第6話 レインブーツを履いた姉
時に弟よ。お前、30にさしかかるのにまだ彼女いないのか。私なんてあんたの歳くらいには彼氏の4人や5人くらいいたわ。
それって五股ってやつじゃないの?
ばっか、私がそんな節操なしにみえるか。
スピード破局だ。
そんなに合わないならよく考えて付き合えばいいじゃん。
直感に従わなきゃね。という姉の直感は随分鈍いらしい。
何よ、その目。と訝しげに見ていた僕は姉に睨まれた。姉の切れ長な眼が刺さるようだった。
モード系の服を格好良く着こなし、
前髪は綺麗に長いまつ毛の上を一直線にすべり、
胸の上まである黒髪は艶やかだった。
自分は誰からも愛されて当然かのような、
その自信に溢れるような
根拠の無く湧き上がるものが姉にはあった。
羨ましくも同じ兄弟なのに
僕には無かった。悲しさよりも虚しさの方が勝る。
そんな姉はその5人目の彼と口論の末、
雨の降る水無月の夜に命を落とした。
警察は刑事事件としてとらえ、
その彼は実刑判決を受けた。
僕にも憔悴しきった両親にも
少しの間メディアとご近所さんがついてまわった。
大変だったわね、と声をかける人や
得意げにメディア取材を受けるおばさんもいた。
そんなに覚えてなかった。
気付けば姉は小さくなって家の小さな祭壇に
飾られていた。
だから多分、目の前にいる姉は
未だ彼女の死を受け止めきれない僕の勝手な妄想だろう。
ずぶ濡れだ。激しい雨と胸から流れる血液で
それはそれは刑事ドラマもびっくりな現場だよ、姉ちゃん。
弟よ、私の可愛い弟よ。
お前は私の彼みたく、気まぐれで人を殺すなよ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
時に弟よ。
雨は私は好きだよ。
彼に見せたくてね、おろしたてのブーツ履いて行ったんだ。
ほら、綺麗でしょ。
雨のおかげで輝いて見える。
私の青いレインブーツ。
2024/02/17
ひんやりした おひめさま ねなしぐさ はな娘 @87ko
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