第134話「プレイヤーズクラン」





 セーフティエリアの方角からわらわらとプレイヤーが集まってくる。

 かなりの人数だ。

 しかしSNSには特にそういう書き込みはなかった。

 にもかかわらず、なぜこれほどの人数がこのタイミングでここに来たのだろう。


 見たところ、装備もかなり上等なようだ。

 レアは一見しただけで素材のランクがわかるというようなスキルは持ち合わせていないし存在するのかも知らないが、彼らの装備は統一感があるというか、デザインが洗練されている。プレイヤーかNPCかは不明だが、何者かが何かしらのコンセプトのもとにデザインしたのだろう。

 それだけの経費をかけることができたということであり、普通は低位の装備品にそんな金はかけまい。


「居たぞ! あのデカブツが例のレイドボスだ!」


「……ルーキーたちは全滅してしまったみたいだな。誰も居ない」


 聞こえてくる会話からすると、彼らの目的はやはりレアのようだ。

 しかし先ほど全滅したプレイヤーたちの知り合いと言う雰囲気ではない。

 ならば少なくともレアの事を知ったのはSNSでという事になるが、それならなぜ書き込んでやらなかったのか。そしてそういった書き込みもなしにどうやってこれほどの人数を集めたのか。


 ざっと見たところ、王都でのレイド戦よりも人数がいる。少なくとも40人は超えているだろう。

 いくらシステムとしてパーティやアライアンスが無いとは言っても、限度というものがある。戦争でもあるまいし、単体の敵に対してこれほどの人数が居てはとても連携など出来ないだろう。そもそも前衛を全員並べて攻撃することさえ不可能だ。こちらが例えばウルルほどの大きさだったら人数が多くても戦えるかもしれないが、大きいとは言え鎧坂さんは3メートル程度である。同時に近接攻撃が出来る人数など知れている。


「──さっきの雑魚どものお友達かな? どうやってこんなに集まったんだ?」


 NPCなら不思議に思ってもおかしくはないだろうギリギリの聞き方で尋ねてみた。この集団のリーダーが誰なのか不明だが、どう答えるとしてもおそらく答えた奴が頭だろう。


「……見た目の割にずいぶんとなんというか、可愛らしい声をしているのだな。なあおい、こいつが例の災厄とやらで間違いないんだよな? よし。

 ──我々プレイヤーには貴様たちモンスターでは想像もつかないような連絡手段があるのだ! あまり調子に乗るなよ!」


 集団の先頭、その中ほどにいたタンクらしき立派な鎧の男性が声を張り上げた。鎧坂さんの『聴覚強化』があるため大声を出す前の話し声も聞こえているが、それはどうでもいい。

 というか聞きたいのはそこではない。


「なるほど? 後学のために教えてもらえないか? それは一体どういうものなんだ?」


「言ってもどうせわかるまい! なぜそんな事を気にする!?」


「……先ほどの雑魚どもは、どこかに連絡をとっているようなことを言っていた。しかし助けは現れず、最期には絶望し消えていった。にもかかわらず、連絡を受けたかのような事を言うお前たちが現れた。どういうことかと思ってね」


 これなら不審には思われないだろうか。

 おそらく大丈夫だろう。この場で得られた情報から推測可能な事実のみしか言っていないはずだ。


「……うーん、なんて説明したら良いんだ? SNSってなんて言えばわかるかな? SNSというのは広場で大声で叫ぶようなもので……。それが聞こえたとしても、別に答える必要はないというか……。単にクラン専用に開設した鍵付きコミュで連絡とっただけなんだが、どう答えれば……」


「いや、団長、別に「答える必要はない!」とかでいいんじゃないですか? 実際答える必要ないわけですし。てかなんで律儀に会話してんですか? 声可愛かったからですか?」


「答える必要はない!!」


「それ俺に言ったんですか? 相手に言ったんですか?」


 なんだこいつらは。漫才師か何かか。

 しかし概要は知れた。

 ゲームシステムとしてはクランなどの機能は無いが、別にプレイヤーが集まって勝手にそう名乗るのは自由だ。外部サービスを利用してコミュニティを開設し、それを使って連絡を取り合い、クランを組織する事は不可能ではない。

 しかし容易にできることでもない。これほどの人数を集め、リーダーとして纏め、外部のコミュニケーションツールを駆使し、組織として機能させる。よほどのカリスマか、ノウハウを持っていなければ不可能だ。このお揃いらしい防具も仲間意識を高めるために一役買っているのだろう。

 いつかFAQでクランについて尋ねていた者がいたが、この人物がそうなのかもしれない。


 システムとして存在しないということは悪いことばかりではない。

 それはシステムとしてのクランに縛られないということでもある。システムに縛られていないがゆえに、口約束で気軽に参加できるし、クランの活動に積極的でなくても何となく所属し続けていられる。わざわざ脱退などしなくても別の同様の組織に所属するのも自由だ。

 ログイン時の挨拶だってしてもしなくても誰にもわからないし、同調圧力のようなものも薄い。所属することで何かを強制されるというようなこともないだろう。なにせクランなどプレイヤーが勝手に言っているだけだ。

 クランハウスを借りるなどの話になってくれば金貨も必要になるだろうが、同時に全員を収容しようなどと考えなければ、一部の幹部級たちだけで資金は賄えるだろう。

 生産職プレイヤーでも仲間にいれば装備の更新もスムーズになるし、お古の装備をレストアして後続プレイヤーに下げ渡すなどすれば、所属する全員に旨味も出てくる。装備の購入自体には金貨が必要になるだろうが、それはソロでも変わらない。素材を大量購入することで値引きなども期待できる分、装備費用は安くあげられるかもしれない。


 そういうクランをこのリーダーは作り、準備を整えここに来た。そういうことだろう。

 独自のコミュニティサイトを利用していたのなら、公式SNSに書き込みが無かったことも頷ける。


「……1日目無駄にした甲斐があったな。まさかイベントのレイドボスが出てくるとは」


「……それな。2日目に集合って聞いたときは出遅れるんじゃないかって思ってたけど」


「……いや、それリーダーが「人の多いところに大人数で押しかけて力技で攻略するのは迷惑になるから」っつって人の少ないところ探してたんだよ。ほらダンジョン攻略第一号狙ってただろ? 宣伝のために」


「……まじかよ。リーダーさすがだな」


「……だったらSNSに宣伝してから災厄討伐に来たらよかったんじゃ?」


「……それだと負けたとき逆効果だろ」


「……まじかよ。リーダーさすがだな……」


 なんというか、このゲームのタンク職のプレイヤーは総じて人の出来た者が多い。ような気がする。

 2日目ならば上位プレイヤーはほとんど出払っているだろうと考えていたが、こういう変わった思考のプレイヤーも中には居るようだ。


「答えてくれないなら仕方がないな。わたしを討伐しにきた、ということでいいのかな?」


 無いとは思うが、何かの間違いだったら叩き潰してしまうのも気が引ける。

 あくまで気が引けるだけで、勘違いだったとしても全員キルするのだが。

 先ほどまでの初心者たちと違い、この彼らであれば経験値の足しになるだろう。 


「言うまでもない! 行くぞ!」


 すでにある程度戦略は構築してあるのだろう。「災厄討伐戦」とやらはSNSでも話題になっていたし、チェックしてあったということだ。

 この短時間でここまで来たにも関わらずすでに作戦が出来ているということは、いずれレアに挑むために普段から打ち合わせをしていたのかもしれない。

 レイドボス冥利に尽きるというものだ。


「スガル」


〈はい、ボス〉


 しかし別にレアはレイドボスではない。どうもそのように認知されてしまっているためそう振る舞ってはいるが、実際のところはただのプレイヤーだ。

 それにこのお出かけ中はスガルに任せると決めている。

 しかし一応レイドボスの振りをしているところであるし、さきほどの会話の続きではないが多少のロールプレイはサービスしてもいいだろう。


「わたしの片腕、この【蟲の女王スガル】が相手をしよう。彼女を下すことができたらわたしへの挑戦権を与えてやってもいい。せいぜい頑張ってくれ」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る