第145話「初回特典」





 翌日、アリの準備が整ったクイーンベスパイドに後を任せ、スガルをテューア草原から王都に呼び戻した。

 鎧坂さんもだ。玉座は鎧坂さんが座っていないと、レアだけでは広すぎて座りづらい。


「後は王都にお客が来るのを待つだけだね。リーベやトレにはどうせ来ることはないだろうし」


 リーベ大森林やトレの森は、一応転移先としてリストに載っているため来るだけならば誰でもすぐに来られる。

 しかし周囲に街などが存在していないため、来てしまったら帰れない。

 街道沿いに歩いたとしても、その行き着く先にあるのもまたダンジョンだ。つまりラコリーヌの森である。

 難易度☆5というだけでなく、そういうアクセスの悪さも誰も来ない理由のひとつなのだろう。


「別に他で稼げるなら今更リーベやトレに誰も来なくても構わないのだけどね。

 むしろ難易度調整の結果あぶれた戦力をひとまとめに片付けておける場所があるという意味ではありがたいくらいだ」


 具体的にはアダマンズやメガサイロスだ。

 アダマンズはそれほど多くなければ王都に置いておいても構わないのだが、全て王都に集めてしまうと☆4の域を超えてしまう。

 そのため現在では雑魚としてジーク配下の元王都民とカーナイトを配置してある。

 カーナイトはプレイヤーへのボーナスのつもりだ。ただのアンデッドよりはだいぶ強いが、その代わりに倒せればタングステンカーバイド──かどうかは不明だが、とにかく強めの金属塊に変わる。

 大々的にコマーシャル出来ないのは残念だが、☆4に挑戦しようという者ならいずれ彼らを倒し手にすることが出来るだろう。


 メガサイロスについてはもう問題外だ。

 カゲロウどころかどう見てもヘビトンボのような顔をしているし、身体はムカデだ。しかも光沢のある装甲に覆われている。

 さらに問題なのはその大きさだ。おそらく、鎧坂さんでも背に乗せて飛ぶことが出来るだろう。

 奴らは☆5のエリア以外の場所には存在出来ない。


「この世界のどこかにはあれが原生しているエリアがあるのかな。ちょっと行きたくないけど」


 アダマンズを一定以上投入すると☆5に上がるのは確認済みだ。

 しかしレアならば、アダマンズがすべて相手になったところで負けることはない。

 ということは、☆5であってもその難易度には差があるということだ。SNSで誰かが書き込んでいた、難易度の最大値は☆5でありそれ以上も全て☆5になっているという仮説はおそらく正しい。


「それより、そろそろ来る頃だと思うんだが、まだかな?」





***





【☆5】旧ヒルス王都ダンジョン個別スレ





1:アロンソン

一応立てておく。

推測や憶測も含めて書き込みが増えてきたので。

総合スレでは邪魔になるので以降はこちらでおねがいします。


以下他スレリンク

>ダンジョン総合スレ

>【旧ヒルス】ダンジョン攻略報告スレ【その他】






251:おりんきー

じゃあ、ウェインさんたちは来ないんですね


252:明太リスト

☆3のエルンタールでさえ全滅しているくらいだし、僕らにはまだ早いかなって


253:名無しのエルフさん

私たちもかな。

こっちは☆3ラコリーヌの森で修行中。

王都に行くとしてもこっちで何が出てきても対応できるようになってからかしら


254:カントリーポップ

ラコリーヌって難易度可変のところか。

プレイヤーの強さを測って敵の強さが変わるんだっけ? それいいよな。

もし某レトロゲームみたく戦闘回数とか言われると、雑魚ばっか狩って経験値稼ぎした奴らは全員死亡することになるし


255:丈夫ではがれにくい

王都の隣ってラコリーヌだっけ

じゃあ王都で全く歯が立たなくてもそっちの方に行けばいいか。

よし俺も参加しよう

>>240

丈夫ではがれにくい参加でオナシャス!


256:蔵灰汁

>>255

丈夫ではがれにくい参加了承しました

これで26人か

とりあえずそろそろ締めるけどよろしいか?


257:蔵灰汁

もう居ないみたいだな

じゃあ締めます。

今回は初のダンジョン、しかも災厄のお膝元ということで、何が起こるかわかりません。

アタック失敗してもめげない方向で行きましょう

今は災厄は不在のようですが、もし途中で帰ってきたりしたら攻略失敗ですので諦めましょう


258:丈夫ではがれにくい

言うて俺らは一回倒してるし余裕よゆう(


259:おりんきー

>>258

じゃあ>>255の予防線はった発言は一体……w


260:蔵灰汁

集合時間は──









***





「陛下、どうやら来たようです」


「おっと、そうか」


 上空で待機しているオミナス君に視線を戻す。


「1、2、……26人か。SNSでの打ち合わせ通りなら、申告していた参加希望者しか来ていないということかな」


 物見遊山の見学者なども居る可能性を考えていたが、そうした者は見当たらない。

 来てしまえばラコリーヌ方面にでも帰る他ないだろうし、考えてみれば当然か。

 そしてラコリーヌに行ったところで街はない。

 ラコリーヌに最寄りのセーフティエリアから、ラコリーヌとは反対方面に向かえば街があるはずだが、単に見学するためだけにそれだけの移動時間を無駄にするのは少しもったいない。


 それにしても26人というのはパーティにしては破格の人数だ。しかもそのほとんどが上位プレイヤーを自認している者たちである。

 他国での話だが、☆4のダンジョン自体はすでに挑戦したパーティがいるという報告が書き込まれてはいる。

 そのどれもが全滅したか、浅いところで撤退したか、いずれにしても戦果らしい戦果はないというものだ。

 中には上位プレイヤーというか、知名度のあるパーティも挑戦しているらしいが、いい結果が出たとは聞いていない。

 その高難易度ダンジョンに対するひとつの解答が、このプレイヤー集団だろう。

 数人というパーティ単位で攻略出来ないのなら、数でゴリ押ししてしまえばいい。パーティシステムというものは存在しないため、言ってしまえばどのプレイヤーパーティも個人の集まりにすぎない。であれば、別に何人だって構わないという事だ。

 実に合理的な判断である。おそらくレアでもそうする。他人と歩調を合わせられればの話だが。


「でももしわたしだったら……。ダンジョンには潜らず、一仕事終えた彼らが疲れて帰るところを待ち伏せて1人ずつキルするかな。それが一番合理的だ。彼らの情報はSNSで公開されているし」


 しかし現在のレアには頼もしい仲間たちがいる。そんなせせこましい真似をする必要はない。

 監視はいつもの彼の目を借りるつもりだが、フォレストオウルのオミナス君は本来都市部にいるような魔物ではない。フクロウの振りをするとしても同じことだ。ここでは目立ってしまう。

 故に察知されないほどの上空からひそかに様子を伺うしかない。

 プレイヤーたちの音声は聞こえないだろうが、こればかりは仕方がない。

 再三、モンスターもNPCと変わらないと言われているにも関わらず、彼らはあまりエネミーのAIを重要視しない傾向にある。一部のプレイヤーにはそれを気にするものもいるが、あれだけ数がいれば全員がそうだとは思えない。おそらく作戦や指示は大声で叫ぶなどして周囲にダダ漏れになることだろう。


「それを聞くことが出来ないのは残念だけど、ここは無声映画でも観ているつもりで楽しむとしよう」


 さあ、侵入者たちのエントリーだ。





 ラコリーヌやテューア草原、あるいはかつてのリーベ大森林のように、何となく領域が始まっているというわけではない。

 ここヒルス王都は堅牢な外壁に守られた都市だ。

 もちろん城門は開け放ってある。

 彼らのためにというよりは、下手に閉ざしておいて破壊でもされたらたまらないからだ。

 城壁は機能美に優れ、その美しさは城門を閉ざした姿をもって完成していると言える。もちろん開かれた状態でも統一感を失わないよう気を配って設計されている。

 しかし破壊されてしまえばその限りではない。せっかく外壁関係は無傷で手に入れたのだ。これからもその状態は維持しておきたい。


 城門をくぐったプレイヤー集団は一塊ひとかたまりになって大通りを進んでいる。かつて現実の歴史か何かの資料で見た、修学旅行とかいうもののようだ。警戒心強くキョロキョロと辺りを見回しながら歩くさまは、まさにおのぼりさんといった風情である。


「──学を修めるために旅行に来たというのなら、学ばせてやらねばね」


 玉座のレアのそのつぶやきが聞こえたわけではないだろうが。

 左右の建物の間、路地から何体ものゾンビが飛び出し、プレイヤーたちに躍りかかる。

 しかし大通りが広すぎることもあり、奇襲と言ってもそれほどの効果はなかった。ゾンビが隊列に到達する前にスカウトらしき弓兵に察知され、頭部を矢で射抜かれる。同時に炎系の魔法が降り注ぎ、ゾンビは全て灰になった。

 日光によって何もしなくても勝手にダメージを受けているという事を差し引いても、酷いの一言だ。


「まあ、ゾンビじゃこんなものか。さすがに☆4ダンジョンの雑魚というにはただのゾンビは弱すぎるかな」


 住民のほとんどは死後1時間以内のフレッシュな状態でアンデッド化したため、ゾンビの中では比較的強い。しかしそれでも初心者でも勝てる程度の強さでしかない。中には騎士などの、魂を確保出来なかったタイプのゾンビも混じっている。あれらはただのゾンビに輪をかけて弱い。


「ゾンビに関してはテコ入れが必要かな……。でも全部転生させるというのも面倒だしな。ブランはよくやったよ本当に。こっちはエルンタールより人口多いし、どうしようかな」


 しかしシステムに☆4と判定されているからには、現在の王都の難易度が☆4であるのは間違いない。ゾンビが☆1程度の強さしかないのなら、難易度の判定にゾンビはなんら寄与していないのだろう。居ても居なくても同じということだ。

 さすがにそれは人的リソースの面から言って少々もったいない。


「……強化しておくか。実際やるのはたぶんジークだし」


「えっ」


 街を眺めているため忘れていたが、レアの身体は玉座の間にある。隣には当然ジークも居る。聞こえてしまったようだ。


「うちには吸血鬼の血なんて便利なものはないから、賢者の石になるのかな。もったいないが。

 最初は全員じゃなくてもいいけど、せめて数体に1体くらいはそれなりに上位の個体を混ぜておきたいな。一段落したら頼むよ」


「……了解しました」


 ゾンビが全く歯が立たないのなら襲わせても意味はない。相手にとっても大した経験値にもならないだろうし、素材の剥ぎ取りなんかもしないだろう。お互いにとって時間の無駄だ。


 次に現れたのはスケルトンナイトだ。彼らは元々ジークの配下だった者たちで、スケルトンとゾンビを同格とするなら、スケルトンナイトである彼らはそれよりは上だ。

 隊列を組み、一糸乱れぬ動きでプレイヤーたちに攻撃をしかける。

 しかしこちらも大して変わりがなかった。

 鎧袖一触にプレイヤーたちに屠られていく。


 と、そのプレイヤーの進撃が突然止まる。

 一撃で倒せなかったスケルトンが混じっていたためだ。

 いや、スケルトンではない。あれはカーナイトだ。

 前衛プレイヤーの持つ武器よりもカーナイトのほうが硬いらしい。背後の魔法使いに援護を要請するような素振りを見せた後、魔法使いたちから炎が降り注ぐ。

 しかしそれだけではカーナイトは倒れない。火属性に対する彼らの耐性は高い。

 魔法使いたちは炎が効かないとみるや、すぐに氷魔法に切り替えた。


 これには見ていたレアも驚いた。普通に考えればアンデッドに冷気ダメージは効果が薄いとわかるだろうに。おそらく「火が効かないなら氷で」くらいの考えで行動しているのだろうが、なぜよりによって氷なのか。

 しかし偶然にも、ことカーナイトに対してはこれは最適解だ。彼らは元になった金属の性質上温度変化に弱い。

 炎属性攻撃を受けた後は冷気に対する耐性が一時的に失われる仕様になっている。これは逆でも同じことだ。

 哀れカーナイトたちは魔法使い集団による『氷魔法』の飽和攻撃であえなく散ってしまった。後には金属塊だけが残されている。

 序盤も序盤だというのに飛ばしすぎに思える。それだけ気合が入っているということなのか。それとも前衛の攻撃が通用しなかった事がよほど堪えたのか。


 その後もスケルトンナイトとカーナイトが入り混じってプレイヤーたちを襲った。

 カーナイトは素の状態でなら冷気耐性も高い。プレイヤーの魔法使いたちは最初のうちこそ氷属性で倒した成功体験から氷属性ばかりで攻撃していたようだったが、効果がないとわかるやすぐに炎と氷の波状攻撃に切り替えた。

 そこからは一方的な展開だ。弱点に気づいてからは近寄られる前に狩ってしまうことさえ出来るようになった。

 もちろんこちらもそうなる前にそれなりの損害を与えてはいるが、こちらが倒しきる事の出来たプレイヤーはいない。ダメージもポーションやスキルで回復されてしまっているし、戦果と言えるのは前衛の何人かの装備品を破壊した事くらいだ。

 スケルトンナイトは初めから彼らにとって敵ではないし、もはやプレイヤーたちに経験値と金属塊を提供しているだけになってしまっていた。


「……魔法使いが多いというのは思っていた以上に脅威だな。なによりリキャストを気にせず撃てるというのが大きい。ボウガンやマスケット銃の隊をいくつかに分けて、弾込めと発砲を交互にやられるようなものだ。オラニエ公マウリッツだったかな、あれを最初にやったのは」


 パーティではなく、それ以上の数が相手となる戦いだ。その恐ろしさの一端が浮き彫りになった。

 これまでの対多人数戦は全て、こちらは強力な一個の駒のみで戦うものだった。

 ここ王都でかつてレアが戦ったときもそうだし、テューア草原でスガルが戦ったときもそうだ。

 あれらの時は敵の攻撃は何であれ真の意味では脅威でも何でも無かった。連続して魔法を撃たれているという意識すら薄かった。


 しかし今行われているように実力差がさほどない者同士の戦いでは事情は全く異なる。

 前衛やスカウトなど物理攻撃職だけが相手であれば装備品の質で勝てていただろうが、魔法使いが多数おり、しかもこちらの弱点も暴かれてしまってはカーナイトでは太刀打ちできない。


「実に勉強になるな。学ばせてやるつもりが、こちらのほうが学ばされているとは。

 先日のクランの彼らとの戦いもそうだが、プレイヤーたちは時に経験値だけに依らない強さを見せてくれるね。そしてそれによる成長をもたらしてくれる。うちの眷属たちに」


 この戦いは眷属のスケルトンの目を通してジークも見ているはずだ。そしてテューア草原での戦いもスガルの糧になっているはずだ。

 プレイヤーズクランのレイドパーティは使用する魔法の種類を絞り完全分業制にすることで、隊全体の対応力を上げる方向でのチームワークだった。多くの種類の配下を生み出せるスガルにとっては学ぶべきところも多かったはずだ。

 対してここに居る彼らはそれぞれがジェネラリストだからこその隙の潰し方だ。画一化された戦力であるアダマンシリーズにはこちらのほうが合っているだろう。


「精鋭たるアダマン隊と違い、カーナイトには魔法使いはおりません。また私の配下でもあの魔法使いたちに対抗できそうなものと言えば元貴族のリッチたちくらいです。さすがにこれは分が悪いですね」


 スケルトンメイジもいくらかは居るはずだが、彼らではプレイヤーの相手にはなるまい。焼け石に水だ。

 プレイヤーたちは快進撃を続け、王城の門へと迫りつつある。


 王城の中は難易度設定が別だ。手加減する必要はないため戦力的には困ることはないが、王城の正門は閉じてある。これを破壊されるのは避けたい。それに城内の調度品を荒らされるのも癪に障る。


「アダマンスカウトを少し呼ぼうか。少数だったら難易度にそれほど変化もないだろうし。

 彼らならカーナイトのような弱点はないし、隠密性にも優れている。簡単にやられることはないだろう。

 魔法使いに魔法使いをぶつけても力比べになるだけだ。あれが厄介だというなら、後ろから忍び寄って暗殺してしまったほうが手っ取り早い」


「お貸しいただけるのでしたら、是非」


「もう、今日のところはプレイヤーのみなさんも十分に稼げたんじゃないかな。

 初回特典はそろそろ終わりだ。

 代金を支払ってもらってお帰りいただこう」


 ここは王城だ。ここに呼ぶ分にはいくら呼んでも問題ない。

 念の為1個大隊をリーベ大森林から『召喚』し、有事の際には自由に使うようジークとワイトたちに言いつけた。

 ジークはそこからアダマンスカウトを必要数抜き出し、指示を与えて王都へと放った。








★ ★ ★


大変申し訳ありません。

予約公開の時間を間違えて、めちゃくちゃな順番で公開されてしまいました。

サブタイトルの話数通りにお読みいただきますようよろしくお願いします。

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