第22話「ストラテジー」
早速、エンジニアーたちに狼たちのいる洞窟から女王の間までを直通で繋げてもらうことにした。
はじめは女王の間へ至るまでの、襲撃の際にレアたちが進んだルートの通路を全て広くしてもらうつもりだったが、直通で繋げたほうが距離が短かったからだ。
動ける工兵は10匹ほどらしいので、とりあえずその作業に全員回ってもらう。
他の工兵が回復し次第、レアたちの旧拠点への開通作業に入ってもらうつもりだ。
工兵達が作業をしている間、レアはスガルの『産み分け』ツリーを調べていた。
スキルの名前や産まれるアリの種族名から考えて、『歩兵』と『工兵』、『騎兵』だけだとは考えづらい。なんらかの条件で、たとえば『砲兵』などもアンロックされていくはずだ。
「ていうか、なんかここだけストラテジーになってるな……」
ストラテジーならそれはそれで楽しめそうだが、それならまずはゲームのルールを把握しなければならない。
今、無事な状態で遊んでいる「歩兵」と「騎兵」はそれぞれ5匹と1匹だ。
彼女らを1単位として編成し、洞窟周辺の哨戒に出すことにした。この6名からなる単位をとりあえず班とし、さしあたっては上位の単位は編成せず、班単位で運用することにする。
この班行動によって得られる経験値や資源などからアリたちの運用コストとメリットを想定し、それをゲームの基本ルールとして戦略を組み立てるとしよう。
今回は人員がいないのでほぼ歩兵のみだが、今後編成する時には各兵科からバランスよく組み合わせたい。「工兵」や、もし存在するなら「砲兵」もいるといい。
とはいえ本格的に軍事行動をするとしても、6国家のどれかに喧嘩でも売らない限り、敵は基本的に組織的な軍隊ではなく個人の集まりになるだろう。
であれば多少こちらが弱兵だとしても問題にはなるまい。
「ところで、スガルは眷属のアリたちの能力値に経験値を振ったりしないのかい?」
現時点で数百もいるアリたちにいちいち経験値など振る余裕はないだろうが、どうやっているのだろうか。
スガルはそれについては考えたこともないらしく、どうもアリたちは消耗品程度の認識のようだ。
そういうことならそれでかまわない。むしろいくらでも使い潰しがきく軍隊なんて最高だ。
補充もスガルのLPとMP消費で産み出せるようだし、もう畑から兵隊が採れるようなものだ。肥料は畑であるスガルへのポーションだけでいい。レアはワクワクしてきた。
「消耗品て言うけど、そういえば死んだアリってどうなるの? 死ぬことによるペナルティとかってあるのかい? たとえば一回り弱くなる──具体的には経験値がロストするとか、あるいはキャラクターそのものがロストしてしまうとか」
聞いてみたが、スガルはそこもどうやら曖昧なようだ。
死体は一応回収できる分は回収してあるとのことだが、後から確認すると死体が消えているという。また蘇生についても、そのようなスキルは持っていないため、やったことがないからわからないそうだ。
単純に数値的な効率のことだけを考えるなら、アリなんて蘇生させるより新たに生み出した方が早いのだろう。
気にしたこともなかったという雰囲気だった。
ついでに言えば、スガルは現在のアリの総数も細かく把握していなかった。兵力を把握していなくても運用できる軍隊など聞いたこともないが、そのくらいアリの命が安いのだろう。
しかし、ケリーや白魔たちはそういうわけにもいかない。単体の戦力がアリとは比べ物にならないからということもあるが、せっかく名前を付けた眷属を使い捨てにするつもりはない。
いざという時のために、何かしら蘇生を行う手段は考えておいた方がいいだろう。少なくとも現状ではその手のスキルでは見つかっていなかったはずだが。
ともかく、今は戦力の回復と拡充だ。最低でもスガルのLPとMPは自然回復分が無駄にならない程度に常に消費させて兵士を生産しておきたい。
「じゃ、LPとMPが全快状態なのは勿体ないからなんか産もうか。とりあえず、「工兵」を増やそう。やってもらいたいことは山ほどあるし、「工兵」単体でも全く戦えないわけでもない。部隊に組み込めば中距離からの牽制や目くらまし程度はできるし、そもそもよく知らない人から見れば「歩兵」と「工兵」の区別なんてつかないはずだしね。嵩増しに使える」
実は「歩兵」と「工兵」はよく見ると若干色が違う。暗がりなので見づらいが。
「産む部屋とかはあるのかい? 女王の間は今はケリーたちが占有しているけど」
洞窟内にはどうせ身内しかいないから別にどこでもいいそうだ。ならこの部屋で産んでもらう事にする。ヘルプによれば、幼虫とかではなくいきなりアリが生まれるようだし、どういう生態なのか若干興味がある。
スガルのステータスを監視しながら、出産の様子を見守る。『工兵』のコストはさほど高くはないようで、数個のタマゴを産んでも行動に支障はなさそうだ。
「ていうか、産むのはタマゴなんだね。あ、割れた」
スガルが産んだタマゴはすぐに割れた。巣にタマゴがないのはタマゴである期間が非常に短いからのようだ。
割れたというか、タマゴの表皮が裂け、中から焦げ茶色の「エンジニアーアント」が姿を現した。
生まれたエンジニアーアントは5匹だが、すでにレアの前に整列している。この時点から自我があるということなのだろう。あるいは自我は薄いがその分統制が出来ているのか。
いずれにしても誕生直後に行動できるとは、虫モンスターが育つのが早いのは他の有名な育成ゲームと同様であるようだ。
「これ、例えばすぐに「歩兵」が欲しいって言ったら、今から産めるの? クールタイムのようなものはあるのかな」
レアが尋ねると、スガルは説明してくれた。
「歩兵」ならすぐに産めるが、「工兵」はしばらく無理らしい。一度に産める数には制限はないが、事実上はLPとMPの最大値に依存する。現在のケースで言えば「工兵」のあとにすぐに「歩兵」を産むことはできるが、その場合は「歩兵」のクールタイムが終わるまで「工兵」のクールタイムは減らないそうだ。
つまり魔法スキルの仕様と似たようなものということだ。わかりやすくていい。
わかりやすいのはいいのだが、たったそれだけのルールを知るのにもけっこうな時間が必要だった。
スガルは言葉を発することが出来ないため、なんとなくの意思表示のみでコミュニケーションをとったからだ。
「説明ありがとう。わかりやすかったよ。わかりやすかったんだけど……やっぱり直接会話できないっていうのはすごく不便だな。遠くに行ってしまうとそれさえできなくなるし……うーん」
たとえば「眷属会話」のような感じのスキルでもあればそのあたりの懸念は一気に解決するのだが、アンロックされている範囲では見当たらないし、スガルのツリーにもない。存在するかどうかも不明だ。
「何かないものかな……。眷属と脳内で会話できるような……。遠く離れていても可能ならなおいいけど。テレパシーとか、遠距離の……通話というか……ん?」
そういえば、ケリーをはじめ眷属たちは今や全員インベントリを使用することができた。
これはプレイヤーとシステム的にほとんど変わりがないというチュートリアルでの言葉を裏付ける結果であった。
であれば、もしかしたら。
「眷属と……フレンド登録して、フレンドチャットとかできるんじゃないか?」
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