第206話「第六災厄 大天使」





「森エッティ教授って言う人、ひとりで統計とって計算したのかな。だとしたらすごいな」


 天空城は、そのプレイヤーの予測通りに、ルート上で待ち構えていたレアの前に現れた。

 大陸全土の形状も大まかにしか分かっていないだろうに、よくこの精度で算出したものだ。


 あたりには上に向かって落下してしまうかもと思えるほどの深い青空が広がっている。

 眼下には雲海。

 その雲海に浮かぶようにして、巨大な城を背に載せた島がゆっくりと移動していた。


 間違いない。あれが天空城だ。


 照りつける太陽と、雲海が反射する日光のため、レアは全身を翼で包み込むお馴染みの格好で飛行している。

 現在オンにしているのは「角」「魔眼」「翼」「超美形」である。戦闘に突入したら日光によるダメージは諦め、翼を大きく開いて「剣」や「金剛鋼」「鎧」もオンにすべきだろう。


 天空城に近づいていくと、城のいたるところから天使らしき何かが大量に出てきた。


「──気づかれたか。いや、そりゃ気付くか。これだけ堂々と近づけば……ていうか、多いな! さっき大陸中に散った天使が全滅したばっかりだっていうのに!」


 数だけで言えば彼我の戦力差は10倍にもなるだろうか。

 当初想定していた最悪の場合というのは、大陸中を攻撃している天使たちすべてと一度にぶつかる事態になることだが、数的には今がまさにそれだと言える。

 しかも先ほど全滅した襲撃部隊も控えているはずだ。それらがリスポーンしてくれば、これに倍する数と戦う羽目になる。


「ちょっと甘く見過ぎていたかな。まさかこれほどの戦力を持っていたとはね……」


 ただの天使がいかに多くても、あの程度の攻撃力ではレアに直接ダメージが通るということはない。基本的には数がどれだけ多かろうとも意味はない。

 ただ戦場を羽虫のように飛び回り、大天使との戦闘の邪魔をしてほしくないというだけだ。


 まずは予定通り、ビートルとべスパたちを陽動を兼ねてけしかけた。

 どういう指示を受けているのか、天使たちは先頭のビートルナイトに群がっていき、近づいた個体から『挑発』の効果を受けて引っ張られ、まとまったところをビートルウォーリアの突進によって散らされている。

 それを見た他の天使たちも次々とビートルナイトに向かっていく。


 またべスパたちもそれぞれ班を作って同様に天使の軍をかき乱し、分断し、天使たちを引きつけている。

 この分なら陽動としての役割は十分果たしてくれそうだ。


 この間にと、レアはユーベルとメガネウロンたちを率い天空城に向かった。

 天使たちは虫の陽動に手いっぱいで、レアたちを追う者はほとんどいない。たまにいても、近くのべスパやビートルが天使を攻撃して引き離し、遠くまで連れていき始末してくれる。

 ユーベルがブレスで追い払ってもいいのだが、ただでさえ大きすぎて目立つ一行だ。余計な事をしてこれ以上注目を集めたくない。


 レアは天空城のある浮島まで到達すると、いったん着地した。

 地面、と言っていいのかわからないが、そこはまるで普通の大地のようで、レアはもちろん、ユーベルたちが降り立っても崩れたり沈んだりということはない。城を囲むように緑豊かに木々が生い茂っている。


「なんでこれ浮いてるのかな」


 たしか、大天使は前精霊王が亡くなる頃に現れた、というようなことを伯爵が言っていた気がする。

 だとすれば、この天空城は前精霊王が生みだした何らかのアーティファクトなのかもしれない。それを大天使が奪うなりなんなりしてこうして利用している、とか。


「待てよ、精霊王か。確か、錬術師って話だったな。例えばもし、精霊王がホムンクルスの製造も可能だったとしたら」


 生みだされたホムンクルスが天使となり、その天使が大天使となった、のだとしたら。


「天空城どころか、大天使勢力そのものがまるごと精霊王の遺産、あるいは他のと同じように精霊王の呪い、ということなのかも」


 この地に生きる者達にとっては大迷惑な話である。一部には自業自得の者もいるかもしれないが、それにしても大半は代替りしているだろう。

 当事者といえば、レア配下のディアスとジークくらいのものだ。





「──この聖なる地に土足で踏みいるとはな。所詮は地上を這いずる畜生か」





 突然声が聞こえた。


 見上げれば、大人のヒューマンのような姿で、背から2対4枚の翼を広げた、いかにも天使という姿の金髪の男性が浮いていた。

 古代ギリシャのヒマティオンに似たデザインの、金ぴかの派手な服を着ており、頭の上には光輪も浮いている。


「……そりゃ土足で踏むでしょう。ここ剥き出しの土だし。全面『ちゃん』と板張りにでもなっていれば、さすがにわたしも靴を脱いで上がったかもしれないけどね」


 発動ワードを変えた『鑑定』を挑発に織り交ぜて飛ばす。


 ──通った。間違いないな。こいつが大天使だ。


 能力値は全体的に非常に高いが、中でもDEXが頭一つ抜けている。しかし『鑑定』がすんなり通ったことからわかるように、総合的にはレアより格下だ。この数値なら鎧坂さんやクイーンを吸収していなかったとしてもぎりぎり勝てたかもしれない。

 大天使の頭の上に浮いている光る輪は「光輪」という種族特性らしい。効果はだいたい「角」と同じだ。となると大天使に『精神魔法』や『使役』を通すのは無理だろう。

 他のスキルなども見ておきたいが、さすがにじっくり読んでいる時間はない。


「フン。家畜は家畜らしく、素足で土の上をかけずりまわっておればよいものを」


「鶏のお仲間さんが大きな声で自己紹介かな? 駆け回りたいなら勝手にどうぞ」


「……まあいい。どのみち、殺すことに変わりはない。ここまで上がってきたのは貴様たちが初めてだが、褒美に大天使のこの私が自ら始末してやる! 『ジェノサイドアロー』!」


 言うが早いか、どこからともなく光る弓矢を取り出すと、流れるような動作でそれをつがえ、恐ろしい速さの矢を射ってきた。

 これが侵入者に対する規定の行動なのか、それともレアの挑発に乗ったのか、いきなりの実力行使だ。

 まるで一条の光かと見まごうばかりのその矢は正確にレアの胸の中央を狙い、『魔の盾』を貫通し、レアの胸をも貫通し、背後の『魔の盾』さえも貫通してどこかに消えていった。

 胸を見ても特に穴があいているとかそういうことはない。単に貫通攻撃の演出のようだ。

 しかしダメージはしっかり受けている。『魔の盾』のLPと、レアのMPが減っていた。


「なんだ、生命力がブレて見えるだと……? 貴様どういう──」


 おそらく『真眼』でこちらの姿を見ているのだろう。『魔の盾』は個別のLPを持っているため、展開中は光が重なって見える。


 しかしまったくもって驚異的な攻撃だった。

 まずはその速さだ。

 あれだけのスピードの攻撃だとわかっていれば矢をつがえた時点で回避行動に移っていたのだが、つい普通の矢を基準に考えてしまっていた。


 ──まさか弓矢からレーザービームが飛んでくるとは。


 そして恐ろしいのはスピードだけではない。威力もそうだ。

 『魔の盾』はそのLPが目に見えて削られてしまっている。すぐにどうこうということはないが、この盾がこれだけ削られたという事は、おそらく魔王転生直後くらいのレアが食らっていれば大ダメージだったはずだ。





 この、現在四方に浮かべている『魔の盾』は、現状使えるあらゆる手段をもって、最大限の性能を得られるよう作成した特別製である。


 『技術は長く、人生は短いArs longa, vita brevis.』を取得した後、レアはまず、すでに生みだしてあった盾をアビゴルに協力してもらい一度破壊した。『魔の盾』は現状4つしか作成することができず、作り直すには古いものが破壊されるしかない。別に誰でもよかったのだが、ガルグイユの戦闘力に興味があり彼に頼んだ。


 『魔の盾』は作成時に消費したMPと同じだけのLPを持つ。

 そして現在のレアは『技術は長く、人生は短い』の効果によって、スキルや魔法の発動時にMPが足りない場合には不足分はLPから賄われる。

 これはたとえば『魔の盾』のようなMP消費量を発動時に自由に設定できるタイプのスキルでも同様だ。総MPを超える数値を宣言した場合、MPが足りなければスキルは不発で終わるが、『技術は長く、人生は短い』の効果があるため、LPで賄える場合はそちらから消費して発動される。


 この効果を利用し、レアはMPのすべてと、LPもレッドゾーンに入るまでつぎ込んで『魔の盾』を作成した。その後リーベ大森林の例の洞窟でMP自然回復を待って『治療』や『回復魔法』でLPを回復させ、それをあと3回繰り返した。

 後にその盾はまた破壊して、今度は巨体化した状態で同じ事を行なったわけだが、今浮いているのがその時の作品である。


 つまりレアの『魔の盾』が所持しているLPは、1枚で全力の魔王のMPとLPを合わせただけのLPを持っているということだ。


 これを一撃で破壊するような相手がいた場合、つまりそれは「大抵のキャラクターはその攻撃がかすったら死ぬ」という事を意味する。

 その場合はすぐさま逃げるつもりでいた。





 今の大天使の一射はそれほどの威力ではなかったが、それでも生まれたての魔王を瀕死に追い込むくらいの力はあった。

 あの光る弓の性能か、『ジェノサイドアロー』とかいうアクティブスキルの威力だろう。

 出の早さや射速から言っても、回避不能な即死攻撃と言える。





《運営からお知らせです》





 と、ここで唐突にシステムメッセージが来た。開封して読むタイプということは、ゲームの進行に関することではない。このタイミングで来たのは偶然だろう。

 今はそれどころではないため、無視をする。読むなら大天使との決着をつけてからでも遅くない。


「……いや、貴様がどういうからくりでそんな妙な生命力を持っているのかなどどうでもいい。ダメージはあるようだし、すべて削り切ってやれば同じ事!」


 大天使はまたどこからともなく光る弓矢を取り出した。『ジェノサイドアロー』という発動キーが聞こえる頃には攻撃はすでにレアの元に到達している。

 だがこの距離ならばなんとか、敵の指先の動きまで見ることができる。

 弱視のデメリットを『視覚強化』で無理やり通常の視力にしている肉眼ではそこまで見ることは出来ない。しかし『魔眼』による視界ならそれも可能だ。


 レーザーのような攻撃はむなしく虚空を貫いた。

 軌道さえわかれば躱すことは不可能ではない。

 紙一重という必要最小限の動きでの回避だったが、これは完全に見切ったため不必要な動きをしないように狙って行なった、というわけではない。

 本当にギリギリで躱したためにそうなっただけだった。

 だがギリギリの限界の動きを、安定して行なえるようにするのがレアが積み重ねてきた鍛錬である。なにしろリアルで筋肉を鍛えるわけにはいかない以上、自分の物理的な動きが速くなる事は決してないのだ。ならばせめて、筋力以外の全ての要素は限界まで鍛えなければならない。

 先読みの力、つまり眼力や洞察力もそのひとつだ。


 それにしても非常に殺意の高いスキルである。

 今はレアに的を絞って攻撃してきているが、的の大きいユーベルやメガネウロンたちを狙われてはひとたまりもない。

 どうやら大天使には取り巻きがいないようだし、『真眼』で見えるLPを基準に脅威度を測っているようだ。レアが彼と遊んでいる間にユーベルたちには雑魚の天使たちの陽動に回ってもらう事にした。


 また、ジェノサイド虐殺アロー、という名前であるからには、対複数を想定したアクティブスキルである可能性が高い。現状では単発攻撃にしか見えないが、それだけではないはずだ。

 少なくとも貫通効果があるのは明らかである。となると射程内であれば、射線にあるオブジェクトすべてにダメージを与えながら直進するのだろう。

 もしかしたら他にも、例えば連射可能であるとかそういう効果もあるかもしれない。


「躱しただと! 馬鹿な!」


 焦ったのか、あるいは怒ったのか。

 どちらかはわからないが、とにかく冷静さを欠いた大天使はなおも弓系のスキルを連続して繰り出してきた。


 彼の叫ぶ発動キーによれば、先程から撃っている『ジェノサイドアロー』に、『ペネトレイトアロー』、『エクスプロードアロー』と、油断のできなさそうなものばかりだった。どれも躱しているため『ジェノサイドアロー』以外は威力については不明だが、攻撃速度は『ジェノサイドアロー』が一番速いためそれほど脅威には感じない。

 名前からして『ペネトレイトアロー』は防御無視攻撃である可能性が高いし、『エクスプロードアロー』は食らえばおそらく爆発する。


 しまいにはあまりに当たらない攻撃に業を煮やしてか、『クラウドバーストアロー』という無差別範囲攻撃まで撃ってくる始末だ。

 こういった攻撃は相手の逃げ道を潰すという使い方も出来なくはないが、そのつもりなら点の集合である弓矢のスキルではなく、素直に範囲魔法を撃つべきである。

 この手のスキルなら多人数の敵に対して発動し、適当に数を減らす目的で使ったほうが有用に思える。


 とはいえ大量の矢がすべてこちらに向かってくるというのは十分に脅威だ。降ってくる雨粒の全てを躱せるかと言えばさすがに無理がある。

 幸い、この『クラウドバーストアロー』の速度はこれまでで最も遅い。

 MPを1割ほど消費して『魔の剣』で薙刀を作り出し、全ての矢を切り払った。プレイヤーに見られていないのなら薙刀を振り回したところで問題ない。

 この程度のMP消費量で生み出した武器では、スキルも無しに災厄級の放ったアクティブスキルを切り払うのは本来無理がある。

 しかし範囲内にばら撒かれた無数の矢のうちの一本一本ならばそれも不可能ではない。


「──もう打ち止めかな。君の攻撃は」


 大天使ともなれば高度なAIを搭載しているだろうし、またINTもそれなりに高いはずだ。

 実際に攻撃を受けてみた感じでは、やはり変態実験で無茶をする前のレアと同格か、少し下くらいの印象を受けた。

 とはいえあの時のレアが今の攻撃を全て食らっていたとしたらとっくに死んでいるだろう。変態実験をしておいてよかった。


 しかしなんというか、1つの攻撃が駄目だったから次の攻撃を、という戦術の組み立て方が良くないというか、とにかく戦い方がつたない気がする。

 せっかく超速の遠距離攻撃があるのだから、射ったらすかさず次を放てばいいのだ。

 これだけの手札があればいくらでも有効な戦術を取ることができる。


 見た限りでは彼のアクティブスキルのほとんどは射速に差がある。

 たとえばまず最も遅い『クラウドバーストアロー』をばら撒き、敵に着弾する前に続けて『エクスプロードアロー』を放ち、その『エクスプロードアロー』を『ジェノサイドアロー』で狙撃して、敵の予想を外す位置で爆発を起こし、ひそかに『ペネトレイトアロー』で急所を狙う、とか。彼の技量なら不可能ではないはずだ。

 もっとも『エクスプロードアロー』が本当に爆発するのか、爆発するとして起爆条件は何なのかを知らないため実際にその戦術が可能かどうかは不明だが。


 大天使があまり城から出てこないというのが正しいのかはまだわからない。

 しかし少なくとも、自分と同格以上の敵との戦闘に慣れていないのは間違いない。


「もう出来ることが無いと言うなら、今度はこちらの番かな」


 だが大天使は攻撃の手を緩めようとしない。


「貴様の番など来ない! ジェノサイ──」


「『ホワイトアウト』」


「──ド、ぐう!」


 『光魔法』は当然だが光の速さで効果が出る。それはこれらの妨害系の魔法でも同じだ。『ジェノサイドアロー』がいかに速かろうとも光速を超えているとは思えない。レーザーのようだ、とはあくまで比喩に過ぎない。それに発動前に潰してしまえば速度など関係ない。

 『魔眼』による連携ならもっと早く発動できたが、この魔法でそれをやると自分の視界も潰れてしまう。

 この魔法の効果時間がこちらの能力値に依存する事は以前にデバフを食らった時にわかっている。今ならそれなりの時間、相手を盲目状態にしておけるはずだ。相手が抵抗に失敗している以上、それは覆ることはない。


「ええい、だが無駄だ! 例え視界を奪われようと私は貴様の居場所を視ることが出来る! ジェノ」


 『真眼』の効果だろう。あれは『魔眼』と同じで目を閉じていても周囲のLPを視認することが出来る。黙ってスキルを発動させればいいものを、なぜわざわざ教えてくれるのか。

 しかし『真眼』は『魔眼』と違い見えるのはLPのみであるため、LPを持つ何かの場所とおおざっぱな動きしかわからない。

 つまり発動キーなどを声に出したりしない限り、彼はこちらの居場所はわかっても、何をしているのかまでは把握できない。


 レアは両目を開け、『魔眼』を用い無言で大天使に『ダーク・インプロージョン』を放った。

 こうした座標指定で起爆するタイプの魔法にも速度は関係ない。射程や精密性、連射性は弓矢に譲るが、速度と威力で魔法が負ける事はない。

 ウルルやユーベルほど大きければこの魔法は効果が無いが、相手が翼長を入れても4メートル程度なら問題ない。


「がああああああああっ!」


 『魔の理』をはじめとする各種ブースト系スキルの効果によって強化された闇が大天使を襲った。

 彼にとってはこれが初のダメージだ。

 この魔法が想定通り、苦手属性などのために特別に効果が高いのかどうなのかはわからない。

 しかし少なくないダメージを与えたのは確かである。

 これまでこの魔法を発動した相手はたいてい一撃で葬り去ってきたため知らなかったが、死なない場合は闇の彼方に消え去ることは無いようだ。当然だが。

 握りつぶされるように闇が消えていった後にはダメージを受けた様子の大天使が浮いていた。


 準備していたはずのアクティブスキルは放たれず、光で出来た弓矢も崩れて消えている。

 先程から気になっていたがあの弓矢はなんだろう。

 普通の武器とは思えない。たとえば納刀状態では表示されないおしゃれ武器とかそういう系統のアイテムだろうか。

 あるいはスキルか。発動キーが無いということはパッシブスキルなのか。

 種族特性に関わるスキルは一部発動キーが無いものもある。そういう類のものかもしれない。たとえばレアの『魔の剣』がそうだ。というか、ビジュアルからして似た系統の何かなのかもしれない。毎回消えているためレアの『魔の剣』のようにMPの最大値を代償に常時発動するタイプではなさそうだが。

 『鑑定』で詳しく見てみればわかるのかも知れないが、戦闘中に油断して余計な事をしたりはしない。


「『解放:剣』『解放:金剛鋼』『ガトリング』」


 今となってはコストにLPを消費するこのスキルはあまり使いたくない部類だが、魔法のリキャストのつなぎには都合がいい。

 ただでさえ『ダークインプロージョン』によりボロボロになっている大天使の身体をレアの羽が削り取っていく。大天使は声も出さない。

 あくまでつなぎのつもりだったのだが、新たな特性により強化された羽の剣は想像以上に強力だった。この状態で『金剛鋼』をオンにしたのは初めてだったため今気がついたのだが、角だけでなく翼も黒くなっていた。おそらく羽の剣もアダマスになっているのだろう。それなら肌も黒くなっていてもおかしくないと思うのだが、肌や髪は相変わらず白いままである。


「ぐはっ……お、おのれ、畜生風情が、『ジェノサイドアロー』!」


 躱す。

 相変わらずギリギリだが、もはや当たる気はしない。


「『イヴィル・スマイト』、『ガトリング』」


 新たに得た特性によって強化された羽の剣は想像以上の威力を持っている。魔法によるダメージとは違いじりじりとだが、それでもかなりのスピードで敵のLPを削り取っていく。

 このまま押し切れそうだが、その前に『鑑定』で詳細にスキルを見ておいた方がいいだろうか。

 しかし遅かった。

 あっと思った時には、ひときわ大きく美しい宝石を残して大天使は消えていた。


「しまったな。手加減を──」





「──『復活レスレクティオ』」





「しな、え? なっ」


 直前まで大天使が浮いていた場所。そこにまるで時間を巻き戻すかのように、大天使が再び現れた。


 しかし重要なのはそこではない。


 初めて見たが、今のはおそらく蘇生魔法か何かだ。

 通常そういったスキルは死亡してしまった本人では使う事は出来ない。

 現に今、その言葉は全く別の場所から聞こえてきた。


 ゆっくりと声の聞こえた方を向くと、そこには、いやそこに無傷の大天使が浮いていた。


 思わずそれまで戦っていた方の大天使を見、そして新たに現れた大天使を見、何度も首を回して確認してしまった。

 どう見ても2体いる。

 考えてみれば今、レアは『魔眼』で物を見ているため、首を回す必要はなかった。どうやら戦闘に集中する余り、知らず知らずに視野が狭くなっていたようだ。


 落ち着いて『魔眼』で周囲を確認してみれば。


 城の中からぞくぞくと、目の前の2体の大天使と同等のMPを持つ者たちが出てくるところだった。






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