第56話「クエストを受注しました。なお」
聞けば、かつての彼らの国には6つの騎士団があり、それぞれ職務に違いがあったという。
ディアスの第1騎士団は近衛騎士団として、ジークの第3騎士団から第6騎士団は純粋な軍事力として機能していたようだ。
そのためジーク率いる第3騎士団は、ディアスたちよりも一兵一兵の質は低いものの、総数は比べ物にならないほど多い。
ただかつてこの森に遠征したのは第3騎士団の全てではなく第1部隊のみのようで、一国の軍事力の1/4がここに眠っているというわけではない。
「それだとジークたちがここに眠っていたのはわからないでもないけど、なんで近衛のディアスたちがリーベ大森林まで遠征に来てたの?」
〈姫、近衛が動くということは、理由は一つしかありませぬ〉
「まさか、王族があの森に行ったから……」
〈左様でございます……〉
国家運営の上層部に謀られて遠征するはめになったようなことを聞いたが、王族ごと陰謀で葬られたということらしい。
なるほど、それでは近衛騎士団長としては恨み骨髄に徹したとしても不思議はない。当事者がもはや居なかったとしても、その陰謀によって興った国ならば全て滅ぼしてしまいたいというのも頷ける。
レアとしても、ゲーム内での目的を定めるに際していいモチベーションになるというものだ。
昨今のVRMMOの傾向として、自キャラの成長に重きを置いて楽しませていく方向にシフトして来たためか、メインストーリーのようなものはあまり好まれなくなって久しい。
その代わり、AIなどによって自動生成されたショートクエストのようなものが星の数ほど散りばめられていたりするのだが、基本的には明確な目的を持たないゲームが多い。過去にはフリーシナリオシステムと呼ばれる形式のゲームがあったらしいが、それと似たようなものだろうか。
このゲームもその系統で、シナリオ上明確に決まった目的は一切無い。
しかし自身の成長のみを楽しみにプレイするプレイヤーが多いのは確かだが、やはりゲームに何らかの目的を求めるプレイヤーもいる。
連続性のあるクエストをクリアしていくことに楽しみを見出すものもいれば、例えば運営が用意したレイドボスなどの「人類の敵」となるようなモンスターを倒すことを目的とするものもいるのだ。
ジークやディアスの話を聞いて、レアもそういったことをしてみたいと考えた。
これは言うなれば、眷属となったNPCに発注されたクエスト「人類種国家を滅ぼそう!」を受けたと考えることもできる。最終目的は国家というレイドボスだ。レアはワクワクしてくるのを感じた。
「それじゃ、ジークも今大陸を支配している6国家を恨んでいるのかな?」
〈私は……ディアス殿のように、守るべき方が謀殺されるのをその目で見ざるを得なかったというわけではありませんので、ディアス殿と同じ感情なのかはわかりませんが……。
ただ少なくとも、私が国に忠誠を誓っていたのは確かであり、ここで果てていった部下たちに責任を感じているのも確かです。その想いを昇華させる方法がその6国家とやらの滅亡にしかないならば、私はディアス殿と共にレア様の元で剣を取りましょう〉
話の流れ的にそういう感じではあるが、別にまだレアはジークの前で6国家を滅ぼすぞと言ったわけではない。しかし今更違うとも言えない。どのみち、そういうクエストと考えるならば、クエストクリアのために全力を尽くすのはやぶさかではない。
「そうか。ではそうしよう。と言っても、わたしもずっと森の中に引きこもっていたからね。実際のところ6国家ってのがどういう国なのか伝聞でしか知らないんだ。滅亡条件てのをどこに定めるかも大事だけど……」
今の所、国家滅亡を悲願にしているのはこのアンデッド2人である。つまり魔物だ。ならば、今回のように魔物の領域を手中に収めていき、いずれはその領域を広げ、人類種の住むエリアすべてを飲み込んでしまえば、それはもう国が滅んだと言っていいのではないだろうか。
「──といった方向でどうだろうか」
〈素晴らしいですな、姫〉
〈その暁には、レア様、レア姫様に新たに国を興していただき、虐げられた魔物たちによる統一国家を樹立いたしましょう。
我らが忠誠を捧げた王族の血筋は絶えて久しいでしょうし、ならば新たに忠誠を捧げたレア姫様こそ君主にふさわしいかと〉
ジークは思ったより面倒くさい性格をしているようだ。だが現時点でもアリの王国の君主をやっていることだし、仮に国を興したとしても適当な眷属に丸投げしてしまえばいい。そう思えば気も楽だ。
「よし、ではまずはこの森の掌握だね。ジーク君は配下は……おお、けっこういるね。森中に散らばってるのか……。じゃジーク君にはこのままこの森をプレ、人間たちを飲み込む魔の森として運営してもらおう」
ジークの話では、この森は少なくともジークが目覚めてからは入った人間は生きて帰したことがなく、ゆえに帰らずの森などと呼ばれめったに人の立ち入りはないようだ。昼間もトレントたちが初見殺しで確殺するため、この森にどういった魔物がいるのかも知られていない。
しかし、ジークたちが殺した人間の中にプレイヤーが混じっていれば話は別のはずだ。トレントは認識する前に殺されたとして見られていないと仮定しても、夜はアンデッドが出るということはプレイヤーならばわかるだろう。プレイヤーは殺したとしても勝手に街で蘇る。
また、同じことが貴族の眷属となった騎士階級にも言えるはずだ。そうした戦力は近くの街にはいないのだろうか。
アンデッドの素材などを狙うものたちはそういないような気もするが、トレント素材ならば別のはずだ。であれば。
「昼間はわたしの配下のトレントたちに接客をさせることとしよう。もし夜にも来るようなら、ジークの眷属の中で弱い者たちに適当に戦わせて、適度に勝たせてあげるんだ。そうしてたくさんの人間を呼び込んだほうが、結果的にたくさん殺せることになる」
〈おっしゃるとおりかと思います。レア姫様に眷属にしていただいて以来、頭の中がなにやらスッキリしたようで、これまで長い間無為に彷徨っていたのが嘘のようです〉
能力値的に考えればレアの『眷属強化』でINTとMNDが上がったせいだと思われるが、この劇的な変化はそれだけではないように思える。『使役』されることによって、能力値以外にも何らかの変化がAIに起こってもおかしくはない。
「まぁスッキリしたなら何よりだよ。では、そうだね、ディアスにインベントリの使い方を教わっておくといい。ディアスはこれまでわたしの傍に控えて色々と見ていたから、森の運営についてもアドバイスできるはずだ。一段落ついたら連絡してくれれば『召喚』で戻すから……」
〈む。致し方ありませぬな。姫におかれましては、儂のおらぬ間にあまり無茶などされませんよう……〉
「わかってるよ。あ、そうだ」
レアはジークが居座っていた場所、その後ろの巨木を見上げる。
「これってただの木なの? それともトレント? 夜だから動かないしわかんないな……」
〈いえ、私が知る限りではこれが動き出した事はありません〉
「そう。でも、面倒くさいとか、ジークにちょっかいかけるとダメージが大きそうだからとか、そういう理由で寝たフリしてる可能性もなくはない……か。よし、試そう」
今活動していないとしても、仮にモンスターであれば自我があることに違いはない。『精神魔法』をかければ何らかの反応はあるはずだ。
「『魅了』」
ざわり、と枝葉が揺れた。レアの主観ではかなりの抵抗があった。
最初から効かないタイプの魔物を除けば、『魅了』にここまで抵抗されたのは初めてだ。
しかしやがてその抵抗もねじ伏せられた。
『魅了』にかかったようだ。
「ふふ! 君がこの森のトレントたちのボスだね! 『使役』!」
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