九百六十二話 巻き込めるのか?

「? おい、どうした。急に顔色が悪くなったぞ」


「い、いや、その……えっとっすね…………」


急に顔の色が悪くなったバルンガ。

その変化を見て、腹芸が得意ではない者であっても、バルンガが何かを隠していると気付く。


「何々、なんかヤバいことでもあったの?」


「や、ヤバいことって言うか……その、あれなんすよ。実は、その虎竜を狙ってる奴がいて」


バルンガが口にした内容を聞き、アラッドたちは特に焦ることはなかった。


実在している可能性が高いのであれば、自分たち以外に狙っている者がいてもおかしくない。

そう思っているからこそ、何故バルンガがここまで顔色が悪くなっているのか解らない。


「そいつは……両親が、虎竜に殺されてて」


「っ…………なるほど」


「あぁ~~~~、そういう感じか~~~~~……」


「それは、またなんとも……」


虎竜に両親を殺された者が、虎竜を狙っている……つまり、その者は復讐者。


「ねぇねぇ、なんか前にも似た様なことあったよね」


「だな」


「そ、そうなんすか?」


「あぁ。以前取り組んでいた? 仕事が、ちょっとブッキングしてな」


本当に少し前の話であり、アラッドたちはフローレンスたちと闇竜デネブの討伐がブッキングしてしまった。


「それで、その両親を虎竜に殺された冒険者は……俺たちと同じ冒険者か?」


「うっす。最近までハプターラ以外の街に行って強くなる為に修行してたらしいんっすけど、最近ハプターラに戻って来たんすよ」


「虎竜を討伐する為の準備が整ったのかもしれないな…………そいつからすれば、特に因縁もない俺たちが虎竜を討伐しようとするのは、邪魔以外の何者でもないか」


虎竜に対する復讐者がいる。


予想していなかった訳ではないが、それでも実際にそういった人物がいるのが解ると……なんとも言えない気持ちが湧き上がる。


「その、あれなんすよ。悪い奴じゃないんすけど……」


「相手があのアラッドであろうと、容赦なく噛み付こうとする人、ってことですね」


スティームの言葉に、バルンガは重々しく頷いた。


「でもさ~~~、こういうのってやっぱり順番性とかないじゃん」


「そうだな。一応、そういうのはない」


「だったら、もう競争だよね~~。って言っても、今回戦うのはクロなんだけどさ」


虎竜と戦うのは自分ではない。

そう口にするガルーレだが……その顔には、何故か笑みが浮かんでいた。


「教えてくれたありがとう」


「い、いえ。どうも」


侯爵家の令息であるアラッドが、最後まで露骨に上から目線な態度を取らず、自身と話した…………三人が冒険者ギルドから出て行った後、改めて様々な衝撃を感じ、バルンガはしばらくその場から動けなかった。





「…………」


「相変わらず悩んでるね~、アラッド」


「ただブッキングしただけ、じゃないからな」


適当にハプターラの街中をブラついている中、アラッドは冒険者ギルドを出てから、ずっと神妙な顔のままだった。


「もしかして、譲ってあげても良いかなって思ってる?」


「どうだろうな……ただ、俺は復讐心に駆られたことがない。だから、その……邪魔をすることに、少し抵抗感を感じる」


誰かに復讐したい……前世を含めて、そう思った事がないからこそ、アラッドはどういった選択が正解など、偉そうに語ることは出来ない。


ただ、個人的な考えは持っており、復讐は……果たさなければ、ずっと心の中で引きずることになる。

だから、成功するにしろ失敗するにしろ、挑むべきだと思っている。


「ふ~~~ん。でも、アラッドならどう考えても復讐心に駆られてわざわざ死にに行くような人がいたら、ちょっと乱暴な言葉をぶつけてでも、止めそうじゃん」


「僕もガルーレと同じ考えだね。とはいえ、アラッドの気持ちも解るけど」


「そりゃまぁ、私だってちょっとん~~~って悩む気持ちはあるけど、そもそも一人で虎竜と戦える冒険者なのかわからないじゃん」


バルンガの口ぶりから、弱くはない事は解る。

ハプターラに留まるのではなく、強くなる為に他の街へ向かい、修行を行うという行動から、その冒険者がどれだけ本気なのかも窺える。


とはいえ、バルンガの話から推察するに、ソロで挑む場合……それこそ、Aランクモンスターを相手に、五分五分の確率で倒せるぐらいの実力を有していなければ、討伐するのは無謀としか言えない。


ちなみに、ガルーレやスティームもそれは理解している。


「それもそうなんだが……もしかしたら、自分の復讐に付き合ってくれる仲間を見つけて、パーティーで挑むかもしれないだろ」


「……そういう流れもあるのかな? でもさ、私は復讐心って言うのを持ったことがないから解らないけど、自身の復讐に、他者を巻き込めるものなのかな」


「っ、それは……どうなんだろうな」


「元々その人の知り合いとか、友人とかなら話は別かもしれないけど、全く関係無い人がその話を聞いて自分も協力するよって言われても、巻き込めるのかなって思った。だって、本当に生半可な冒険者たちじゃあ、何も出来ずに負けそうじゃん」


ガルーレの言う通り、生半可な実力しかない冒険者たちでは……何も出来ずに、ただ無駄死にして終わってしまう。


(……もう一度だけギルドで情報を集めて、次にギルドに向かうのは、終わってからにするか)


とりあえず、その冒険者と会わないようにしようと決めたアラッド。


だが……運命はそんなアラッドの小細工を嘲笑い、めぐり合わせてしまう。

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