九百八十七話 焦っている?

「翼を生やすスキルを持ってるんだ~~……そこまでいくと、確かにドラゴンって感じがするね」


「そうだね。それに、今はディラーズフォレストで戦っているから邪魔かもしれないけど、もっと開けた場所に移動すれば、多分そんなに邪魔にならないよね」


「確かに邪魔にならなそうだけど、虎竜の戦い方的に合ってるのかな?」


ガルーレとスティームも離れた場所で行われている戦闘をじっくりと観戦し、生の虎竜について語り合う。


「……どうなんだろうね。アラッドはどう思う?」


「敵対した相手が鑑定系のスキルを持っていなかったら、不意を突く手段として仕えるかもしれないな」


「あぁ~~~、そういう使い方なら、良い攻撃手段? になるのか~~。っていうか、ディーナ……今日は拳で戦ってないんだね」


「みたいだな」


ディーナと拳を合わせたことがあるアラッドは、本来は拳以外にもメイン武器を有していると予想していたが……その予想は見事に的中。


現在虎竜と戦闘中のディーナは徒手格闘ではなく槍……ではなく、薙刀を使って戦っている。


「……あの長物、普通の槍ではないよね」


「あれは薙刀だな。槍と同じ長物ではあるが、槍と比べて突くのではなく、斬ることに特化した長物といったところか」


「突くのではなく、斬ることに特化した長物、か…………ここからじゃあ、まだ完全には解らないけど、多分その

選択が正解っぽいね」


虎竜の鱗は、アラッドたちから見て……あまり硬質さを感じない。

色は黄色と黒が基調となっており、虎の色を表しているが……上手くディーナの薙刀がヒットしても、切断面からズバッと血が流れだすことはなく、軽い辺りであれば薄皮が斬れる程度で中まで切断出来ない。


(…………見たところ、あの薙刀のランクは……五、といったところか。業物であることに違いはない……それでも、掠っただけでは鱗だけを斬ることも出来ない…………そもそも当てることすら難しいことを考えると、攻撃力だけではなく防御力も並ではないな)


虎と竜が混ざったモンスターとなれば、まずはどれほどの攻撃力を有しているものかと考えてしまう。


それはアラッドやスティーム、ガルーレたちだけではなく、虎竜の噂を耳にした冒険者たち、全員同じことを考えた。

だが……実際に優れた攻撃力を有してはいる。

しかしそれよりも注目すべきは、虎の俊敏性とドラゴンの鱗が持つ防御力。


その二つが重なることで、質の悪い防御力を手に入れていた。


「……なんか、あれだね。虎竜って、割と……暴れない感じ?」


「ん~~~~……そう、捉えられるのかな?」


ディーナと戦闘中の虎竜は、爪斬波などを飛ばした際に木々を切断してしまうことに躊躇いはないが、あまり周囲の木々を直接切断しようとはせずに戦っている。


「でも、単純にディーナさんと戦う上で一瞬だけでも隠れ蓑に……フェイクの為に使えるならって考えもあるんじゃないかな」


「それも……あるのかも。アラッドから見て、虎竜はなんであんまり木々を潰すことを避けてると思う?」


「…………他のモンスターとの関りは知らないが、虎竜は……もしかしたら、そういった行動から他種族のモンスターと不可侵を結んでいるのかもしれないな」


「? えっと……どういう事、スティーム」


アラッドの説明を直ぐには理解出来ず、スティームにどういう事なのかと尋ねるガルーレ。


「モンスターの中にも、自分たちが暮らしている住処を壊したくない、そう強く思っている個体もいると思う。そういうモンスターたちからすれば、考え無しに木々を潰すような個体は同じモンスターであっても、あまり好ましく思われないんじゃないかな」


「つまり…………虎竜は、一部のモンスターたちと、共存関係? にあるかもしれないってことね」


「可能性の一つだけどね」


「そうだな」


外から見た憶測でしかなく、二人とも断言は出来ない。


(……虎らしいと言えば、虎らしい……のか? 賢い戦い方の一つではある……ドラゴンは一応知能が高いモンスターに分類されていることを考えれば、何もおかしくはないと言えるか…………だが)


冷静に……冷静に虎竜の動きを観察するアラッドは、ある違和感を感じていた。


攻めるところは攻めており、虎の身軽さと竜鱗の堅さを活かしている。

存分に自身の強味を活かして戦っている様に見えるが……アラッドにはどこか焦っているように思えた。


(直感と、先程ほんの一瞬だけステータス欄を視たが…………おそらく八割五分と二割五分で、ディーナさんの方が不利だ)


虎竜を相手に、ソロでそこまで勝率を持てること自体、ディーナの年齢を考えれば上出来も上出来。


しかし、現在の戦況を観る限り…………ディーナが優勢とは言えないものの、それでも六対四と、決して勝ち目が薄い状況とは思えない。


(考えられる状況としては………………その可能性が高そうだな)


虎竜対ディーナの戦いを観戦し始めてから、アラッドはまず虎竜の腹部を確認した。

ガルーレが思い付いた予想が当たっているのか否かを確かめたが……予想は外れていた。


だが……まだ完全に外れていたとは断言出来ない。


(全体的に体力が落ちている理由がそれなら……っ!!!!????)


ある可能性に辿り着いた瞬間、アラッドは虎竜とディーナが戦っている方向とは別方向に強烈な存在感を持つ何かを感じ取った。

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