九百八十八話 飢えている
何かが来ている。
そう感じた瞬間、アラッドは渦雷……ではなく、羅刹でもなく……迅罰を取り出し、駆け出していた。
「フンッ!!!!!!!」
「ッ、ッッッッ!!!!!!」
「っ!!!!????」
狂化は使用していない。
しかし、アラッドは咄嗟に全身に魔力を纏い、身体強化のスキルまでは発動していた。
そんなアラッドが斬撃以外にも打撃としても使える迅罰を思いっきり振り抜こうとした……だが、結果は弾かれてしまった。
(まさか、完全に弾かれるとはな……危険だというのは本能的に、感じてたが……これはまた……強いのが来たな)
アラッドの前の前には、黒い毛、体色を持つ一体のミノタウロスがいた。
「ーーッ、ーーーッ!!」
アラッドの攻撃を弾いたミノタウロスは、攻撃を仕掛けてきたアラッド……ではなく、ディーナと戦闘中の虎竜の方に意識を向けていた。
その反応に、少し……少しだけではあるが、アラッドのプライドが傷付いた。
しかし、アラッドは元々と躱していた約束を忘れてはいなかった。
「ガルルルゥ……」
「ッ!!!!」
いきなり現れたミノタウロスが何なのか……クロは知らない。
それでも、虎竜とディーナの戦いに割って入ろうとしている。
これだけでも、クロが黒いミノタウロスを止めようとする理由は十分だが……なにより、クロも反応が感じ取っていた。
目の前のミノタウロスは……絶対に強いと。
「クロ、理由は解らないが、せっかく現れてくれた強敵だ。存分に戦ってくれ」
「ワゥ!!!!!」
「ッ!! グゥォオオオアアアアアアアッ!!!!」
さすがに無視出来ないと理解したのか、黒いミノタウロスは意識を虎竜から巨狼、クロへと移し、大戦斧を構えた。
「ねぇ、アラッド……あれ、なに?」
「なに、と尋ねられてもな……俺も解らない」
虎竜とディーナの戦いを見守ることも重要だが、いきなり戦いに割って入ると……正確には虎竜を狙って現れた黒いミノタウロスとクロの戦いにも目が離せない。
「ん?」
「どうしたんだい、アラッド」
「…………あのミノタウロス、普通のミノタウロスから進化した個体みたいだな」
「あぁ……やっぱりそうなんだね。もしかしたら亜種ぐらいなのかなと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだね」
アラッドが鑑定を使って黒いミノタウロスを調べた結果、正式な名前は牛飢鬼。
Bランク……ではなく、Aランクのモンスターである。
過去に何度かAランククラス、Aランクモンスターと遭遇したことがあるため、スティームも薄々勘付いていた。
「はぁ~~~~、それはヤッバイね。まぁ、迅罰を使ったアラッドの一撃を弾き返すぐらいだし、当然っちゃ当然か~~」
ガルーレも、先程放たれたアラッドの攻撃が弾き返された光景をしっかり見ていたため、まさかの事実にそこまで驚くことはなかった。
「それで、ぎゅ……牛飢、鬼? だっけ。なんか、変な名前ね」
「変な名前かどうかは置いといて、確かにあまり聞かないモンスター名だね……そういえば、別の国……別の大陸だったかな? そこでは、ミノタウロスみたいなモンスターを牛鬼って呼ぶらしいけど……それと何か関係してたりするのかな」
「…………どうだろうな。ただ、あの牛鬼は……何か飢えてるのかもしれないな」
「飢えてる? お腹空いてるとかじゃなくて、だよね」
「あぁ。簡単な考察ではあるが、さっきまでのあいつは明らかに虎竜だけに意識を向けていた。もしかしたら、以前あの虎竜に負けたことがあるのかもしれないな」
非常に簡単な考察ではあるが、とても納得のいく考察内容であり、ガルーレとスティームもそれ以外の内容が思い浮かばなかった。
「絶対それって感じがするね~~~。でも、ミノタウロスでも……あの虎竜から逃げ切れるかな?」
「……虎竜がわざと逃がした、っていう可能性もあるんじゃないかな」
「それは…………あるのかな?」
なんとも人間らしい行動だなと思われるが、ガルーレはスティームの意見に対し、直ぐに反論しようとは思えなかった。
「あるかもしれないな。元々の虎竜がどんな性格をしてるかなんて解らないが、少なくともただ欲望のままに暴れるタイプのドラゴンではないだろう」
「それはそうかも。それで、見逃されたミノタウロスは、超プライドが傷付けられて、結果牛飢鬼に進化したってことね」
「可能性の話だけどな……けど、それならあの虎竜に対する意識に向き方も納得出来る」
弾き返したとはいえ、牛飢鬼にも少なからず衝撃が走った。
大抵のモンスターからすれば初撃を防いだとしても、アラッドという人間の存在は中々無視出来ない。
それでも牛飢鬼は構わず無視し、虎竜を討伐しようと向かった。
(ここ最近Aランクに、牛飢鬼に進化したかどうかは解らないが…………あの牛飢鬼は牛飢鬼で、単純な戦闘力だけなら確実にルストやデネブより上だな)
楽しそうに牛飢鬼と戦うクロは、まだダメージを負っていない。
対して、クロの爪撃は何度か牛飢鬼にヒットしているものの、深々とは斬り裂けていない。
(…………どうやら、本気で楽しめているみたいだな)
相棒が楽しそうに、本気で遊べていることに嬉しさを感じながら、アラッドはもう一つの戦場に視線を移す。
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