第7話「使役」




 これまでの考察でレアが思いついた可能性は、大まかに言って3つ。


 ひとつ、『精神魔法』の『支配』が条件のひとつである。

 ふたつ、『調教』『召喚』などのスキルツリーには先がある。

 みっつ、『死霊』『調教』『召喚』には関連性がある。


 どれも根拠は無いし、だんだん苦し紛れの案になりつつあったが、とりあえずの指標は出来た。計算上、今の経験値ならば十分に検証できる。


 しかし、ひとたび検証のために経験値をつぎ込んでしまったら、レアはこの周辺ではまともに経験値稼ぎが出来なくなる。

 効率よく経験値を稼ごうとするなら、つぎ込んだ経験値と同格かやや格上のエネミーを倒すべく移動しなければならないが、微妙系スキルばかり取得した状態で適正難易度のエネミーと効率よく戦えるかといえば、難しい。

 覚悟しているとはいえ、少ないリスクで済むのなら、それに越したことはない。

 もっともコストがかさむ『精神魔法』は後回しにして、まずは『調教』『召喚』『死霊』を取得してみることにした。

 合計60ポイントを消費し、3つのスキルを取得した。すべて取得してから、あらためて各スキルツリーを確認してみたが、取得可能スキルが増えているといったことは無かった。


 ――まぁ、想定内想定内。まだ慌てる時間じゃない。


 この時点で取得条件を満たしているくらいなら、とっくに見つかっているはずである。

 となれば、次は『精神魔法』だ。

 『支配』まで取得するなら、まずは『自失』で10ポイント、『恐怖』と『魅了』でそれぞれ40ポイント、最後に『支配』で60ポイントと、150ポイントを費やす必要がある。


 考えてみれば、もし見当外れで失敗した場合は微妙系スキルばかり取得した状態でこの先経験値稼ぎをしなければならない、と覚悟していたが、『精神魔法』をこれだけ取れば立派な『精神魔法』特化ビルドと言える。

 『精神魔法』の行為判定はMNDを参照するので、余った経験値を全部MNDに振ってしまえば十分戦える。MNDが増えればスキル発動の際に必要になるMPマナポイントの最大値も増加するため都合がいい。


 ならばもはやためらう必要はない。

 レアは150ポイントを消費して一気に『精神魔法』を『支配』まで取得した。

 考察が正しければ、これで何かしら取得可能スキルが増えているはずだ。


 ――さて、まずは『調教』から確認を……


 『調教』スキルツリーには新しいスキルは増えていなかった。

 『召喚』スキルツリーにも新しいスキルは増えていなかった。

 『死霊』スキルツリーには――


 『魂縛』というスキルが取得可能になっていた。


 ――きた! これだ! やっぱり方向性は間違っていなかった!


 興奮のまま、迷わず経験値を支払った。 

 新たに取得した『魂縛』の効果は「死亡してから1時間以内の死体の魂を奪う。また『死霊』発動時に対象にした死体に魂が残っていた場合、対象の『死霊』への抵抗を封じる。魂のストックを持っている場合、ストックを消費して、【アンデッド】系、【ホムンクルス】系、【ゴーレム】系を『精神魔法:支配』の対象に選択できる」というものだった。


 ――強い! ……のか? これは……。


 単体で見れば、効果は「死体の魂を奪う」だけであり、効果や使い道が不明である。なんならただのフレーバーテキストにさえ見える。

 しかしこのスキルを取得している時点で、最低でも『死霊』と『支配』は所持しているはずであり、その2つのスキルのネックである「成功率が低い」や「生物しか対象にできない」をフォローするというのは、十分に有用だと言える。

 魂のストックとかいうのがいまいちよくわからないが、おそらく『魂縛』で奪った死体の魂のことだろう。


 ただし、取得に必要な経験値は60ポイントと、ツリーのふたつめのスキルにも関わらず、『支配』と同等の重い取得コストだった。

 このスキルに的を絞って経験値を支払おうにも、『支配』から『死霊』まで揃えるとそれだけで170ポイントが必要であり、初期経験値だけでは取得できない。

 リセマラが容易だったクローズドテスト時には先天的な特性というシステムが無かったことを考えれば、現時点でこのスキルまで取得しているプレイヤーは少ないはずだ。あると知っていなければまずやろうとしないであろうビルドである。おそらく『魂縛』の存在を知っているプレイヤーなど稀だろう。


 さらにもうひとつ、『魂縛』が奪える魂は死亡してから1時間以内の死体からであるという点。この事実と『死霊』の仕様を考えると、どうやらこの世界で死亡した者の魂は、1時間は死体に残っているようだと考えられる。

 思いがけず、誰も検証しようとしなかったために単に雰囲気だとか、死体の損壊度かなにかだと思われていた『死霊』の「魂が残っている死体」という条件が何なのかが確定した。

 

 何にしろ、『支配』と『死霊』を強化するパッシブスキルを手に入れることができた。

 すでに溜め込んでいた経験値の2/3を溶かしてしまったが、とりあえずこれでなんとか戦っていけるだろう。

 強いて言うならば、フィールドボスやダンジョンボスなどの特別に強いエネミーは『精神魔法』に対する耐性が異常に高く、おそらく全く歯が立たないだろうという懸念はあるが。

 

 ――まぁ、一点特化の肉切り包丁でもなきゃ絶対勝てないってわけでもないし、やりようがないでもないけど。


 レアはいくぶん楽な気分になり、もはや最悪これ以上何も進展がなくても構わないというくらいの心持ちで、再度『調教』を確認した。

 『調教』は相変わらず『調教』のみのツリーであり、ツリーと言うか全くツリーではないし、『調教』だけスキルツリーという言い方は変えたほうがいいのではないかなどと考えながら『召喚』のスキルツリーを開いた。


 『契約』というスキルが取得可能になっていた。


 半ば条件反射で経験値を支払った。


 その効果は「一度召喚に成功した対象の魂を契約で縛る。次回以降の召喚時、契約済のキャラクターを召喚対象に選択でき、その場合対象は召喚に抵抗しない。『死霊:魂縛』により魂を奪った死体をアンデッドとして契約者リストに追加できる」


 『魂縛』と同様、基本スキルの『召喚』の純粋強化である。加えて取得条件になっている『魂縛』に追加効果をも持たせている。非常に強力なスキルだ。ここまで揃えるのに最短でも310ポイントもの経験値を消費するだけのことはある。

 この時点でレアは『精神魔法』『死霊』『召喚』の3枚看板で戦えると言っていいだろう。支払った経験値はかなりの量だが、十分元は取れている。

 

 先の考察がかなりの部分で的を射ていたことはすでに証明された。

 レアはもはや、『調教』にも新しいスキルが出現していることを疑っていなかった。

 

 そしてレアの確信の通り『調教』のスキルツリーで新たに取得可能になっていたスキルは、果たして『使役』だった。







 ★ ★ ★


あとがきみたいな欄って無いんですね。

こちらは以前になろうの方で読者様から説明希望がありましたので載せておきます。


各パラメータのガバ解説


LP……ライフポイント。生命力。ダメージを受けると減る。一部のスキルのコストでも使ったり。基本的に無くなると死ぬ。

MP……マナポイント。魔法とか一部のスキルとかを使う時に必要。エネルギーみたいな。

STR……ストレングス。腕力。力こそパワー。一部のスキルや魔法の最終的な達成値(効果の強さ)でも参照する。

AGI……アジリティ。素早さ。足りないと兄貴に怒られる。

VIT……バイタリティ。体力。スタミナとか。一部のスキルや魔法の抵抗判定でも参照する。

MND……マインド。精神力。心の強さ。一部のスキルや魔法の抵抗判定でも参照する。

DEX……デクスタリティ。器用さ。一部のスキルや魔法の発動というか成功判定でも参照する。一部のスキルや魔法の最終的な達成値(効果の強さ)でも参照する。

INT……インテリジェンス。賢さ。一部のスキルや魔法の最終的な達成値(効果の強さ)でも参照する。


書かれていなくても、どのパラメータも一部の行為の成功判定、抵抗判定、効果の強さの判定などで使用する場合があります。

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