第87話「今日は廃墟でマラソン大会」(ブラン視点)





「さて! じゃそろそろ次の街へ向かいますか!」


 日も陰り、住民たちをゾンビに変えたブラン一行はさっそく次の街を目指して歩き始めた。


「それはよろしいのですが、この街からは北西と南西に街道がのびているようです。どちらに向かうのですか?」


「あー……。さっき街から逃げ出した人とかいなかった? いたっけ?」


 もしいたのなら、その者が逃げ出した先にも街か何かがあるはずだ。

 いや、街道が別れているということは、どちらに行っても人間が利用する何かしらの施設はあるのだろうが。


「少々お待ちください」


 カーマインがスパルトイたちに聞きに行く。ブランやカーマインたちは制圧がある程度すすむまで街なかに侵入していないため、細かいところはわからないのだ。

 カーマインはほどなくして戻ってくると、ブランへ報告した。


「数名、馬で北西へ向け走り去った者がいたそうです」


「北西かー……」


 逃げていったのはこの街の人間であろうから、どちらへ行ったら何があるのかは把握していたはずである。

 街がモンスターに襲われているという状況で向かったのなら、逃げ出したにしろ助けを呼びに行ったにしろ、この街より向かった先の街のほうが頼りになると考えたからだろう。

 そこから考えると、少なくともそちらは今の街より戦力的に充実しており、さらに逃げた者によりこちらの手札もある程度割れた状態だということになる。


「極端にこの街より強いとかでもない限り、よっぽど大丈夫だとは思うけど……」


「あまり大きな街となりますと、質と言うより単純に数に押される可能性もございますよ。何しろこちらは30名少々しかおりません」


 アザレアの言う通りだ。ここはよく考える必要がある。


「あくまで可能性の話ではありますが、距離的に近いのが北西だった、ということも考えられませんか?」


 一刻も早く助けを呼びたい、という目的だったなら、距離は大きな意味を持ってくる。マゼンタの意見も一理あるだろう。


「うーん……。こういうの考えるの向いてないと思うんだよわたしには……。結局どっちがいいのかわかんないな……」


「ひとつ確実に言えるのは、北西にある街にはすでに私たちのことが伝わっているということです」


「加えて、日が落ちるまでこの街で待っていても増援などが現れなかったということは、北西の街はこの街を助けるつもりはすでになく、現れるだろう我々を迎撃するために準備を整えていると考えるのが妥当かと」


 こちらのことが知られているかどうか、というのは非常に大きいだろう。

 こちらのことを全く把握していないのなら、、もし勝てそうになければ迎撃準備中にさっさと逃げ出すことも不可能ではない。

 しかしこちらのことを知っていて、手ぐすね引いて待っているとなればリスクは跳ね上がる。


「……よし、南西に向かおう。遠いかもしれないから、ちょっと巻きで。てか、駆け足で行軍とかできるのかな? 疲労とか無いんだよね確か」


「行軍、と言われましても。常識的に考えて疲労を無視して駆け足そのようなことをする軍隊などありませんが……」


「でも常識的に考えてスケルトンの軍隊もあまりないわよ多分」


「ならいいのかしら……」


 そういうことになった。





 数十分後、ブランはネームドのスパルトイ3体、スカーレット、ヴァーミリオン、クリムゾンによって組まれた、運動会の騎馬競技の騎馬のようなもの上でぐったりとしていた。


「……アンデッドは疲労しないんじゃなかったのか……」


「疲労しないのはスケルトンなどの生きた筋肉を持たない種族だけですね。アンデッドにもいろいろあるということでしょう。例えば大分類で魔法生物というくくりでも、ゴーレム系は疲労しませんがホムンクルスなどは疲労します」


「まほうせいぶつ」


「魔法や何らかの術によって生み出された生物のことです」


「マゼンタは何でも知ってるなー……」


「何でもは存じません。本に書かれていることだけです」


 他の2人は会話に参加しない。コウモリとなってそこらのスパルトイの頭にしがみついているからだ。

 マゼンタも話すときだけ人型に変身し会話している。


「わたしたちは楽をしているからいいとして、まあ言うほど楽な体勢でもないんだけど。とにかくこのまま走り続けられそう? 大丈夫?」


 ブランの下のクリムゾンがうなずく。問題なさそうだ。

 後ろを振り向くと、30体のスパルトイが列をなして追従している。


「……これ、団子状態ってやつかな。スタート直後のマラソン大会みたいだ。やったことないけど」


「しかしご主人様、このように土煙を上げて近づいて行っては、いかに夜と言えどすぐに気付かれてしまいますが」


「近づいたら歩いて……いや中腰で歩いて行くことにしようか。てか君たち、コウモリとか狼とかに変身して先行して偵察とかできないの? 斥候っていうのかな。それやってくれれば、もう少し安全に近づけると思うんだけど」


「……なるほ、いえようやくお気づきになりましたか。では私が行ってまいりましょう」


「無理あるだろそれ! ポンコツかよ!」


 それには答えず、マゼンタは狼に変身して走り去っていった。


「……できる子なのかできん子なのかわかんないな」





 それから2時間ほど走っただろうか。

 マゼンタ狼が戻ってきた。


「ご主人様、この先なのですが……」


「うん。そろそろ街でもあった?」


「いえ、何もありませんでした」


 どういうことなのだろうか。何もないなら報告に戻ってくる必要などない。しかし考えてみればこれまで、彼女たちと2時間も離れたことがなかった気がする。であれば寂しくなったとしても──


「そういうことではなく」


「じゃあどうしたの?」


「正確には街──と思われる物の、残骸と申しますか、完膚なきまでに破壊された瓦礫と土が広がっておりました」


「なんだ廃墟かー。だからさっきの街の人はこっちに逃げてこなかったのかな?」


 これは失敗したかもしれない。獲物となるものがいないのならば、こちらに向かっても仕方がない。ここからまた先ほどの街に戻り、北西へ向かうとなると、半日程度は無駄にしてしまうかもしれない。


「……廃墟、という感じでもなく。土とかきまぜられた瓦礫はまだ尖っていて、土も雑草などは生えておりませんでした。廃墟だったというより、つい最近何者かによって瓦礫の山にされたかのような」


「ほうほう!」


 だとすると、その街はなんらかの魔物に襲われたと考えるのが自然だ。

 先を越されたことに残念な気持ちもあるが、公式が設定したイベントで、開始2日目の夜の時点で完膚なきまでに街が破壊されたなど、NPCの魔物勢力がやれるとは思えない。

 しかも見たところ、この近くにいる魔物はコヨーテやネズミ、ウサギ程度のさほど強くないものばかりだ。仮にそれらに滅ぼされたとしても、コヨーテやウサギが街並みを破壊する理由も手段も思い当たらない。


 だったらたぶん、やったのはブランと同じ魔物プレイヤーだろう。


「もしかしたらフレンドになれるかも! どう思う?」


「……ぷれいやー、というのはご主人様と同郷の方々……のことでよろしいですか?」


「でしたら先日もおひとり、スパルトイが首をはねてやりましたね。例えば彼と友人になるというのは大変難しいように思えますが」


 アザレアとカーマインも人型へ変化し、会話に交じる。

 あの宿屋でリスポーンしていたプレイヤーのことだろう。確かに騙し討ちでキルした相手に笑顔で話しかけるとか、サイコパスというレベルではない。そこから友達に発展させるのはまず無理だ。


「プレイヤーにもいろいろいるんだよ。その街を壊滅させたのが仮にプレイヤーだとしたら、多分わたしと似た感じの人じゃないかなって。それだったら友達になれそうじゃない?」


「……仮にそうだとしても、街1つを2日とかからず瓦礫に変えるような存在です。尋常ならざる力を持っていると思われます。くれぐれも慎重に……」


「まーまー、大丈夫だってたぶん。魔物側のプレイヤーかー。楽しみだなぁ」





 それからしばらく走っていると、やがてマゼンタの言った瓦礫の丘が見えてきた。

 その街はもともと小高い丘に広がっていたようで、まるで全体が瓦礫と土でできた丘であるかのように見えている。


「ほあー……。これは……やばいねえ……」


 いくぶん楽観的に考えていたブランだったが、その光景を見ればさすがに肝が冷えた。


 これを成すほどの力を持つ存在など、想像もできない。

 たぶんプレイヤーだろうとは思っているが、もし仮に違った場合、ブランたち程度が太刀打ちできる存在とは思えない。


「石とか建物を壊すことに特化した魔物、とかだったらまだなんとか対抗できるかな……」


「仮にそうだったとしても、それを行なう前にこの規模の街の防衛戦力や住民などを殺し尽したという事実に変わりはないかと……」


 その通りだ。広大な丘を包み込むように広がるほどの規模の街だ。たぶん、ここら一帯の中心的な街だったのだろう。

 その内包する戦力がどれほどだったのか、想像するに余りある。


「……さっきの街の人、こっちに助けを求めに来なかったのはなんでなんだろ」


「この状況を知っていた……という可能性もなくはありませんが、単純に距離の問題かと思います。おそらく先ほどの街の北西方向には、そう遠くない場所に街があったのでしょう」


 そう考えるのが妥当だろう。大きいが遠い街より、小さくても近い街の方が助けを求めるなら向いている。


「この様子だし、もう人間とかはいないだろうけど、一応慎重に──」


「ご主人様!」


 急にアザレアに腕を引かれ、クリムゾンらの上から引き倒される。


「いったー……。何す──」


 地面に這いつくばったブランの目の前に軽い音を立てて矢が突き立った。

 どうやらブランを狙い何者かが矢を射て、それを回避させてくれたらしい。


「ぅおお……。あ、ありがとうアザレア……」


「まだ立たないでください……。こちらを狙っている集団がおります」


 スパルトイたちの足の隙間から見上げると、遠くに軽装の集団が見える。野盗か何かだろうか。


「……いえ、だとしたら錬度が異常です。お忘れかもしれませんが、今は夜です。月明かりのみであそこからこちらを狙って矢を射るなど、尋常な腕ではありません」


 しかしそれにしては、恰好がどうもみすぼらしいというか、そこらの瓦礫から掘り起こした鎧を着ているかのような薄汚れた姿をしている。あとお忘れかもしれませんがって随分失礼である。さすがのブランでも現在が夜かどうかは見ればわかる。


 それからも散発的に矢が飛んでくるが、ブランという荷物を放り出したクリムゾンたちによってすべて打ち払われた。


 やがて矢では埒が明かないと考えてか、軽装の集団は隊列を組んでゆっくりとこちらへ近づいてきた。

 この段になってようやく、ブランはアザレアたちから立ち上がる許可が得られた。


「貴様たち、何者だ! 災厄の手のものか!」


 その集団の、おそらく首領であろう身なりのいい男が叫んだ。身なりがいいと言っても、どこかくたびれているというか、薄汚れているのは他の者と同様だ。


「……さいやくってなんのことだろ」


「……状況から察するに、この街を壊滅させた存在ではないかと。彼らはこの街の守備隊の生き残り……か何かではないでしょうか」


「だとすれば、とんだとばっちりですね……」


「うーん……」


 とはいえ、そもそもブランたちがこちらへ向かっていたのも、街などがあれば滅ぼすつもりだったからだ。先を越された上、ヘイトのなすりつけをされたからといって、文句をつけられる立場でもない。


「……まあ、街はともかく、獲物を残しておいてくれたと思えば……」


「獲物、になるのがどちらかはわかりませんが……」


「えっ。そんなヤバい奴らなの?」


 こちらの方が数は多そうに思える。

 これまでブランたちは寡兵で街を落としてきた。つまり、一般的な守備隊よりもスパルトイの方が強力だということだ。その上こちらの方が数が多いのであれば、負けるとは思えない。


「先ほどの弓の腕、あれと同等の近接戦闘技術があると仮定すると、スパルトイ30体では少々厳しいかと……」


 みすぼらしい格好をしているから、これまでの守備隊と大差ないだろうと考えていた。

 どうやら敵は恰好のわりにレベルが高いらしい。

 見た目でこちらを撹乱しようとは、NPCもなかなか侮れない。


「とはいえ、逃げようとすれば矢を射かけられてしまうでしょうし、撤退も難しいですね……」


「戦うしかないなら、さっさと始めた方がいいかな……」


 こちらがひそひそ話をしている間、あちらでも何か話し合っているような雰囲気を感じる。

 何人かは腰の剣にかけている手に力を込め、今にも抜いて斬りかかってきそうだ。


「やる気満々だな……」


 戦闘が避けられないのなら、先手を取った方が良い。


「じゃあやるか。『霧』」


 暗闇の中で音もなくブランの魔の手が広がっていく。するとほどなく相手の集団がざわついた。

 霧そのものを感知できるわけではないようだが、霧に包まれる前に気づくほどの勘の良さはあるようだ。

 たしかに小さな街の衛兵隊とはレベルが違う。


「おのれ! 妙なわざを! 各員、十分注意しろ! 攻撃を許可する!」


 一番偉そうなおじさんの号令一下、再び矢が飛んでくる。

 しかしスパルトイたちのガードを抜くことはできない。

 また号令と同時に剣を抜き放ち、こちらへ向かってくる者もいる。

 矢を射た者も弓を投げ捨て、剣を抜く。先ほど一旦矢を射かけるのをやめたのは、効果なしと判断したのではなく単純に矢の残りが少なかっただけなのかもしれない。


「スパルトイたち! 迎撃だ! 霧から出ないように!」


 そう言いながらブランは魔法を準備する。範囲ギリギリだが、こちらへ向かってきているためすぐ射程内に収められる。


「『ヘルフレイム』!」


「『ヘルフレイム』」

「『ヘルフレイム』」

「『ヘルフレイム』」


 ブランの魔法発動を皮切りに、アザレアたちも同時に魔法を放つ。

 同じ魔法を同時に放ったからと言って特別にいい効果などはないが、少なくとも氷系や水系の魔法と同時に放つ時などのように余計なロスは起こらない。

 相殺と呼ばれる仕様の一種だ。単体を対象とする投射型の魔法の場合、同じ属性であれば接触地点でお互いのエネルギーを解放し合い、残った分がそのまま進むことになる。これが座標起爆型の範囲魔法の場合、目標地点が起爆地点であり接触地点でもあるため、その場で干渉分の全てのエネルギーを解放し、残った分もそこで起爆する。


 『ヘルフレイム』4つ分の破壊が荒れ狂い、敵集団にダメージをばらまく。しかし倒せた者は多くない。ほとんどの敵は、ひるみはしたがすぐに体勢を立て直し、再び駆けてくる。


「マジか! あれ効かないのかよ! やべえ奴らだよこれ!」


「ですからそう言っています!」


 もう一発、別の魔法なら撃てそうだが、間もなくスパルトイたちと接触してしまう。範囲魔法を使うのはうまくない。


「『エアカッター』!」


 単発でさほどダメージは見込めないが、この暗闇でこれを避けるのは無理なはずだ。当れば嫌がらせにはなるだろう。

 モルモンたちも単発魔法に切り替え、それぞれ敵を狙って撃っているが、ブラン同様決定打を与えられてはいない。


 それからすぐ、スパルトイたちが敵に接触し、近接戦闘が開始された。

 敵は魔法によるダメージをかなり受けているらしく、こちらの攻撃がヒットさえすれば容易に体勢を崩し、そのまま倒すことができている。どうやら魔法も全く効かなかった訳ではないらしい。

 しかしその止めの攻撃がなかなか当たらない。


「……武器のリーチの差ですね。こんなことなら、これまでの街の衛兵たちの武器を接収してくるべきでした」


 確かに、敵は剣で武装しているが、スパルトイたちのメインウェポンは拳か爪だ。圧倒的にリーチが足りていない。

 しかし、こんな戦力がいるということがあらかじめわかるはずがない。スパルトイの爪よりも切れ味の悪い粗悪な剣など、荷物になるだけだと判断して全て置き去りにしてきてしまった。


「てか、壊滅しててもこの戦力ってことは、ここってまだわたしたちが来ていいエリアじゃなかったってことかな……難易度的に」


 まったく太刀打ち出来ないわけではないが、倒す敵の数よりも倒されるスパルトイの数の方が多い。このままではジリ貧だ。


「巻き込む前提で範囲魔法を連発すればなんとか……」


「でも後ろの、偉そうなおじさんのところまではカバーできないよ。あいつらが残っちゃったら、スパルトイなしで倒せるかどうかちょっとわからなくない?」


 偉そうなおじさんの周りには2人の騎士らしき者がいる。この2人だけはきちんとした騎士鎧を着ている。明らかに格上の存在だ。


 しかしもう、スパルトイたちは残り少ない。クリムゾンなどの特別に強い個体と、その他には数えるほどしか残っていない。

 敵もかなり減らしてはいるが、そろそろ数が逆転する。

 数的優位を頼みに戦線を維持していたところに、数が逆転してしまえば戦況は加速度的に悪い方向へ傾いていくだろう。

 というか、もうお互いの数が少ないためそのまま決着となりかねない。


「あそうだ! 『恐怖』!」


 『精神魔法』の存在を思い出し、イチかバチかで発動してみた。

 しかし敵の様子に変化はない。抵抗されてしまったようだ。


 情勢が傾いてきたため、向こうの指揮官も油断してこちらに近づいて来たりしないものかと思ったが、そのような様子もない。近づけば範囲魔法に巻き込まれる可能性があるため、当然と言えば当然だが。

 相手は僅かなミスもしないよう注意し、確実にこちらを殺すつもりだ。


「……我々はともかく、あれほど手駒を失ったとなれば向こうも全滅といっていい損害だと思うのですが、何の躊躇もなく攻撃を続行していますね。異常な士気の高さです。死を恐れていないのでしょうか」


「……なんで我々はともかくなの?」


「ご主人様の眷属であるスパルトイたちは、ここで死んでも前回休憩したあの街で復活いたしますから」


「あそうか。じゃあ向こうもそうなんじゃない?」


「それは──なるほど、あちらの首領は人類の中でも支配者階級というわけですか」


 そうこう言っているうち、残っているのはもはやクリムゾンたち強力なスパルトイ3体のみになってしまった。


「あ、これほんとにやばい」


 いつかのアリが脳裏に浮かぶ。あの時と同じ、いわゆる詰んだ感を感じる。


 クリムゾンたちの脇をすりぬけ、マークが外れていた一人の敵がこちらへ走ってくるのが見えた。


「っとお! 『サンダーボルト』!」


 咄嗟にブランが放った魔法が命中し、一瞬ひるんだが変わらずに向かってくる。ただ、かなりダメージは蓄積されているようだ。もうひと押しだろう。


「『アイスバレット』!」


 しかしアザレアの放ったこちらは躱されてしまう。


「『フレアアロー』!」


 カーマインの魔法も躱された。しかし敵は避けた拍子に瓦礫に足を取られ、つんのめる。

 そこへいつの間にか狼に変化していたマゼンタが走り寄り、喉笛を噛み切った。


「ナイス! でもあぶなかったな、ちょっとこれ以上は──」


「ご主人様!」


 アザレアの声に前を向くと、敵の親玉が矢を放つところだった。


 ──おっさん弓使えるのかよ! てか矢残ってたのか!


 矢が放たれる瞬間がスローモーションで見える。

 

 ──あ、これアカンやつだ。


 この軌道は当たる。

 ブランは思わず目をつぶり、来るべき懐かしのシステムメッセージに備えた。





 しかし聞こえたのは無感情なメッセージではなく、轟音だった。


「──えっ」


 思わず目を開けると、そこには真っ黒い壁がそびえていた。









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