第2話 こんなもんか…


私は先日、変わった男の子に出会いました。



―――羽柴遼太郎くん



「ふふっ、サムソン・ティチャーって―――」

思い出すと、もっとメジャーな超人がいるでしょって感じで、少し可笑しくなりました。


「おーい、カンカン!練習始めるよ!」

遠くから、先輩レスラーの呼ぶ声が聞こえた。


「は、はーい。今行きまーす」

そう、私はこれから、プロレスの練習です!





※※※※※※※





透き通るような雲一つない秋晴れの中、

野坂町商店街興行が開催されます。

会場は、地元で愛される小規模な和菓子屋の駐車場に特設されたリング。


リングは6メートル四方で、地面から90センチほどの高さにあり、3段の強く張ったロープで囲われています。


リング上、ロープの外のエプロンサイドに立つ。

見下ろすと、まるで駅のホームの縁に立ってるかのようです。

自分自身の身長に、90センチプラスされた目線の高さはちょっと怖いです。


振り返り、ちょうど胸の位置に来る1番上のトップロープを掴む

目をつむり、深呼吸をする

青コーナー、そしてリングの中央を見据える



―――よしっ!



本日も甘神甘楽―――

否、カンカンの闘いが始まります。







※※※※※※※






「只今よりぃ!第3試合っ!!シングルマッチ、30分1本勝負をっ!行います!!!」

幕の向こうからリングアナウンサーのハリのある声が響いた。


「先ぁずはっ!!青コォウナァァー!!!カンカン選手のぉ〜入場ですっっっ!!!!」

私を呼ぶ声がします。

地を震わせるような重低音。

BPM110の16ビート。

これが私の入場曲。


幕を開けてリングへ向かいます。

―――いや、リングに向かう!


混沌のガウンに身を包み、ここから私は別人になる。

甘神甘楽じゃない。1人のレスラー【カンカン】だ!


リングまで約10メートル

私生活とは違い、真っ直ぐとリングを睨む

前髪で表情は隠さない



―――これが、これが私なんだ!



ゆっくりと、1歩1歩リングへ歩を進める

観客が、ワクワクと目を輝かせているのがわかる


「カンカンー!ガンバれぇっー!」

ちびっ子の声が聞こえる

観客の反応一つ一つが、私に立ち向かう勇気を与えてくれる!



――――――バガンッ



「ッ…痛ったぁ…!」

急に背部に激痛が走った!


振り返るとパイプイスを片手に携えた大女がいた。

それも5人も…


背部の痛みはパイプイスでの殴打によるものだと推測出来た


「くッ…シングルマッチ…だろぉ!」

なんとか右腕を振りかぶり食ってかかる―――




―――バヂンッ




「いっ…!」

―――右腕に激痛が走った


振りかぶった右腕にミートするように

折り畳んだパイプイスがスイングされたのだ



「ぁあ…ッ!痛っっつぇ…」

右腕を庇いながら、四つん這いになる


そこに大女5人の容赦ない蹴りや踏みつけが

スコールのように降り注ぐ


明らかな反則行為だ

でも、もちろん、レフリーは止めに入らない

なぜなら



―――まだ試合は始まってすらいないから



リングにあがり、ゴングが鳴らなければ試合は始まらない


試合が始まっていないのをいいことに

こいつ等は好き放題反則行為を実行してくる


ガウンを強引に剥がされ、仰向けに倒される

首元に、折り畳んだパイプイスの足が押し付けられる


「………ッ…………カッ…ハァ…――」

―――ヤバっ、息でき…な……






※※※※※※※





―――――――勝ちました



12分24秒

決まり手は

シューティング・スター・プレス




私を相手にするのに奇襲に凶器に多人数

っていうのはよく考えたなと思います。


合格点あげちゃいます!




でも…

相手が悪いよ

だって私―――――




―――――2代目パピリオ・デスマッチですよ



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血みどろ少女の眩い時間〜そのリスト、クラッチして離さない〜 陸戦型ジャンボ @jamb

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