしても真祖の協力を得るにしても、どちらにしてもブランが鍵になるからよろしくね。
で、残り5人についてだけど。
まず精霊王。これは今、ライラがポートリーの王族を教育してる。最終的にうまく誘導して協力させられればいいんだけど、難しいようならキルしてキーアイテム的なものを入手するか、フラグを立てるかすればいい。
次に蟲の女王だけど、種族名というか、通称みたいな感じでいいのなら、これはすでにウチにいるから多分大丈夫。話からするともしかしたら本人が極東で未だに生きてるかもしれないから、キルした方が早いならそっちを探す方向で。
海皇っていうのが何なのか、本当にこれだけは不明なんだけど、たぶん海のどこかに今もいるんじゃないかな。これはゼロから探すしかないから後回し。
幻獣王はおそらくだけど獣人の最高峰の種族だと思う。今情報をペアレで協力者に探らせているけど、まあそこまで期待してない。これも死んだって話は聞いてないから、他の大陸のどこかにいるかもしれない。どうしても転生の情報が見つからないようならそっちを探した方が早いかな。
で、聖王は今ウェルスでポートリーと同様にプロジェクトを進めてる。まあでもこれは最悪、プロジェクトリーダーのマーレを転生させちゃえばいいから、時間がないならそっちのプランかな」
ブランはふんふんとレアの説明を聞いていた。
「……じゃあ、現状だとわたしがしないといけないとしたら、真祖を目指すってことでいいのかな?」
「そうなるね。ただどのみちキーが揃ったとしても、具体的に封印場所もどこなのかわからないし、そもそも大陸外への移動手段もない。だから別に急がなくてもいいよ。もっと強くならなければならないのは全員一緒だし、そこは今まで通りで」
天空城が無傷で入手できていれば利用できたのだろうが、今さら言っても仕方がない。
墜ちた天空城を探索し、破壊された飛行に関する機能を見つけ出し、復元できればいいのだが。
「何にしても移動が問題だな。でも天空城に関しては一旦あきらめた方がいいかもしれない。プレイヤーがあれを入手して海外に高跳びするというのは想定されてないだろうし、仮に無傷のまま手に入っていたとしても十全に使えたかどうかわからないし」
「いやー。プレイヤーがあれを入手するって時点で想定されてないだろうから、変なキャップはかけられてないと思うけど。ま、どっちにしても壊れちゃってるだろうからどうしようもないんだけどさ」
そう、今どうしようもない事は考えても仕方がない。
別の事をしている間に不意に解決するという事もあるだろう。
「というわけで、この大陸で出来ること、最低限しておかなければならないのは精霊王と聖王の確保になる。少なくともその2名は死亡が確認されているから、新しく生み出さないといけない。後の事はそれが済んでからでいいと思う。
そんなところがわたしたちの目的という事になるんだけど、もうひとつ、重要な件がある。
と言っても、申し訳ないんだけど実はこれもすでに決まってしまっているんだ。こっちについてはちょっと今から変更するのも難しいから、出来れば納得して頷いてもらいたいんだけど」
「うん? 何かそんな重要なことあったっけ?」
「そんな事だからダサい案しか出てこないんだよ。
最重要な案件と言えば当然、クランの名前に決まってるでしょう。対外的になんて名乗るかってことだよ」
「おお! それは重要だ! でももう決まってるんだね。なんて名前なの?」
「うん。マグナメルム、って言うんだ。かっこいいでしょう?」
マグナが大いなるというような意味で、メルムは災厄だ。
例の、発動ワードの変更が不可になっているスキルなどはラテン語で表記されている。
ならばこちらもラテン語をもじっていれば、他人から見ればプレイヤーなのかNPCなのか判別するのは難しくなるだろう。だからこそ、ライラのダサい案を採用することは出来なかったのだ。
そうしたことも含めて解説した。
「いいね! やばい! 自分が名乗ることを想像すると背筋がぞくぞくしちゃう!」
「……これ褒めてるのかな? ハイレベルな皮肉かな?」
「ちなみに今は、わたしがマグナメルム・セプテムで、ライラがマグナメルム・オクトーって名乗ってるんだ。ブランももし真祖になったらマグナメルム・ノウェムとかって名乗るといいよ。もしもブランが真祖になる前に、別の何者かが災厄アナウンスを世界中に流しちゃったりしたら、マグナメルム・デケムになっちゃうからね」
「ひゃー! 頑張ります! あれ、でも別にそっちでもかっこいいな」
クランの結成、そしておおまかなクランの目的については了解を取れた。
今はブランに言った通り、早急にしなければならない事というのも実は無い。
ウェルスは聖教会を利用してゆっくりと権力に食い込んでいく計画であるし、ポートリーも新米国王の教育中だ。
ペアレについては盗んだ書物をキーファで解析中だが、今の時点で良い報告が来ていないという事は、おそらく空振りに終わるだろう。
情報の入手は別の手段を考えるか、ケリーたちに協力してもらって片っ端から可能性のありそうな事を試してみるしかない。
アップデートに絡んだプレイヤーの動きにも注意が必要だが、現状で全ての国の王都とポータルにはマグナメルムの手の者が潜んでいる。
不審な動きがあれば察知できるだろうし、これもこちらから出来ることはない。
あとはやりかけだったぶらり旅だ。
これはブランも同行したがっていたので、ペアレの王都あたりから再開するのもいい。
「それじゃ、ひとまず現状のすり合わせも終わったし、3人でぶらり旅をしようか。その前に一旦キーファの街に行って、さっき言った協力者の様子を見ておこう。わたしとライラは『召喚』でワープ出来るけど……」
「まあ、せっかくだし3人でお空の散歩としゃれこもうじゃないか。移動しがてら、ついでにブランちゃんにもし経験値が余っているようなら汎用の『使役』にアップデートしておくといいよ。上書きが可能なのは確認済みだから」
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