第124話「選考対象外」





 第二回公式イベントの正式なリザルトが発表された。


「……まあ、わかっていたけどね」


 MVPは防衛ポイント──初耳の単語だが、マスクデータとしてそういうポイントが設定されていたらしい──の獲得量の部門でギノレガメッシュが一位、アマテインが二位、TKDSGというプレイヤーが三位だった。

 それ以下の順位は発表されていないが、個人宛には順位は通達されるようだ。

 レアの元にも「選考対象外」という結果が届いている。


 一方侵攻ポイントの部門では一位はブラン。二位はライラで、三位はバンブというプレイヤーだった。

 レアはこちらも「選考対象外」となっている。


「クーデターなんて起こしたものだから、きっちり侵攻側に名前が載ってしまっているじゃないか……」


 イベントではあくまで防衛側、侵攻側として獲得したポイントで順位が集計されている。本人の種族は関係がない。ライラとブランはレアと手を組み、オーラル王国を転覆させたといっても過言ではないし、現在オーラルの国家元首はライラの配下だ。そのあたりでポイントを稼いでしまい、ランキング入りしてしまったのだろう。


「ライラには顔だけでなく名前も隠して生活させないとな……。NPCからはヒューゲルカップ卿とか呼ばれているんだったかな? ならわたしたちが人前で呼ばなければ大丈夫か」


 ブランもそうだ。彼女がプレイヤーだと割れてしまっても、面白くないことになるだろう。


「それはおいおい注意しておくとして。このバンブというプレイヤーが例の、街を制圧したゴブリンなのかな? だとしたらライラよりは少なくともポイントを稼いでいると思ったんだけど……」


 このバンブというプレイヤーが例のゴブリンでない場合、あのゴブリンはNPCだったということになる。

 あるいはレア同様、すでに魔物の領域を支配下に置いていたために運営から提案を受けていたという可能性もある。

 SNSではアンデッドから徐々にゴブリン勢に入れ替わっていったということだった。もしあのゴブリンがあらかじめ魔物の領域を支配下に置いていたなら、途中から雑魚の種類が変わるというのは考えづらい。

 しかし絶対にないとは言い切れない。

 ゴブリンたちでアンデッドを押さえておき、イベント開始とともにアンデッドを街へ追い立ててけしかけたなど、方法はある。


「とりあえず別の国のことだし放っておこう。最悪、上空でウルルを『召喚』して街ごと潰してやれば、何者なのかわかるだろうし」


 ウルルというのは、あのエルダーロックゴーレムに付けた名前だ。一体しかいないなら世界樹のように個体名で呼んでもいいのだが、いかんせん種族名が長い。ちなみに【ウルル】とはオーストラリアにある有名な一枚岩、エアーズロックの現地での古い呼び名である。


 しかしその破壊工作を行うにしても、ウルルを転生させてからの方が良いだろう。現状のウルルはレアがひとりで討伐できたくらいであるし、街の真ん中に落としても討伐されてしまう可能性もある。


「いや、空を飛んだり出来なければ倒すのは無理か? まあいいや。念には念を入れなければ」


 それより、まずは報酬だ。

 レアの特別報酬は、公開されているイベントMVPの3位報酬のものより、やや少ない程度だった。選考対象にならずにそれが受け取れると考えれば大きすぎる見返りだが、参加していれば一位も狙えたかもしれないことを考えれば惜しいような気もする。


「……それはちょっと自意識過剰か」


 特別報酬は「魔法金属ミスリルのインゴット」が3本だった。

 実のところ、そう言われてもそれがどのくらいの価値がある物なのかさっぱりわからない。

 アダマンなんとかがかなり上位の金属だということはわかるが、それと比べて良いのか悪いのかも知らない。

 もっともまともに外部と取引をするつもりがないレアにとって、市場での価値など意味はない。使えるのかどうかが価値基準の全てだ。


「なにか思いつくまで死蔵しておこう」


 あるいはこの王都ダンジョンの宝箱などに忍ばせておいてもいいかもしれない。

 イベント報酬で配るくらいだし、それほど希少ということもないだろう。

 何にしても、事実上ほぼ報酬のなかった第1回イベントに比べれば報酬があるだけ随分マシと言える。


 そしてレアにとっては報酬よりさらに楽しみな事がある。

 限定転移サービスの実装、つまり公認ダンジョンの開放だ。

 これは短期メンテナンスが終われば即実装されることになっている。つまり明日だ。


 この日、ログイン直後に受け取ったシステムメッセージでは、具体的な仕様の説明とプレイヤーの意志の最終確認が行われた。

 具体的な仕様とは、つまりデスペナルティの変更の内容だ。


 その内容は「自身の支配するフィールド内で死亡した場合、ゲーム内で3時間リスポーンが出来ない」というものだった。


 はっきり言って重い。考えようによっては経験値1割のほうがマシだったくらいだ。

 ゲーム内3時間ということはリアルでは2時間である。これは別にいい。

 しかしログインできないと言うならまだしも、リスポーン出来ないということは、3時間は死亡状態のままだということだ。したがって配下の眷属は4時間は死亡したままになる。

 そんな長い間死亡状態になってしまえば、死体を残すタイプのアリやトレントたちからは素材は取り放題になるだろうし、リビングモンスターたちにしてもドロップ素材をその場に残したまま誰も居ないエリアを開放することになる。

 支配エリアの復旧には膨大な時間を必要とするだろうし、レアの復活時に目の前にプレイヤーの集団でも居たら最悪だ。

 一度リスポーンポイントが割れてしまえば、3時間のうちに準備と人数を整えて、作業のように狩り続けられる事になるだろう。なにせプレイヤーたちはどこからでも転移して来られる。


「絶対に死ぬことはできなくなったわけだが」


 加えて言えば、対象エリアが「自身の支配するフィールド」となっている部分もいやらしい。たとえば王都は対象にするがリーベはしない、というような個別の設定ができない。

 以前に考えていたように、承諾してしまえばマイホームを作ることは二度と出来ないということだ。ダンジョンボスに安らぎの地はない。


 しかしそれでもレアは承諾をした。

 レアの支配する街に手軽にカモが押し寄せてくるというメリットを捨て去ることが出来なかったからだ。


 自分の支配地にいる限り、どうせデスペナルティによる経験値ロストは気にする必要がない。

 そのためレアは残った全ての経験値をつぎ込み、メイドやワイト、輜重兵アリなどの頭脳系の配下のINTとMNDを上げられるだけ上げた。

 さらにメンテナンス前、最後に王城のダンスホールに集まり、入念な打ち合わせと、各責任者間でのフレンドカードの交換なども行なった。フレンドカードは意識してインベントリから取り出そうとしない限り生み出されないため、その概念をNPCである彼らに納得させるのに最も時間を要した。

 これまではレアが一方的にカードを渡すだけで済んでいたが、眷属同士のみで会話させようと思ったらそうはいかない。いちいちレアを介していたのではレアがログアウト中に対応できないおそれがある。


 アリ系の魔物は断続的に、しかもそれぞれを数分という短時間の睡眠で活動する事ができる。

 その生態を備えているスガルを総監督とし、スガル直属の配下を各エリアに配置した。有事の際はスガルが現場に『召喚』で飛び、直接指揮したり、直接戦闘する事もできる。これはレアでも同様にしてあり、召喚ターゲット用の眷属はスガルの配下とレアの配下が常にペアで行動するよう義務付けている。


 とは言えリスクを考えれば、レアやスガル、そしてジークが直接戦闘に参加することはほぼ想定していない。この3名が倒された場合の被害は想像を絶するためだ。それ以外の女王級やアンデッド、トレントなどが全て倒されてしまった場合のみ直接戦闘を許している。そんな事態になったら、もうレアたちだけが残っていても変わらないからだ。配下が全てやられた上に自分たちだけ逃げるというのも格好がつかない。


「頭脳系の責任者、って決めてしまったけど、よく考えたら輜重兵アリは別にそれ専用の魔物じゃなかったな。最初は他にすることないからしていたんだった。いつの間にかアリの中で女王級に次ぐステータスになってしまったな……。INTとかに偏ってるけど。

 それとワイトとセットで上げてしまったけど、冷静に考えたら別にメイドにそれほど賢さは要らなかったな」


 レアの独り言に給仕をしていたメイドレヴナントがショックを受けたような顔をした。

 しかしレアは知っている。これは演技だ。まさにいらぬ知恵だけ付けたと言える。


「やってしまったことは仕方がない。眷属にデスペナルティが無いということは、与えた経験値を減らす事もできないって事だし、基本的に眷属の成長は後戻りできない」


 それより心配なのはブランのことだ。

 事前に説明していた通り、リスクは大きいから気をつけるように連絡をしたが、そのときにはすでに承諾の返事をした後だった。

 デスペナルティが3時間の休憩になるならラッキー、とまで言っていた。

 よっぽど直接乗り込んで説明してやろうかと思ったが、あちらにはディアスを置いたままだしクイーンビートルもいる。それにヴァイスというブレーンもいる。彼らに任せておくしかないだろう。


「人の心配より、まずは自分だな。どこからでも転移できる、ということは距離的な問題は無いということだし、ブランよりもわたしの方がプレイヤーの来客は多いだろう」






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