朱に交われば 三十と一夜の短篇第68回
白川津 中々
■
ドンガラガッシャンとガラスの割れる音で目が覚める。
「資本による学業差別的施設は即刻潰すべし!」
やれやれまたかと起き抜けに飲みさらしたビールを飲む。気が抜けてまずいが、一発飲んでおかないと心が持たない。
「我ら資本からの脱却と市民の解放を志す! 諸君らも賛同し新国への発展に助力すべき!」
相変わらず朝からうるさく述べる連中である。与党が新党へと変わってからというものどうも活気付いているがいい迷惑だ。議論するなら場所と時間を選んで欲しい。
しかし、こうした連中が世の主流となりつつあると思うと憂鬱である。市民革命だの草の根運動など馬鹿かと思うがしかし、どうにも国の過半数は賛同的で毎朝毎夜デモンストレーションを行なっているようだ。一般人だけではなく、その辺のタレントまで積極的に声を張り上げているものだから質が悪い。扇動的、画一的な思想は自分たちの言う自由の侵害だというのにそれが分からんかね。
「我々は平等の名の下に市民を解放し格差のない社会を作る! それ即ち、ユートピアである!」
随分上から言ってくれる。平等とか格差がないとか謳いながら、自分達は雲の上ですってか。救いようがない。デモに参加してるタレントもそうだ。皆等しいといいながら、手前は名前を利用してチヤホヤとされている。くだらないといったらありゃしない。あぁいう奴らは土に塗れる事も油で汚れる事もせず、綺麗事ばかりを吐いては周りから称賛されている。そもそも奴らの行動原理は自分の腹が膨れるかどうかである。さもしいといったらない。
「我らは自由! 我らは人間! 我らは平等! 金と特権に塗れ腐敗した国は倒れた! これからは新たな時代の幕開けである! 皆、時の立役者となろう!」
腐敗ね。確かに腐ってはいたが、少なくとも今のような暴力と破壊は容認されていなかったがね。それをどう捉えるかは知らんが、奴らにとっては正義の履行なのだろうから、語るべくもないだろう。
「さぁ! 平和な国を作ろう! 新たな国を! 新たな秩序を!」
画一された価値観により抑圧される社会が平和なものか。とんだ危険思想だよ。まぁ向こうからしてみれば俺の方が危うく見えるのだろうが。あぁ、相容れない相容れない。
どんどんと一色に染まっていく時代、どうにも息苦しい。嫌な世になったものだが表立っての反論などできないし、かといって奴らの旗を仰ぐのも御免被りたく八方塞。まったくどうしてこうなってしまったのか。いやはや困った。とりあえず、奴らが去ったら割れたガラス片付けて、寮母さんに連絡を入れて……あぁ、かったるい。今日の講義はふけようか……いや、それでは奴らの思う壺だ。気乗りはしないが、頑張ってお勉強しようかね。
朱に交われば 三十と一夜の短篇第68回 白川津 中々 @taka1212384
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