九百六十三話 殺し合いになる

「そろそろ飯にするか」


「そうだね」


時刻は十八時過ぎ。

既に仕事を終えた冒険者たちも街の外から戻り、酒場へ繰り出す者たちは増えてきた。


席が埋まる前に、どこかしらの酒場に入ろう……そう思ったタイミングで、ある人物が三人に声を掛けて来た。


「なぁ、あんた達があのアラッド、スティーム、ガルーレかい」


「「「っ!」」」


振り返ると、そこには一人の冒険者は……女性冒険者が居た。


(……大きいな)


胸や尻の話ではなく、身長の話。

パーティーの中では、一番アラッドが高いのだが……三人に声を掛けて来た女性冒険者は、そのアラッドよりも背が高く、当然筋肉もがっしりついている。


「……あぁ、そうだな。俺がアラッドだ」


「僕がスティームです」


「私がガルーレよ」


アラッドたちだけならともかく、アラッドにはクロが、スティームにはファルが、ガルーレにはヴァジュラといった特徴的な従魔を引きついている為、顔を見たことがなくともあの三人組冒険者だとバレやすくなっている。


「うちはディーナだ」


「そうか……それで、あんたは俺たちに何の用があるんだ」


ディーナと名乗った女性は、ただの女性冒険者ではなく、鬼人族の冒険者。

名乗るだけで圧が零れるが、アラッドたちにとっては何度も受けてきた圧であるため、狼狽えることなく冷静に対応する。


「あんた達がこの街に来た理由は、虎竜を狩る為って聞いたんだが……それは本当かい?」


「そうだ。俺たちは、虎竜を狩る為にハプターラに来た」


隠すことは無用だと……それと同時に、尋ねることも無用だと悟ったアラッド。


(この人が、そうなんだろうな)


アラッドだけではなく、スティームとガルーレも同じく悟った。


「そうかい………………ただ、止めろって言ってもあれだろうから、うちと勝負しな」


「試合を行う、ってことか」


「そういう事だ。あんたら三人の中で一人、誰でも良い。タイマンでうちと戦って、負けたら引いてもらう」


三人全員とは戦わないんかい、とはツッコまなかった。


「なるほど…………引く期間は、二十日間ぐらいにしてもらえないか」


「…………」


「こっちも、ただ遊びで虎竜を狩ろうって訳じゃないんだ」


アラッドたちはアラッドたちで、完全に退けない理由がある。


「……解った。それでいこう」


「はいはい!! 私が戦るね!!!!」


話が決まった、その瞬間にガルーレは勢い良く挙手し、自分が戦うと宣言した。


予想通りだった。

虎竜をソロで討伐出来るか否かはさておき、思っていた通り……結果として、本当に強い冒険者と戦える。

そんな予想通りの結果に、ガルーレは満面の笑みを浮かべるのを抑えられなかった。


「いや、俺が戦る」


「えっ!!!!!?????」


まさかのアラッドの、自分が戦う宣言に心底驚き、素っ頓狂な声を零してしまったガルーレ。


「ちょ、なんでさアラッド!!! 良いじゃん、私に戦らせてよ!!!!」


「ガルーレ、お前に戦らせたら殺し合いになるだろ」


「むっ……」


虎竜をソロで討伐出来るのか……そこに関しては、アラッドもガルーレと同じく、確信は持てない。

だが、自分たちとあまり歳が変わらないにもかかわらず、ディーナからは間違いなく強者の匂いが、雰囲気が漂っていた。


だからこそ、ガルーレが心底戦いたいと思う気持ちは理解出来る。

理解出来るものの、パーティーのリーダーとして、ほぼほぼ試合が殺し合いに発展すると解っていて、許可は出来なかった。


「やっぱり、アラッドもそう思うか~……それじゃあ、僕も挑まない方が良いかな」


「……そうだな」


スティームとガルーレがディーナよりも弱いと言っているわけじゃない。


ガルーレは当然として、スティームも勝負事となれば、負けず嫌いな部分がある。

それを知っている為、アラッドは万が一を危惧して二人とディーナの試合を却下した。


「~~~~~~~~~~っ!!! じゃあ、次に遭遇したBランクモンスターとは、絶対に私が戦うからね!!!!」


「あぁ、勿論だ」


元々決めていた順番であるため、アラッドもそれで良いのならと了承。


「待たせて済まない。試合は……いつ行う?」


「あんたが構わないなら、今すぐ戦ろうか」


「分かった。場所はギルドの訓練場か?」


「うちらが戦る場所といったら、そこしかないだろ」


アラッドとディーナが戦う。


四人が冒険者ギルドに移動する間に、この話は一気に広まった。


冒険者ではなくとも、アラッドと仲間であるスティームとガルーレたちの活躍話を耳にする機会は多い。

そして……ハプターラに住んでいる住民たちの中には、ディーナを知る者はそれなりに多い。


噂のアラッドと、復讐心に燃えるディーナが試合を行う。


彼等が冒険者ギルドに入り、訓練場へ向かう姿を見て……ロビーや併設されている酒場で呑んでいた冒険者たちは、直ぐにある程度の流れを察した。


「今のってディーナと……アラッドって奴だよな」


「訓練場に行ったってことは…………今から戦るってことか!!!!!?????」


「こうしちゃいられねぇ!!!!!」


「えっ!? りょ、料理が冷めちゃうっすよ!!」


「バカ野郎!!! んなの放っとけ!!!!!!」


酒場で吞んで食ってた冒険者たち一斉にエールを、飯を放り出して訓練場へと向かった。

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