第222話「サービス」
「──おかえり。お疲れ様。ここから出てきたということは、勝ったようだね」
「っ! いやてめえ誰だよ!」
ヒューゲルカップの地下、そのアーティファクトの前に現れたバンブたちに、レアは声をかけた。
ここに現れたという事は魔法陣に乗ったという事であり、つまり大天使を打倒して帰還用の魔法陣を出現させたという事だ。
バンブはレアを見て警戒している。
確かに先ほどバンブのエスコートをしていたのはマーレだった。中身はレアだったのだが、それは外からではわからない。
しかしレアは現在例の白ローブの格好をしており、フードも深く被っている。
また口元にも布のマスクをしているため、外見から特徴を得ることは難しいはずだが。
「誰って、レアだよ。さっきフレンド登録しただろう?」
「いやいやいや、声がちげーだろ!」
マーレとレアの背格好は近い。言わなければわからないかもと思ったが、声はだいぶ違うらしい。自分の声は自分ではわかりづらいため盲点だった。
「まあ、そうなんだけどね。でもわたしがレアであるのは間違いないよ」
〈ほら、フレンドチャットも出来るだろう?〉
「おお!? お、おお、これがフレンドチャットか。いや、マジで本人なのか……。どういうことなんだ……」
「とりあえず、ここには人が来るかもしれない。きみの自宅で落ち着いて話そうじゃないか」
*
「さて。まずは何から話そうか」
「そうだな。まずは、なんで俺の後についててめえも移動して来られたのかって事からだな。
『召喚』じゃあ、自分の配下がいる場所にしかジャンプできないはずだ。この森には俺の配下がうなるほどいるから、俺自身は当然ジャンプできる。だがてめえはそうじゃねえ。それどころか、なんなら俺が森の中の配下のところにジャンプして、そこからこのログハウスまで歩いてくる前に、すでにここにいやがったな? どういうこった?」
「そのことか。
その前にまずは、以前にここにお邪魔した時、あの家を燃やしてしまったことを謝ろう。悪気はなかったんだが結果的に燃えてしまった。すまなかったね」
「ちっ! その事はもういい。ご覧の通り、もっと立派に建て替えたからな」
「そのようだね。これはあれかな。以前よりも身体が小さくなり、器用にもなったが、STRが下がったわけではないから、結果作業効率が上がったという事かな」
「そうだが、そうじゃねえだろ。質問に答えろよ」
「おっとそうだった」
レアは広場の端に歩いていき、そこに半ば埋まるようにして存在している岩に腰掛けた。
「あの時のことだけど。家が燃えてしまう前と、燃えてしまった後で、何か変わったことには気づかなかったかな?」
「あまりに変わり果てちまってて、気にする余裕もなかったが」
「だろうね。それも狙いのひとつだったからね。
もうきみとはフレンドになったことだし、あまり隠し事をするのも良くないと思うから言ってしまうが」
レアは立ち上がり、横にすこしずれた。
するとごりごりと音を立て、レアが先ほどまで座っていた岩が盛り上がり、地面の下から岩の手が生え、岩は2本の足で立ち上がった。
「前回お邪魔した時に、ここにこっそり眷属のゴーレムを忍ばせておいたんだよ。何かあった時、すぐに来られるようにね」
「……まじかよ」
バンブは愕然としている。
こういう反応を素直にされるのは稀であるため、レアは少しだけ楽しくなってきた。
「さあ、次の質問は何かな」
「お、おう、そうだな。次は声、っつーかその姿だな。もうあんたがレアだってーのは疑ってねえ。けど、ついさっきまでと、あと前回俺の家を燃やしやがったときと、全然見た目も声も違うのも間違いねえ。どういうことだ」
「そうだね。話すと長くなるんだが、簡単に言えば。
わたしはものすごい変装ができるんだよ。さっきのあれは着ぐるみみたいなものでね。
そのうちきみも出来るようになるかもしれないが、もし出来なかったとしても、もう少し仲良くなったら教えよう」
「……もう少し仲良くなる気があるんならよ、せめてそのフードくらい取れや」
「おっと、すまない」
レアはフードを上げようとして思いとどまり、ローブごと脱いだ。
口元を覆うマスクも外しておく。
「フレンド登録初回サービスだ。顔のついでに他の部分も見せておこう」
「他の部分!? てめ、何脱いでやがんだこら! サービスってそういう、そういうアレか!」
「『解放:翼』、『解放:角』」
慌てふためくバンブを無視し、翼と角を解放した。
腰から3対6枚の純白の翼が、頭部から金色の角が生える。
このドレスは翼の邪魔をしないよう、背中から腰にかけてが大きく開いている。さすがに翼もローブも無しで、このドレスだけの状態というのは野外では抵抗がある。
「なん……だそりゃ……」
「まさか普通の人類系の種族だと思っていたわけではないだろう? 言ったはずだよ、だいたいきみと同じ立場のものだと」
「……実は魔物で、どっかのダンジョンの、ボスでもやってるってのか」
「そのとおり。まあそんなわけで、きみとは色々と情報交換や連携などをして仲良くやっていけると思うんだよね。これからもよろしくしてくれると嬉しい」
「お、おう……」
角と翼を消し、ローブを羽織る。
当初、角は出したままにしておくつもりだったのだが、ローブのフードで顔を隠すつもりなら、あれがあると非常に邪魔である。
顔を隠す必要がない場合はあってもいいが、暗躍時はあれはオフにしておくことにした。
「……情報交換、つったな。先に『召喚』の事を教えてもらっといてなんだけどよ。悪いが、こっちから出せそうな情報なんてねえぜ。何せさっきのゴブリンキング、あいつの方が俺より強えくらいだし、俺の持ってる情報であんたが満足しそうな事なんざ──」
「いいや、そんな事はない。少なくともその、デオヴォルドラウグルという種族。それはわたしは知らないものだ。そしてそうなる前、きみはもっと大きなゴブリンだったな? 確かそう、『ネクロリバイバル』とかいったか。そのスキルでもって君は転生した。
デオヴォルドラウグルについても、そして転生が可能なスキルが存在している事についても、こちらにはない情報だ。非常に価値がある」
するとバンブは拍子抜けしたような顔をし、なんでも無い事であるかのように話し始めた。
「なんだ、んなことでいいのか。ありゃあ確か、俺がまだゴブリンだったころに──」
「──なるほど。状況から考えると、そうだな。『ネクロリバイバル』の取得条件は、まず『死霊』を持っていること。そしておそらく、アバターの死亡回数が一定以上であること、だ。
これではわたしが知らないのも当然だ。NPCでこの条件を満たすというのは不可能に近い。なら自然に存在しているわけがないからね」
「そうだろうな。いや、自然に存在してるNPCでもそれこそあんたのゴブリンキングみてーに『使役』を持ってる奴だっているだろ。そういうヤツの眷属だったら、条件満たす可能性もあるんじゃねーか?」
「もちろんきみの言う通り、その可能性はないではない。
しかしその場合、その主君たるNPCがなぜそんな状況になることを良しとしていたかが問題になる。
考えられる可能性は2つだ。
まずは死亡回数によってアンロックされるスキルがあることを知っていた場合だ。この場合、目的があって眷属を何度も死亡させているわけだから、当然条件を満たせばスキルを取得させ、転生させるだろう。
しかしそもそもその条件を知るためには先に何者か、同じ条件を満たして転生した存在をどこかで見ている必要があると思うんだ。自力でたどり着くには無理があるからね。特にNPCなら。
そしてその先駆者にしても同じことが言えるし、つまりこれは卵が先か鶏が先かというジレンマを孕んだ仮説と言える。となると正直これは考えづらい」
「……まあ、そうだな」
「そしてもうひとつ。単に主君が無能で眷属を死なせてしまっているか、嗜虐的な意図を持って死なせているか、とにかく目的という目的もなく眷属を死亡させている場合だ。
この場合、仮に眷属がスキル取得条件を満たしたとしても、果たしてスキルを取得させるだろうか。主君が無能であればそこまで考えが至らない、というか、眷属に経験値を与えるような知恵があるならそんな事態にはなっていないだろうし、眷属をただ死なせたいと考えているような主君なら、その眷属をわざわざ強化するような真似はしないだろう」
「……なるほど、一理あるか」
「つまりそういうわけで、このスキルは事実上、プレイヤーが自分で取得する以外には考えにくいというわけさ」
長く息をつき、インベントリからコップを取り出すと、魔法で水を出して飲んだ。
「……あんた、たまにめちゃめちゃ早口になるな。なんつーか、ちょっと親しみ湧いたわ。
正直得体が知れないってか、見た目も実力もちょっと近寄りがたいレベルだったけど、人間らしいとこあんだな」
失礼なやつである。
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