第54話「カンファートレント」
そのまましばらく、森を進軍した。
それでわかったのは、やはり昼間は植物、夜はアンデッドが襲ってくるということだった。
しかしディアスを見る限り、昼間だからと言ってアンデッドが活動しない理由になっていないように思える。あるいはディアスの格が高いために特別に日中の活動が可能なだけなのかもしれない。だとしたらアンデッドが昼間出てこないのはわからないでもない。
逆のことが植物モンスターにも言える。つまり彼らはやはり光合成しないと活発に行動できないということなのだろうか。
どちらにしても今のところ襲ってきているのは格の低めと思われる雑魚ばかりだ。
さすがに工兵や歩兵と比べれば強いが、騎兵や突撃兵などと大きな差はない。
リーベ大森林よりも長く成長していると思われる森にしては控えめな戦力だ。この程度の魔物しかいないのなら、わざわざ街道や街を遠ざける必要はないように思える。
それに植物系モンスターはわからないが、アンデッドたちに関しては、ディアスの例を考えると発生したのはここ最近のはず。街や街道の建設計画の頃にはまだ居なかったと思われる。
この森にはまだ何か、隠し玉があるのかもしれない。
「この様子ならさほど警戒は必要なさそうなんだけどね。うちでプレイヤー相手にやっているのと同じく、接待されているという可能性も無きにしもあらずだし、それは頭の片隅においておこう」
その日も予定通りの行程を進み、日が昇る頃に野営地を作った。これで全行程の2/3を進んだと言えるだろう。
仮にレアがこの森の主で、接待プレイをしていたとしても、ここまで侵入されればさすがに黙ってはいない。レア基準で言えば絶対殺すラインはとうに超えている。
しかしこの日の昼も前日同様の襲撃しかなかったようだ。もしこの森に支配者階級がいるのだとしても、統制は出来ていないのかもしれない。
もはやこの規模の部隊でのディアスの指揮能力は疑いようもない。これ以上様子を見る必要はないだろう。
余計なデモンストレーションなど考えず、無駄なくクリアするように言いつけ、まっすぐ中心部に向かう事にした。
これまでこの森で遭遇したモンスターの中にアダマンシリーズにダメージを通せるようなモンスターはいない。ならばそのまま進んで、触れるものを適当に殴るだけで十分侵略となる。
そのおかげか、予定より少々早め、その日の日の出も間近になる頃、ちょうど中心部あたりに到着した。
「しかし、特に何かあるわけでもないな。ただの森の中だ」
ディアスたちの墓地も中心部からは少し外れていたことだし、森の形もきれいな円形というわけでもない。さしあたっては、ここを仮の拠点として、徐々に周囲に捜索範囲を広げていくべきだろうか。
工兵アリなどを呼んで、周囲の木々から仮設拠点などを建てたいところだが、工兵アリはスガルの配下のため、レアでは狙って『召喚』は出来ない。
「騎士の怨念とかじゃなくて、大工の怨念とか、コックの怨念とかがあれば、アダマン生産職を生み出したりできるのかな……」
出来るのかもしれないが、今言っても仕方がない。仮に出来たとして、アダマンで行う必要性が薄い。戦闘力が必要ないならもっとレアリティの低い金属でいい。
しかしどうであれ、この森を掌握するつもりならば、その後の整備や管理についても考える必要がある。
リーベ大森林はスガルとアリたちがいれば大抵なんとかなるし、いざというときの用心棒というわけでもないが、氷狼たちも居る。
この森を支配するなら森を管理運営できる人材が必要だが、レアが『召喚』などでこちらに運べる人手は重金属骸骨たちだけであり、基本的に彼らは戦闘しかできない。
「この森を掌握して管理するなら、やっぱり土着の魔物たちがいいよね。アンデッドや植物モンスターのボスは支配下に入れたいな」
とりあえず、そろそろログアウトの時間だ。一旦ここで戻ることにする。ディアスたちには仮拠点の設営を命じておいた。
ディアスが遠征などをする騎士団の長だったのなら、こういう仮設拠点の建造でもある程度指示は出せるはずだ。
*
レアが戻ったのはゲーム内での翌日の昼過ぎくらいだが、ディアスたちは木材と戦闘中だった。
「おはよう。お疲れ様だね」
〈おはよう御座います、姫。いえ、疲れるというほどのことでもありませぬ〉
「しかし日の高いうちはかなり積極的に襲ってきているようだね」
周囲を見れば多くの木材が転がっている。すでに収納されている分もあるのだろうし、相当な数だ。
「これだけ倒しても襲ってくるってことは、生育サイクルが早いのか、それとも何者かの眷属になっているからリスポーンしてるのか」
どちらだったとしても、制圧できた後の利益は大きい。経験値農場を作るか、テーマパークの2号店を作るか、どちらにも応用できるだろう。
「とりあえずこの木材で木炭でも作ってみたいところだけど、まずは目の前の目的を片付けてからにしよう。楽しみはとっておかなくてはね」
レアは追加でリーベ大森林からアダマンスカウトを『召喚』し、ディアスの下につけた。
「まずは探索を優先させよう。必要なら剣崎シリーズも呼んで、上空から探させるのも手だが」
〈効率を優先するならそれもいいでしょうな。この森もなかなか深いですから、アンデッドのリーダーが儂のような人型サイズだった場合は
少し考え、レアは剣崎たちは喚ばないことにした。確かに空から生い茂る森の中の人間サイズの目標を探すのは大変だろう。本当に居るとも限らないのであればなおさらだ。
それにボスが植物系モンスターだったとしても擬態されていたらどのみち近づかなければわからない。
今回に限っては航空偵察は旨味が薄い。
「じゃあ引き続き、スカウトたちの報告を待とう。その間は、わたしもこのモンスターたちを伐採してみることにしよう。アダマンたちに傷をつけられない程度の攻撃力しか持たないのなら、わたしにも傷をつけることは出来ないからね」
〈御意〉
鎧坂さんが剣崎一郎を抜き放ち、前線を支えるアダマンナイトに混ざる。アダマンナイト以上の冴え渡る技量で大木を斬り捨てていく。スキルを発動することさえない。
レアもなにか魔法で援護でも、と考え、思い直した。
「ああ、そういえば。最近あまり使用してなかったから忘れていたけど、こいつらに『使役』をかけてみればテイムされているかどうかはわかるか」
ついでに、植物モンスターに『精神魔法』が通じるかどうかのテストもしておく。
「それ『自失』。……変化なし、かな? 『睡眠』『混乱』。……効かないか。『恐怖』『魅了』お? 『魅了』は効くのか。なぜだろう。植物系モンスターにも精神はあるけど、一般的な精神構造ではないってことかな?」
効いたのならば話は早い。続けて『支配』にかけ、成功したようなので『使役』を発動する。
これも大した抵抗もなく通り、その植物系モンスター「カンファートレント」は動きを止めた。
そして主君であるレアを見て──いるのかはわからないが、とにかくレアに意識を向けている。
「テイムできるなら話が早い。片っ端からテイムしていこう」
ほどなく、と言ってもただ斬り倒すよりは多少時間がかかったが、襲撃してきていたカンファートレントたちはすべて支配下に入れることが出来た。
「テイムできた、ということはこの子らは野良ってことか。じゃあすごい数がいるのか、すごい早さで成長するのかのどちらかってことかな」
彼らのスキルを見てみると、『株分け』や『光合成』などが内包されているツリー『繁茂』というものがあった。植物の成長や繁殖に関わるスキルをすべてこれに集約してあるようだ。アンロックされているスキルを確認すると、たしかに生育サイクルは早そうである。
「変な条件がついてるな。一定範囲で一定以上の密度に同種が増えると枯れていくとか……。たしかにこの能力値でこのスピードで増えていくなら、人間の領域なんてあっという間に飲み込まれるだろうけど」
間引きというか、効率よく面積あたりの最大限の栄養を得られるように、という進化の知恵である可能性も否めないが、それよりは運営のテコ入れの方が近い気がする。例えばテスト段階なんかで、好きなだけ増やし放題にした結果失敗した事例があったとか。
「この子たちはリーベ大森林でも根付くのかな? まぁ歩けるくらいだし根付くってのは微妙な言い方だけど」
黙って立っていれば完全に木にしか見えないが、それも人間で言えば足首から下を地面に突き刺しているだけの状態だ。動こうと思えば、足首たる根を引き抜いて歩き出すことが出来る。
「一番大きな子を連れて帰って植えてみよう。『繁茂』の中の根っこ関係のスキルを伸ばしていけば木として落ち着くかもしれないし。他の子はこの森においていこう。こちらで繁殖してもらって、うちの子じゃない連中は駆逐させよう」
『使役』した個体が繁殖した場合はどういう扱いになるのかも気になる。種子から生まれるならまったく別の個体になるのだろうが、アリと違って社会性魔物というわけではなかろうし、ならば別途テイムせねばならないだろう。では『株分け』で増えた場合はどうなるのか。同じ個体が増えるという認識でいいのか。その場合は増えた個体もレアの眷属なのだろうか。
「それはおいおい調べていこうか」
あとはアンデッドだ。昼間は姿を見かけないが、特別に強力な個体は昼間でも活動できる可能性がある。その個体が目的なのだから、探索は昼夜関係ない。
スカウトたちにはトレント系はもう無視して構わないから、とにかくアンデッドを探すよう指示を変更した。ボスが森の中心付近にいるのだとするなら、捜索範囲を考えればそろそろ見つかってもいい頃合いだ。
どのみち、直に日が暮れる。アンデッドたちが活発になる時間帯だ。昼でも動いているアンデッドを探すのは大変になるかもしれないが、アンデッドたち全体の行動の傾向を掴むのはやりやすくなるだろう。
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