第80話「魔王覚醒」
「これが『魔眼』か。おおう、慣れてないと酔いそうだ」
魔王になったことでアンロックされた『魔眼』ツリー。その最初のスキルである、ツリー名と同名の『魔眼』を取得したレアは、早速発動させてみた。
『魔眼』は切換え型のスキルで、いったん発動させると解除するまで『魔眼』状態が継続する。発動中は最大MPが一定量減った状態になり、解除しなければ回復しない。
そして『魔眼』の効果は「魔力を視認することができる」というものだ。
魔力というのはつまり
その理由として設定されているのが、この世界には空気中にマナが満ちているという世界観である。
MPというパラメータを持つ全てのキャラクターは、空気中より何らかの手段でこのマナを取り込んでおり、それを体内で昇華してMPに変えているため、消費したMPもすこしずつ回復していく、というわけである。
この『魔眼』を発動させると、キャラクターの持つMPの他に、空気中のマナをも視認することができる。そのため視界全体がピンク色の薄い霧に包まれたかのような風景に見える。
魔力を視認するにあたり、物を見る時のように可視光の反射が必要というわけではないため、今レアがいる洞窟のような薄暗い場所で発動させれば、まるで霧が自ら発光しているかのように浮いて見える。
それでいて岩の壁などの部分はマナがないので、そこだけ霧が薄まって見える。ゆえに洞窟のように暗い、まったく光がないところでも間接的に周囲が見えるということになる。
通常のモノクロ映像の濃淡を逆にしたもの、というと多少は伝わるだろうか。
ただし色や周囲の明るさなどは全くわからないため、その点においては違和感があるが。
本物の霧というわけではなく、あくまで効果範囲内の魔力を視認する能力であり、視界の広さは効果範囲に依存する。
現在であれば、一般的な遠距離攻撃が行える程度の位置なら十分に視ることが可能だ。
レアの内包するMPは非常に多いため、『魔眼』で自分の手や翼を見てみるとそこだけドピンクに塗りつぶされて見える。集中すれば羽根の一枚一枚まで確認はできるが、普段はそこまでする必要はないだろう。
戦闘をする分にはこれで問題ない。
なによりレアにとって重要なのは、この『魔眼』はあくまで魔力を視認する能力であり、先も述べた通り可視光は必要ないという点だ。オンオフはスキルのオンオフでのみ行えるため、オンの状態であれば常に発動している。
つまり、目をつぶっていても周りの魔力は見えてしまう。目をつぶったまま戦闘が可能だということである。
これでひとまず視力の問題については解決したと言っていい。スキル名が『魔眼』であるなら、魔法などの発動条件である「視認する」という条件にも当てはまっているはずだ。
まだ試してはいないが、もしかすると『魔眼』があれば、魔法そのものを対象に魔法を放つことができるかもしれない。
通常、相殺を狙う場合は相手の魔法の軌道を予測し、その軌道上に自分の魔法が割り込むように考えて撃つ必要がある。しかし範囲魔法のような座標を視認して起爆するタイプの魔法であれば、この『魔眼』と併用することで相手が撃った魔法を視認して直接相殺してやることができるかもしれない。
「ふふふ……。これは楽しみだ。わたしの時代が来ているな」
『魔眼』ツリーには『魔眼』の後に『魔眼強化』、『魔法連携』というスキルが続いていた。
『魔眼強化』はわかりやすく効果の増強と言える。効果範囲を広げ、また個別に設定した対象の魔力の透過度を上げるというものがあった。
これはたとえばレアの魔力の透過度を変える場合、『魔眼』でレアを見るとき、設定した透明度で透けさせることができるというものだ。自分の手足や羽根が邪魔なときなどは便利であるし、なにより目を閉じているときの、瞼一枚分の魔力とはいえ、フィルターがかかったような視界を改善することができる。
もうひとつ、このピンク色に見えている色の初期設定を変更するというものもあったが、とりあえず無視しておいた。何色でも別に変わるまい。
『魔法連携』についてはさらに恐るべき効果だった。必要経験値もそのぶん高価だったが。
これは魔法の発動キーを『魔眼』に紐付けするという効果で、つまり発動の際の発声が必要なくなるという事だった。対象を『魔眼』で睨みつけ、発動したい魔法を強く意識すれば、それだけで魔法が発動するのだ。
ただし、条件として「射線が通っていること」というものがあるため、眼を閉じたままではこれは使えないようだ。別に目からビームを発しているわけではないので射線には関係ないはずなのだが、『回復魔法』を試し撃ちしてみたが駄目だった。
とは言え声を出すなどの動作と比べれば、眼を開けるだけの方がはるかにハードルが低い。しかしレアが使用するにはあらかじめ薄目で周りの明るさに慣れておくなど、注意が必要である。
つまりこれを使う場合、まず少しだけ目を開き、明るさに慣れてから完全に目を開けて対象を睨みつけ、すると対象に魔法が襲いかかるという、なんというか。
「これちょっとかっこいいんじゃないかな……。ふふふ」
ともあれ、これで視力の制限をカバーする手段は手に入れた。
「次は日光か……。木陰だったらよっぽど大丈夫だったのを考えると、これは常時『闇の帳』とかを発動させておけばいいかな」
魔王になって取得可能になった『闇魔法』の、その初期ランクのスキルである『闇の帳』は周囲一帯の光を奪う能力がある。ただし完全に奪うというわけではなく、薄暗闇になるという程度だが。
先ほどの戦闘を思い返せば、そのくらいでも日光を遮ってくれれば問題なさそうである。
こちらは最大MPが一定量減る『魔眼』と違い、発動中は常に微量のMPを消費し続けるので、極端に長時間使用するようであれば注意が必要だ。
「これでわたしの持つデメリット効果は事実上相殺できたとして……。ついでに他にも魔王ならではのスキルをとっておこう」
まずは角だ。
角にはもともとパッシブ効果として『精神魔法』や『支配者』系のスキルにボーナスがつく効果と、相手から受けるそれらのスキルの抵抗を上げる効果がある。
しかし新たに体の一部として追加されたわけであるし、たとえば『角撃』とか、そういったスキルが増えていてもおかしくはない。
「うーん、無いなあ……。まあ、冷静に考えれば角で物理攻撃ということはつまり頭突きするってことだし、魔王が頭突きというのもちょっと……。これはいいか別に」
では次は翼である。
こちらは『飛翔』がアンロックされる効果だったが、他にも別のスキルなどの条件により、新たに解放されたスキルがあるようだ。
「ふふふ。『翼撃』というのが増えているね。これはあれだろう。羽根とかたくさん飛ばすスキルに違いない。かっこいいじゃあないか」
うきうきと『翼撃』を取得してみたが、スキルの説明を見たレアは真顔になった。
「……ああ、そういう。これ絶対『素手』と翼で増えたスキルだろ……。だいたい翼って言ったら普通は繊細な器官なんだから、これで殴るとか……。まあ、いいけどさ」
現実でも白鳥などの一部の鳥は、その翼による打撃で時に自分より大きな生物の骨を折ったりもするそうなので、ありえないでもない。
ゲームの世界ならば、頑丈さや翼の力などはVITやSTRなどで強化できるため、翼で殴ったところで反動ダメージなどはそうそうないだろう。
それにレアの翼開長──翼を思いきり広げた際の長さ──は、ゆうに3メートルは超えている。普段は体を抱くように畳み、腰に巻きつけたりしているためあまり目立たないが。これも畳んだだけで明らかに本来のサイズより小さくなっているように見えるのだが、助かっているのであえて気にしていない。
この3メートルの約半分のリーチを持つ近接攻撃と考えれば、意外と悪くない気もしてくる。
「あ。これ単発スキルじゃなくてツリーだな。次が……おお、これだ! 『フェザーバレット』!」
『素手』の派生の『翼撃』からの単なる派生でこれが解放されるというのは少し考えづらいため、きっと他にも何かあったのだろう。有力なのは『投擲』だろうか。
これは子狼たちと遊ぶために取得しただけで、これまでまともに使ったことがなかった。
しかしインベントリに石でも入れておけばいつでも使えるため、『投擲』は汎用性の高いスキルと言える。無くても物は投げられるが、あれば命中率や威力を向上させたり、特殊な効果を付与したりできる。
「んひっ……! なんだ……?」
『フェザーバレット』を取得した瞬間、腰がむずむずしてきた。しかしこの感覚は覚えがある。
「……やはり。翼が増えている」
腰から広がる純白の翼が二対四翼に増えていた。
『フェザーバレット』を取得したことで増加したということは、これは一対は飛行用で一対は射出用ということだろうか。あるいはどちらかは『翼撃』用だろうか。
「……じゃあこの、次の『フェザーガトリング』っていうのとったらめちゃめちゃ翼増えたりするのかな」
取得するなら『フェザーバレット』の様子を見てからにしようと考えていたため、特に今取るつもりはなかったのだが、好奇心に負けて取得してしまった。
「……変わらないのか。なんなんだ」
ここまできたらついで、というわけでもないが、この次のスキルは『識翼結界』というものだった。
この効果は「周囲に自分の羽根を舞わせ、羽根の舞う範囲内の全ての情報を得ることが出来る。また範囲内で自身が発動するスキルの成功率と効果にボーナス」というものだ。範囲は確認してみる必要があるが、これは非常に有用といえる。言えるのだが。
「いや、人聞き悪くないかなこれ……。しきよくて……。まあ取るけど。しきよくの魔王か……。うーん……、んひぅっ!」
もはやお馴染みとなったむずむず感と共に、腰の翼がまた一対。
「……えーと、じゃあこういうことかな。近接物理用と、遠距離物理用と、魔法補助用。なんだそれ」
見た目にはどの翼も変わらない。生えている位置によって多少のサイズの差はあるが、それだけだ。
シャドーボクシングのように翼で素振りをしてみたが、どの翼でも同様に殴れそうである。
壁に向かってフェザーバレットを撃ってみたが、意識した翼から一筋の白い光が飛び、壁に羽根が突き刺さっていた。
特にどの翼がどうとかいったことはなさそうだ。
「いずれにしても、これで戦闘力は向上したと言えるかな。物理に偏ってる気もするけど。
よし、さっそくリベンジに向かおう」
早く行かねば、1時間が経ってしまう。
いや、これは一刻も早くリベンジに向かいたいからであって、復活した眷属と顔を合わせるのが気まずいとかそういうことは一切ない。
「ここからなら、『高速飛翔』でぶっ飛ばせば1時間くらいで着くかな。そのくらいならまだ何人かは帰らずに残っていてくれないかな。というか、彼らがどこから来たのか知らないけれど、まずあそこから帰る手段がそうそうないか」
★ ★ ★
本年も読者の皆様方には格別なご配慮を賜り、心より感謝いたします。
どうぞ良いお年をお迎えください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます