第38話「ラスボス二段変身ごっこ」





 それからも、レアはプレイヤーを見つけるなり剣崎をけしかけてキルした。


 ――ていうかこれ、鎧坂さんの『剣』スキルが完全に死に設定になってるな!


 勝手に動いて勝手に斬ってくれる便利な剣崎のおかげである。

 しかし鎧坂さんにせっかく振った経験値も勿体ないし、レアは次に見つけたプレイヤーはこの手で斬ろうと決心した。


 そういう時に限り、なかなか次の獲物が見つからない。もうすでに他のプレイヤー同士で戦い、数が減ってきているのだろうか。しかしこれまでに倒したプレイヤーはどれも一撃で地に伏し、とても他のプレイヤーと戦って勝ち残った者には見えなかった。


 だとすれば、まだ他に強いプレイヤーがいるはずだ。

 そう考え、レアはこれまでより慎重に歩き始めた。

 全身鎧のため、どうしても音を消し去ることは出来ないが、『聴覚強化』によって相手の音を先に拾えると考えて行動するしかない。相手も同様に聴覚が強化されていればそのアドバンテージも失われるが、それはもはや考えても仕方がない。


 全神経を耳に集中させて静かに森を進んでいると、やがてかすかに金属音が聞こえてきた。

 不規則に鳴る金属音と、それに紛れるような微かな足音。これはおそらく何者かが戦闘をしているのだろう。

 レアはその音に集中しすぎないよう周囲に気を配りながらも、慎重に音に近づいていった。





 音の先では、二人のプレイヤーが剣を交えていた。

 近接戦闘のスキルに絞って相当経験値をつぎ込んでいるのだろう。加えて持ち前のプレイヤースキルもなかなかのもののようで、二人ともかなりの腕前だ。

 そう、鎧坂さんのスキルを試すには丁度いいくらいの。


 レアはあえて音を出しながら、二人の前に姿を表した。


「!? なに! 他のプレイヤーか!」


「ちっ! 慌てなくてもこいつの後に片付けてやるから、邪魔すんなよ!」


 二人はレアに気づいたが、戦闘を止める気配はない。

 レアは無造作に二人に近寄り、切りかかった。


「こいつ!?」


「てめぇ! おもしれえ! ならてめぇから……」


 ――戦闘中におしゃべりとは、余裕があるようでけっこうだな。


 鎧坂さんのスキル、『スラッシュ』を発動させ横薙ぎに剣崎を振るう。『スラッシュ』は斬撃をお見舞いするスキルだが、発動の瞬間の刃の立て方によって縦斬りか横斬りかが変化する。

 どちらを狙ったと言うよりも、右手で振るったために右手側に居たおしゃべりを斬撃が襲った。自分の剣で受けようとしたようだが、その反応速度はともかく、剣の質が悪かった。何の抵抗もなく剣ごと身体を断ち切った。さすがは鎧坂さんと剣崎くんのコンビネーションである。


「バカな!?」


 斬られたプレイヤーは即死したため、叫んだのは生き残っている方だ。レアを警戒して後ろに飛び退すさり、距離をとって剣を構えている。

 しかし、鎧坂さんと剣崎くんの前では多少の距離などないも同じだ。

 『敏捷』ツリー、そのかなり先で取得できる『縮地』を発動させ、一瞬で距離を詰めると、縦斬りの『スラッシュ』で真っ二つにした。


 ――なかなかの強キャラムーブだったけど、雰囲気だけだったな……。


 レアは若干拍子抜けした。

 あと何人残っているかはわからないが、制限時間までに狩り尽くすのはやはり難しいかもしれない。隠れてやり過ごそうとするプレイヤーがもしいれば、見つけ出すのは困難だ。

 今回の事を教訓に、探査、探知系のスキルを少し探してみるべきかもしれない。


 ――いや、待てよ。


 ふいに剣崎くんたちを見る。彼らは単独で飛行が可能だ。


 ――剣崎二郎、剣崎三郎、剣崎四郎、剣崎五郎、ちょっと森の上空を飛んでプレイヤーを探してきてくれないか。もし見つけたら報告を……あ、いやもうそのまま斬り捨ててくれ。


 鎧坂さんの性能試験はもう終わりでいいだろう。これだけできれば十分と言える。


 飛び立つ4本の剣崎を見送り、レアは自分でもまたプレイヤーを探し始めた。


 しかしその後レアがプレイヤーに遭遇することはなく、やがてレアのいるブロックの予選終了の通知がもたらされた。





 1分後に観客席に転移するという通知にレアは焦り、憑依を解除すると、木のウロから出てその場に鎧坂さんを『召喚』した。

 召喚した鎧坂さんに手伝ってもらい鎧を着込み、外套を羽織ったところで、足元が輝き、観客席に転移した。間一髪だったようだ。

 心配していた日の光も木陰に短時間いる程度なら影響がないらしく、特になにかしらのダメージを負ったという感覚はなかった。

 これならば、もう少し大胆に行動できるかもしれない。

 ともかく、『術者召喚』の実戦テストは完了だ。結果は良好である。


 観客席は多くのプレイヤーで埋まっており、立ち見ができそうな最外周に現れたレアを気にするプレイヤーは居ないようだった。今のレアは外套で覆われており、鎧坂さんの見事なデザインによる威圧感も薄められている。

 闘技場内を見てみると、いくつものモニターが宙に浮かび、どの席からでもどのブロックの戦闘でも見ることが出来るようになっていた。ただしすべての戦闘を見られるわけではなく、どこにあったのか不明だが、カメラがフォーカスしている戦闘しか見られないようだ。

 それも、見る限りでは本当に戦闘のみを映しており、おそらくレアが隠れるところや、あの弓のプレイヤーたちが同盟を組むところのような、そういう裏方作業が映されているモニターはない。


 周りにいるプレイヤーの話題は1つだけ黒くなっているモニターのことで持ちきりで、おそらくあれがレアのいたブロックだろう。

 聞こえてくるプレイヤーたちの話によれば、最後に映されていたのはあの二人のプレイヤーと鎧坂さんとの戦闘で、その後鎧坂さんが剣を4本四方に飛ばし、歩いているところで映像が切れたそうだ。

 レアの最後の早着替えも見られていないようでなによりだった。


「あの黒い鎧の騎士、何者なんだろな」


「いくらなんでも強すぎる。運営の用意したイベント専用ボスとかじゃないのか?」


「さすがにそれはないだろ。もしそうだとしたら、ブロック16に割り振られたプレイヤーが抗議するんじゃないか?」


「イベントだからって張り切ってエントリーしたら、ボスの噛ませ犬でしたってことだもんな。そりゃないよな」


「じゃああれ、プレイヤーなのか……? 何やったら2週間で全身鎧なんて買えるんだよ」


「どっかの商会でも襲ったんじゃないかな? かなり躊躇なくプレイヤーを真っ二つにしてたし、そのへん割り切ったプレイヤーなのかもしれないぜ」


「てか、それもおかしいよな。構えた剣ごと真っ二つって、どんなSTRがあったらそんな事出来んだよ」


 やはり目立ってしまっているようだ。

 これまでに取得した経験値からすれば、レアの強さがトップクラスであることは疑いようがないが、事によっては鎧坂さんとまともに戦えるくらいのプレイヤーはいるかもしれないと思っていた。

 仮にそうしたプレイヤーと当たったならば、鎧坂さんが倒された後、満を持して登場し、ラスボス二段変身ごっこのようなことをしようと思っていたのだが、どうやらそれは無理らしい。


 モニターの中では色々なところで色々なプレイヤーが戦いを繰り広げている。中には罠などで相手を追い詰めるプレイヤーもいるようで、レアにとってもかなり勉強になる。このやり方は参考にさせてもらい、大森林で活用することにしよう。



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