第205話「キャラが被ってるから消えてもらう」





 ウェルス、ポートリー、シェイプについてはひとまず打ち合わせが終わった。


「近況としてはそんなところかな。レアちゃんはペアレについては何か考えてるの?」


「何か、というほどでもないけど。ペアレのどっかの森から逃げてきたお猿さんたちがいるから、彼らにペアレを制圧させてみるのも面白いかなって」


「あー。なんか好きそうなシチュ。わかった。んじゃあペアレには手を出さないでおくね」


「全体進行としてはこのくらいかな。あとはイベントか」


「天使ね。もうイベント期間も折り返しを過ぎたし、そろそろサンプルデータも出揃ってるだろうし、天空城のルート特定できたりしてないかな」


 ライラには以前、天空城の予測ルートについて相談したことがあった。

 位置やルートを予測するためには天使に襲われた場所とそのタイミングのラグをまとめて統計をとる必要がある。あまりに煩雑な作業になるため、自分たちで行なうのは諦め、プレイヤー有志に丸投げしたのだ。

 といっても別にそういう依頼をしたとか、それをほのめかす書き込みをしたとかいうわけではない。完全に放置しただけである。優秀なプレイヤー諸君なら必ず気づいて突き止めてくれるはずだという、ある種の信頼だ。


「だれか調べてる人いたの? 忙しかったから自分に関係ありそうなところしか見れてなかったんだけど」


「うん。いたよ。前に見たときは予測ルートが22パターンくらいあって、全然使い物にならなかったからスルーしたけど。そろそろ絞り込めててもおかしくないかな」


 ライラがSNSで天空城の所在について書き込みを調べている間に、レアは自軍の航空戦力を整理しておく。


 まずは主戦力、ソルジャーべスパたちだ。

 レア陣営においては、カーナイトなどの一般地上戦力にくらべれば戦闘力は低いが、雑魚の天使の相手をするなら十分といえる。

 もっとも、仮に天空城に攻め込むとなれば、相手にする天使の数は膨大になる。

 今はヒルス国内に降りてくる数としか戦っていないため、常に優勢に戦闘を進めていられるが、これが例えば大陸中を襲撃しているすべての天使を相手にするとなれば、楽な戦いにはならないだろう。

 天使もいつものような、全滅するまで戦い続けるといった戦法ではなく、おそらく大天使や天空城を守るための戦い方をしてくるだろう。しかしこちらのべスパの目的も殲滅ではなく、レアの邪魔をさせないための陽動と遅滞戦闘がメインになる。

 うまく立ち回ることができれば数で大きく劣っていても対応できるはずだ。


 次は遊撃部隊として考えている、ビートルナイトやビートルウォーリアだ。

 ビートルナイトは巨大なカブトムシ、ビートルウォーリアはクワガタであり、要は飛べるタンクと飛べる近接アタッカーである。

 と言っても三次元機動を行なう高速戦闘において、タンクの役割など少ない。やるとすればその耐久力と重量を活かして体当たりを敢行するとか、『挑発』のようなスキルをばら撒きながら逃げ回り、集めた敵を別のユニットが魔法で一掃するとか、そのくらいだ。

 こちらは天使ごときの攻撃で大きなダメージを受けることなどないため、今回はべスパと合わせて運用し、主に陽動の仕事をメインでやってもらえばいいだろう。


 そして大天使の配下に幹部級のモンスターがいた場合に対応してもらう事になる、特級戦力であるユーベル、そしてメガネウロンである。

 当初はメガネウロンではなく、可能ならここにガルグイユ部隊を充てるつもりだったが、途中で余計な出費が挟まれたため計画倒れになった。幸いというか、たまたまほぼ同サイズの巨大な蟲を多数生み出すことができたので、彼女らに頑張ってもらうことにしたのだ。

 ガルグイユであればブレス攻撃なども可能だっただろうが、そこは妥協するしかない。少なくとも物理戦闘力はガルグイユと同等程度はあるし、これでよしとするべきだ。


 万が一があるといけないので、スガルはお留守番である。

 格としては大天使と同等と言えるかもしれないが、同じく同等であるはずのレアともずいぶん差が開いている。長く生きている大天使はもっと強い可能性もある。油断はできない。


「意外と飛べる子少ないな。まあ、仮にもっといたとしても地上をカラにするわけにもいかないし、遠征隊としては妥当なところなのかも」


「──うん、特に齟齬もないみたいだし、この森エッティ教授って人の予測ルートが一番確率高いかな。レアちゃん、だいたい現在位置わかったよ」


「そう。ありがとう。じゃあそうだな、次の襲撃の直後に逆侵攻してやろうかな」


 そのタイミングであれば、迎撃に出てくるだろう天使の数は最も少なくなるはずだ。なにせ襲撃に出かけた天使たちはほとんど死んでいる。


「それがいいね。雑魚はリスポン待ちになるだろうし。ついていこっか?」


「いらないよ、もし何かあったら困るから、どこか安全なところでうちのフクロウのオミナス君でも抱えて待ってなよ。ヤバい時はオミナス君と自分の位置を入れ替えるから」


「あのインチキスキルか。わかった。気をつけてね」


「いろいろ準備もしたし、大丈夫。せっかくのイベントなんだし、ただ雑魚を掃除しただけで終わるっていうのもあれだからね」


 現状このイベントは、単に定期的に雑魚が空から降ってくるだけのものになっている。

 それがポイントに繋がり、プレイヤー内でランク付けされるのだとしても、単調にも程がある内容だ。

 このまま最終日まで何の動きもなく終了するとは考えづらいが、ただイベントの新展開を待っているだけというのも面白くない。


 イベント期間の折り返しも過ぎた今、そろそろ大きな事件を起こしてもいいはずだ。


「よし、じゃあ次の天使の襲撃が終わるまでは休憩かな。ブランは……まだやってるのか。忘れないうちに服も用意しておいてやらないと」


「あそうだ。レアちゃんの着てるドレス新作だよね? よく見たらショールの下、露出すごくない? 羽根のため? ちょっとさ、それ私の分も作ってくれないかな」


「別にいいけど、これ素材もいいやつ使ってるから高いよ?」


「金とるのかよ! あんなにミスリル巻き上げたのに!」


「……じゃあタダでいいよ。素材のランクとしては糸のがちょっと上くらいだと思うけど、サービスだ。それに作業工賃とかデザイン料とかの製作費もまけてあげよう」


「……ありがとうございます?」


「じゃあ、さっそく採寸を──」


「あ、ちょっと待って」


「何?」


「あれ? あ、そういうことか」


「何が?」


 ライラが何やら目を伏せて黙りこんだ。

 考え事をしているように見えるが、ライラが考え込む時の癖とは違う。おそらくどこかしらからチャットか何かが飛んできてる。


 ブランはすぐそこで大神殿とじゃれあっているし、もちろんレアでもない。

 という事は眷属の誰かだろうか。

 普通のプレイヤーという可能性もないでもないが、いや、ライラに限ってありえないだろう。


「──ごめん、ちょっと用ができたから帰るね」


「何かあったの?」


「うんと、いや、今は言えないみたい。またあとで」


 ライラはどこかに消えていった。


 今は言えないみたい、という言い方が引っかかる。

 まるで自分の意志でそうしているわけではないかのようだ。

 ライラの事だ。本当に言えないのならそんな気を持たせるような言い方はしないはずだし、そういう言い方をするということは、何か意味があるはずだ。


 今は言えない、が、それは自分の意志ではない。では誰の指示なのか。

 ゲーム内でライラに指示を出せるような存在など限られている。

 レアでないならひとつしかないだろう。


 おそらく運営だ。

 ゲーム進行上、何らかの守秘義務を負わされるような提案なり協力要請なりを受けたのだ。


 だとしたら聞いたところで答えてくれないだろうし、お互いの為にならない。

 後でと言っていたし、緘口令が解かれれば話してくれるだろう。


 それより今は目の前の天使、そして大天使である。









 そして時報がわりの天使の襲撃も終わり、いよいよ出撃の時が近付いてきた。


「なんかもう、作業だよねこれ。運営はこのまま最終日まで引っ張るつもりなのかなー」


「どうかな? 仮にそうだとしても、わたしはそれで終わらせるつもりはないけど」


 大天使を討伐し、この大陸に平和を取り戻すのだ。

 それに後からやってきておいてこう言うのもなんだが、レアとビジュアル的に若干被っているため、大天使には消えてもらいたい。


「頑張ってねレアちゃん! 応援が必要だったらいつでも言ってね!」


 ブランは巨大化戦闘を満足いくまで堪能したのか、今は元の姿に戻ってきちんと服を着ている。

 巨大化したブランは、ヒーロー形態そのままで巨大化しており、レアやライラのように額から上半身のみ生えていたりはしなかった。

 この差も気になるところである。

 仮に魔王や邪王が理由なのだとしたら、ブランが真祖になったりしたらやはり巨大ヒーローの額から上半身が生えたりするのだろうか。


「まだ多分襲撃が終わってない地域もあるだろうけど、普通は眷属だからと言って遠方に指示なんて出せないし、気にしなくてもいいかな。

 ええと、予測ルートによれば、天空城は今はポートリーからヒルス王都方面に向かって北上しているところ、かな。運が良かったよ」


 各駐屯地にいる迎撃部隊のすべてにヒルス王都に向かって飛び立つよう指令を出した。

 襲撃直後であるため、こちらの戦力も通常よりは消耗しているが、相手の損害とは比べるべくもないだろう。

 王都近郊で合流し、相手のルートを逆行するように進軍する。おそらく王都の南側の上空でエンカウントすることになるはずだ。


〈お気をつけて……〉


「ああ、わかってる。行ってきます」






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