運命の出会い日記と睡眠不足の恋する乙女たち

@ramia294

第1話

 雨の季節が、サクランボの肌を滑り落ちる

様に過ぎ去って行き、恋する季節が、幕開けです。


 今年こそは、運命の出会いをと、意気込む、うら若き頃から…、数回目の夏を力強く泳ぎ渡っていく乙女たち。


 しかし、彼女たちの夏は、今年も彼女たちだけの夏で、過ぎていきました。


 恋の季節の夏に、運命の人に出会えないなんて、もしかして、見逃しているだけなのでしょうか?

 大切な運命の人と気付かず、すれ違ってしまったのでは、ないでしょうか?


 そこで発明してみました。


『恋する運命の出会い日記』


 この日記、普通に使って貰って構いません。

 ただし、あなたの運命の人との出会いの日の午前0時から、一分間だけ、日付のページに、


『今日は、運命の出会いの日』


と文字が浮き出ます。


 これであなたは、運命の出会いを逃しません。


 熱い恋と、まぶしい未来があなたを待っている事でしょう。


「さすがに、この日記では、クレームは無いでしょう」


 僕は、わが社の経理担当、優秀な吉野よしのはなさんと話していました。


 しかし…。


 早くも、一週間後には、クレームの嵐。


 浮き出る文字を待って、毎夜眠れない日々を過ごす充血した赤い目を持つ乙女たち。


 夜更かしする不規則な生活は、夏の焼けた肌はどこに行ったのでしょうと、思わせる不健康な白い肌に乙女たちを変えていきました。。

 テレビの中の評論家は、『出会い日記』が、生み出す物は、不規則な生活と新たな病のウサギ症候群と不名誉な評価をいただき、またまたお役人に叱られました。


 困って、社内で悩み続ける僕。対応に奔走する華さん。毎日遅くまで残業する華さんを迎えに、ご家族の方がいらっしゃいました。


 華さんのご主人の良介さんは、爽やかなイケメン。男ならこんな外見で、生まれてきたかった見本の様な人。もちろん性格も最高です。

 エリート社員のご主人は、いつもにこやかで、奥様の華さんに無理をさせている僕の体調を気遣ってくれます。


 そしてもうひとり。


「先生。また失敗したの?」


 ご主人に、ぶら下がる様にくっついている女の子。


「桜ちゃん、面目ない。今度こそ、問題無いと思っていたのだけど」


 桜ちゃんは、小学生。僕を先生と呼びます。


 いつも仲良し、華さん一家を見ていると、僕は何故か嬉しさがこみ上げ、頑張る気持ちが湧いてきます。


 その日から、三日間。徹夜で作った、恋日記お知らせ枕。


 枕に付いているポケットにあなたの日記をそっと入れて下さい。

 出会い日記に、浮かび上がる文字を夢の中でお知らせします。


 午前0時から、一分間。夢の中に、運命の文字。

 お知らせします。その日、訪れる運命の出会いを。


 目覚める事が出来れば、確かめて下さい。

 浮かび上がる文字を。 

『今日は、運命の出会いの日』

 となっている事を。


 寝不足に悩む、そろそろお肌に気を使わないといけないお年頃の乙女たちは、これでぐっすり眠れます。


 これで、お肌の悩みも目の色も解決。

 恋する乙女の皆さんは、恋に仕事に勉強に、全力が、尽くせます。



 試作品の日記は、もちろん僕のデスクにありました。

 お知らせ枕で、問題解決出来た夜。ホッとした僕が、何気なく開くと、文字が浮き上がりました。


 『今日は、運命の出会いの日』


 僕は、間違っていたようです。


 運命の出会いが、必ずしも幸せだけを連れて来るとは、限らないようです。



        終わり


 

  このお話は、『凍りついた少女と記憶を運ぶワゴン』に繋がって行きます。本来は、ひとつのお話しでしたが、字数が多過ぎるのは、作者の筆力不足のため、読者の方にかける負担が大きくなるかもと、こんな形にしました。

 余計に分かり難くなった様で、申し訳なく思っています。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運命の出会い日記と睡眠不足の恋する乙女たち @ramia294

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ