第96話「ヒルス王国滅亡」





「あった。このスレッドが最初かな? だとすれば、リアルタイムで滅亡が確定したのがこの頃ってことなのかな?」





***





【仕様?】謎の現象報告スレ【不具合?】









563:ウェイン

報告はここでいいのかな

俺はもともとヒルス王国を選んで開始したプレイヤーなんだけど、拠点が壊滅してランダムリスポーンを食らった。

今朝まではそれで飛ぶのは王国内の街の近くだったんだけど、今飛ばされたのは違う国の街だった。

他に同様の現象が起きた人いる?


564:オーシャンティ

>>563

ヒルス王国って災厄とかいうボスに滅ぼされたんじゃないの?

もう国がないから最初の選択からリセットされちゃったってこと?


565:ウェイン

>>564

それが今朝まではちゃんと王国内と思われる街に飛んでたんだ。

災厄が王都を滅ぼしたのは昨日の夜中だから、リセットされるとしたらそのタイミングのほうがありそうだと思ったんだけど。

他にいないか? そういう人


566:アンディ

>>563

俺もヒルスのヴェルデスッドって街で細々とやってたんだけど、イベント初日の夜にデスってそれからずっとランダムリスポーンの旅だよ。

2回目に死んだときに宿屋泊まっとけばよかったって思ったけど、なんかこれはこれで楽しいかなって。

というわけで今どこにもリスポーンポイントないから、試しに死んでみるわ


567:平太郎

>>563

>>566

ランダムリスポーンするやつって結構いるんだな

初めて見たわ


568:オーバー坊主

>>567

いやいねえよ

こいつらが特殊なだけだ

俺も初めて見たわ









590:アンディ

ただいま

結構歩いたから遅くなってゴメン

ヒルスじゃない街だった。俺も最初ヒルスで選択したから、もうヒルス国内にランダムリスポーンしないのは間違いないと思う


591:オーシャンティ

>>590

おかえり

じゃあヒルス滅亡ってことでFA?

滅亡した国はシステム的にもう国として判定されないってことかな


592:ギノレガメッシュ

横からすまん

今公式サイト見てきたんだが、大陸の説明が最初の6大国から5大国に修正されてる

各国家の説明からもヒルスが消えてる


593:明太リスト

本当に滅亡したんだ

ウェインは正確にいつまではヒルス国内に復活してたかわかる?


594:ウェイン

>>593

二人ともこっちのスレ来たのか。ありがとう

今朝……いや昼過ぎくらいになってたかな? 昼食とってないから定かじゃないけど

とにかく正午前後くらいではまだヒルス王国内の街だったよ。

それはたどり着いた街で聞いたから間違いない


595:平太郎

>>594

てかなんでその街にたどり着いた時点で宿とらなかったんだ?


596:ウェイン

>>595

フレンドと合流しようとしてて

ウェルスになるべく近い街から飛ぼうと思ってたんだ

それでデスルーレットを


597:オーバー坊主

自業自得で草生える









***





「これ以上は読んでも仕方ないな」


 レアはスレッドを閉じ、いつの間にか温かいものに交換されていた紅茶を飲んだ。


「しかしまたしてもウェインか。でも彼もああ見えて苦労を……あ、最初にランダムリスポーンしたのはわたしのせいか。なら仕方ないな。あれは避けられない事故だった」


 今は別に誰が検証をしたとかはどうでもよい。

 問題なのは、少なくとも今日の昼まではヒルス王国は存在していたということだ。そして夕方以降には公式サイトからさえ抹消されている。


「バグ、というのは考えづらいな。それだったら、なんらかの条件が満たされたから国家が滅亡したと判定され、自動的に更新されたと考えた方が近い気がする。どうせサイトの更新なんてAIがやってるんだろうし」


 だとしたら、その条件とはなんだろう。

 少なくとも滅亡した都市の数などではないはずだ。

 現時点で王都も含めれば6つの都市が壊滅しているが、SNSを見る限り、プレイヤーが常駐している街でそれ以外に滅んだ街はない。

 また王都をレア率いる勢力が制圧したせいだというのも考えづらい。

 昨夜の時点で王城がレアの支配下にあったのは確認しているし、それが理由だったらその時点で滅亡判定が出ていたはずだ。今朝になってからウェインがリスポーンできたことと矛盾する。

 となれば、国家が国家として存続できなくなる条件が他にあるということになる。それにいかにも合致しそうなものといえば。


「王族の進退かな……。王族一行の亡命が成功し、亡命先の国で主権を放棄した……とか?」


 ありうる話だ。ヒルスという国の主権を放棄するという要求を飲むことで亡命を受け入れてもらい、反故にできないよう家族をやんわりと人質にとられた、などの場合。その場合は正式に国が滅んだと言っていいだろう。


「しかし半日……いやわたしが王都に最初に攻めてきたときから数えれば丸一日程度か。その時間で到着できる範囲内の、それも他国の街だ。そんな、その国からすれば国土の端っこの街に、それほど高度な政治的判断ができるようなNPCがいるものかな……?」


 他国の王族に対してそこまでの条件を飲ませることができるとしたら、同じく王族くらいだろう。それも中央で問題を起こしたせいで閑職に回されていたり、蟄居などをさせられていたりするわけでもない、いまだ中央に顔が利くレベルでなければ難しいはずだ。

 加えて、その国にとってヒルス王国が存続することが都合が悪いという条件も必要である。そうでなければそのような要求をする意味はない。

 しかし公式サイトで公になっている情報では、この大陸では人類種の国家同士の争いなどは起きていなかったはずだ。


「あと考えられる可能性としては……。ヒルス王族が、まとめて死んだ、とか」


 こちらの方が話が早い。おそらくまとまって行動していただろうし、そこを襲えば解決だ。実際レアもできることならそうしたいと考えていた。


「でもだとしたら、一体誰がやったんだろう。王族直属の近衛騎士団がついていたはずだし、これを漏れなく壊滅させようと思ったら相当の戦力が必要だ。今のわたしでさえ、可能かどうかは置いておいても1人で行こうとは考えない」


 戦力的にはおそらく1人で十分可能だろうが、思わぬ落とし穴や討ち漏らしなども考えれば、1人でやらないほうが賢明だ。


「死んでいるのか、亡命に成功したのか。どちらのほうが可能性が高いかな」


 現時点では情報が少なすぎて断定できない。ヒルス以外の国や街を直接は知らないし、この大陸の国家において他国の王族というのがどれほどの価値あるものとして考えられるものなのかもわからない。

 それよりも、どちらのほうがレアにとってより悪い事態か。それを考えたほうがいいかもしれない。


「亡命に成功していた場合。この王族自体は正直どうでもいい。普通の貴族と変わらない。近衛騎士団の実力は気になるところだが、まあ結局のところひとつの戦闘集団に過ぎない。より強いものをぶつければいいだけだ。

 問題は持っていたであろうアーティファクトだ。その亡命先の国には現在、2ヶ国分の戦術兵器があると考えなければならない」


 残されているアーティファクトが例の心臓と比べてどれほど違いがあるのか、あるいは心臓が複数あるのか不明だが、あれひとつで十分にレアを殺す道筋をつけることができるアイテムだ。

 制限は大きいとはいえ、攻め入る際には最大限の警戒が必要となる。それが元々の倍の数存在するというのは非常に厄介だ。


 だがここまでは、亡命したと宰相から聞いた時点で想定していたことだとも言える。

 新たに考えなければならないのはもうひとつの可能性の方だ。


「もう一つの可能性。誰かが一行を全滅させたとして……。その場合に問題となるのはなんだろうか。

 まず、戦力的にそれが可能な存在がいるということかな。この王都から馬車……か何かは不明だけど、そういう大人数が移動できる手段で、かつ一日で到達可能な範囲内に、近衛を含む王族一行を撃滅せしむる戦力を用意できる何者かが存在するということ。これが事実なら警戒の必要がある」


 そんなものが近くにいるなら、現在の王都の防衛能力では完全とはいえない。落されるとまでは思わないが、少なくとも王城内まで侵入を許してしまう事態は考えられる。


「それに加えて、その存在が現在アーティファクトを所持しているという事実だ。あれを起動できるのが各国王都の敷地内ということを考えると、もうひと回り、防衛に関してレベルを上げる必要がある」


 ただこれに関しては攻められる分にはあまり心配していない。数も範囲も効果時間も限定的だ。いかに強力な効果と言えど、数で押しつぶしてしまえば対抗のしようはある。こちらのホームであるのだし、起動が可能そうなエリアもあらかじめ想定しておけるだろう。

 大事な宝物を守りながら王城まで侵入するなどという、失敗の許されない高難度ミッションをいきなり企むとも考えづらい。


「この場合、アーティファクトを新たに所持したのが既存の国でないだけ、亡命が成功した場合よりもマシ……なのか? どうなんだろう。

 そもそも国に属する勢力じゃないとしたら、一体何者がそんなことをしたんだろう。野盗とかかな。

 いや野盗にできる芸当じゃないか。あと可能そうなのといえば……。イベントで各地を襲っている魔物勢力が一番ありそうかな。

 まあ戦力的なことだけで言ったらプレイヤーの集団とかの方が可能性が──」


 ひやり、とした。

 あのアイテムをプレイヤーが手に入れたとしたら。


「……いや、さすがにそれはないだろう。まず襲う理由がない。人類側のプレイヤーたちなら、厳重に騎士に守られた一行なんて、護衛こそすれ襲うことなど考えられない」


 しかし人類側のプレイヤーでなかったとしたらありえないでもない。


「魔物側プレイヤー集団か。そんなものがいるならわたし並に敵も多そうだし、いきなりこっちに攻めてくるってのは考えづらいか。なんなら共同戦線とか張れそうなものだけど。それは楽観的にすぎるかな。まあ警戒はしておくべきだけど」


 今ある情報で考えられるのはこんなところだろうか。

 総評としては、どこかの国が2カ国分のアーティファクトを所持している場合の方が厄介に思える。国であれば攻撃にも防御にも使えるだろうが、国でない勢力なら攻撃にしか使用できない。


「いや、どっちも厄介だな。とにかく、失われたアーティファクトの行方がわからないというのが痛い。それを特定すべきという意味では、方針としては当初とかわらないな。

 まあ、王都の防衛を強化はしておくべきだけど。それと情報の共有をしておかなければ……」


 そろそろ、ブランは街を攻め滅ぼせただろうか。

 いやまだかもしれない。

 あれから結構経っているが、急かしていると思われるのも問題だ。


「あそうだ。剣崎の視界を借りればいいんだ」


「……僭越ながら、それは覗きというのでは」


 黙って聞いていたメイドレヴナントもさすがにこれは指摘した。





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