第151話「タンクのタクマ」(別視点)





「マーレさんのそれは槍ですか? さっきは凄い魔法でしたけど、槍戦士としても戦えると?」


「……そうですね。まあそのようなものです」


 ノイシュロスの北の森で出会ったマーレと名乗るプレイヤーは、トンボの質問にそう答えた。

 あれだけの威力の魔法を放ち、その上槍使いとしても戦えるとなれば驚異的な実力者だ。

 タクマたちのパーティもプレイヤーの中で上位と言っていい水準の実力を持っていると自負していたが、認識を改める必要がありそうだ。少なくともこのマーレというプレイヤーは1人でトンボとコウキの2人分の仕事をこなせる可能性がある。

 もっとも槍使いとしての実力はまだ見ていないため、魔法同様に高い実力があるとは断言できないが、魔法に比べて槍の技能が著しく低いのならわざわざダンジョンの奥地に槍を担いで来たりはしないだろう。普通に考えれば魔法の効果を高める能力を付与されたロッドやワンドを携帯するはずだ。


 それだけではない。彼女の腰には短刀のようなものも挿してある。解体用のナイフにしては長すぎる。おそらくサブウェポンだろうが、使えもしないのにあんなところに準備したりはしないはずだ。となれば、しいたけ並に短剣術に経験値を振っている可能性もある。


 それらのことから考えれば、このマーレというプレイヤーはおそらく、現在上位層と言われるプレイヤーの中でもさらにトップクラスの実力を持っている。


 ──余計なお世話、だったかもしれんな。


 自分たちをトップクラスのパーティだと自負するあまり、隔絶して自分たちより実力が上のプレイヤーという存在は意識していなかった。そのため親切心から声を掛けたのだが、迷惑だったかも知れない。

 フードによって表情はよく見えないが、声色からしても歓迎されているようには思えない。


 しかし一応は了承してくれたということは、少なくとも彼女にとっても何らかのメリットがあると感じてくれたということだろう。

 ここは前向きに考え、一時のことではあるがパーティメンバーとしてお互いにフォローしあっていくことを第一に行動すべきだ。


「ええと、それでは。とりあえずだけど、こちらのパーティは近接物理アタッカーはトンボと蓬莱の2人がいるから、マーレさんにはコウキと魔法アタッカーとして活躍してもらいたいんだが、いいでしょうか」


「そうですね。わかりました」


 槍や短刀の実力を見られないのは残念ではあるが、どうしたって役割がトンボやしいたけと被ってしまう。しいたけは短弓で遠距離からの援護も可能だが、トンボは槍しか攻撃手段がない。その役割をマーレに譲ってしまえば何もすることがなくなってしまう。ただでさえここのゴブリンは防御力が高い。止めはほとんどコウキの魔法に任せてしまっている状態だ。

 一方でマーレの魔法の実力は本物だ。あれだけの威力の魔法が放てるなら相応のMPもあるはずだし、範囲魔法があるなら単体魔法もあるはずだ。炎系の魔法しか取得していないという可能性もあるが、どうせこの森で出現する魔物はゴブリンかスケルトンだけだ。どちらも炎に耐性はない。それに魔法にはリキャストタイムがあるため、魔法使いの数は多ければ多いほど有利になる。


 陣形を前方にタクマ、しいたけ、蓬莱。中央にトンボ、後方にコウキ、マーレとなるよう組み直し、森の探索を再開した。


「……いや、しかし突然森が焼かれた時はびっくりしましたよ」


 タクマの背後でトンボがマーレに話しかけているのが聞こえる。

 咎めたいが、こちらはこちらで前方の警戒が必要だ。

 トンボはマーレの槍に興味があるようだった。あらかじめ釘を差しておくべきだった。


「ああ、すみません。荒れ地で地面からスケルトンがたくさん出てきていましたから。森も同じかどうか確認しようと思いまして、つい」


「それより、さっき撃っていた魔法はなんだったんですか? あれだけ広範囲の、しかも☆4の森を焼き尽くすほどの火力! 僕の知る限りではそれほどの威力の『火魔法』はないんですけど。もしかして噂の複合魔法を発見したとか?」


「ふくごうまほう?」


「あれ、違いましたか。いや、そういう噂があるんですよ。ほら、魔法のリキャストは各魔法ごとに個別でしょう。だから射出速度や発動速度をうまく調整してやれば、ほぼ同時に別々の魔法を撃つことも不可能じゃない。普通なら手元で相殺が起きて終了ですが、そういう仕様であるなら、特定の組み合わせで相乗効果を得られる魔法があっても不思議じゃないってね」


「……初耳ですね。へえ。なるほど、そんな噂が……」


 コウキも話しかけている。

 いくらいつもより戦力が多いと言っても、ここはタクマたちでさえ気を抜くことの出来ない攻略最前線のダンジョンだ。事実これまでタクマたちはこの森の最深部まで到達出来たことがない。行きつ戻りつ、時に死に戻りしてロストした分の経験値を街で稼ぎつつ、どうにか探索を進めている状況だ。呑気におしゃべりしていい場所ではない。


「おい君たち──」


「前方! スケルトンだ! 多分ゴブリンもいる!」


 タクマが見かねて口を開くが早いか、しいたけの警告が全ての会話を中断させた。

 静かに前方を警戒していた蓬莱はすでに戦闘モードだ。ハンマーを握りしめ、しいたけの示す木の陰を睨みつけている。


 しいたけが牽制の矢を放った。

 スケルトンに矢はほとんど効果がないため反応は薄いが、しいたけの言う通りゴブリンも同伴しているのならこの矢に釣られて出てくるだろう。


「──」


 木の陰から魔法が飛んできた。厄介なことにメイジがいるらしい。

 この森のゴブリンは他の場所のゴブリンよりも一回り大きい。ヒューマンと同程度かそれ以上のサイズがある。メイジも同様で、その魔法の威力にしてもちょっとしたプレイヤー並だ。

 敵集団の構成や数によっては普通に負けかねない。


「『サンダーボルト』」


 背後から涼やかな声が聞こえ、隊列を縫って電撃が飛びゴブリンの放った魔法を迎撃した。

 双方の魔法は弾け飛び周囲に降り注いだが、大したダメージではない。


 魔法が撃ち落とされたと見るや木の間からスケルトンが飛び出してきた。

 しかし待ち構えていた蓬莱のハンマーの一振りで吹き飛ばされ、別の木に叩きつけられた。スケルトンは打撃に弱い。今の一撃と木への激突のダメージでもう瀕死のはずだ。

 続けて出てきたゴブリンはしいたけが矢で牽制している。これを抑えるのはタクマの役目だ。

 盾を構え前に出る。それに気づいたしいたけが弓を下ろすのを確認すると、ゴブリンめがけ『シールドチャージ』を発動した。『シールドチャージ』はキャンセルするまで盾を構えて一直線に走り続けるスキルだ。そのまま奴らの飛び出してきた木まで突進を続け、ゴブリンを木に叩きつけた。

 スキルをキャンセルし、すぐに『バックステップ』で後方へ飛び退る。

 木の根元にずるりと座り込むゴブリンにコウキの魔法が突き刺さるのを横目に見ながら再び盾を構え、『挑発』を発動し次の魔物からの攻撃に備えた。





「『ブレイズランス』! ……と、これで最後ですかね」


 コウキの放った『火魔法』でゴブリンメイジが焼き尽くされ、一旦警戒を解く。しいたけはまだしばらく周囲に意識を向けていたが、やがて短剣を鞘に収めた。


「今回は少し数が多かったな。マーレさんが居てくれて助かりました。最初の魔法はマーレさんですよね」


「……ええ。でも大したことは」


「いや、うちのコウキは魔法の威力は大きいんですが、妨害のために魔法を使うって事はしないんで。初撃を受けずに済むというのは助かります」


「……攻撃を受けないために魔法を撃つより、戦闘後に何回か『治療』をしたほうがMP消費少なくて済むだろ。僕は合理的に行動しているだけですよ」


 コウキの場合は合理的というより横着で吝嗇けちなだけだが、今の所それで困っているというほどでもないので強くは言わない。今回はマーレがコウキとは違うタイプの魔法使いだったため、たまたま楽ができたと言うだけだ。こういうのも臨時パーティの醍醐味と言える。


「さて、では剥ぎ取りが完了したら先に進もう。トンボ、コウキ、頼む」


 ゴブリンからはそう大したものは入手できないが、額にあるコブのような突起の中には赤黒い半透明の石がある。最初は角か何かかと思っていたのだが、この突起は骨までは達しておらず、あくまで皮膚が硬質化して形成されたものだった。

 この半透明の石は街にいるNPCに高く売れる。何らかの素材なのだろうと思えるが、プレイヤーの生産職が集めているという話は聞かないため、まだそのレシピは発見されていないのだろう。


「ゴブリンから入手できるアイテムで価値があるのはこの石くらいなので、この石だけ集めておくということでいいですよね。後ほど討伐数を人数割して分配しましょう」


 皮膚や骨もそれなりの強度があるが、解体するのはさすがに心理的に抵抗がある。

 ここに来たばかりのころはそれも剥ぎ取って売っていたが、今はそれほど資金に困っていない。

 それに額の石に比べれば大した金額でもないため、タクマたちは普段そこまではやらない事にしていた。

 マーレの服装から察するにタクマたち以上に裕福なようだし、今回もそこまでしなくてもよいだろう。


「はい。それで構いません」


 マーレの了承が得られたところで探索を再開した。


 それからもたびたびゴブリンとスケルトンの集団にエンカウントしたが、いずれも危なげなく討伐した。普段よりも若干数が多いように感じられたが、むしろいつもよりも楽なほどだった。

 言うまでもなくその理由はマーレだ。

 初対面の時に見たような大威力の魔法を放つことはないが、渋さが光る活躍と言うか、最初のエンカウントの時のように魔法を相殺をしたり、敵の足もとをぬかるみに変えて行動阻害をしたりなどだ。フードの下の、華やかとも言える見た目にそぐわない丁寧な仕事をしてくれる。

 時にはゴブリンアーチャーの放った矢を魔法で撃ち落とすなどという芸当を見せたりもした。本人が言うには、雷系の魔法は発動も弾速も速いから慣れれば容易、とのことだが、少なくともタクマは今まで見たことがない。

 それでいて敵に止めを刺すといった仕事はさりげなくコウキにやらせ、彼のプライドを守ることも忘れない。

 やはり相当上位のプレイヤーのようで、敵1体から得られる経験値はいつもよりかなり少なめだが、戦闘の効率を考えればむしろ収入は上がっていると言えた。


「……やっぱ、魔法使いが1人増えると効率が違うな」


 しいたけも彼にしては気を使った言い方だ。タクマたちは別段コウキに不満などないが、こうも明らかな実力差を見せつけられてはそれも仕方がない。

 これ以降もぜひパーティにいてもらいたい人材だが、普段は別のメンバーと組んでいるようなことを言っていたため、それは難しいだろう。


「タクマ、どうだ。せっかくの機会だし、今日は森の最深部に挑戦してみないか」


 トンボの言う通り、可能ならば是非そうしたいところだ。

 これまでタクマたちのパーティはこの森の最深部まで到達したことがない。

 なるべく生き残ることを重視して攻略を進めてきたため、復路の事も考えて戦闘可能な半分ほどの距離で引き返していた。それでも全滅してしまうことも少なくないが。

 普段であれば、そろそろ折り返すくらいの位置だろう。ただし時間を見ればまだかなり早い。戦闘の効率化のおかげだ。

 本来はもう少し経験値を稼ぎ、パーティ全体の実力の底上げを行なってから、いったんどこかの街へ戻って装備の修繕をし、それから改めて挑戦するつもりだった。

 大筋の計画としては変えるつもりはないが、その前にここのボスを確認してみるというのは悪くない。もちろん逃げられない可能性もあり、つまりは全滅する可能性があるため、同行者であるマーレの承認は不可欠だが。


「……そうだな。マーレさん。どうでしょう。もしよかったらなんですが、このまま最深部まで探索し、ここのボスを確認していきませんか? もちろんその場で全滅してしまう可能性もありますから、マーレさんの気が進まないようでしたらここで引き返すことにしますが……」


「……大丈夫です。わたしも興味があります。ですが、ボスと戦うとなれば申し訳ありませんが自衛を第一に考えて行動させてください」


「それはもちろんです! ありがとうございます!」


 臨時のメンバーである彼女が自分の身を第一に考えるのは当然のことだ。この短期間でそこまでの信頼関係を築けたとも思えないし、今後も共にパーティプレイをするというわけでもない。ここでタクマ達のために命を、経験値を懸けてもらうというのは申し訳がなさすぎる。


「では、このまま引き返さずに最深部へ向かおう」


 森の最深部と一言で言っても、それがどこなのかははっきりとはわからない。

 しかしこれまでの探索で、おおよその方向くらいは掴めてはいた。

 この森は街に比べ全体的に魔物の密度が高めだが、その中でも特定のエリアに近づく時だけ特に魔物が増える。そちらに向かって欲しくない理由があるのは明らかで、普通に考えればボスがいるのだろう。

 この森はスキルとアイテムを活用してしいたけがマッピングを行っており、浅層から中層まではだいたい書き込みがしてある。と言ってもただ森があるだけだし、決まった敵が出てくるわけでもないので塗りつぶしてあるだけだ。その地図には中層以降、弧を描くように未記入のエリアが存在している。

 それは魔物の密度が高すぎるためタクマたちが足を踏み入れていない場所。普段であれば引き返す目安になっている場所だ。つまりここより先のエリアのことで、そしておそらくその円弧の中心部にボスがいる。





 そこから先はそれまでとはもう一段上の難易度だった。

 マーレを加えていてなお、ギリギリだったと言えるだろう。

 小休止の度に疲労回復やMP回復のポーションを飲まなければならなかったほどだ。マーレの分のポーションまでは用意していなかったが、必要ないとの事だったので自分たちだけで使用した。

 敵の強さが上がったというわけではないが、とにかく数が増えたことがこたえた。敵が多すぎてタクマの挑発系のスキルでカバーしきれないからだ。本来前衛で戦闘を行わないしいたけにも防御にまわってもらうほどだった。

 それでも何とか対応できたのは、このパーティの構成による。

 全く近接戦闘ができないプレイヤーはコウキのみで、他は全員なんらかの戦闘手段を持っているためだ。コウキが狙われればしいたけが護衛に入り、何とか耐えてもらっているうちにトンボと蓬莱が攻撃して引きはがす。

 そんな状態ではお客さんであるマーレのサポートなどとてもできるものではないが、その心配は無用のようだった。

 マーレは単独でゴブリンたちを相手取っていた。乱戦のためか槍は使わず、流れるような動きで攻撃を躱し、時に敵を投げ飛ばし、腰の短刀で的確に急所を穿っていた。その中にあって片手間で魔法を放ち、敵の魔法の相殺や行動阻害も行なっているようだった。ずっと見ていられたわけではないので確かな事は言えないが、敵からほとんど魔法が飛んでこなかったということはそういうことなのだろう。

 この強行軍は半ばタクマ達のわがままだというのに、彼女には感謝してもしたりない。


 全く無警戒だった背後からの襲撃にあったときは特に肝をつぶした。

 ここまで背後からの襲撃がなかったのは、疲労が蓄積されてくるこのタイミングで確実に奇襲を成功させるためだったのだろう。前方に意識が傾いていたしいたけは敵に気付くことができず、まんまと背後を取られてしまった。

 しかしこれもマーレが片付けてくれた。

 コウキとともに最後尾についている彼女が突然背後に範囲魔法を放ったかと思えば、何体ものゴブリンが電撃に貫かれて黒焦げになっていた。同時に前方からも敵が来たためタクマたちは後衛の援護に回ることができなかったが、その必要もなかった。

 失敗するはずのない奇襲を仕掛けるタイミングで、逆に奇襲じみた初撃を受けたためか背後の敵は浮足立っており、マーレの敵ではなかったようだ。前方の戦闘が終了する前に背後の掃除は完了し、それからはいつもの通り、前方の戦闘もマーレの援護を受けながらの消化試合だった。


 実力差のあるプレイヤーとパーティを組むというのがどういうことなのか、嫌というほど思い知らされた気分だ。

 そういうプレイヤーが1人いるだけで、1段も2段も上の難易度のダンジョンに挑むことが出来てしまう。

 しかしこれではダンジョンを攻略しているとは言えない。単にマーレにアトラクションに連れて行ってもらっているだけだ。


「……マーレさん。失礼を承知でお願いがあるのですが」


「なんでしょうか」


「その、もしもボスと戦うとなった場合、申し訳ありませんが、手を出さないで見ていて欲しいんです」


「おい、タクマ! ……いや、そうだな。もしマーレさんがよければだが、そうしてもらえるとありがたい」


 トンボも同意見のようだ。しいたけもこちらを見て頷いている。蓬莱は黙って目を閉じているが、彼は賛成の場合はいつも黙ってこうしている。コウキは若干不満げに見えるが、本当に反対なら即座にそう言うはずだ。黙っているということは、彼もまた自分たちパーティの力不足を痛感しているということだろう。


「……わたしがわたしの安全を最優先していいというなら、別に構いません」


 タクマたちを肉の盾として活用すれば、このマーレならボスに対しても勝機があるかもしれない。

 しかしタクマたちは、せめてボスと戦う時くらいは、負けるとしても自分たちだけで戦ってみたいと思ってしまった。

 その意を汲んで頷いてもらったからには、相応の礼をしなければならない。

 タクマたちだけで戦ってもそのまま全滅するだろう。そうなれば彼女はひとりでボスと対峙することになる。それではさすがにマーレと言えどもボスに勝てるとは思えない。

 マーレの経験値の1割に見合う価値があるかはわからないが、これまでに得たドロップアイテムはすべて渡してしまうことにした。メンバーも誰も反対しなかった。


「ああ、その、ありがとうございます? えーと、少し待っていて下さい。

 ……あっ。

 ……はい、いただきます。どうも。

 ……えっと、ありがとうございます」


 マーレは一瞬呆けたような表情を浮かべながらも受け取ってくれた。礼は意外だったという顔だ。その実力以上に、人格も素晴らしい人物だ。彼女と知り合うことができたのは幸いだった。

 出来ればフレンドになってもらいたいが、それは道中でアタックしたしいたけが玉砕している。今また持ちかければドロップアイテムで釣ったように思われてしまうかもしれないし、今回はあきらめるしかない。





 そうして探索を進めて行き。


「なんだこれ……。家?が建ってるぞ」


「ゴブリンて家建てるのかよ。初めて見たぞ」


 ここがおそらく最深部。ボスのいるだろう場所だ。

 そこには周辺の木々が切り倒されたらしい広場があり、その広場にはログハウスのようなものが建っていた。

 ログハウスはかなりのサイズだ。2階建てだろうか。

 扉などは見えないが、反対側にあるのかもしれない。

 この中にボスがいるのはおそらく間違いない。


「あ、おい、出てきたぞ!」


 ログハウスの後ろから、のっそりと巨大なゴブリンが姿を現した。

 目測だが3メートルはあるだろう。この巨体で生活しているのなら、このログハウスは2階建てではなく平屋ということだ。

 服装は他のゴブリンと比べきちんとしており、色とりどりの布を継ぎ接ぎに縫い合わせた不思議な布で作られている。

 いや、違う。

 これはおそらく街の人の服だ。それを縫い合わせ、自分の服にしているのだ。

 モンスターに装飾や服装という概念があるとも思えないため、これはおそらくハンティングトロフィーのようなものだろう。街に攻め入り、これだけの人間を殺したんだ、という。


「威圧感やべえな。これ勝てない奴じゃね?」


「☆4とはこれほどの……? それともボスは別枠なのか?」


「そんなことより、来るぞ! 下がってくれマーレさん!」


 その手に握った、ただそこらの木を引き抜いただけの丸太のように見える棍棒を振り上げ、ボスが攻撃をしかけてきた。






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