マルチプル・プレイ

第79話「リザルト」(ウェイン視点)





 ウェインがリスポーンしたのは王城内の仮眠室だった。

 決戦前にここで一度ログアウトをしておいたからだ。


 隣のベッドでは、ギノレガメッシュが起き上がっている。


「最後よく見えなかったんだが、勝ったんだよな?」


「そのはず……だと思う」


〈……イベントボスは討伐した。リスポーンしたなら外壁まで戻ってくるといい〉


「あ、ヨーイチからだ。討伐成功だって!」


「おう、俺んとこにもサスケから来たぜ。やったな!」


 二人はベッドから飛び起きると、慌てて外壁の外へ向かった。

 街なかを走りぬけながら、今度こそ守ることの出来た街並みを感慨深く眺めた。


 決戦前、ギノレガメッシュに礼を言おうとしたら断られた。それはボスに勝ってからだと。

 ならば言うべきなのは今だろう。


「──ギル! ありがとう!」


「いいってことよ! フレンドだろ!」


 守ることが出来たとはいっても、完璧に無傷で終わったわけではない。やはりいたるところに戦闘の爪痕があり、亡くなったNPCも居たようだ。

 街のところどころに謎の金属塊が置いてあるが、こんなものあっただろうか。


「……まあ、あんまり気にしすぎんなよ。どうしようもない事ってのもあるよそりゃ」


 街並みを見て表情を翳らせるウェインに、ギルがそう言ってくれる。


「そうだね……」


 残念なことだが、仕方ない。そう割り切るしかない。

 もともと、ウェイン1人では何も出来なかったはずだ。これだけの犠牲で済んだのは、多くのプレイヤーが力を貸してくれたからに他ならない。この結果に納得できないのは、彼らに対しても失礼だ。





 城壁の外には生き残ったプレイヤーたちが集まっていた。

 その数は少ない。もとは30人もいたプレイヤーは、ウェインたちを含めても10人ほどしか残っていない。

 ウェインの取得した経験値を見れば、死に戻ったとしても今の討伐経験値の分配はされているはずであろうが。


「みなさん、ありがとうございました!」


「気にするな。良い戦いが出来た。俺の方こそ呼びかけに感謝する」


「まあ、そうだな。久しぶりに熱いバトルだったぜ」


 ヨーイチとサスケだ。サスケは口は悪いが、仕事はきっちりとこなすし、なんだかんだ言いながら優しい良い奴だった。彼らとフレンドになれたのは一番の収穫と言えるかもしれない。


「でも、やばかったね……。前衛はまあ、死ぬのが前提の作戦だったから仕方がないとしても、まさか後衛までこんなに減らされるなんて……。範囲魔法が即死攻撃って、どうかしてるわ」


「名無しのエルフさんも、ありがとうございました。後衛と言えば、明太リストさんは残念でしたが……」


「彼なら、戦闘前に宿屋でログアウトしてたみたいだし、そのうち来るんじゃない? あ、ほら」


「やあ。僕の話かな?」


 振り返ると、明太リストが立っていた。彼は王都に残る選択をしたようだ。


 死に戻りしたプレイヤーがここにいるウェイン、ギル、明太リストしかいないのには理由がある。

 イベントボスとの戦闘が本当にあるのかどうかわからない状態で、王都にリスポーンポイントを設定するのが危険だったからだ。

 結果的にイベントボスは襲来し、戦闘には勝てたのだが、戦闘に勝った場合でも王都に残るメリットは少ない。そう考えたプレイヤーたちは、イベント戦後に王都にいられないというデメリットを飲み込んでも、リスポーンポイントの上書きを避けたのである。

 彼らとは、もしイベントボスのドロップ品があった場合、金銭に換えて分配することで話がついている。大陸で使用されている通貨は共通のため、遠隔地同士でやりとりするなら、物品そのものよりはまだ融通しやすいからだ。


「あそうだ、それでドロップ品はどうなんだ?」


「それなんだけど……」


「実は、あのボスを倒した瞬間、そこに立ってた鎧も、鎧が持ってた剣も形が崩れちゃって……。ただの金属の塊になっちゃったのよ」


「えっ」


「ボス本体も、すぐに消えちゃったし」


「この金属塊がドロップ品……てことか」


「そうなる……わね」


「しかも今見てきた限りだと、街中にも多分同じ金属塊が落ちてる。あのアンデッドが死んだ時にドロップしたんだと思う」


「死体じゃなくてドロップ品てのは珍しいな。ゴーレムとかがそういう死に方するけど」


「イベントの敵だからね。『解体』とかそういうスキル持ってないプレイヤー用とかかもしれない」


「だけど、街中に同じものがあるんじゃあ、この街じゃ高く買ってもらえないかもしれないな……」


 なんてことだ。せっかく手を貸してくれた彼らに、満足な礼もできそうにない。


「あ、なんか変なこと考えてそうだから言っておくけど、別に私達に過剰にお礼とかは考えなくていいわよ。私達にとっては、イベントボスと戦えたことそのものが最高のプレゼントなんだし。逆にこっちのほうが何か渡したいくらいだわ。討伐経験値もたんまりもらえたしね」


「おうそうだな。俺なんて最後死んでたのに、結構入ってたぜ。30人に分配してこれなら、どんだけ経験値あったんだよって話だよな」


「まあ、それも国の用意してくれたアーティファクトがなければ勝てなかっただろうし、イベント報酬ってところだろうね。第一回イベントみたいにMVP発表とかがあれば、間違いなく僕らは名前が載ると思うよ。もちろん君もね、ウェイン」


「そうかな……ありがとう明太リスト」


「それで街中のアンデッドは消えたんだよな?」


「ああ。ボスの討伐と同時にな。今言った金属塊しか残ってない」


 サスケが金属塊をさすりながら答える。彼も本来なら前衛として活躍したかっただろうが、普段は避けタンクをしているため、今回のように何をしてくるかわからないボス相手では分が悪い。よってその優れた投擲スキルを見込んでサポート役として活躍してもらった。


「他の街に攻めてきてたアンデッドは普通に骨とか残して死んでってるから、ボス直属の強いモンスターは仕様が違うってことなのか?」


「それにしても結局、あのイベントボスは何だったのかしらね。天使のように見えたけど、天使ではないのよね?」


「僕が思うに、天使のアンデッドか何かじゃないかと。理由としてはまず、天使には効果が薄いはずのデバフフィールドが効いていたこと。そして僕が『精神魔法』をかけたとき、魂縛石が消費されたことだ。魂縛石を消費したってことは、本来であれば『精神魔法』が効かない種族ってことになる。だとすれば、アンデッド系か、ゴーレム系か、ホムンクルス系しかない。まあ、今わかっている中では、だけど」


 明太リストの言うことはもっともだ。その中であれば、まずゴーレムは除外される。あれはどう見てもゴーレムという雰囲気ではなかった。


「アンデッドか、ホムンクルスってのは間違いないと思うんだが、決め手がないな」


「アンデッドを使役してたんだから、そりゃアンデッドなんじゃねーの?」


「サスケ、お前もう面倒くさくなっているだろう」


「いやだってどうでもいいだろもう。倒しちまったんだし」


 それもそうだ。いっときは七大災厄になってしまったが、今はもう六大災厄に戻ったのだ。


「せっかく倒したんだし、何々を討伐したぞ、っていうはっきりした何かが欲しかったところだけど」


「イベントはまだ終わったわけではない。仮にアンデッドだったならば、復活イベントや何かで再びまみえることもあるかもしれんし、ホムンクルスなら、第2第3の災厄が現れるなどがあるかもしれん」


「うっへ、あれとまた戦うのは勘弁だな……」


「そうだな。もうアーティファクトは無いし、また戦うなら今度はもっとプレイヤー全体のスキルアップが必要だ」


 もしそんな時が来れば、その時こそ真の意味で最前線でこのメンバーとともに戦いたい。

 ウェインはそう思った。


「じゃあ、とりあえず解散でいいか? ドロップ品はまあ、適当に売っておいてくれ。いつ配るかはあんまり気にしなくていいぜ。他の連中もそれよりは残りのイベント期間の方が大事みたいだし。思ってたより経験値がバカ多かったから、金銭的な報酬はどうでもいいのかもしれねえけどな」


「そうね。お疲れ様。また、何かあったら気軽に呼んで頂戴。気軽に来られるかどうかは別問題だけど。ウェイン君なら、また何かありそうな気がするし」


「まあそうだな。こいつの運の悪さは折り紙付きだぜ」


「では、俺たちは死に戻りでオーラルに帰るとしよう」


「またな」


 名無しのエルフさん、ヨーイチ、サスケが去っていった。

 名無しのエルフさんはポートリー王国で活動しているということだ。確かに容易には会えないだろう。

 ヨーイチとサスケはオーラル王国でプレイしているらしい。オーラルはヒルスに比べ全体的に難易度が高めだと聞いている。そこで2人パーティでやっていけているのだから、大したものだ。


「みんな行っちまったな。これからどうするよ、リーダー」


「何言ってるんだ。リーダーはもう終わっただろ」


「いや、ウェインがリーダーでいいと思うよ。君には確かにリーダーの素質がある」


「なんだよ、明太リストも来るつもりか?」


「駄目なのかい? そのためにせっかく王都でリスポン上書きしたのに」


「いや、大歓迎だよ。改めてよろしく、明太リスト」


 パーティーメンバーが1人から一気に3人に増えてしまった。

 しかもウェイン以外はトップクラスのプレイヤーだ。


「明太リストも今日の分使い切ってるだろ? ウェインはどうだ?」


「今日の分? ああ、転移サービスか。俺は一回も使ってないから、残ってるよ。あれってさすがに昨日の分ストックはされないよね?」


「されないね。今日の検証スレに書いてあったよ」


 となると、ウェインが2人を担いで移動するということになる。


「まあ、経験値たくさん増えたし、STRとVITに振って、あとINTとAGIにも振りたいけど」


「器用貧乏キャラかよ。ま、3人しか居ないし、俺はガチタンクだし、明太リストはガチ支援だし、そのくらいで丁度いいのかもな」


「よし、じゃあ一旦傭兵組合に──なんだ、あれ」


 見上げると、東の空が不自然に薄暗くなってきていた。









 ★ ★ ★


この辺りからメインキャラがマルチプレイをしはじめるので(MMOモノなのに今更感すごい)最初は章題「マルチプレイ」にしようかと思ったのですが、私はちょっとひねくれているのでそのままってのもあれだなと。

「マルチプル」は複数のとか多数のという意味ですが、多様な、複雑なといった意味もあります。

結構色んな遊び方してるキャラがいますし、それぞれの立場やプレイポリシーもこの辺りから明確に対立したり合流したりしていきますので、このような章題に。

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