01:11.11
昼食そっちのけで星宮と巡は話し合っていた。
正しくは星宮の一方的な語りであったのだが。
「やはり、私の考えていた通りだ」
高速に手を動かして、手元のタブレットに何かを書き込んでいく。
「当時の状況を再現する。異能が分からない者に対しての常套手段だが、うまくいったようだ」
喋りながら星宮は何かの作業を一人で進めていく。
「でも急にどうして……」
巡は疑問を投げかける。
「トリガーとなったのは恐らく時間への意識だ」
巡の方を振り返ることもなく、答える。
「いくら試験に合格するためとは言え、21時間もの間、数え続けるなんてはっきり言って異常だ。だが、君はそれをやってのけた。その感覚はそう簡単に失われるものではないだろう」
一度考えるような仕草をしたが、すぐに手を動かす。
「奇跡的にもそれは異能を起動するための条件だった。そして、今、試験の時と似た状況となり、異能を呼び覚ましたと同時に君の体に刷り込まれていたその時間の感覚が無意識のうちに表面化したのだろう」
星宮は手を止めた。
何かの結果が出たにかそれを見て一人で頷く。
「時間の拡張。それが君の異能だ」
「つまり、市之瀬さんは本来、使える時間よりも多くの時間を使うことができるということですか?」
いつの間にか、先ほどの部屋から出てきたのか在業も会話に参加していた。
「そのようだ。ただただ力によって早くなるというわけではない。本来は1秒しかないはずの時間を5秒の長さに拡張する。10分の長さを21時間に拡張する。自身の体感時間を無理やり、引き伸ばすことができるようだ。だから、本人は普通に過ごしているようでも、拡張された時間を知覚できない周りの者は彼が高速で移動しているように見える」
「すごい」
在業は息をもらす。
「あぁ、時間という概念を根本から覆す異能だ」
星宮もそれに頷く。
「例えば、あと1秒で爆発する爆弾の解除も君ならばじっくり時間をかけて解除することができるというわけだ」
興奮した様子で星宮はまくしたてる。
「想像してみたまえ。君は二十四時間しかないはずのものを二倍にも三倍にも拡張することができる可能性だってあるんだ」
(そんなすごいことを自分はしていたのか)
当の本人は2人の熱狂ぶりにいまいちついていくことができていなかった。
何かの違和感を覚えないということもない。
「時間への意識……」
きっと、星宮の予測は当たっているのだろう。
どうやら、それが無意識であったとしても、時間を数えながら歩くと、時間という存在を意識すると自分の異能は発生するようだ。
だが、どうしても自分の力でそれをやっているように思えない。
それとも、それが異能というものなのだろうか。
「コツさえ掴んでしまえばあとは簡単だ。あとはそれを意識してできるようにすればいい」
今度は巡の目を見て、星宮は言っていた。
「自分の意思で出来るようになれば、より実感も沸くはずだ。そうすると、次の訓練内容のことだが……」
すると、星宮のタブレットから通知音のようなものが鳴った。
それをパッと見ただけで星宮は嫌そうな顔をする。
「すまない、急用が入ってしまった。2時間後にまたここで会おう」
そう言うと、先程までの興奮した様子が嘘だったかのように白衣を翻しながら去っていった。
残された2人は互いに顔を見合わせる。
同世代とはいえ、初対面だ。少し気まずい。
先に沈黙を破ったのは在業の方だった。
「とりあえず、昼ご飯でも食べる?」
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