第82話「殺戮の王都」





 現在のレアでさえ、先ほどの騎士たちを葬った時にわずかながら経験値を得ることが出来た。

 しかし今のプレイヤー3人からはほとんど経験値を得ることができなかった。


「おかしいな……? 明らかに今の3人──というか2人とおまけの方が、騎士より格上だと思うんだけど……。

 何か経験値を得られない条件でもあるのかな?」


 ウェインたちの忘れ物、鎧坂さんのドロップ品をインベントリにしまい込みながら考える。

 しかし今の所、その条件を絞り込むにはサンプルが足りない。


「まあ、次回そういう事があったらもう一度考えてみればいいか」


 ウェインたち、わずかに残っていたプレイヤーと有力そうな騎士たちを始末したレアは、上空でふたたび大量のアダマンたち、そしてジークを街中に『召喚』した。

 彼らを街に放ち、先ほど同様建物などの破壊は極力避けて、邪魔な兵士や騎士たちから始末させる。


 しかしまず、最初にするべきことは決まっている。

 それは宿屋などのリスポーンポイントの発見と制圧だ。


 今戦った3名のプレイヤーは全員、前回の戦闘で死んでいたはずだ。にもかかわらずレアが戻ってくるより先にここにいたということは、王都でリスポーンしたということに他ならない。


 召喚した眷属たちはリビング系モンスターとアンデッドのため、『精神魔法』は効きづらいだろうが、例のアイテムもある。補充できていなかったとしても、あと4つは持っているようなことを言っていた。

 となれば、最悪の場合4体は『支配』される可能性があるということだ。『支配』された4体と、それと戦わされる4体と合わせて一時的に8体が行動不能に陥る可能性がある。要注意だ。


 それとあのギルとかいうプレイヤーだが、彼は現時点でかなりの実力があるように見えた。1対1ならアダマンリーダーと互角か、それ以上だろう。あの第一回イベントのことを考えれば、相当頑張って稼いできたことが窺える。

 先ほど集まっていた他のプレイヤーたちも同様であろう。これはレアもうかうかしていられない。


「王都を落とし、この国を滅ぼし、もっともっと経験値を稼がなくては。何せプレイヤーたちは何人でも連携して襲ってくるからね。こちらは結局のところはわたし1人が倒されてしまえば戦線が崩壊する。

 しかし、協力プレイか」


 レアはしたことがない。このゲームでは、だが。


「……友達いな、いや、少ないからね、わたしは……」


 別に羨ましいということはない。

 ないが、ただ単純に、そう合理性の観点から、リスク分散という意味でも、1人くらいはプレイヤーの協力者がいてもいいかもしれないと思わないでもないこともない。


「……どこかに魔物側のプレイヤーでもいないものかな。そちら側の人ってあんまりSNS利用する人いないんだよね……」


 こう、気前よく人類の街を蹂躙することに楽しみを覚えるようなプレイヤーでもどこかにいればよいのだが。

 付け加えるならば、NPCのイベントボスのふりをしたりすることに理解があるというか、悪ノリ的な悪戯心を持てるような人材であればなおよい。


「そうそういないかな。他の国とかにでもいてくれれば……。まあ、まずはこの国を平らげてからだけど」


 これ以降は、リーベ大森林には人は来なくなるだろう。なにせ最寄りの街がもう存在しない。

 これはトレの森にも同じことが言える。


 であれば、経験値を稼ぎたいのなら、計画通りこの王都を死の街とし、こちらで獲物を待ち受けるのがよいだろう。

 一国の王都がまるごと魔物の領域に飲まれたとなれば、各国としても座視はできまい。

 そのためにはこの件はなるべく大陸中に広めてもらう必要がある。


〈馬で逃げようとする騎士や兵士は無視しても構わない。そのまま行かせてあげるといい。ああ、馬などではなくただ走って逃げようとするものがいたら、それは始末してもいい〉


 走って伝令などさすがに有り得ないだろう。そんなものがいればおそらく単なる逃亡兵だ。正式な騎士であれば、ここで逃げたとしても頭の貴族を潰されればどうせ死ぬことになるため、向かってくるはずだ。


「さて、宿屋はどこかな……」


 街中は放たれた骸骨騎士たちであふれている。王都の広さを思えば、アダマン隊だけならば数が心もとないが、ジークが『召喚』したスケルトンナイトはとにかく数が多い。『召喚』可能な限界数より明らかに多いので、なんらかのスキルでこの場で増やしたりなどをしているのだろう。


 ひとつ、よかったことといえば、眷属の眷属であるアリたちやスケルトンナイトたちも、レアが死んだのちの1時間後にはリスポーンしたことだ。

 自動リスポーンの1時間というのはクールタイムのようなものではなく、何か別の要因で設定されている時間であるようだ。ありそうなのは「蘇生受付時間」だろうか。その間は蘇生される可能性があるため、自動リスポーン出来ないようになっているというのは納得のいく話だ。


 これほどまでに混乱してしまえば、人の持つ本来のさがのようなものが如実に表れてくる。

 隣人の手を引いて逃げようとする小太りの商人らしき者もいれば、人波をかき分け、押しのけるようにして逃げる兵士らしき者もいる。

 ただひとつ言えるのは、すべての者たちが骸骨たちから逃げようとしているということだ。


「逃げる奴はただの王都民だね。そして逃げない奴は……」


 死ぬことのない騎士、そしてプレイヤーである。


「──ウェイン君、みつけた」


 上空からならば、おかしな動きをしているものはとても目立つ。

 彼はギルとともに人波を逆にかき分け、騎士たちと連携してアダマンたちやアンデッドたちに立ち向かおうとしている。

 ならば彼らの走ってきた、その後ろの方向に宿屋などがあるはずだ。


「でもどう見ても、貴族街っていうか……。はっきり言えば都市の中心部だな。こんなとこに泊まれるほどお金あるのか……?」


 リスポーンポイントがわからないのなら仕方がない。まさかすべての建物を潰して回るわけにもいかない。この美しい街並みはなるべく残したい。破壊しないように、リスポーンポイントを押さえるしかない。


「そのためには……。この王都の、セーフティエリアと思われる場所全てを制圧した状態で、彼らをキルする」


 ならばもっと数がいる。

 しかしレアの『召喚』もジークの『召喚』も、限界まで行使してしまっている。クールタイム終了まで今しばらくかかるだろう。


「……システム的に制圧するだけなら、戦闘力は要らない……かな」


 どうでもいい手駒を一時的に増やすということにかけては、レアもジークも手札を持っている。

 『死霊結界』や『死霊将軍』の『徴兵』だ。


「戦闘は戦闘力のある者たちに任せて、建築物内のクリアリングは弱いアンデッドにやらせよう」


 宿屋を探すのをやめたとしても、レアにはまだ他の仕事がある。

 『死霊結界』を発動させ、死んだばかりの住民たちをゾンビに変えながら、アダマン小隊にウェインたちを追わせた。

 運悪く陽に当たってしまったものは即座に昇天しているが、雄大な城壁のおかげで王都内部のほとんどには影が落ちている。


 ウェインは別にどうでもよいが、あのギルというプレイヤーはこちらの戦力を打倒しうる力を秘めている。

 それなりの数で抑えておくしかない。

 それでいて彼らは死ねばまたどこかからリスポーンして出てくる。

 そのポイントが絞り込めていない以上、こちらが王都全域を制圧するまでは生きていてもらわねばならない。

 自害などをしないよう巧く調整して戦闘を継続させておく必要がある。

 まだ見つかっていないが、あの『精神魔法』特化君も要注意だ。彼1人に最大4体を支配され、その倍の数まで一度に無力化される恐れがあるとなれば、彼1人にもアダマン小隊が複数必要だ。


「まあ、任せるしか無いね。わたしはわたしで……」


 レアはウェインたちが来た方向、王都中心部を見つめた。


「貴族たちを片付けて、騎士を打ち止めにしておかなければ。彼らもいくらでも出てくるからね」





 王城には意外なほど騎士が少なかった。これを見る限りだと、騎士の多くは街の方へお出かけしているらしい。

 尊きものたちよりも国の礎たる住民たちを優先するよう命令が出されているという事なのだろうか。


「その志は立派だと思うけど……。自分たちが死んでしまったら、その住民を守る騎士だって死んでしまうだろうに」


 どちらにしても、騎士が少ないのなら楽ができて良いだろう。


〈陛下〉


「えっ」


 王城の入り口となる城門、その前にいるのは、ディアスとジークだ。

 ジークはわかる。レアが『召喚』したからだ。

 しかしディアスはなぜここにいるのか。彼を『召喚』できるのは主君であるレアだけだ。

 城門前に降り立ち、尋ねた。


「なんでディアスがいるんだい? まさか走ってきたの?」


 そんなわけがない。が、ありえないとも言い切れない。いや、可能だとしてもありえまい。ディアスがリスポーンしてからまだ1時間ほどしか経っていないはずだ。

 レアのように空を飛んできたというならまだしも、リーベ大森林から王都まで走って1時間で来られるとはとても思えない。


〈私が『召喚』したスケルトンリーダーにおぶさってきたのです……〉


 ジークが済まなそうに報告する。

 全く意味がわからない。


〈つまり、儂は一時的にスケルトンリーダーの装備品となり、一緒に『召喚』されたというわけですな〉


 なんだそれは。そんなのありなのか。


「いや、駄目でしょ。絶対次のメンテで修正されるやつだよこれ……。想定と異なる挙動を確認したためおぶったキャラクターは装備品とは見做さないよう調整を行いましたってなるやつだよ……」


 彼ら眷属NPCは、基本的にレアの命令を聞く。さすがに超高度なAIを搭載しているらしい事もあり、ファジーな命令には柔軟な反応を見せてくれる。リアルの人間となんら遜色がない。

 それどころか、我の強い性格の個体に至っては、そのファジーな命令を逆手に取り、独自に解釈してやりたいことを捩じ込んでくることさえある。

 これもおそらく。


〈儂は陛下の近衛を仰せつかっておりますから、いかなる手段を用いても陛下のもとに馳せ参じねばと……〉


「そんなことだろうと思ったよ……。まあ、来てしまったものは仕方がない。ちょうど、これから城攻めだ。3人で行くとしようか」






 

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