九百八十六話 観察

「ねぇ、もし虎竜がこの辺り一帯で見つからなかったら、やっぱり移動する?」


「……せめて、巣らしい場所を確認して、本当にいなければ移動した方が良いだろうな」


期限はない。

しかし、完全にないという訳ではなく、ただ不透明なだけ。


そのため、アラッドとしてもずっと虎竜だけを探し続ける訳にはいかない。


(後……七日か、十日か。それぐらいのリミットを設けておいた方が良さそうだな)


ディラーズフォレストは広大だが、それでもスタミナがそこら辺の冒険者たちよりも多いアラッドたちであれば、毎日探索し続ければ……なんとかならない事もない。


加えて、いざとなれば従魔たちの背に乗って探索するという切り札もある。


「アラッド。移動するというのは、虎竜を引き続き探すということかい? それとも、別のドラゴンに狙いを変更するのかな?」


「……どっちも、だな」


「なるほど……勝手な予想だけど、虎竜は強敵であれば同じドラゴンであろうと、容赦なく襲い掛かりそうだね」


「だろ」


強い存在の元へ向かえば、それを狙う虎竜とも遭遇できるかもしれない。


虎竜が身籠ってはいないと仮定した場合の話ではあるが、それはそれであり得ない話ではなかった。


(とはいえ……仮に二体同時に相手に出来たとして、古竜じゃない方のドラゴンがデネブみたいな奴じゃない良いんだがな)


アラッドが以前討伐したBランクドラゴン、闇竜デネブは闇の力を他のモンスターに与え、黒色モンスターという配下を増やしていた。


元々はアラッドたちだけで討伐するつもりではあったが、実際に闇竜デネブと闇の力を授かった全ての黒色モンスターを見て、フローレンスたちと組んで戦ったと良かったと思った。


クロという絶対的な強者がいるとはいえ、それでも闇の力が完全に馴染んでいるBランクの実力を持つモンスターが五体に、一部の力はBランクに届きうる個体が九体。

数の力がどうしたと暴れ回り、跳ね返すのがアラッドたちではあるが……これに関しては、戦闘大好きアマゾネスであるガルーレも、アラッドと同意見だった。


「ッ…………」


「? クロ、どうしたんだ」


「……ワゥ」


「向こうに、何かあるのか?」


「ワゥ」


「…………クルルゥ」


「どうやら、ファルも何かを感じ取ったみたいだね」


クロは嗅覚と聴覚が何かを捉えた。

ファルも、何かが揺れたと……風の動きを感じ取った。


「ヴァジュラは何か感じる?」


「ウキャ~~~………………キャキャ」


正直なところ、ヴァジュラは何も感じていなかったが、クロとファルが顔を向けた方向をじっくりと見つめた。

すると……毛が針のように伸びる何かを感じ取った。


「……直ぐに移動しようか」


アラッドはクロに、スティームはファルに、ガルーレはヴァジュラに乗り、従魔たちが何かを感じた方向へと向かう。


走り、走り、走って走って走る。


(これは、間違いなく戦闘音だな)


従魔たちが何かを感じた方向に近づけば近づくほど、耳に激しい戦闘音が入る。


「ッ、ストップだ」


リーダーの命令に従い、全員ストップしてその場に留まった。


「あ~~~、なるほどね。一歩遅かった……ていうのはちょっと違うか」


「そうだね。クロたちが気付いた時には、既に始まってたんだろうな」


「おそらく、そうだろうな……すまないな、クロ」


アラッドたちの視線の先では……虎竜と思わしき四足歩行のドラゴンと、ディーナが激しい戦いを繰り広げていた。


「ワフゥ~~~」


大丈夫だよと、問題無いよと口にしながら、クロはふかふかの毛をアラッドにすりすりする。


「……いつも、我慢してもらって悪いな…………あれが、虎竜か」


再度、相棒に済まないと伝え、アラッドは視線をディーナと戦っている虎竜へ戻す。


(虎のように、四足歩行タイプ……しかし、毛皮はない。代わりに鱗がある……尾も、獣のそれではなくとても鋭く、ドラゴンのそれだな)


ひとまず、現段階でディーナは虎竜と互角に戦えている事を確認してから、冷静に超超超超超超珍しいドラゴン、虎竜を観察する。


(だが、顔は……虎のそれだな。でも、額には角が……いや、刃か? ……角刃があるといった点は、ドラゴンに似ているのか…………あれだな、翼はないんだな)


ドラゴンの一種とはいえ、翼がないことに関してあまり違和感を感じない。

感じないのだが……アラッドは少し気になり、鑑定を使って虎竜のステータスを一瞬だけ調べた。


「っ、……なるほど。そういうスキルがあるのか」


「? 何か面白いスキルでも持ってたの?」


「あぁ、そうだな。虎竜には翼がないだろ」


「だね。まぁでも、あの体形で翼があったら、寧ろ邪魔なんじゃないかな」


「……生まれつき翼があれば話は別な気がするけど、ガルーレの言う事も解らなくはないね」


ガルーレもスティームも、虎竜に翼がないことにあまり違和感を感じていなかった。


「俺も同じことを思った。ただ、あの虎竜は飛翼というスキルを持っていた」


「飛翼? 初めて聞くスキルだね……もしかしなくても、そのスキルを使うことによって、虎竜は空を飛べるようになるの?」


「らしいぞ。どうやら、一時的に翼が生えるらしい」


スキルの説明を視た時、心の中でアラッドは「なんだそりゃ!!!!!」と、思いっきりツッコんでしまった。


スキルだから……の一言で片づけられるかもしれないが、転生者であるアラッドからすれば、どうしても体の構造的にどうなんだ? と疑問を持たざるをえなかった。

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