第77話「決戦の前」(ウェイン視点)
【イベントボス】ヒルス王国王都集合!【確定】
1:ウェイン
ヒルス王国の王都にイベントボスが襲来する可能性が高い。
ソースはNPCの王国宰相
来られる人は出来るだけヒルスの王都に集まってくれ。
2:モンキー・ダイヴ・サスケ
馬鹿か。まだ二日目だぞ。
3:丈夫ではがれにくい
複数回現れるなら、二日目に来てもおかしくないっちゃおかしくないが……
4:アマテイン
>>1はどうやって王国宰相なんて大物とコネクション作ったんだ?
5:ウェイン
>>4
今王都にプレイヤーがほとんどいない。傭兵組合に行ったら騎士がプレイヤー探してて、たまたま俺だけがいたから城につれてかれた。
そこで詳細聞いて、多分かなり高確率で「災厄」とかいうボスモンスターが王都に来る
6:モンキー・ダイヴ・サスケ
設定がガバガバすぎる
解散。
7:名無しのエルフさん
「災厄」ってその宰相閣下から聞いたの?
8:ウェイン
>>7
そう
なんか六大災厄とかいうのが世界中にいるらしくて、今回のイベントボスが七番目の災厄らしい
それが王国の東のリーベ大森林ってダンジョンに生まれたのが10日前
でイベント開始の昨日から進撃始めて、まっすぐ西に向かってる
初日はエアファーレン、今朝はラコリーヌで、次は王都
多分今日
9:明太リスト
別のスレッドで立ってるね
エアファーレンて街が速攻陥落したのは事実
ラコリーヌって街が一瞬で消え去ったのも事実
その先が王都なのかは地図が公開されてないからわからないけど、まぁ説得力はあるかな
10:名無しのエルフさん
補足しとくと、その「災厄」の話もマジよ
ウチがいるのポートリーって国なんだけど、そこの教会の偉いおっさんがポートリー王都で演説してた
どっかにスレも立ってなかったかな
わりと色んな国でその話出てたと思うけど
確かそれが10日前だね
ヒルス王国東端部って言ってたから、場所も合ってる
11:丈夫ではがれにくい
マジなのか、それともSNS巡回しまくってる暇人のフカシなのか
12:ウェイン
フカシじゃない
マジで時間がない
頼む誰か来てくれ
13:おりんきー
>>9
そのスレ見てたけど、エアファーレンの街相当ひどい状況みたい
エアファーレンの街って、ヒルスにいるビギナーの間で話題の初心者ダンジョンあるんだけど、そこからいきなりアリが湧き出してきて、数時間ともたずに壊滅したって
最初は「はじまるぞー」みたいな書き込みばっかりだったのに、すぐに「やばい」とかばっかりになって、しばらく誰も書き込まなくなって、数時間ぶりの書き込みが「どこここ」だった
宿屋破壊されてランダムリスポーンになったみたい
城壁から街並みから全部瓦礫に変わったって
14:モンキー・ダイヴ・サスケ
おい待て
何だダンジョンって
このゲームそんなシステムあったか?
15:明太リスト
初心者ダンジョンってリーベ大森林のこと?
運営から明確にアナウンスはされてないけど
検証班の間じゃ、どれだけモンスター倒してもそのうち復活するし、どれだけアイテム拾っても無くなったりしないし、やり過ぎると強制死に戻りで追い出されるしで、サイレント実装された初心者救済コンテンツなんじゃないかって結論になってる
死に戻りって言っても入る前より経験値が減ることはまずないし良心的
そのへんの調整も神がかり的なバランスだし、専用のAIがいくつも用意してあるんじゃないかな
ルートもパッと見だとわかんないくらい微妙にだけど、歩きやすく整備されてるしね
16:アマテイン
雑談はよそでやってやれ
>>12
マジだったらやばいのはわかるんだが、現実問題として他国の王都とか今から行くの無理じゃないか?
17:カントリーポップ
>>1がマジだったとしても、あくまで可能性の話でそ?
なんとか行けたとしても、辺境から遠い王都でその後どうしろと
18:ウェイン
たのむ
マジで頼む
災厄なんて来たらヒルスが無くなる
19:ウェイン
だれか
20:ギノレガメッシュ
おィー?
なんで! 俺に! 声かけねえんだ!?
みずくせえなあ!
21:アマテイン
>>20
ギノレガメッシュじゃないか
なんでこんなとこいるんだ
22:おりんきー
>>21
誰?
23:明太リスト
>>22
現行の最硬タンクの人
一日目にして防衛成功したとか言ってなかった? 別スレで
24:ギノレガメッシュ
>>21
ウェインは俺のフレンドだから
>>23
言ってたぞ
防衛隊が凌いでる間に、攻撃隊が敵の本隊叩いて終わらせた
25:カントリーポップ
まじかよあと一週間もあるけど何するの?w
26:ギノレガメッシュ
>>25
だからこれからヒルス王国を救いに行くんだろ?
27:丈夫ではがれにくい
やだなにこの人かっこいい
28:ウェイン
ギル、ごめん忘れてた
助けてくれるのか
29:ギノレガメッシュ
>>28
フレンドだろ?
水くせえなまかせろや
30:ヨーイチ
面白そうだな
俺も一枚噛ませてもらおうか
31:アマテイン
ナースのヨーイチか
32:丈夫ではがれにくい
セリフだけはいつもかっこいいw
33:名無しのエルフさん
でも格好はキモいw
34:明太リスト
実力もキモい(褒め言葉
35:カントリーポップ
てかなにげに、このスレトップ層ばっかじゃない?
みんな決勝出てたよね
>>1は聞いたことない名前だけど
36:ウェイン
俺は大したことないプレイヤーなんだ
初日に防衛失敗して宿屋もなくなってランダムリスポーンして、その先でも街が滅んでランダムリスポーンして、最後に王都に辿り着いたらプレイヤーが俺以外居なかったんだ
ひとりじゃなにもできない
みんな助けてくれ
37:丈夫ではがれにくい
初日に滅んだとこなんてあんのか
と思ったらさっき出てた街か
初日に2つも滅んだ街あるのも驚きだけど、その両方にいてランダムリスポーン食らうってのも驚きだよ
>>1あんたどんだけ運ないんだよ
38:ギノレガメッシュ
助けるのは決まってるんだが、実際どうやってヒルスの王都まで行ったもんか
俺はまだ今日の分の転移サービス使ってないが、そもそも国外だしな
一回じゃ王都まで届かねえ
39:ギノレガメッシュ
嘘、行けるわ王都
今見たら隣接街リストん中にヒルス王都が入ってた
昨日まで無かったんだけどなんでだ?
40:丈夫ではがれにくい
バグ?
41:明太リスト
このゲームでバグはないと思う
42:名無しのエルフさん
まって
昨日までリストになくて、今日はあるってことは、逆に昨日まではリストにあったけど今日はないって街もあるんじゃないの?
その街が滅んだから隣の街がなくなって、王都が繰り上がりでリストに出たってことじゃない?
43:ギノレガメッシュ
じゃあ俺のいる国からヒルス王国までは、もう王都しかねえってことになるけど
44:ウェイン
宰相から聞いた
ヒルスは現時点で少なくとも5つの街が滅んでる
45:モンキー・ダイヴ・サスケ
世紀末かよ
46:ヨーイチ
ギノレガメッシュはそれでよいとして、他のメンバーはどうする?
47:モンキー・ダイヴ・サスケ
なんで他の奴まで行く前提なんだよ
いいけどよ
48:明太リスト
>>46
昨日検証スレで見たんだけど、転移サービスのときプレイヤーが持ってるものはなんであれ、プレイヤーの一部として扱われるみたいなんだ
おんぶしたまま転移して、今度は逆におんぶして帰ってこれたって報告あった
だからSTRとかVIT高い人が何人も担いで移動して、次の街で別の人に入れ替えて……って繰り返してけば何人かはヒルスまでたどり着けるんじゃないかな
49:丈夫ではがれにくい
それ何人必要になるんだよ
あとそれだと最終的に王都に着いたときタンク何人残ってんだよ
50:ギノレガメッシュ
タンクだったら俺がいるだろ
51:カントリーポップ
あんたほんとイケメンだなw
52:名無しのエルフさん
いろんなスレで人集めてくる
53:明太リスト
気づいてないひといるかもしれないから言っとくと
これ最終的に自分がどこまで移動したとしても、死ねば元いた街に戻れるよ
今はデスペナルティ無いしね
だから仮にイベントボスが現れなかったとしても、無駄になるのは今日の分の転移サービスだけ
これ付け加えれば協力してくれる人も増えるんじゃない?
54:名無しのエルフさん
>>53
気づいてなかったw
ありがと
55:モンキー・ダイヴ・サスケ
誘導先はこのスレでいいな?
56:ウェイン
みんなありがとう
ほんとありがとう
57:アマテイン
礼ならまず君のフレンドに言うんだな
彼の登場で空気が変わった
・
・
・
・
***
「……なんとか、人を集められそうです」
宰相の応接間のソファーを借りてSNSに書き込みをしていたウェインは、使用人に頼んで隣の執務室から宰相を呼んでもらった。
「おお、ありがたい……。それで、どのくらいの方が来られそうなのかな」
「ええと……20、いや30人くらいは来れそう、です。みんな、俺の何倍も強い人たちです」
「なんと……」
宰相はそう言うと黙り込み、眉間に皺を寄せた。
「……申し訳ないが、少し、ここで待っていてくれぬか」
「え、はい。それは、かまいませんが……。あの、王都に到着したプレ、知人たちはどうしましょう」
「む、そうだな。ローソン、お前が対応しておいてくれ。お集まりいただいた方々には……申し訳ないが内庭にお通ししてそこでお待ちいただこう。
ウェイン殿、申し訳ないが、やはり内庭のほうに移動していただけないか。ローソンに案内させよう。私も陛下にお話したらすぐに向かう」
再びあの複雑な回廊を突破し、内庭という場所へ案内される。
まだ短い時間しか経っていないが、それでも初めて城に足を踏み入れた時よりは多少は心も落ち着いている。
先を歩く騎士、ローソンに雑談がてら話しかけることさえ可能だ。
沈黙に耐えられないとも言うが。
「ええと、ローソンさん? 宰相……閣下は、陛下に何のお話をしに行ったんでしょう」
ローソンはふと立ち止まり、前を向いたまま答えた。
「ウェイン殿が……ご自分の出来うる限りのことをされていると目の当たりにして、宰相閣下も感じ入ることがあったのだろう。本来王国には何の義理もないあなた方が全力を尽くしてくれると言っているのに、我々が何もせぬわけにはいかない。おそらくそういうことではないか」
「そうでしたか……。ありがとうございます」
ローソンは明らかに何か知っている様子であった。
しかし話せないこともあるのだろう。話せない中で、精一杯ウェインにわかってもらおうとしているのはその口ぶりから感じられた。
それからしばらく無言で歩き、内庭に出た。
「ウェイン殿のお知り合いは、いつごろ来られるのだろうか。それとどこを目指して来られるのだろう」
「ええと、一人はもう街に入ってます。ほかのメンバーもぼちぼち集まってくると思います。とりあえず、王城前に来るように連絡しておきましょうか?」
「そうだな。そうしてくれると助かる。では済まないがウェイン殿はここで待っていてくれ。私が王城前で待機して、こちらに誘導するようにしよう」
応接間からここまでの道のりはまったく覚えていないし、ここからどうやったら外へ出られるのかもわからない。
言われずとも、ここに置いて行かれたら待っているしかない。
「わかりました。よろしくお願いします」
SNSの先ほどのスレッドに集合場所の追記をし、ギルにフレンドチャットを飛ばす。
〈──王城前に来てくれってさ。豪華な鎧の、ローソンって騎士が迎えに行くから〉
〈王城前だな、わかった〉
〈……ギル、その、ありがとう〉
〈やめろって。ボスに勝ってからにしようぜ〉
〈……ああ、そうだな〉
しばらく待っていれば、ほどなくギルも来るだろう。
「マジで王城内入れるんだな……。すまん正直半信半疑だったわ」
「今からでもこれ拡散したら人増えるんじゃない?」
「でもタイムリミットっていうか、襲来が具体的にいつごろになるかわかんねえからな。今から向かったとしても、間に合うか微妙じゃないか?」
「一応そのことだけは警告するとして、言うだけ言っておこう」
アマテイン、おりんきー、カントリーポップ、丈夫ではがれにくい……。
ウェインでも知っているトップクラスのプレイヤーたちだ。本当に来てくれるとは。
スレッドにはいなかったが、有名プレイヤーである「その手が
彼女は数少ないヒーラーの1人で、回復魔法系スキルの発見者だ。
そのあとにも続々とプレイヤーたちが入城してくる。もう、30人は超えただろうか。
「みなさん、ありがとうございます……」
「さすがに国が一つなくなるとかマジだったら洒落にならんからな。これで釣りだったら許さんところだが、とりあえず嘘じゃないみたいだな」
全身黒タイツのニンジャだ。彼も決勝で見た顔だ。
「俺は最初から信用している。ギノレガメッシュのフレンドだという話だし」
そこへナース服の紳士が現れた。ナースのヨーイチだ。
彼は今、この黒タイツのプレイヤー、モンキー・ダイヴ・サスケと2人で行動しているらしい。
決勝でともに同じ相手に敗れたことで、何か通じるところがあったようだ。
「それよりも、ウェインと言えばどこかで聞いた名だと思ったが、確か前回優勝者のレア氏がリーベ大森林にいるという話を流したのが君だったな」
「そうだ、レア氏とは連絡はとれないのか? ここに彼女がいれば勝率は上がると思うんだが」
ヨーイチとアマテインの言葉に、ウェインは目を伏せた。
「レアは……わからない。フレンドというわけじゃないんだ。彼女はPKで……。たぶん、ソロでやってると思う」
そもそもウェインに近づいてきたのも、ウェインをPKするためだ。そんな情けないことはとても言えないが。
「そうか……。そういうことなら仕方ないな」
「──おお、これほど集まっていただけるとは……。ウェイン殿には感謝の言葉もない」
そこへオコーネル宰相が現れた。その後ろからは、騎士たちがなにやら大きな物を数人がかりで運んで持ってきている。布をかぶっているため何なのかは不明だが、丸いシルエットのものだ。
見た目から言えば数人がかりでもとても運べそうにないものだが、意外と軽いのだろうか。いや、どちらかといえば騎士たちのSTRが高い為だと考える方が自然だ。ウェインより強いであろう騎士たちだ。軽いものなら1人でも、バランスを考えても2人で十分だろう。
「これはすでにウェイン殿に語ったことなのだが……」
宰相は内庭のプレイヤー全てに、先程ウェインが聞いた話を語った。
「なるほど、確かに、そういうことなら、王都に現れる可能性は高そうですね」
話を聞いたアマテインがプレイヤーを代表してかそう答えた。
「うむ。そこで、だが……」
宰相が目配せをすると、騎士の一人が運んできた物の布を取り去った。
その正体は虹色に輝く、しかしどこか不気味に見える、水晶でできた巨大な卵のようなものだった。
「我が国の騎士でもない、いわば善意で協力してくださる皆さんが力を尽くしてくれている。このような状況で、我々はただ座して待つなどということは、国として有り得ぬ。無論、王都に残っている騎士や兵士は皆さんと協力して事に当たるのだが、それとは別にだ。こちらも最大限の力を振り絞るべきだろう」
宰相は水晶の卵に近づいて、表面に触れながら続ける。
「これは
「国宝……!」
「アーティファクトだって!?」
「新カテゴリのアイテムだ」
「それは……よろしいのですか」
アマテインが尋ねると、宰相はプレイヤーたちを見ながらゆっくりと頷く。
そしておもむろに秘遺物についての説明を始めた。
「この秘遺物は、指定した対象範囲にいる、全ての者に弱体化の呪いをかける効果がある。あらかじめ登録した、10名までの人物を除いてな。効果時間は、発動させてから1時間だ」
デバフ──つまり、敵に弱体化を強いるアイテムだ。
話に聞いているだけでも、災厄というものが桁違いに強力なモンスターであることは伝わってくる。
おそらくこれは、そんなボスモンスターと戦うためのイベントアイテムだろう。
10名だけは効果範囲にいてもデバフ効果から逃れることが出来るということは、前衛を10人、それ以外のプレイヤーは後衛で戦えばいいということか。
「この弱体化には段階があり、発動してしばらくは弱い効果しかない。しかし効果範囲に相手を留め続けておれば、その弱体化の割合は徐々に大きくなってゆく。
それだけではない。弱体化の効果の発動中にこの水晶が破壊された場合、その瞬間から10秒だけ、秘遺物に遺された力の全てが解放される。
しかもその時点で残っていたはずの効果時間に応じて、その弱体化効果が強まるのだ。もちろん時間が残っていればいるほど強力な効果となる。この時の特別な効果は無差別で、あらかじめ登録してあったとしても効果を受ける。
これが発動すると、最大で全ての能力が5割カットされる事になる。これは生命力も例外ではない。ゆえに、ダメージを受けている状態でこの呪いを受ければ、その瞬間に死ぬことすらあるのだ」
つまりどんなボスであろうと、10秒限定で全能力値を半減させられるということだ。
破格に強力なアイテムである。国宝というだけのことはある。
敵と定めた相手は絶対に逃さないという、なにか強い、そう、呪いか怨念のようなものさえ感じられる。
だが、こんなものをもっているなら、なぜ討伐軍に持たせなかったのか。
これがあれば、ラコリーヌは壊滅を免れたかもしれない。
「……なぜ、これを今? これがあれば、討伐軍が壊滅することもなかったのでは……」
「うむ。この秘遺物には条件があってな。特定の場所でなくば起動させる事ができぬのだ。そしてその場所のうちのひとつが、この王都になる」
「そうなのですか……。しかし、国宝なのですよね? 破壊なんてしてしまっても……」
いかに国の危機とはいえ、国宝を破壊するというのはやりすぎに思える。
ウェインたちが敗北すれば国家存亡の危機のため、そういう意味でならわからなくもないが。
「ウェイン殿、よいのだ。この秘遺物はどのみち、ひとたび発動させれば輝きを失い、二度と使うことは出来ぬ」
「本当にいいのですか? その、先程のお話ですと、不定期に天使とかも攻めてくるんですよね? 天使の親玉がもし現れたときのために取っておいたほうが……」
「……実はな。この秘遺物は、天使どもには効果が薄いのだ」
「どういうことです?」
「魔法などに、属性同士の相性があるのは存じておられるな? あれに似ておる。
この秘遺物は、その名を「精霊王の心臓」といい、伝承ではかつてこの地を治めていたとされる精霊王が、その死の間際にこの地に住まう者のために遺されたものだと言われておる。
そして天使どもの属性は精霊王と近しい勢力に属するものでな、精霊王のお力が通じにくいのだ」
「そうなんですか……」
「先ほどの起動可能な場所の話に戻るが、その場所はこの大陸に6箇所あり、それぞれがこの大陸を治める国の首都の場所になっておるのだ。これはそれぞれの国の王家が精霊王の後継たる資格を備えているという何よりの証ともなっておる。
我が国には我が国に伝わる秘遺物に関する情報しかないが、おそらく各国にも同様のものがあるのだろう」
もしそうなら、いかに災厄などが攻めてきたとしても、各国の王都だけは特別なイベントアイテムが用意されているということだろう。
流石に国を滅ぼすなどの、大きな情勢の変化はしにくいように調整してあるという事なのだろうか。
このアイテムが事実上持ち出し不可なのも、NPCが勝手にどこかへ出かけていってレイドボスなどをプレイヤーより先に倒したりしてしまわないようにというバランス調整なのかもしれない。
「じゃあ、今回の、えと、災厄はアンデッドだから効きそうだってこと? 少なくとも天使ではないだろうし」
「その通り。精霊王のお力がもっとも強く影響を及ぼすのは、精霊王と対を成す存在だと言われておる。その存在が何であるのかは不明だが、少なくとも魔や闇などといった勢力に属する存在であるのは間違いなかろう。今回の災厄がウェイン殿の言われるようにアンデッドと関係が深いのならば、これ以上にふさわしい使い時はあるまい」
「宰相閣下のお考え、わかりました。アーティファクト、使わせていただきます」
アマテインが頭を下げ、他のプレイヤーたちもそれに倣う。
「うむ。よろしく頼む」
「それじゃあウェインさん。リーダーは頼むよ。さっそく作戦を練ろうか」
「えっ」
急に名前を呼ばれたウェインは、一斉に自分に向けられた視線に戸惑う。
おそらくここにいるプレイヤーの中で、ウェインがもっとも弱い。
そんな自分がなぜ。
「おいおい、俺たちを集めたのはウェインだぜ? 俺たちはあくまでウェインの手伝いをするために来たんだ。しっかりしてくれよ」
「ああ、ギノレガメッシュの言うとおりだ。この人数を集めたのは君だ。だからこのレイドパーティのリーダーは君だ」
「でも、それはギルがいてくれたからで……」
「そうかもしれない。だがギノレガメッシュが集めたわけじゃない」
なんて奴らだ。これがトップ層のプレイヤーたち。
ウェインの言葉を信じてこんなところまで来てくれた者たちなのだ。
それだけではない。ここに来るまでに、途中の街に置き去りにせざるを得なかったタンク系のプレイヤーも居たはずだ。その彼らは本当に何の利益もないにも関わらず協力してくれたのだ。
ならば、弱いだのなんだのは言っていられない。それほど自信があるわけでもないが、作戦を練るのだ。いや、自分になら出来るはずだ。なにせ自分は、あのレアを推理によって追い詰めた事があるのだ。ここで退いてしまっては、あの時一瞬でも自分を認めてくれたレアにも顔向けできない。いや別にレアについてどうこうという感情は無いが。
そう覚悟を決めたウェインは、プレイヤーを見渡し、頷いた。
「わかった。作戦を立てよう」
「まずは現状、わかっている事をまとめよう。
敵はこのイベントのボスと思われる「災厄」と言われる強大な魔物で、リーベ大森林で発生した。
奴はアリとハチを操りエアファーレンの街を壊滅させ、その後まっすぐ西に向かい、同じくアリとハチを使いラコリーヌの街も壊滅させた。そして強力なアンデッドを空中で喚び出し、騎士たちを殺害した。ここまではいいな」
「ああ。続けてくれ」
「この時点ではっきりしている災厄の能力は次のとおりだ。
まずアリとハチ、アンデッドを操ること。
空が飛べるということ。
姿を消すことが出来るということ。
西に向かっている──つまり、現れるなら東からだということ」
「そうだな。すでになんか厳しい内容の項目があるが……」
「それからこいつは不確定の情報になるが、ラコリーヌの街ではハチとアリを一旦下げたという報告がある。この時点でアリとハチがどこにも見当たらなかったと言っているから、もしかしたら王都へは連れてこないかもしれない」
「希望的観測ってやつだな……」
「確かにそうだが、問題はそこじゃない。それ以上にこの事実が示しているのは、災厄がもし単騎で姿を消して王都に向かっている場合、まず発見すること自体が不可能だってことだ」
「あ……」
「ひとつ、いいだろうかウェイン氏」
「どうぞ、ヨーイチさん」
「俺にさん付けは要らない。俺は『真眼』というスキルを持っている。このスキルは、発動させると周囲の生物……まあ生物というかアンデッドやゴーレムなども含むんだが、とにかく周囲のキャラクターのLPを可視化して感じ取る事ができる。具体的な数字がわかるようなものではないが、大まかなところはぼんやりと光と色で教えてくれる。光の強さは残りのLPの割合を、色は最大値の大きさを示している」
「ちなみに、そのスキルなら俺も持ってるぜ」
「なるほど……。じゃあまず、監視というか、索敵はヨーイチとモンキー・ダイヴ・サスケさんにお願いしよう」
「サスケでいいだろそこは。なんでフルネームなんだ。あとさん付けは要らねえ」
「……サスケにお願いしよう。
ハチを連れていた場合は別途で後で検討するとして、まず1人で現れた場合だ。
姿を消して現れる可能性が高いから、索敵を二人にお願いする。
そして次に重要になってくるのは、秘遺物の効果範囲、デバフフィールドにいかに誘い出すかだ」
「そうだな。普通に考えて、災厄が来てからあれを用意していたんじゃあ遅い。さっき触らせてもらったんだが、触っただけで使い方がわかった。なんでも、秘遺物ってのは例外なく触れれば使い方がわかるらしい。
で、それによると起動時に対象にするのは「場所」だ。人や物じゃない。そして効果時間だが、30分以上を残して「破壊」による強制終了を発動させた場合がもっとも効果が高くなる」
「ありがとうアマテインさん。
てことは、1番理想的なのは、災厄をポイントへ誘導し、後衛が秘遺物を起動、その後30分以内にLPを確殺ラインに持っていき、そこで秘遺物を破壊して、その効果によって倒す、かな。
これを可能にするには──」
*
「──では、大筋はこれで行こう。実際のところは相手がどんな魔物なのかもわかっていない。想定外の事態も予想されるけど、一番大事なのは秘遺物破壊による最後のデバフだ。ここに持っていったからと言って勝てるとは限らないけど、ここに持って行けなければおそらく絶対に勝てない」
「まずは俺が矢で奴を挑発し、同時に他のプレイヤーに奴の居場所を教える」
「キーになるのはやはり最後のデバフ中にいかに相手を動かさないようにするか、だな」
「おう。責任重大だぜ。任せとけや」
「それと可能なら、なるべくそれまでに災厄のLPを削っておきたい」
「僕の『恐怖』が通るかどうかは五分五分だけど、アンデッドなら魂縛石があれば効果自体はかけられるはずだ。あとは抵抗判定だけど……」
「誰かが気を引いて、背後からサスケがイカ墨玉を投げて暗闇状態にすることで確率を上げよう」
「これ、マジで後頭部に当てても目潰しできんのか? どういう理屈なんだよ」
「そういうアイテムなんだから仕方ないだろう。詳しくは作ってくれた錬金術師に聞け。奴はこの戦いにはついてこられないだろうから、途中の街に置いてきたけど」
作戦は概ね定まった。あとは実行するだけだ。
「……でも、これは前衛の全員が確実に死ぬことになるのが前提の作戦だ」
「いや、これしか無いと思う。幸い、デスペナルティも今は軽い。案外、あのアーティファクトを使って、犠牲前提で勝つための調整なのかもしれないぞ、デスペナ緩和は」
「このゲームの運営、システマティックな説明しかしないからなぁ」
「ま、デスペナが無いなら気にするほどのことじゃねえよ。どうせ貰える経験値なんかは貢献度に応じて分配だしよ」
「災厄を少しでも足止めするために、死んだとしてもリスポーンはしない。死体をそのまま残して、災厄の足元を邪魔するんだ」
「最後のタイミングには俺がしがみついてでも抑えてやるから、すまないが、回復の順番で迷ったら俺を回復させてくれ。俺が1番死ににくいから、それで少しでも足しになるはずだ」
「はい。わかりましたギノレガメッシュさん」
「いやそこはギルで良くね?」
「申し訳ありません。特定の男性を愛称で呼ぶのはちょっと」
「よし、じゃあ配置につこう。正直、奴がいつ現れるかもわからない状況だ」
「おう!」
「……あれ? 俺もしかして今振られたの?」
ウェインたちによるレイドボスバトル、災厄討伐戦はこうして始まり、そして大陸史上初、人類の敵の討伐に成功したのだった。
しかし。
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