エピローグ 選択「いいえ」【水流】
「だから、だからこそ、一緒には行けない」
「な、……話の流れと違うじゃん。今のは一緒に行く流れでしょ?」
「……お前は〝光〟だ。俺だけじゃない。この世界全員を照らすことができるくらい明るい光なんだ。楽園に行ってよくわかった。ゆらほどの再生能力を持った光主は稀だ。その力があれば、もっと多くの人を救うことができる」
「そんなの……そんなのわかんないよ……。私は澪のためだけに生きれれば、それで──」
「だったら、なおさら待っていてくれ。俺はお前がいてくれるなら絶対に死なない。お前が待ってくれてる場所へ絶対に帰ってくる。たとえ腕をもがれても、脚を切り落とされても、内臓を抉られても、首を落とされたって、俺は絶対に生きてお前のところに帰ってくる。生きていて、ゆらさえ待っていてくれるなら、俺は生きていられる。だから、俺のために、待っていてくれ──」
「……」
支えるって誓ったのに、結局私は……。
「誰かが信じてくれる。それがどれだけ心の支えになるか俺は知ってる。ゆらが信じてくれたから俺は意味を見つけられた。だから、また俺のことを信じてくれ。きっと勝って帰ってくる」
涙をこらえて、気丈に頷く。もう自分の弱さは十分に知った。今は送り出し、帰りを待つことこそが私のできること。
「わかった。信じる……信じて待ってるから」
澪はシャツの下に身に着けていたペンダントを外し、かわりに私につける。
「これ、ずっとつけてたの?」
「もらった日からずっと……なんとなく……いや、あのときから、きっと俺はゆらのことを好きだったんだと思う。持っておいてくれ、必ず取りに帰るから」
ふふ、と笑いをこぼしつつ私もシャツの中から同じものを取り外した。
「ゆらもつけてたのかよ」
「だって、好きな人に初めてもらったものだからね」
私も澪がしてくれたように澪の首にそれをつける。
「必ず返しに帰ってきてね」
それを祈るようにぎゅっと握りしめて澪は出立を告げる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
そんな簡素なやりとりを残して彼は向かっていった。進むべき道に、進むべき未来に。
◇ ◇ ◇ ◇
「よお、グラデルテイン」
「待っていたよ、仁科澪。そして、おやすみの時間だ」
◇ ◇ ◇ ◇
──澪は帰ってこなかった。
一日、二日、一週間、一ヶ月、半年、一年。
待ち続ける私のところに彼がもう一度姿を見せることはなかった。
「私も進むね、澪──」
ただ待っているのは今日で終わり。私も進むべき道へと歩き出す。彼が私を光だと言ってくれた。だから私にできることをしながら、ひとり、この世界を彼の帰りを信じて生きていく。
澪を信じる。それが私の生きる意味。
水の色彩──完
水の色彩 都築 千 @yua-kanatori
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